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第十章
90,続くことのない幸せ
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暗かった日々の中にひとつの光が差し込んだ。
彼と肩を寄せ合い、手と手を絡ませ、互いを感じ合う。決して言葉で想いを伝えずとも、特別な感情が二人の間に確実に流れていた。
二人だけの、秘密の時間。
こんな日々がいつまでも続いてほしい。そう思っていたのに。
──どんなに隠していても、心の熱を冷ますことなどできない。
ある時。庭園の影で二人が身を寄せ合っているところを、他の者に見られてしまった。いや、勘づいたリュウトが二人の関係を探ったのだ。
夜な夜な密会しているところを宮廷の者に捕らえられ、ヤエとリュウキは両手を縛られてリュウトの所へ連れられた。
玉座に腰かけるリュウトは、物凄い形相である。冕冠の飾りから見えるその顔は、言い様のない怒りに満ち溢れていた。まるで汚らわしいものでも見ているようなその目は、血のように真っ赤である。
静寂の夜を破るかの如く、リュウトは怒号を投げつけた。
「お前たちは……夜な夜な庭園で何をしていた!」
「……申し訳ありません、兄皇」
弁解などせずに、リュウキは深く頭を下げる。
しかしリュウトの気は全く収まる様子がない。
「あろうことか朕を裏切った! お前たちを斬首刑に処する!」
怒り心頭のリュウトは、この上なく息が上がっていた。
ヤエもリュウキも、跪き面を下げたまま一切口を開かない。
所詮、苦痛に支配された人生だった。愛する人との時間も許されないのであれば、死など本望。ヤエは投げやりにそう思った。
隣で黙り続けるリュウキはどう思っているのか分からないが、不思議と落ち着いているのが伝わってくる。
「お待ち下さい、陛下」
緊張感が漂う中、背後から聞き覚えるのある低い声がした。
──兄のシュウであった。瑠璃色の漢服を纏い、いつもは綺麗に整えられている茶の長髪が乱れ気味である。
「首を斬るのは容易いことです。重罰の為、相当の苦しみを与えてから殺してはいかがでしょう」
そう言い放つシュウの表情は冷たい。
「親愛なる皇帝陛下に恥をさらした。いくら皇子とはいえ、そして我が妹とはいえ許しがたいことです。わたしがこの二人に【毒】を飲ませて殺しましょう」
「毒だと?」
「はい。幻草薬を致死量飲ませるのです。確実に殺せますし、三日三晩苦しみもがいてから絶命します。それくらいの罰が裏切り者には相応しい」
「なるほどな、それは面白い」
その話を聞いて、ヤエは目を見開いた。
シュウがそんな提案をするなど。信じられなかった。
衝撃のあまり、歯がガタガタと震えた。しかしヤエがシュウを見上げても、全く目も合わせてくれない。冷たい表情で、淡々と処刑法について語るのみだ。
「処刑法はシュウ、そなたに任せよう。幻草薬で殺したのち、そやつらのもがいた死に顔をひと月ほど表で晒しておくのだ」
「御意」
そんなやり取りを見て、ヤエは身体の震えが止まらなくなる。心臓が唸り声を上げた。
「残念だ。兄皇にこんな仕打ちを受けるなんて」
リュウキはたった一言吐き捨てるように静かにそう口にした。
しかし、リュウトは黙って睨み付けるのみである。
双子である二人の容姿はそっくりであっても、お互いを敵視している。なんと悲しい関係であろうか。
「誰か、この二人を牢に連れていけ」
シュウがそう言うとすぐさま兵が四人やって来て、ヤエとリュウキは牢獄に閉じ込められてしまった。
彼と肩を寄せ合い、手と手を絡ませ、互いを感じ合う。決して言葉で想いを伝えずとも、特別な感情が二人の間に確実に流れていた。
二人だけの、秘密の時間。
こんな日々がいつまでも続いてほしい。そう思っていたのに。
──どんなに隠していても、心の熱を冷ますことなどできない。
ある時。庭園の影で二人が身を寄せ合っているところを、他の者に見られてしまった。いや、勘づいたリュウトが二人の関係を探ったのだ。
夜な夜な密会しているところを宮廷の者に捕らえられ、ヤエとリュウキは両手を縛られてリュウトの所へ連れられた。
玉座に腰かけるリュウトは、物凄い形相である。冕冠の飾りから見えるその顔は、言い様のない怒りに満ち溢れていた。まるで汚らわしいものでも見ているようなその目は、血のように真っ赤である。
静寂の夜を破るかの如く、リュウトは怒号を投げつけた。
「お前たちは……夜な夜な庭園で何をしていた!」
「……申し訳ありません、兄皇」
弁解などせずに、リュウキは深く頭を下げる。
しかしリュウトの気は全く収まる様子がない。
「あろうことか朕を裏切った! お前たちを斬首刑に処する!」
怒り心頭のリュウトは、この上なく息が上がっていた。
ヤエもリュウキも、跪き面を下げたまま一切口を開かない。
所詮、苦痛に支配された人生だった。愛する人との時間も許されないのであれば、死など本望。ヤエは投げやりにそう思った。
隣で黙り続けるリュウキはどう思っているのか分からないが、不思議と落ち着いているのが伝わってくる。
「お待ち下さい、陛下」
緊張感が漂う中、背後から聞き覚えるのある低い声がした。
──兄のシュウであった。瑠璃色の漢服を纏い、いつもは綺麗に整えられている茶の長髪が乱れ気味である。
「首を斬るのは容易いことです。重罰の為、相当の苦しみを与えてから殺してはいかがでしょう」
そう言い放つシュウの表情は冷たい。
「親愛なる皇帝陛下に恥をさらした。いくら皇子とはいえ、そして我が妹とはいえ許しがたいことです。わたしがこの二人に【毒】を飲ませて殺しましょう」
「毒だと?」
「はい。幻草薬を致死量飲ませるのです。確実に殺せますし、三日三晩苦しみもがいてから絶命します。それくらいの罰が裏切り者には相応しい」
「なるほどな、それは面白い」
その話を聞いて、ヤエは目を見開いた。
シュウがそんな提案をするなど。信じられなかった。
衝撃のあまり、歯がガタガタと震えた。しかしヤエがシュウを見上げても、全く目も合わせてくれない。冷たい表情で、淡々と処刑法について語るのみだ。
「処刑法はシュウ、そなたに任せよう。幻草薬で殺したのち、そやつらのもがいた死に顔をひと月ほど表で晒しておくのだ」
「御意」
そんなやり取りを見て、ヤエは身体の震えが止まらなくなる。心臓が唸り声を上げた。
「残念だ。兄皇にこんな仕打ちを受けるなんて」
リュウキはたった一言吐き捨てるように静かにそう口にした。
しかし、リュウトは黙って睨み付けるのみである。
双子である二人の容姿はそっくりであっても、お互いを敵視している。なんと悲しい関係であろうか。
「誰か、この二人を牢に連れていけ」
シュウがそう言うとすぐさま兵が四人やって来て、ヤエとリュウキは牢獄に閉じ込められてしまった。
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