上 下
90 / 165
第十章

90,続くことのない幸せ

しおりを挟む
 暗かった日々の中にひとつの光が差し込んだ。
 彼と肩を寄せ合い、手と手を絡ませ、互いを感じ合う。決して言葉で想いを伝えずとも、特別な感情が二人の間に確実に流れていた。
 二人だけの、秘密の時間。
 こんな日々がいつまでも続いてほしい。そう思っていたのに。

 ──どんなに隠していても、心の熱を冷ますことなどできない。

 ある時。庭園の影で二人が身を寄せ合っているところを、他の者に見られてしまった。いや、勘づいたリュウトが二人の関係を探ったのだ。
 夜な夜な密会しているところを宮廷の者に捕らえられ、ヤエとリュウキは両手を縛られてリュウトの所へ連れられた。
 玉座に腰かけるリュウトは、物凄い形相である。冕冠べんかんの飾りから見えるその顔は、言い様のない怒りに満ち溢れていた。まるで汚らわしいものでも見ているようなその目は、血のように真っ赤である。

 静寂の夜を破るかの如く、リュウトは怒号を投げつけた。

「お前たちは……夜な夜な庭園で何をしていた!」
「……申し訳ありません、兄皇」

 弁解などせずに、リュウキは深く頭を下げる。
 しかしリュウトの気は全く収まる様子がない。

「あろうことか朕を裏切った! お前たちを斬首刑に処する!」

 怒り心頭のリュウトは、この上なく息が上がっていた。
 ヤエもリュウキも、跪き面を下げたまま一切口を開かない。

 所詮、苦痛に支配された人生だった。愛する人との時間も許されないのであれば、死など本望。ヤエは投げやりにそう思った。
 隣で黙り続けるリュウキはどう思っているのか分からないが、不思議と落ち着いているのが伝わってくる。

「お待ち下さい、陛下」

 緊張感が漂う中、背後から聞き覚えるのある低い声がした。
 ──兄のシュウであった。瑠璃色の漢服を纏い、いつもは綺麗に整えられている茶の長髪が乱れ気味である。

「首を斬るのは容易いことです。重罰の為、相当の苦しみを与えてから殺してはいかがでしょう」

 そう言い放つシュウの表情は冷たい。

「親愛なる皇帝陛下に恥をさらした。いくら皇子とはいえ、そして我が妹とはいえ許しがたいことです。わたしがこの二人に【毒】を飲ませて殺しましょう」
「毒だと?」
「はい。幻草薬を致死量飲ませるのです。確実に殺せますし、三日三晩苦しみもがいてから絶命します。それくらいの罰が裏切り者には相応しい」
「なるほどな、それは面白い」

 その話を聞いて、ヤエは目を見開いた。
 シュウがそんな提案をするなど。信じられなかった。
 衝撃のあまり、歯がガタガタと震えた。しかしヤエがシュウを見上げても、全く目も合わせてくれない。冷たい表情で、淡々と処刑法について語るのみだ。

「処刑法はシュウ、そなたに任せよう。幻草薬で殺したのち、そやつらのもがいた死に顔をひと月ほど表で晒しておくのだ」
「御意」

 そんなやり取りを見て、ヤエは身体の震えが止まらなくなる。心臓が唸り声を上げた。

「残念だ。兄皇にこんな仕打ちを受けるなんて」

 リュウキはたった一言吐き捨てるように静かにそう口にした。
 しかし、リュウトは黙って睨み付けるのみである。

 双子である二人の容姿はそっくりであっても、お互いを敵視している。なんと悲しい関係であろうか。

「誰か、この二人を牢に連れていけ」

 シュウがそう言うとすぐさま兵が四人やって来て、ヤエとリュウキは牢獄に閉じ込められてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

美少女ゲームの悪役令息に転生した俺、『本編先乗り』と【モンスター錬成】で原作を破壊する

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
美少女ゲーム【ドラゴンズ・ティアラ】は、バグが多いのが玉に瑕の1000時間遊べる名作RPGだ。 そんな【ドラゴンズ・ティアラ】を正規プレイからバグ利用プレイまで全てを遊び尽くした俺は、憧れのゲーム世界に転生してしまう。 俺が転生したのは子爵家の次男ヴァレリウス。ゲーム中盤で惨たらしい破滅を迎えることになる、やられ役の悪役令息だった。 冷酷な兄との対立。父の失望からの勘当。学生ランクFへの降格。破滅の未来。 前世の記憶が蘇るなり苦難のスタートとなったが、むしろ俺はハッピーだった。 家族にハズレ扱いされたヴァレリウスの【モンスター錬成】スキルは、最強キャラクター育成の鍵だったのだから。 差し当たって目指すは最強。そして本編ごとの破滅シナリオの破壊。 元よりバランス崩壊上等のプレイヤーだった俺は、自重無しのストロングスタイルで、突っかかってくる家族を返り討ちにしつつ、ストーリー本編を乗っ取ってゆく。 (他サイトでも連載中)

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

紅玉宮妃(予定)の後宮奮闘記~後宮下女ですがわたしの皇子様を皇帝にします~

福留しゅん
恋愛
春華国の後宮は男子禁制だが例外が存在する。その例外である未成年の第五皇子・暁明はお忍びで街を散策していたところ、旅人の雪慧に助けられる。雪慧は後宮の下女となり暁明と交流を深めていくこととなる。やがて親密な関係となった雪慧は暁明の妃となるものの、宮廷内で蠢く陰謀、傾国の美女の到来、そして皇太子と皇帝の相次ぐ死を経て勃発する皇位継承争いに巻き込まれていくこととなる。そして、春華国を代々裏で操ってきた女狐と対峙しーー。 ※改訂作業完了。完結済み。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

九龍懐古

カロン
キャラ文芸
香港に巣食う東洋の魔窟、九龍城砦。 犯罪が蔓延る無法地帯でちょっとダークな日常をのんびり暮らす何でも屋の少年と、周りを取りまく住人たち。 今日の依頼は猫探し…のはずだった。 散乱するドラッグと転がる死体を見つけるまでは。 香港ほのぼの日常系グルメ犯罪バトルアクションです、お暇なときにごゆるりとどうぞ_(:3」∠)_ みんなで九龍城砦で暮らそう…!! ※キネノベ7二次通りましたとてつもなく狼狽えています ※HJ3一次も通りました圧倒的感謝 ※ドリコムメディア一次もあざます ※字下げ・3点リーダーなどのルール全然守ってません!ごめんなさいいい! 表紙画像を十藍氏からいただいたものにかえたら、名前に‘様’がついていて少し恥ずかしいよテヘペロ

処理中です...