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一週間はなぜこんなにも早いのか。神様に聞けるなら聞きたいものだとアンは思った。
同窓会は都内の某レストランで行われる……のだが、アンは遅刻していた。午後6時からなのに、時刻は既に6時半を回っている。乗車中のバスがやたら遅い気がさえする。いちいち各バス停に停車するのも時間の浪費だ。
(こんなことなら、やっぱり参加するのやめようかな)
窓の外を眺めながらアンは思う。あの人と会うのも気まずいだろうし。だが親友たちと再会したいという気持ちもあり、複雑であった。
――30になった今でも、昔の出来事が忘れられず怯えているなんて。恰好が悪い。もう15年も前のことなのに。あの恐ろしい思い出が、今日の同窓会で再び蘇るのではないか……。
考えれば考えるほど怖くなる。
いや、無理して頭を働かせる必要はない。
無心でいよう。MDでも聴いて、気を紛らわせよう。
バスはゆっくりと進んでいく。
15年前の思い出を持つ、荒れた地にいた人々の場所へ。
「ここ、だよね……」
建物の最上階にある、高級レストランを前にしてアンは目を見張った。
もう少しお洒落をしてきたほうがよかったと後悔する。入ってみると、中にはいくつもの巨大なシャンデリアが金銀に明りを放ち、長テーブルがたくさん並べられていた。豪快に香りを漂わせるチキン、高級そうな生ハムメロン、グラスに注がれた赤ワイン。天井まで届く窓の向こうには、まるで東京の街にダイヤモンドをばらまいたような輝かしい夜景か広がっていた。
もはや同窓会というより、パーティ会場にいると言った方が正しかった。
――そして思いの外、中は平穏である。昔、悪だったクラスの――学年のみんなが、今ではすっかり大人に成長していた。長い年月が経っているのだ。当然のことである。
「お久し振りですね」とアンに声を掛けてくれる人すらいた。
15年前に自分が恐れていたクラスメートたち。
ここに来るまでアンはこの人たちにまた冷たくされるのではないだろうか、と心配していたが、そんなものは全く不要だったようだ。いつまでも変わらずに心が歪んでいる人はさすがにいないのだろう。みんな、姿や雰囲気だけではない。心までも、成長しているようだった。
しかし彼らは、あくまで直接的にアンを苦しめていた人たちではない。中心人物の後ろで動いていたちょっとした背景の人々だ。そしてその中心人物は(既婚ならば名字は変わっているだろう)――大杉ナオミ。
レストラン内を歩き回りながら、アンは色んな人と挨拶を交わしていた。しかし立ち止まって誰かと会話を弾ませる、ということは決してなかった。話す事なんてなにもないから。
しかしアンにはどうしても会いたい人たちがいる。
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