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英霊のスキル
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その後、俺達は完全に崩壊してしまった館を前に、途方に暮れた。
「これからどうしましょうか……」
このままでは夜に休むどころか食事もままならない。
「早めに宿を探さないとな」
だが、俺は現在無一文である。
杉沢家が出していた給金は高いが、マリアとて無限に手元に資金を持っている訳ではない。
それに、彼女が銀行から降ろすにしても足が着かないとも限らない。
何より居場所が知れたら、きっと、父や長兄が勇んで襲いかかってくることだろう。
何より俺を信じてついてきてくれた女性にずっと養われるだなんて男が廃る気がする。
(生活費を稼ぐ手段も考えないと……)
「晴人様、私は大丈夫ですから。あまりご無理はされないでくださいね」
俺の顔を見て何かを察したのか、マリアは優しく声をかけてきてくれた。
(……そんなこと言われたら、余計に野宿なんてさせられないじゃないか)
こんなに甲斐甲斐しく支えてくれるマリアを地べたには寝かせたくない。
「あら? 宿に泊まれないのなら、城で休めばいいじゃない」
マリーは首をかしげながら、何でもないことのように言い放った。
例の有名な台詞は、創作であるらしいが。
(このロリ王妃様なら言ってたとしてもおかしくない)
俺は心の底からそう思った。
「今すごく失礼なこと考えてるでしょ」
マリーはジト目で俺を睨む。
「でもおあいにくさまね。見てなさい」
次の瞬間には、マリーは王妃様らしく愛らしい笑みを浮かべていた。
そして、軽くスカートの端を持ち上げ、優雅に靴の踵をならす。
するとマリーを中心に、水面から波紋が広がるかのように……世界が揺れた。
剥き出しの地面が、磨き上げられた寄木細工の床に変わる。
そして、大理石の柱に、白く煌めくシャンデリア。
燭台の上に灯された無数の蝋燭は、天井に描かれた繊細な絵画を照らしている。
しかし最も俺とマリアの目を惹いたのは。
「鏡……?」
壁に取り付けられた鏡が、光を、互いを反射し、無限に広げていた。
「そうよ、ここはあたしの世界」
いや、訂正する。
この豪華絢爛な場所において、誇らしげに立つ……圧倒的な存在感を放つマリー。
「ようこそ、鏡の間へ」
世界の頂点に君臨する、ヴェルサイユの女主人だった。
「これからどうしましょうか……」
このままでは夜に休むどころか食事もままならない。
「早めに宿を探さないとな」
だが、俺は現在無一文である。
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それに、彼女が銀行から降ろすにしても足が着かないとも限らない。
何より居場所が知れたら、きっと、父や長兄が勇んで襲いかかってくることだろう。
何より俺を信じてついてきてくれた女性にずっと養われるだなんて男が廃る気がする。
(生活費を稼ぐ手段も考えないと……)
「晴人様、私は大丈夫ですから。あまりご無理はされないでくださいね」
俺の顔を見て何かを察したのか、マリアは優しく声をかけてきてくれた。
(……そんなこと言われたら、余計に野宿なんてさせられないじゃないか)
こんなに甲斐甲斐しく支えてくれるマリアを地べたには寝かせたくない。
「あら? 宿に泊まれないのなら、城で休めばいいじゃない」
マリーは首をかしげながら、何でもないことのように言い放った。
例の有名な台詞は、創作であるらしいが。
(このロリ王妃様なら言ってたとしてもおかしくない)
俺は心の底からそう思った。
「今すごく失礼なこと考えてるでしょ」
マリーはジト目で俺を睨む。
「でもおあいにくさまね。見てなさい」
次の瞬間には、マリーは王妃様らしく愛らしい笑みを浮かべていた。
そして、軽くスカートの端を持ち上げ、優雅に靴の踵をならす。
するとマリーを中心に、水面から波紋が広がるかのように……世界が揺れた。
剥き出しの地面が、磨き上げられた寄木細工の床に変わる。
そして、大理石の柱に、白く煌めくシャンデリア。
燭台の上に灯された無数の蝋燭は、天井に描かれた繊細な絵画を照らしている。
しかし最も俺とマリアの目を惹いたのは。
「鏡……?」
壁に取り付けられた鏡が、光を、互いを反射し、無限に広げていた。
「そうよ、ここはあたしの世界」
いや、訂正する。
この豪華絢爛な場所において、誇らしげに立つ……圧倒的な存在感を放つマリー。
「ようこそ、鏡の間へ」
世界の頂点に君臨する、ヴェルサイユの女主人だった。
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