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マリアの気持ち

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そうして、マリーの髪で拘束をしたまま昼也をあしの船まで運ぶ俺達。

「よし、マリー。ここでいい」

「ふんっ」

もう少し昼也を痛めつけたかったのか、やや不満げに鼻を鳴らしながらもマリーは船の真上で昼也を解放した。

途端にドサッと船に落下する昼也。

意識が戻っていた昼也は、

「てめぇらふざけんじゃねぇぞ!」

と叫びながら、体を起こし、船のヘリに手をかけてきた。

が、

「っ……なっ……?!」

まるで透明な壁に阻まれているかの様に……船から出ようとした昼也の体が弾かれ、再度船の中へと押し戻されたのだ。

「な、なんだ……?!」

突然の出来事に驚愕し、しかし再度船の外へと出ようとする昼也。

だが、やはり彼の肉体は弾かれ、船の中へと戻されてしまう。

その姿を見て、俺は確信した。

(やっぱり、思った通りだ。勇者……神の力を使う者は、神話に記述されている弱点には逆らえない)

だからこそ、葦の船で流された蛭子神ひるこのスキルを持つ昼也は、神話には逆らえず……葦の船から逃げ出すことが出来ないのだろう。

「てめぇ!俺様に何しやがった!この、無能のくせに……!」

と、俺が動くより先に……なんとマリアが動いた。

そうして、彼女はつかつかと昼也に近寄るや、彼の頬を思い切りはたいたのだ。

「晴人様をこれ以上悪く言わないでくださいっ……!」

強く決意の滲んだ瞳で、はっきりと昼也にそう告げるマリア。

普段は大人しく淑やかな彼女がとった大胆な行動に、俺は思わず呆然とし、動くことが出来なかった。
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