コウカイ列車に乗って

天咲 琴葉

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コウカイ列車⑤

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そう――実は僕は、小学5年生の夏から現在までの記憶が、すっぽりと欠落してしまっているのだ。

というのも、両親が言うことには、僕は、『小学5年生の冬に交通事故に遭い、長く植物状態になっていた』らしい。

“ご両親が生きている内に息子さんの目が覚めたら奇跡だ”

とは、僕を担当してくれていた医師の台詞だそうだ。

が、僕はこうして意識を取り戻し、リハビリの甲斐あって、日常生活を取り戻した訳で――。

ただ、全く不安がない訳ではない。

実は、僕には事故に遭ってからの記憶だけではなく、その前の記憶――ちょうど、小学5年生の夏から事故に遭う冬までの数ヶ月の記憶も丸ごと存在していないのだ。

医師は、『事故に遭ったショックで記憶喪失になってしまったのでしょう』だとか、『命があるだけでも奇跡です、感謝するべきですよ』等とのたまうが、当の僕はと言うと――何となく、大切なモノを失ってしまったかの様な、胸に穴が空いた様な喪失感を常に感じていた。

これが、記憶喪失故に感じる感情なのかは分からない。

だが、この喪失感の大きさから察するに、何かしら大切な記憶……出来事があった気がするのだ。

勿論、記憶の無い今、確証なんて物は無いけれど。

しかし、こうして――いざ、『命をかけてまでやり直したい後悔がある筈だ』と明言されると、やはり、僕の失ったあの記憶の中に、その後悔がある気がする訳で……。

(でも……じゃぁ、どうやって思い出したら良いんだろう)

果たして、完全に欠落してしまった記憶からでも、このコウカイ列車は、後悔を見つけ出してくれるのだろうか。

――いや、そもそも、失った記憶の中にある後悔が、とても醜い物だったら?

(あまりに、何か酷い事が起きたから……だから、父さんと母さんはわざわざ、目覚めた僕を連れて、遠くのこの地に引っ越して来たんじゃないだろうか。2人は、僕に新しい人生をやり直させようとしてるのでは……?)

――そうして、それが起きたのが、僕の行いの悪さが原因だとしたら?

(……もしかしたら、それも、コウカイ列車に暴かれてしまう……?)

僕は、失くした記憶が戻るかも知れないという淡い期待と共に、得体の知れない不安も感じていた。
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