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Episode.02
魔法騎士団
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魔法騎士団
事件の後、リョクも、他の生徒同様、部屋に閉じこもっていた。
「第三騎士団だけでなく、他の騎士団も調査に入っています」
呼び出しから戻ったディルは窓から湖の向こう、事件のあった森の方を眺めながら言った。リョクはベッドの上に寝転がっている。
「ココから騎士団の人、見えないかしら」
隣室のメリッサがまた、窓から身を乗り出して話しかけてきた。ディルが戻るのを、窓際で様子を伺って待っていたのだろう。
「ディルくんのお父上、騎士団長なんでしょ、お会いした?」
「そんなに乗り出すと、落ちますよ」
「今なら突き落とされたコトになるかも」
「事故だと証言しておきます」
ピシャリ と、窓に続いて、ディルは勢いよくカーテンも閉めた。
「暗いよ」
リョクに言われて、仕方なく、カーテンだけは開く。
「メリッサちゃん、元気だねぇ」
少し呆れたように、リョクが笑った。
笑顔に釣られて、ディルはリョクのベッドに腰掛け、覆いかぶさるようにしがみつく。
ポンポン とリョクがディルの背を叩いた。
「叔父上、何か言っていた?」
ディルは先ほどまで、事件の調査に訪れた騎士団のトップらと、面会という名の聴取を受けていたのである。
「お久しぶりです」
学長室、職員室の並び、応接室に1人呼び出されたディルが、部屋の中央の席で待っていた父、第三騎士団長ボアズに挨拶をした。
ボアズの右に第一近衛騎士団団長リーリスト・ウェルス・ハイドバーク伯爵、ボアズの後ろに第三騎士団副団長セノーテ・ミンス・グラフォード子爵、リーリスト後ろに第一近衛騎士団副団長フリート、と第二騎士団以外のトップが並んでいる。
「注意喚起だから、そう、緊張しなくてもいいですよ」
リーリストが笑顔でディルに着席を促した。会釈をし、それに従う。
「事件の噂は聞いていますね、どこまで噂になっていますか?」
「はい、自分が聞いたのは
カイル先輩が偽のメモで呼び出され重傷を負ったこと、魔石を奪われたこと、犯人は神子候補を襲う連続犯だろう、ということです」
「ケガの内容は?」
「四肢を折られ、片目も失ったと
そのケガが、以前の事件の護衛騎士が受けたものと同じなので、同一犯なのだと噂されていました」
「魔石については?」
「先ほど申し上げたように、奪われて行方不明と」
リーリストからの質疑応答は、セノーテがテーブルの上の琥珀製魔法石で記録していた。その石をフリートが受け取り、封筒にしまってリーリストに渡す。
事情聴取だと、ディルは思ったが、口には出さなかった。
「学園内の条件に合う人物全員に、同じ質問をしています」
「……ここからは、個人的な会話で、構いませんね」
リーリストにボアズが確認をする。
「騎士団全員の同席はさせてもらいます、それでよろしければ」
ボアズはちらりとフリートを見てうなずいた。それから、わざと大きなため息をつく。
「条件に合う人物とは、被害者と交流のある者、攻撃魔法に長けた者、他者の魔石を扱える者、だ」
「ディルくんは第二候補でした」
表情を崩さないボアズに対し、リーリストは楽しそうに笑う。
「筆頭は、フリスロー侯爵家ご子息ですか?」
「よくお判りで、さすがはネロス団長のご子息」
ますます上機嫌、といった風に、ディルにリーリストが答えた。
「両家の『特技』を知らぬ者はおりませんから」
「近衛団長の悪質な冗談です、生徒に容疑者はおりません」
慌ててセノーテがフォローする。
数少ないヒト王家時代からの貴族の中で、ネロス伯爵家と旧王家はかなり特異な魔法が使える一族だった。降格されたとはいえ、貴族として残ったこと、何より、かつて聖女の騎士に抜擢されたのも、この特技のためでもあった。
この世界では、他者の魔石を使うことはまずできない。できたとしても、属性が全く同じで、かつ、互いに魔力の減退が起こっていない状態に限られている。輸血のようなもの、と考えればわかりやすいだろう。
ネロス一族は魔石の属性、状態に関わらず、そのまま攻撃魔法に変換して使用することができた。自らの魔力を必要とせずに。
旧王族、フリスロー侯爵家は他者の魔石を自らの魔石に取り込むことができた。属性に関わらず、自らの魔力に変換して様々な魔法に使えたのだ。かつて、国王の象徴として王冠に輝いていた巨大なアレキサンドライトは代々の国王の魔石を取り込み続けたもの、と伝えられている。
かつて、聖女の騎士が両家から選ばれたのは、魔力切れを起こさずに戦い続けることができたからだった。
「俺が何者かに操られて、カイル先輩を襲った、と?!」
「その可能性を含め、公平に調査しています」
つい、驚いて声を荒げたディルを抑えるように、フリートが言った。
「ご安心を、ネロス伯のご嫡男の容疑も晴れました」
隣室のドアが開き、騎士制服の男女が入ってきた。
手前の男性は第二騎士団団長コンラート・ハルスト・ボルヴィーク子爵、後ろの女性は同副団長レオノラ・マルカ・ディフォルティア子爵と名乗った。彼ら第二騎士団は魔法の利用と解析に特化した騎士団だ。
レオノラが手に持つ、大きく丸い魔法石がオパールのようにキラキラと輝いている。
魔力の形跡をたどる魔道具だと、コンラートが説明した。
催眠や魔力でディルを操り、カイルを襲撃させた痕跡があれば、この石でわかる。先にマクシミリアンを視た時も同じ反応だった、という。
「……容疑が晴れて、光栄です」
場を納めるために仕方なく、といった風にディルが謝礼をする。
「襲撃犯は追跡を逃れるためにカイル伯爵家子息の魔石を利用しました。
それができる人物は限られています」
「俺の次はリョク、フリート男爵子息の尋問ですか?」
コンラートにディルが尋ねる。
「それはない」
すぐさま、フリートが否定した。
「アレは不肖の息子だ
ネロス家の者とは思えないほど攻撃魔法の適性がない
魔力は十分にあるはずだが、防御も治療もおぼつかない
体力もないアレが、操られていたとしても、攻撃魔法の使える上級生にあそこまでの怪我を負わせることはできない」
自らの言葉を噛み潰すように、フリートが視線を落とす。
「それでも、可愛い息子ですから、我家で大切にしていますよ」
ボアズがやっと、にっこりと笑った。
「それで、不機嫌なんだ」
いつもより腕に力がこもるディルを、リョクも強く抱きしめ返す。
「父上が厳しい言葉を使うのはいつものことだし、騎士貴族の家系なのに攻撃系が使えないのも事実だし」
「あんな、他の騎士団が集まっているところで、言う必要はない」
「え、むしろ言うべきだったと思うけど」
「……でも、何か悔しい」
フリートとボアズがリョクの能力不足を強調する意味を、ディルも頭ではわかっている。それが伝われば騎士団への入隊は断れるし、卒業後に伯爵邸に戻って執事の真似事をしていても、疑われない。
それだけじゃない、とは、言えなかった。
「王都邸に戻ってこい、と言っていました」
「騎士団トップの子息がそれは、マズくない?」
「他の団長サンたちも、目を丸くしていました」
やっと、ディルが笑って、腕を緩め、つられてリョクも小さく笑った。
事件の後、リョクも、他の生徒同様、部屋に閉じこもっていた。
「第三騎士団だけでなく、他の騎士団も調査に入っています」
呼び出しから戻ったディルは窓から湖の向こう、事件のあった森の方を眺めながら言った。リョクはベッドの上に寝転がっている。
「ココから騎士団の人、見えないかしら」
隣室のメリッサがまた、窓から身を乗り出して話しかけてきた。ディルが戻るのを、窓際で様子を伺って待っていたのだろう。
「ディルくんのお父上、騎士団長なんでしょ、お会いした?」
「そんなに乗り出すと、落ちますよ」
「今なら突き落とされたコトになるかも」
「事故だと証言しておきます」
ピシャリ と、窓に続いて、ディルは勢いよくカーテンも閉めた。
「暗いよ」
リョクに言われて、仕方なく、カーテンだけは開く。
「メリッサちゃん、元気だねぇ」
少し呆れたように、リョクが笑った。
笑顔に釣られて、ディルはリョクのベッドに腰掛け、覆いかぶさるようにしがみつく。
ポンポン とリョクがディルの背を叩いた。
「叔父上、何か言っていた?」
ディルは先ほどまで、事件の調査に訪れた騎士団のトップらと、面会という名の聴取を受けていたのである。
「お久しぶりです」
学長室、職員室の並び、応接室に1人呼び出されたディルが、部屋の中央の席で待っていた父、第三騎士団長ボアズに挨拶をした。
ボアズの右に第一近衛騎士団団長リーリスト・ウェルス・ハイドバーク伯爵、ボアズの後ろに第三騎士団副団長セノーテ・ミンス・グラフォード子爵、リーリスト後ろに第一近衛騎士団副団長フリート、と第二騎士団以外のトップが並んでいる。
「注意喚起だから、そう、緊張しなくてもいいですよ」
リーリストが笑顔でディルに着席を促した。会釈をし、それに従う。
「事件の噂は聞いていますね、どこまで噂になっていますか?」
「はい、自分が聞いたのは
カイル先輩が偽のメモで呼び出され重傷を負ったこと、魔石を奪われたこと、犯人は神子候補を襲う連続犯だろう、ということです」
「ケガの内容は?」
「四肢を折られ、片目も失ったと
そのケガが、以前の事件の護衛騎士が受けたものと同じなので、同一犯なのだと噂されていました」
「魔石については?」
「先ほど申し上げたように、奪われて行方不明と」
リーリストからの質疑応答は、セノーテがテーブルの上の琥珀製魔法石で記録していた。その石をフリートが受け取り、封筒にしまってリーリストに渡す。
事情聴取だと、ディルは思ったが、口には出さなかった。
「学園内の条件に合う人物全員に、同じ質問をしています」
「……ここからは、個人的な会話で、構いませんね」
リーリストにボアズが確認をする。
「騎士団全員の同席はさせてもらいます、それでよろしければ」
ボアズはちらりとフリートを見てうなずいた。それから、わざと大きなため息をつく。
「条件に合う人物とは、被害者と交流のある者、攻撃魔法に長けた者、他者の魔石を扱える者、だ」
「ディルくんは第二候補でした」
表情を崩さないボアズに対し、リーリストは楽しそうに笑う。
「筆頭は、フリスロー侯爵家ご子息ですか?」
「よくお判りで、さすがはネロス団長のご子息」
ますます上機嫌、といった風に、ディルにリーリストが答えた。
「両家の『特技』を知らぬ者はおりませんから」
「近衛団長の悪質な冗談です、生徒に容疑者はおりません」
慌ててセノーテがフォローする。
数少ないヒト王家時代からの貴族の中で、ネロス伯爵家と旧王家はかなり特異な魔法が使える一族だった。降格されたとはいえ、貴族として残ったこと、何より、かつて聖女の騎士に抜擢されたのも、この特技のためでもあった。
この世界では、他者の魔石を使うことはまずできない。できたとしても、属性が全く同じで、かつ、互いに魔力の減退が起こっていない状態に限られている。輸血のようなもの、と考えればわかりやすいだろう。
ネロス一族は魔石の属性、状態に関わらず、そのまま攻撃魔法に変換して使用することができた。自らの魔力を必要とせずに。
旧王族、フリスロー侯爵家は他者の魔石を自らの魔石に取り込むことができた。属性に関わらず、自らの魔力に変換して様々な魔法に使えたのだ。かつて、国王の象徴として王冠に輝いていた巨大なアレキサンドライトは代々の国王の魔石を取り込み続けたもの、と伝えられている。
かつて、聖女の騎士が両家から選ばれたのは、魔力切れを起こさずに戦い続けることができたからだった。
「俺が何者かに操られて、カイル先輩を襲った、と?!」
「その可能性を含め、公平に調査しています」
つい、驚いて声を荒げたディルを抑えるように、フリートが言った。
「ご安心を、ネロス伯のご嫡男の容疑も晴れました」
隣室のドアが開き、騎士制服の男女が入ってきた。
手前の男性は第二騎士団団長コンラート・ハルスト・ボルヴィーク子爵、後ろの女性は同副団長レオノラ・マルカ・ディフォルティア子爵と名乗った。彼ら第二騎士団は魔法の利用と解析に特化した騎士団だ。
レオノラが手に持つ、大きく丸い魔法石がオパールのようにキラキラと輝いている。
魔力の形跡をたどる魔道具だと、コンラートが説明した。
催眠や魔力でディルを操り、カイルを襲撃させた痕跡があれば、この石でわかる。先にマクシミリアンを視た時も同じ反応だった、という。
「……容疑が晴れて、光栄です」
場を納めるために仕方なく、といった風にディルが謝礼をする。
「襲撃犯は追跡を逃れるためにカイル伯爵家子息の魔石を利用しました。
それができる人物は限られています」
「俺の次はリョク、フリート男爵子息の尋問ですか?」
コンラートにディルが尋ねる。
「それはない」
すぐさま、フリートが否定した。
「アレは不肖の息子だ
ネロス家の者とは思えないほど攻撃魔法の適性がない
魔力は十分にあるはずだが、防御も治療もおぼつかない
体力もないアレが、操られていたとしても、攻撃魔法の使える上級生にあそこまでの怪我を負わせることはできない」
自らの言葉を噛み潰すように、フリートが視線を落とす。
「それでも、可愛い息子ですから、我家で大切にしていますよ」
ボアズがやっと、にっこりと笑った。
「それで、不機嫌なんだ」
いつもより腕に力がこもるディルを、リョクも強く抱きしめ返す。
「父上が厳しい言葉を使うのはいつものことだし、騎士貴族の家系なのに攻撃系が使えないのも事実だし」
「あんな、他の騎士団が集まっているところで、言う必要はない」
「え、むしろ言うべきだったと思うけど」
「……でも、何か悔しい」
フリートとボアズがリョクの能力不足を強調する意味を、ディルも頭ではわかっている。それが伝われば騎士団への入隊は断れるし、卒業後に伯爵邸に戻って執事の真似事をしていても、疑われない。
それだけじゃない、とは、言えなかった。
「王都邸に戻ってこい、と言っていました」
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