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王宮の給仕に案内された部屋に入り、安全を確認してから中から鍵を掛けた。

「今から何が起こっても、リアに傷一つ付けないと約束するわ」

今もジル兄様の手の者が私の安全を見守っているはず。
だから大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。

「ふふふっ、わたくしは平気よ。ワインをかけた男もオルト嬢とグルなのね」

「気付いていたの?」

「ワザとわたくしにワインをかけて客室に連れ込み、既成事実を作る気だったとしたら自殺志願者か余程の馬鹿。ユティが付き添うと言った時のあの男の焦った態度と・・・わたくしもオルト嬢の口元が上がるのを見逃さなかったわよ?」

さすがリア!

それよりもあの光景を見た限りでは初対面ではないことは確実。
そうなると・・・ジル兄様は少し前からこの国、いえ、この王宮に滞在していたのだろう。

ディオリス殿下と親密な関係のオルト嬢が、ここでジル兄様に近付いた・・・
普通ならディオリス殿下の婚約者でもないオルト嬢が、帝国の皇太子に紹介されるどころか、そばに近か寄ることすら許されるはずがない。

ふふふっ、ジル兄様ったら。

それすらもジル兄様の思惑通りなのね。

彼女はジル兄様の手のひらの上で踊らされていることにも気付かず、リアを巻き込むことも含めて作戦を立てたのだろう。
私に何かしらの危害を加える為に・・・


ガチャッと音がしたと思ったら続いてトントンとドアを叩く音が・・・
鍵が掛かっていなかったらそのまま入ってくる気だったんだ。

「失礼します」

私たちが返事をするまえに鍵をかけた筈のドアをノックして入ってきたのは、1人は王宮の騎士の格好をした男との正装をした男たちだった。

彼女は王宮の騎士すらも動かせるの?

でも、この人が本当に王宮騎士だったとしたら、この国をソルトレグス帝国は・・・ジル兄様は・・・
それに王宮に彼女を引き入れたディオリス殿下の責任も・・・

「・・・鍵が掛かっていたはずよ?」

「はははっ、そんな事は君たちに関係ないだろ?」

そのうちの一人が鍵を掛けたのが見えた。

「いつも遠目でしか見れなかった高嶺の花をにしていいとは有難いね。」

「1人は綺麗だし、もう1人もとびきり可愛いだなんて俺たちラッキーだよな」

舌なめずりしながら私たちに近づいてくる男たち。

「楽しい夜になりそうだな」

「大人しくしてくれたら乱暴はしないぜ」

そう言って私たちに手を伸ばして迫ってくる。

リアごめんね怖い思いさせて・・・
気丈に振る舞っているけれど、こんな大勢の男たちに囲まれて怖くないはずがない。
でも大丈夫よ。

ほら、この男たちの手が私たちに触れる前に・・・ね?

それは一瞬だった。

黒い影が目の前を横切ったと思ったら、王宮騎士以外の男たちが次々と倒れていった。
その影もすぐに消えたけれど・・・
騎士も何が起こったのか分かっていない様で狼狽えているけれど、1人残された意味を考えなさい。

「お待たせ~」

軽いハリスンの声と共に男たちが鍵を掛けた扉から入ってきたのはゼガードと、恐ろしい顔をした王太子のアルスト殿下だった。
それと、数人の騎士たち。

「王太子~コイツらどうするの?」

一国の王太子に対してもハリスンの軽さは変わらないのね。
いつもと変わらなさ過ぎて反対に安心する。

「引っ捕らえよ・・・」

「で、殿下・・・こ、これは「黙れ!」」

言い訳をしようとする騎士にアルスト殿下は圧をかけてそれ以上言葉を発する事を許さなかった。

「ラグーナ侯爵令嬢申し訳ない」

私に頭を下げるアルスト殿下は私の立場を知っているのね。

「私は大丈夫です。顔を上げてください。」

「それよりリアちゃんの着替えが先だよね。君の侍女が着替えのドレス持ってきてくれたよ」

「ありがとう」

「では失礼します」

私がリアと退室しようとした時『エミリア』と小さく呟き、アルスト王太子殿下の伸ばした手をリアは気付かなかったようだ。

ああ、彼はリアのことを・・・




「準備が出来たわ。さあ、戻りましょう?」

怖かっただろうに、いつもの笑顔を見せてくれるリアは本当に強くて気高い。

「ええ」

扉を開けるとハリスンとゼガードが待っていてくれた。

「さあ姫、お手をどうぞ」

また巫山戯た様子でハリスンが手を差し出してきた。

この後、何事も無かったように私たちがホールに戻るとオルト嬢はどんな顔をするのでしょうね?

後はジル兄様にお任せね。
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