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私に対する噂は少しづつ下火になってきた頃には3年生の卒業式の間際だった。

それでも、勘違いした上級生の男子生徒から声をかけられる度にゼガードとエドが間に入って対応してくれた。

今日は休日でいつものメンバーで我が家でお茶をしている。

「最近オルト嬢は王宮にも出入りしているそうだよ」

「父から聞いている。泊まる事もあるそうだと」

そう言えばエドのお父様って宰相だったわ。

「ええ、遊びでも問題なのに相手が男爵令嬢って事が問題になっているみたい」

リアのお父様も財務大臣だから、王宮で仕事していれば耳に入るよね。

「放っておけば彼女は自滅するでしょうが、自分の相手をユティ様に差し向けてますから何かしら企んでいるのは間違いないでしょう」

ゼガードって学園から離れると口調が固くなるわね。気を使わなくてもいいのに・・・

「ユティフローラちゃん、卒業式が終わったらさ、夜会が始まるよね。みんなで参加しようよ」

はぁ・・・ハリスンこそ何か企んらんでいる悪い顔ね。
ハリスンの顔を見てリアとエドまで何かに気づいたみたい。
同じような顔をしている。
だったら私の返事は決まっている。

「いいよ。夜会の始まりは王宮からし、皆んなが良ければ一緒に出ましょう?」

きっとその夜会で何かしら仕掛けてくる情報を手に入れたのでしょうね。
それなら私も迎え撃ってやる!
いい加減頭にきてたんだよね。

そうと決まれば急いでドレスを注文・・・
あ!この間、ジル兄様から届いたドレス!
濃紺に私とジル兄様と同じプラチナゴールドの刺繍がされた、子供っぽくもなく、かといって大人びた物ではなく上品な仕立ての素敵なドレス。
どうせならジル兄様に一番に見て欲しかったな。






~ディオリス殿下視点~

なぜ、別に好きでもないオルト嬢とこんな関係になってしまったのか・・・

あの時の彼女があまりにも辛そうで気持ちも関係なく流されるように抱いてしまった。
彼女が初めてなのか、そうでないのか経験のない私には分からなかったがあの日以来、彼女にお願いされると抱いてしまう。
最近は私の部屋に泊まっていくこともある。

私の妃の地位を狙っているなら男爵令嬢の立場で分不相応な願いだ。
一夫一婦制の我が国ではたとえ王族でも側妃も妾も認めて貰えない。
王族に嫁ぐには最低でも伯爵家以上の家格が必要だ。
そんな事は5歳の子供でも知っているだろう。

昔は見目の良い娘を養女にして王族に嫁がせようとする高位貴族もいたらしいが、教養もマナーも身に付けていない顔だけの女性を嫁がせようとする貴族の間で諍いが起こり死人が出て以来法律で高位貴族の家に下位貴族、または平民が養子に入っても王族に嫁ぐ権利はない。

なら、オルト嬢は何を狙っている?
彼女は私に思いを寄せていないことは分かっている。

・・・『ディオリス殿下、ラグーナ侯爵令嬢がわたくしを見る目が・・・』

『何かな?ラグーナ嬢がどうした?』

『その・・・睨んでいる気がするのです』

睨まれているとしたら、オルト嬢が彼女を貶めるような噂を流したからだろうが、オルト嬢にはその自覚はないのか?

『・・・彼女が君をそんな目で見る理由なんてないじゃないか』

『いえ、わたくしとディオリス殿下が一緒にいる時だけなんです』

一体何が言いたいんだ?

『きっとディオリス殿下の隣にいるわたくしが憎らしいのでしょう・・・ディオリス殿下も気付いているでしょう?だって・・・彼女は貴方に恋をしているでしょう?』

え?
本当か?
それが本当なら私が彼女を受け入れないという選択はない。
ラグーナ嬢は侯爵家の令嬢で王族に嫁ぐ家格はクリアしている。
しかも、あの美貌だ。
まだ婚約者の彼女を狙っている男は多い。

私も彼女に初めて会った日から気になっていた。
だが、いつも公爵家子息のエドワードが彼女を守るように睨みをきかせているから、なかなか近付く事ができないところへ、ソルトレグス帝国からの留学生までが彼女の傍から離れない。

彼らがいるからラグーナ嬢は私に思いを伝えられないのか?
だったら私から動こう。







「オルト嬢!どういう事だ!」

彼女ははっきりと私にそんな気持ちは一切ないと言い切った。
あれは照れているとか、誤魔化しているようには見えなかった。
きっと本心だろう。

「どうしましたの?そんな怒ったお顔をして」

当たり前だろ!
あんな公衆の面前で恥をかかされたんだ。

「ラグーナ嬢は私に対して恋慕をまったく抱いていないと言われたぞ!」

そんなはずはないと、オルト嬢は言う。
食堂なんて人目のつく場所で聞いたのが悪いと反対に女心が分かってないと怒られた。
ラグーナ嬢が私を慕っているのは間違いないとまで言う。
それなら次は2人きりになれるタイミングで聞けばいい。




それよりもだ。
私とオルト嬢の関係が噂になっているとは・・・
もう十分彼女を堪能した。
妾にもできない彼女とこれ以上関係を続けるのは不味い。

「君との関係を終わりにする。もう二度と誘ってこないでくれ」

そう、はっきりと告げたのに・・・
なぜ私はいま彼女を抱いているのだ・・・?

背を向けた私に縋り、背中に彼女の胸が当たろうが気にもとめなかったのに・・・

彼女から香る甘い匂いに私の身体が反応して抗えなかった。





なぜ私は彼女の矛盾に気付けなかったんだ?

私とラグーナ嬢を応援するようなことを言うくせに、私との関係を止めないオルト嬢の違和感に、なぜこの時の私は気づかなかったのだろう・・・
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