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ウインティア王国編

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「君に相応しい特別室を用意した。これから案内させるから、大人しく着いて行きなさい」

それが陛下からセルティ嬢に向けた言葉だった。

「陛下ありがとうございます。ルフラン殿下・・・先にお部屋でお待ちしております」

頬を染めて俺を上目遣いで見つめるセルティ嬢。

何を勘違いしたのか、カーテシーをして騎士に周りを囲まれ去って行く際にエリーに見せた勝ち誇った顔が、彼女の貴族としての最後の顔だった。

「今日はもう遅い。お前たちも疲れただろう。部屋を用意させるから泊まっていきなさい」

そう言って父上達は部屋から出ていった。

静まり返った部屋で最初に声を発したのはエリーだった。
しかも、俯いてまだ涙の止まらないガルに拳骨を落としてだ。

「ガル!次に命を粗末にするようなことをしたら許さないからね!貴方は私達ではなくこの国に忠誠を誓いなさい!そして誰よりも長生きしなさい!分かったわね!」

エリーが泣きながら拳を震わせていたが、俺たちはエリーの言葉に笑ってしまった。

「エリー、長生きってなんだよ」アランに突っ込まれ我に返ったのか恥ずかしそうにするエリーの手を握り「分かった誓うよ。そしてこの痛みは一生忘れない」と言いながらガルの片手は頭を擦り続けていた。

な?エリーの拳骨は痛いだろ?
今だけはエリーの手を握ることを許してやるが、次はないからな!



アランはレイを、俺はエリーを客室まで送ったあと、俺たちは陛下の執務室に向かった。
セルティ公爵家の今後について聞きたかったのもあるが、一番はあの危険な女の処分がどうなったかを確認するためだ。



「夜分に失礼します」

俺たちが来るのを見越していたのだろう。
陛下の執務室にはまだ宰相と騎士団長が残っていた。

「アレの相手は疲れただろう。そこに座れ」

父上に勧められたソファに俺、ゾルティー、アラン、ガルが座ると父上が話し始めた。

「エリー嬢の言っていた『サイコパス』や『良心の欠如』他人の痛みに対する共感が全く無く、罪悪感など微塵も感じないといった特徴はセルティ公爵夫人にも当てはまるんだ」

驚く俺たちに父上と母上が婚約する前から結婚するまでにあった出来事を話してくれた。



父上の幼い頃も毎年王家のお茶会が開かれ、側近候補、婚約者候補、友達候補などの選別をしていたそうだ。

その頃からセルティ公爵夫人が『婚約者に選ばれるのはわたくしですわ』と、父上が少し話しただけの令嬢にも執拗な嫌がらせを行い、何度注意しても"自分は悪くない当然のことをしているだけ"と言って悔い改めなかったため不適格の烙印を押され優秀にも関わらず候補にも上がらなかったそうだ。

そして母上を含めた3人の令嬢が婚約者候補に挙がるなり同時に事件が起きた。

母上以外の2人がそれぞれの邸で毒殺されたのだ。
犯人はお茶を入れたメイドだったが、彼女たちもその場で服毒自殺をした為、母上が邪魔になる令嬢を殺させたのではないか、と噂が出回り一時は犯人扱いされていたそうだ。

その時も母上のことを"相応しくない"だとか、"次期王妃はわたくししかいない"と周りを味方につけ母上を孤立させていたらしい。

王家も毒の入出経路や犯人のメイドの裏を取ったりしたが、結局何も掴むことが出来なかったそうだ。
王家もバカじゃない、これまでの言動から一番怪しいセルティ公爵夫人の交友関係からアリバイなど散々調べたが何も出てこなかったらしい。

結局何だかんだとあったが、父上が奔走し母上の潔白は証明され婚約者となった。
そして影が付くなり、あれだけ騒いでいたセルティ公爵夫人が大人しくなったそうだ。

もしかしたら影の存在に気付いたのかもしれない。


父上と母上が結婚すると、セルティ公爵夫人も公爵と結婚しここ数年は何事も無かったそうだが、今回セルティ嬢が用意した毒の一つが亡くなった2人の令嬢に使用された毒と一致したと今日判明したのだ。

そして王宮騎士が公爵家に乗り込んだ時、セルティ公爵夫人は笑いながら『あの子も使えないわね』と言って毒を飲んだそうだ。

遺書には『陛下がわたくしの元へ来るのをお待ちしております』と一言書かれたものを残して・・・


セルティ公爵夫人が娘に毒を渡したのは間違いないだろうが、セルティ嬢が幾つの時に渡したのかは不明だ。


結局毒の入手経路は分からないままだ。


母娘でサイコパスだったのか?
これは遺伝するのか?
それとも母親に洗脳されていたのか?


背筋に冷たいものが流れたが、それは俺だけでは無いはずだ。

今回のことは俺とエリーの結婚式が終わった3ヶ月後に、約20年前の事件と一緒に公表する事が決まった。

セルティ嬢は麻痺毒を与えられ、実験施設に送られた。
麻痺毒の解毒剤を作るためだが、たとえ解毒剤が出来なくとも処刑が延期になることはないそうだ。


「これで姉も浮かばれます。ありがとうございました」

部屋から退室しようとした俺たちに頭を下げて礼を言ったのは宰相のノットー伯爵だった。

ああ彼もまた被害者だったのか・・・
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