上 下
65 / 69
第三章

「ああ、いたぶり、なぶり、遊んでやろう!」

しおりを挟む
 長距離の落下はアルベルトの防具とナイのローブに付与された浮遊フロートの魔法が減速してくれる。
 アルベルトとナイは魔法で開けた縦穴を降りて行った。

 当然ながら途中の階も視界に入るが、人の姿はない。
 だが、荒れた内装や家具、絨毯に広がる赤い染みで何が起こったのか予測することはできた。
 生きている人間がいる可能性は低そうだ。

 落下しながらもパックは襲ってくる。
 空中では剣では不利なため、それはナイが魔法で応戦した。

 そして地下。

 「あちらだな」

 降り立つと同時に、ナイが指し示す。

 「距離は?」
 「なに、三部屋も壁をぶち抜けばすぐだ」
 「任せろ!」

 アルベルトはナイを下ろして剣の一本を鞘に収めると、残した一本を両手で構える。

 「……魔力操作」

 魔剣が淡い輝きを放ち始める。

 「目標設定。範囲設定。威力設定」
 「いいかげん、その呟く癖をやめろ。隙が大きいぞ」

 ナイの言葉はアルベルトの耳には届いていない。
 集中して、一点を見つめていた。

 「トリシューラ、破壊神の槍」

 キュインと、周囲の空気が悲鳴のような音を立てる。
 それと同時にアルベルトの魔剣の周囲に空気の渦が生まれた。
 アルベルトが魔剣で突きを放つと、空気の渦はすべてを巻き込み進む槍となった。

 『ぐるぐる……きえちゃう』
 『ぐるぐるするおもちゃ?』

 周囲にいたパックたちもその渦に吸い込まれ、消滅していく。
 壁に当たっても止まることなく、壁を砕き数人が通れそうな大穴を開けた。

 魔剣『悪戯神トリックスター』は雷撃魔法を封じられた剣だったが、分体であるこの魔剣は旋風魔法が封じられていた。
 広範囲攻撃の雷撃魔法に比べて魔力操作が難しく、アルベルトが扱えるようになったのは数日前だ。
 ほとんど、ぶっつけ本番だった。

 ただ、魔力操作に失敗しても威力が大きくなりすぎるだけなので、狙った先に強敵がいると分かっている今は問題ない。

 ……と、考えてしまうアルベルトはかなりナイに毒されてきているようだ。

 「お、一応当たったようだぞ。防御されたがな」
 
 周囲のパックたちが一掃されたことで、やることが無くなった陽気な声を上げてアルベルトに飛びついた。
 アルベルトも身をかがめ、自分の頬にナイの頬を摺り寄せた。

 「決着を付けようか!」
 「ああ、いたぶり、なぶり、遊んでやろう!」

 ナイの金色の瞳が爛々と輝いた。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

覚えた魔法は異世界召喚魔法!?

もぐら
ファンタジー
いつもと同じ日常を過ごしていた主人公は、クラスごと異世界に飛ばされてしまった。 他のクラスメイトは、チートと呼ばれるような力を手に入れているなか主人公は能力の使い方が分からなく弱者と呼ばれていた。しかし、それは常識では考えられない能力だった! 素人なもので展開遅くてすいません。 9話くらいからメインに入っていきます。 ノベルバでも同じタイトルでだしています。

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~

テツみン
ファンタジー
**救国編完結!** 『鑑定——』  エリオット・ラングレー  種族 悪霊  HP 測定不能  MP 測定不能  スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数  アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数 次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた! だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを! 彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ! これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...