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第三章

「穴をあける」

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 アルベルトとナイがいる場所の床から、無数の光の筋が立ち昇る。

 幻想的な風景だったが、それは殺戮の始まりの合図だ。
 光の筋は掌に乗る程度の小さな人型を取る。

 それは人型……人間の子供のようではあるが、下半身は様々な動物の姿をしていた。
 鳥の下半身、ヤギの下半身、ウサギの下半身、猫の下半身のものもいる。

 それが原始の妖精パックの姿だった。

 どれも空中に浮かんだ状態で無邪気な笑みを浮かべ、アルベルトとナイを見ている。

 『あそぼー……あそぼー……』

 アルベルトとナイに近寄ってくるその手には魔法陣が浮かんでいる。
 それは、攻撃魔法のものだった。

 「魔法陣を無効化するが、長くは続けられんぞ。切り捨てろ!子供の姿のものは斬れんとか言うなよ?」
 「当たり前だ。魔獣は別だ!」

 パックの魔法陣が揺らぐ。
 それと同時にアルベルトはパックを切り捨てた。

 アルベルトが両手に握っている魔剣は淡く発光している。
 右手の魔剣は黄色く、左手のものは赤く。
 それは魔法の効果が付与された斬撃であることを示していた。

 「ふむ。やはり原始妖精の魔法となると無効化も難しいな。理論でなく直感で使用している要素が多すぎる」

 そう言いながらも、ナイは確実に魔法を無効化していき、一切の攻撃を受けることはない。

 『しんじゃった!ともだちしんじゃった!』
 『いっしょにしてあげないと!いっしょ!きって消してあげないと!』

 光の筋と共に無数のパックが湧き上がってくる。
 同族が切り殺されていくというのにその表情は笑顔だ。
 笑い声をあげ、ナイとアルベルトに向かって行っては切り殺される。

 パックという妖精には快楽以外の感情はない。そして、全ての行動が遊びなのだ。
 殺し合いは自らの存在をかけた最も刺激的で楽しい遊びだった。
 
 「アルベルト!浅い!!瞬時に消滅させねば復活してくるぞ!」
 「すまん!」

 ナイの叱咤が飛ぶ。
 パックは本当の意味で肉体を持っているわけではない。
 だから、即座に消滅させなければ治癒魔法ですぐに復活してくる。
 
 だが、空中に浮いて移動してくる小さなパックを一撃で切り捨てることは難しい。
 ナイのフォローがあり、経験豊富なアルベルトだからこそまだ対応できているのだった。

 「予想以上に統制が取れているな。これは……女王がいるかもしれん」

 戦いの最中、ナイが呟いた。
 パックは尽きることがないように床から湧き上がってくる。
 物量で攻めようとしているのは間違いないが、その出方に規則性があるように感じられた。

 「女王?蜂とか蟻みたいなもんか?」
 「そうだ。ある程度の数が集まったら我の魔法で一気に殲滅しようと考えていたのだが、それができるほど集まってこない。意図的に攻めてくる量が制限されているように感じる」

 ナイは自らとアルベルトを囮にしてパックを集め、大きな魔法攻撃で一気に殲滅することを考えていた。
 だからこそ、アルベルトにも遠距離魔法を控えさせ、剣のみの攻撃に抑えていたのだ。

 だが予想に反してパックは集まらず、小出しにするようにしか攻撃してこない。
 統制のとれた、持久戦の様相になっている。
 これでは先にアルベルトの体力と魔剣に溜めてある魔力が切れかねない。

 「女王はやっかいだな。通常のパックより頭がいい。先に潰すか。いるとすれば、ここの地下。元々封印されていた場所だな」
 
 女王、もしくはそれに類するモノがいるなら、それを先に潰しておいた方がいいだろう。
 
 「わかった。どうやって地下まで行く?」
 「穴をあける」

 この瞬間、王城に致命的な損害が加えられることが決定した。

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