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第二章

「見学者の到着だな」

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 「なっ!何が起こった!!」

 突然の閃光と轟音に驚き、叫んだのは王都防衛軍の指揮官だった。
 大佐だが、ダンジョンが溢れた場合は現場に赴き、冒険者たちも指揮下に入れて迅速な対応を求められる役職だ。
 彼はダンジョンが溢れたとの報告を聞き、騎馬隊を率いて真っ先に飛び出してきたのだった。

 無謀ともとれる行為だが、彼の手には一本の魔剣があり、騎馬隊にも魔道具が預けられている。
 彼の魔剣は国宝級。
 騎馬隊の魔道具も様々な型をしているがいずれも防御に特化したものだ。
 いずれも賢者ブリアックの手によって作り出されたもので、後続として兵や冒険者たちが馬車で来るまでの間、溢れた魔獣たちを相手できるだけの能力が持たされていた。

 「わかりません!魔獣の魔法による攻撃でしょうか?」
 「バカな!あんな強力な魔法を使う魔獣が溢れた中にいるなど聞いたこともないぞ!」

 通常、ダンジョンから溢れる魔獣はザコといっていいものばかりだ。ダンジョン毎に数体しか存在しない、階層のボスなどは溢れ出ることはない。
 ダンジョンから溢れた魔獣の脅威は個々の能力ではなく、その圧倒的な数の暴力にある。

 しかし、先ほどの閃光と轟音は明らかに魔法によるものだった。
 それも大魔法といえるほどの威力を持っていた。

 溢れる魔獣に魔法を使う種が混ざっていることはあるが、あれほどまでの魔法を使う存在がいるなど前例がなかった。

 「と、とにかく!前線を目指す。あの魔法が何だったのか見極めねばならん!脅威となる存在がいるのであれば、敵わぬともせめて情報だけでも持ち帰らねば!」
 「はい!」

 指揮官の叫びに、騎馬隊の騎士たちも気合の入った返事を返した。

 そこにまた閃光が走る。
 
 「くっ!」

 手をかざし、目をしかめながらも指揮官はその魔法を見極めようと、必死に目を凝らした。

 「……雷撃だ!エレクトリックビーストか?あれはアニマルダンジョン下層のボスだったはず……」

 起こった現象から思い当たる魔獣の名をあげてみたものの、たとえそうだとしても威力が強すぎる。
 エレクトリックビーストの雷撃は冒険者パーティーを一瞬で焼き殺すが、それでも攻撃できる人数は小隊程度……十数人がいいところだろう。
 走った雷撃は水平線を埋め尽くすほどの威力があった。
 間違いなく、数百から数千といった大隊を屠れるだろう。

 「い、いくぞ!」

 このまま逃げ帰りたい気分を抑え込み、馬を走らせた。
 そしてようやく閃光が見えた場所の近くまで来た時、まず気が付いたのはあたり一面に立ち込める砂塵と、焦げ臭い匂いだった。

 その中に、多数の魔獣の死骸が見える。
 積み重なるようにして転がる大量の死骸は、すべて焼け焦げており、ピクリとも動く気配はない。
 虐殺という単語が、脳裏に浮かんだ。

 「……いったい何が……」
 「見学者の到着だな」

 騎馬隊の一人が残場を見て呟いたときに、後方から声がかかった。
 全員が、武器に手をかけてそちらを向く。

 「我……コホン。私は味方ですよ、兵隊さん」

 そこにいたのは、幼い黒髪の少女だった。
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