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第二章
「その、ダンジョン探索者人数のなんとかの法則ってのは、本当なのか?」
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王都の冒険者ギルドの会議室ではギルドマスターを筆頭に職員たちが頭を抱えていた。
数日前に一人の冒険者から下層へ強制的に転送される罠の『彷徨える落とし穴』が、初心者たちが入るような上層に現れたとの報告があった。
それを切っ掛けに、王都周辺のダンジョンの調査が行われたのだが、その結果があまり良いものではなかったのである。
「では、アニマルダンジョンが溢れる可能性があるというのだな?」
ギルドマスターはため息とともに言葉を吐き出した。
「はい。スタンピードが起こる可能性が非常に高いそうです。すでに上層の魔獣の出現率が極端に上がっています。むしろ、まだ起こっていないのが不思議なほどだそうで」
「マジかよ……」
思わず、ギルドマスターの言葉が崩れた。
ギルドマスターは冒険者上がりだ。普段はかなり砕けた話し方をするのだが、勤務中は威厳を保つために硬めの話し方をするようにしていた。
ギルドマスターが再び頭を抱えると、白髪交じりの長い髪がはらりと垂れた。
「その、ダンジョン探索者人数のなんとかの法則ってのは、本当なのか?」
「各階層におけるダンジョン探索者人数と発生する現象の法則ですね。かなり研究が進んでおり、信ぴょう性は高いそうです。亡くなられた賢者ブリアックが提唱されたそうなので間違いはないでしょう」
一人前に立って報告をしていた職員は、淡々と続けた。
「……なんで、ワシら冒険者ギルドの人間がそれを知らなかったんだ!?ダンジョンのことは優先的に知らせが来るはずだろうが!」
「そう言われましても。研究者から聞いた話では、提唱されたブリアック様からすでに報告が上がっているものだと思い込んでいたそうです。ブリアック様が報告をしなかったんでしょうね」
「あの賢者め……」
ギルドマスターは生前の賢者の姿に思いをはせた。
賢者ブリアックは確かに頭がよく素晴らしい人間であったのだが、欠けている部分も多かったのだ。
自分の興味のあることを優先させて、他が疎かになることもよくあった。
どんな時でも忘れずマメにやっていたことと言えば、女性関係と猫の世話くらいのものだろう。
あの賢者なら重要な発見もそのまま平気で放置するだろうと、ギルドマスターは腹立たしさに奥歯をかみしめた。
ただ、これは、この話に限っては誤解である。
実はブリアックは提唱したわけでも研究したわけでもなかった。なんとなくそうかもしれないと思いついたことを口に出した程度だ。
それに閃きを得て、研究者たちが研究を進めていったのだ。それが転じて、いつの間にかブリアック提唱の理論として独り歩きしてしまっただけだった。
賢者提唱の理論の研究と銘打てば、予算が降りやすく、研究者たちがそれを利用したというのも誤解を生む原因の一つだろう。
「ものは考えようです。スタンピートを予測でき、予防できる可能性も出てきたことを喜びましょう。……今回は間に合いませんが」
「そうだな。少なくとも、今から撃退の準備はできるからな。何の準備もしていない状態で溢れて慌てるよりはマシだと思うことにするか……」
過ぎたことを考えても仕方ないと、ギルドマスターたちは頭を切り替えることにした。
「それでは過去のスタンピードから予測される魔獣の進行方向ですが……」
会議は長引き、この後二時間に及んだ。
数日前に一人の冒険者から下層へ強制的に転送される罠の『彷徨える落とし穴』が、初心者たちが入るような上層に現れたとの報告があった。
それを切っ掛けに、王都周辺のダンジョンの調査が行われたのだが、その結果があまり良いものではなかったのである。
「では、アニマルダンジョンが溢れる可能性があるというのだな?」
ギルドマスターはため息とともに言葉を吐き出した。
「はい。スタンピードが起こる可能性が非常に高いそうです。すでに上層の魔獣の出現率が極端に上がっています。むしろ、まだ起こっていないのが不思議なほどだそうで」
「マジかよ……」
思わず、ギルドマスターの言葉が崩れた。
ギルドマスターは冒険者上がりだ。普段はかなり砕けた話し方をするのだが、勤務中は威厳を保つために硬めの話し方をするようにしていた。
ギルドマスターが再び頭を抱えると、白髪交じりの長い髪がはらりと垂れた。
「その、ダンジョン探索者人数のなんとかの法則ってのは、本当なのか?」
「各階層におけるダンジョン探索者人数と発生する現象の法則ですね。かなり研究が進んでおり、信ぴょう性は高いそうです。亡くなられた賢者ブリアックが提唱されたそうなので間違いはないでしょう」
一人前に立って報告をしていた職員は、淡々と続けた。
「……なんで、ワシら冒険者ギルドの人間がそれを知らなかったんだ!?ダンジョンのことは優先的に知らせが来るはずだろうが!」
「そう言われましても。研究者から聞いた話では、提唱されたブリアック様からすでに報告が上がっているものだと思い込んでいたそうです。ブリアック様が報告をしなかったんでしょうね」
「あの賢者め……」
ギルドマスターは生前の賢者の姿に思いをはせた。
賢者ブリアックは確かに頭がよく素晴らしい人間であったのだが、欠けている部分も多かったのだ。
自分の興味のあることを優先させて、他が疎かになることもよくあった。
どんな時でも忘れずマメにやっていたことと言えば、女性関係と猫の世話くらいのものだろう。
あの賢者なら重要な発見もそのまま平気で放置するだろうと、ギルドマスターは腹立たしさに奥歯をかみしめた。
ただ、これは、この話に限っては誤解である。
実はブリアックは提唱したわけでも研究したわけでもなかった。なんとなくそうかもしれないと思いついたことを口に出した程度だ。
それに閃きを得て、研究者たちが研究を進めていったのだ。それが転じて、いつの間にかブリアック提唱の理論として独り歩きしてしまっただけだった。
賢者提唱の理論の研究と銘打てば、予算が降りやすく、研究者たちがそれを利用したというのも誤解を生む原因の一つだろう。
「ものは考えようです。スタンピートを予測でき、予防できる可能性も出てきたことを喜びましょう。……今回は間に合いませんが」
「そうだな。少なくとも、今から撃退の準備はできるからな。何の準備もしていない状態で溢れて慌てるよりはマシだと思うことにするか……」
過ぎたことを考えても仕方ないと、ギルドマスターたちは頭を切り替えることにした。
「それでは過去のスタンピードから予測される魔獣の進行方向ですが……」
会議は長引き、この後二時間に及んだ。
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