29 / 69
第二章
「それを手に入れろ!なんとしても手に入れるんだ!!」
しおりを挟む
王城の一角。
とある研究室に一人の男がいた。
彼もまた、嫉妬にかられ、渦巻く後ろ暗い感情を抑えられない人間だった。
「どうして見つからない!」
彼は魔道騎士団装備部の部長、ウーゴ・メラス伯爵。
魔道騎士団が使用する魔道具を一括して管理開発している部署の長である。
爵位を持っているが領地運営は代官に任せ、魔道具研究に人生を捧げた男だ。
この国の魔道具研究の第一人者と言われ、確固たる地位を築いてきた。
しかし彼は不幸な男である。
それは、同年代に賢者ブリアックがいた為だ。
ブリアックは片手間に魔道具研究を行っていたにも関わらず、ウーゴが作り出すものよりさらに上をいく魔道具を作り出していった。
ウーゴはブリアックの魔道具を入手して研究したが、それに使われている術式すら解明しきれなかった。
彼の使う術式は独自の理論によって組み立てられたものであり、コピーすることはできても応用することは不可能だったのである。
そして、彼はブリアックの才能に嫉妬した。
昔のウーゴはただ魔道具を研究ができれば幸せな男だったが、今の彼は嫉妬の炎で身を焦がす不幸な男に成り下がってしまったのだった。
「本当に全て調べたのか?見落としているだけではないのか!?」
「はい!もちろんです!!」
ウーゴは報告に来た研究員を怒鳴りつける。
研究員は賢者ブリアックの遺産について調べていた。
ブリアックの屋敷を調べまったく手掛かりがつかめなかったため、現在は彼の手記や研究資料から手掛かりを探しているところだ。
しかし、その手記や研究資料もほとんど残っていない。
それはブリアックが研究のほとんどを個人の研究室で行っており、資料などの大半もその研究室で管理していたためである。
その研究室が、どこを探しても見つからない。
屋敷で研究室につながる扉を見た者がいるにもかかわらず、その扉すら見つからない。
ブリアックの死後、彼の遺産の数々と研究資料は王国の管理となり、その責任者はウーゴになる予定だった。
ブリアックの研究の全てが手に入り、その内容を丸裸にできると期待していたウーゴは肩透かしをくらい、希望から絶望へと突き落とされていた。
「もういい!下がっておれ!」
ウーゴが怒りに任せて机に拳を叩きつけると、机の上にあった水差しが不快な音を立てて転がる。
しかし、彼はそれすら見ようともせず、あらぬ方向に怒りの視線を向けていた。
水差しの水が机の上に広がり、大きな水たまりを作ったころに、報告していた研究員が再び口を開いた。
「あの……もう一つ、ご報告がありまして……」
「なんだ?」
飢えた獣のような血走った目を向けられ、研究員は身をすくめる。
「その、実は冒険者がダンジョンコアから魔剣を授かったという話がありまして……。その、それが、国宝級の強力な物らしいのです」
「なんだと!!」
雷鳴のような叫びに、研究員は驚いて飛び上がった。
「それを手に入れろ!なんとしても手に入れるんだ!!それを研究すれば、ブリアックの遺産などに頼らずとも最上級の魔道具が作れるようになるかもしれん!!国防のためだ、手段を選ぶな!!」
「ひっ、はいいいい!!」
ウーゴの指示に研究員は部屋から飛び出していった。
この言葉が、大きな事件の始まりになるとは、まだ誰も気付いていない。
とある研究室に一人の男がいた。
彼もまた、嫉妬にかられ、渦巻く後ろ暗い感情を抑えられない人間だった。
「どうして見つからない!」
彼は魔道騎士団装備部の部長、ウーゴ・メラス伯爵。
魔道騎士団が使用する魔道具を一括して管理開発している部署の長である。
爵位を持っているが領地運営は代官に任せ、魔道具研究に人生を捧げた男だ。
この国の魔道具研究の第一人者と言われ、確固たる地位を築いてきた。
しかし彼は不幸な男である。
それは、同年代に賢者ブリアックがいた為だ。
ブリアックは片手間に魔道具研究を行っていたにも関わらず、ウーゴが作り出すものよりさらに上をいく魔道具を作り出していった。
ウーゴはブリアックの魔道具を入手して研究したが、それに使われている術式すら解明しきれなかった。
彼の使う術式は独自の理論によって組み立てられたものであり、コピーすることはできても応用することは不可能だったのである。
そして、彼はブリアックの才能に嫉妬した。
昔のウーゴはただ魔道具を研究ができれば幸せな男だったが、今の彼は嫉妬の炎で身を焦がす不幸な男に成り下がってしまったのだった。
「本当に全て調べたのか?見落としているだけではないのか!?」
「はい!もちろんです!!」
ウーゴは報告に来た研究員を怒鳴りつける。
研究員は賢者ブリアックの遺産について調べていた。
ブリアックの屋敷を調べまったく手掛かりがつかめなかったため、現在は彼の手記や研究資料から手掛かりを探しているところだ。
しかし、その手記や研究資料もほとんど残っていない。
それはブリアックが研究のほとんどを個人の研究室で行っており、資料などの大半もその研究室で管理していたためである。
その研究室が、どこを探しても見つからない。
屋敷で研究室につながる扉を見た者がいるにもかかわらず、その扉すら見つからない。
ブリアックの死後、彼の遺産の数々と研究資料は王国の管理となり、その責任者はウーゴになる予定だった。
ブリアックの研究の全てが手に入り、その内容を丸裸にできると期待していたウーゴは肩透かしをくらい、希望から絶望へと突き落とされていた。
「もういい!下がっておれ!」
ウーゴが怒りに任せて机に拳を叩きつけると、机の上にあった水差しが不快な音を立てて転がる。
しかし、彼はそれすら見ようともせず、あらぬ方向に怒りの視線を向けていた。
水差しの水が机の上に広がり、大きな水たまりを作ったころに、報告していた研究員が再び口を開いた。
「あの……もう一つ、ご報告がありまして……」
「なんだ?」
飢えた獣のような血走った目を向けられ、研究員は身をすくめる。
「その、実は冒険者がダンジョンコアから魔剣を授かったという話がありまして……。その、それが、国宝級の強力な物らしいのです」
「なんだと!!」
雷鳴のような叫びに、研究員は驚いて飛び上がった。
「それを手に入れろ!なんとしても手に入れるんだ!!それを研究すれば、ブリアックの遺産などに頼らずとも最上級の魔道具が作れるようになるかもしれん!!国防のためだ、手段を選ぶな!!」
「ひっ、はいいいい!!」
ウーゴの指示に研究員は部屋から飛び出していった。
この言葉が、大きな事件の始まりになるとは、まだ誰も気付いていない。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
私の平穏な日々
あきづきみなと
ファンタジー
前世で過労死したものの、気がつけば異世界の公爵令嬢に転生していたミカエラ。けれど、貴族のご令嬢らしく政略結婚するのはまっぴらごめん! そこで将来自立することを目標に、前世の知識と魔法を駆使して、領地をちょっとずつ改革する日々を送っている。やがて15歳となったミカエラは、王立学院へ入学。面倒事はあれど、新たな令嬢友達もできて、有意義な毎日を過ごしていたのだけれど……とある平民少女の編入で、トラブルが急増!? その少女は、ミカエラや彼女の友人をなぜか『悪役』だと認識しているようで――
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】私には何の力もないけれど、祈るわ。〜兄様のお力のおかけです〜
まりぃべる
ファンタジー
私はナタリア。
私が住む国は、大陸の中では小さいですが、独立しています。
それは、国を護ってくれる祈り子(イノリコ)がいるから。
イノリコが生まれた領地は、繁栄するとか。
イノリコが祈れば、飢饉が解消され、たちまち豊穣になるとか。
イノリコを冷遇すれば、死に至るとか。
その、イノリコに私のお兄様が認定されたのです。さすがお兄様!
私の周りで不思議な事が起こるのは、お兄様のそのお力のおかげなのですものね。
私?私は何の力もありませんが、相手を想い、祈る事くらいはしています。
☆現実世界とは、厳密に言うと意味が違う言葉も使用しているかもしれません。緩い世界観で見て下さると幸いです。
☆現実世界に、似たような名前(人名、国名等)がありますが、全く関係ありません。
☆一部区切りがつかず長い話があるかもしれません。すみません。
☆いろんな意味でハッピーエンドになってます。ざまあ、はありません。
☆★
完結していますので、随時更新していきます。全51話です。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる