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第一章

「……あなたは、いったい……?」

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 「ウインドブレード」

 可愛い声とともに光が走る。
 それが飛来した風刃の魔法だと気付いたのは、スプリガンの手首が切り落とされた時だった。

 ぎゃううう!と、先ほどまでの余裕が嘘のように、スプリガンは絶叫し切り落とされた手首から濃緑色の血をまき散らした。

 「ふむ。ウインドブレード程度ならほとんど魔力は減らぬか。我の魔力は規格外の多さになっているようだ。ダンジョンコアは良い仕事をする」

 影が走った。
 声の主を探していたアルベルトの視界に突然飛び込んできたそれは、高く飛び上がりスプリガンの頭部を蹴り飛ばした。
 猫のようなしなやかさ。
 人間とは思えない獣のような動きで、勢いもかなりついていたのだろう、蹴り飛ばしたのは小さな人影であったにもかかわらず、スプリガンはかなり後方へと飛ばされた。
 蹴り飛ばした勢いを空中でクルリと回って殺すと、人影はアルベルトとスプリガンの間に着地した。

 頭上に片手を掲げ、指を鳴らす体制をとる。

 「ファイアプリズン」

 スカ……と、いう情けない音と同時にスプリガンは炎の柱に包まれた。
 
 炎によってダンジョン内が明るく照らされる。
 人影は逆光に照らし出され、そのシルエットだけを浮かび上がらせる。

 「むう。指を鳴らすのは難しいのだな。自由に動く身体だが、何でもできるという訳ではないらしい。主殿のように気障に決めたかったのだがな」

 シルエットの主は指を鳴らすと同時に炎獄魔法で極めたかったらしい。
 炎はなおもスプリガンを燃やし続ける。

 スプリガンが攻撃されたことによって、アルベルトと初心者パーティーを拘束していた闇の触手は解かれ、黒い霧と化して消えていった。
 糸の切れた操り人形のように、力なく倒れこむアルベルトたち。

 「ふむ。みな重症だな。エリアヒール」

 アルベルトたちの足元に白い魔法陣が展開され、柔らかな風が吹く。
 風が彼らの肌を撫でるとともに、その傷が治っていった。

 「……治癒魔法……こんな、みるみる間に。すごい……神官でもこんなの無理……」

 ヴァネッサが小さく呟いたが、シルエットの主はその言葉を聞き逃さなかった。

 「なに、これが本来の治癒魔法の力だ。教会の治癒魔法は術式に宗教的概念が混ざっておるからな。異物が混ざっているようなものだ。宗教的概念の効果で効力を急激に底上げできるものもいるが、それも一握りでな。多くの者にとっては効力を下げる要素でしかない。教会関係者以外に治癒魔法の使い手が極端に少ないのもそのせいだ」

 いきなり魔法の解説をされて、誰もそれに答えられない。
 ただ、逆光のシルエットを見上げるしかできなかった。

 「……あなたは、いったい……?」

 皆の疑問を代表してアルベルトが口にした。

 炎獄魔法の炎が弱まり、逆光も治まり始める。
 シルエットしか見えなかった人影の正体が、段々と見えるようになってきた。

 それは少女だった。
 しかも、全裸の。

 アルベルトと初心者パーティーの前に仁王立ちし、少女は傲慢さを含んだ笑みを浮かべた。

 「我はネコである!名前はナイ!!」

 そう、高らかに宣言したのだった。
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