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第一章

<そういや、ダンジョンは空間魔法の産物という説があったな>

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 アルベルトと初心者パーティーはダンジョンの中を進む。

 ここは十層。
 しっかりとした石をくり抜いたような洞窟が続いていた。

 ダンジョンは十層毎に転移ポイントといわれる場所があり、攻略した深さに合わせて出入りが許される。
 個人の情報をダンジョンが覚えており、それによって管理されているらしい。
 これは集団で移動しようとしても同じで、転移ポイントに入った中に誰か一人でも攻略を進んでいないものがいれば、その一人に合わせた深さまでしか行けなくなる。

 アルベルトはともかく少年少女の方は十層までしか進めておらず、今回はそこからのスタートとなった。
 目的は二十層。アルベルトの予測では一日に二層のペースで進めるはずだ。

 戦闘は初心者パーティーに任せて、アルベルトは後方で彼らの動きを確認していた。
 もしもの時があれば手を出せるように準備はしている。
 その手には剣ではなく投げナイフ。
 アルベルトの持つ唯一の遠距離攻撃手段だが、このダンジョンンの三十層までに出る魔獣なら当たり所が良ければ一撃で屠れる。

 それにこの初心者ダンジョンことゴブリンダンジョンの上層なら、魔獣の出現場所もその種類も手に取るように分かる。
 何度も潜ったダンジョンだからだ。
 自身の初心者時代もだが、今回のように初心者の引率として何度も潜っていた。
 ダンジョンは不思議なもので、同じ場所に同じ種類で同じ強さの魔獣が現れるし、罠も同じ場所に同じ種類のものが仕掛けられているのだ。

 <そういや、ダンジョンは空間魔法の産物という説があったな>

 アルベルトは初心者パーティーに危険がないように気を張っていたが、それでも見ているだけなのでついつい余計なことを考えてしまっていた。

 <転移ポイントもそうだが、魔獣も転移召喚魔法でどこかから連れて来られてるって話だよな>

 各層を移動できる転移ポイントは、間違いなく空間魔法を使っている。
 そして、同じ場所に同じ種類で同じ強さの魔獣が現れるのも、それらを選別してこの世界のどこかから転移召喚されているというのが通説になっていた。もしそれが正解なら、空間魔法だろう。

 <それにダンジョン自体も空間魔法で作られてるって聞いたことも……>

 考えてみれば、地下とはいえこんな巨大な空間が維持されているのも不思議な話だ。
 外で地震があったときにダンジョン内ではまったく揺れを感じなかったという話もあり、別世界になっているのではないかと言われていた。

 <昔の賢者が言い始めて、最近死んだ何とかいう賢者が検証してたんだっけな……>

 アルベルトの考えている最近死んだ賢者というのは、一か月前に死んだ賢者ブリアックのことだ。
 王都が追悼の自粛ムードに染まって、酒を飲んで騒ぐのすら許されない雰囲気になっていたのをアルベルトも覚えていた。

 アルベルトはこの引率を始める前に所属パーティーを追い出されていたため、暇な日も多い。
 ちょうど退屈に耐え切れずに飲みに出かけたら、自粛で飲み屋が閉まっていたのだった。

 <あんだけ盛大に弔われるなら、きっと立派な人なんだったんだろうな。オレなんかと違って……>

 つい、自分と比べてしまい、アルベルトは自虐的な気分になってしまった。
 パーティーを追い出され、次がまだ決まっていない立場では弱気になってしまうのも仕方がないことだろう。

 「ゴブリン二匹。この角の向こうにいるぞ。武器はこん棒だけだ」

 シモンが声を抑えて言う。
 シモンは斥候役として、進路の確認をしていたのだ。小さな鏡を使って曲がり角の向こうを慎重に探っていた。
 
 「よし、弓で先制攻撃だ。その後、オレが先行して仕掛ける。ネリーは仕留め損ねた時のためにオレの支援に入ってくれ」

 モーリスが声をかけると、皆は小さく頷いた。
 表情が一気に引き締まる。最初のころは不安な顔を浮かべていたが、今は慌てることすら一切ない。

 普段のパーティーリーダーはヴァネッサだが、戦闘時はモーリスがリーダーになる。
 こういった役割分担が自然とできているのは良い傾向だろう。
 もう、普通のゴブリン相手ならアルベルトが口を出さなくても問題なかった。

 初心者パーティーが順調に育っているのを見て、先ほどまでの弱気も吹き飛んでアルベルトは満足げに微笑んだ。
 
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