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四章 新しい仲間たちの始まり
重い、剣
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グリおじさんとカラくんが飛んだ後を追うように、アダド地下大迷宮の中を駆けるものがあった。
先行する二匹よりも遅れているが、決して遅いわけではない。
もし見ている者がいたら目で追いきれず、ダンジョンの中を疾風が吹き抜けたように感じるだろう。
それは、魔狼。
赤く、巨大な熱風。
双子の魔狼の片割れ、ルーだ。
「ルー、重くないか?」
その背には、四つの人間の影があった。
望郷のメンバーたちだ。
<ぜんぜん、だいじょうぶ!>
ディートリヒがかけた声に、楽し気に赤い魔狼が答える。
今のルーは、大人の姿だ。人間が四人、背中に乗っていてもびくともしない。ダンジョンの中を走り抜ける速さから見ても、それは明白だ。
楽しげなのは、ロアの決めた計画通りに行動しているから。正しくはロアだけが決めた計画ではないが、意思決定にロアが入っていることが大事だった。
ロアの役に立っている。ロアの望んだ通りに動いている。
その実感が持てる今の状況は、ルーにとって至福の時間だった。
今ここに青い魔狼はいない。別の役目があるからだ。
双子はとても仲が良いし、存在を同一視できるほどに互いを分かり合っている。
それでも、自分一匹だけに重要な役割を与えられるのは嬉しい。
双子の魔狼という群れではなく、個の目標を与えられ達成に挑める今が楽しい。
<はやく冒険者の人たちを追いだしちゃわないとね!ロアがうごけない!>
「おいおい、追い出すんじゃなくて、避難誘導だぞ」
ルーの言葉に、思わず苦笑を浮かべてクリストフが指摘した。
ルーと望郷のメンバーたちの役目は、ダンジョン内に残っている冒険者たちを迅速に外に誘導することだ。
ダンジョンは今も揺れ続けている。
暴走したロアの偽者が迷宮核に影響を与えて発生している揺れだが、そのことを知っている冒険者はいない。
知っているのは、ロアと従魔と、望郷だけだ。
揺れはそれほど酷くなく、無理をすればこうやって自由に走り回れるくらいでしかない。
ダンジョン全体が崩壊しそうな激しい揺れならば、冒険者たちも我先に逃げ出そうとしただろう。だが、耐えられる揺れだからこそ、しばらく様子見に徹する可能性は高い。
なにせ、ダンジョンの中には魔獣が徘徊しているのだ。
熟練の冒険者ほど焦って行動する危うさは知っている。安全地帯などの安全な場所に、避難して収まるのを待つだろう。
そういった冒険者を誘導し、ダンジョンの外に出してしまうのがルーと望郷の役割だった。
<ルーもフィーもがんばってるのに、ようせいおうの下僕は無能だよね!たくさんいるのに、なんの役にも立たない!>
非難するような言葉を漏らしたが、ルーは嬉しそうだ。
妖精王の配下たちに対しての不満に聞こえるが、その実は自分たちが役に立っているという主張に過ぎない。
ロア相手だったら素直に褒めて欲しい態度を見せられるのだが、望郷相手では遠回しな表現になってしまう。心の距離の差だろう。
「そうだよな、ルーは凄いよな!」
<うん!>
ディートリヒが乗っている背中を撫でながら褒めてやると、ルーは嬉しそうに頷いた。
ディートリヒとしても双子が嬉しそうにしているだけで嬉しいので、同じく満面の笑みを浮かべた。
現在、妖精王カラくんの配下は、最下層で準備が整うのを待っている。
ダンジョン内を徘徊しているのは、意思疎通のできない、いわゆる家畜的な立場の魔獣たちだけだが、そちらは仕方が無しに放置されていた。
意思疎通ができないと言っても、妖精王の配下たちが力で従えさせれば徘徊を止めて冒険者に攻撃させないように抑えるくらいできるだろうが、今それをすると逆に冒険者の不安を煽るだろう。
なにせ魔獣が魔獣を統制することになるのだ。
見かけた冒険者は混乱して恐怖を感じるだろう。集団として確立される前に、始末するように動く冒険者もいるかもしれない。
結果手に、冒険者集団と魔獣の集団の戦いになって、さらなる混乱を呼びかねない。
同様に配下の魔獣を使った冒険者の避難誘導も不可能だ。
こちらは単純に、誘導しようとした時点で敵対行動と見なされて戦闘になる。誘導どころか、足止めになってしまう。
結局のところ、今の時点で妖精王の配下は役立たずでしかなかった。
だからこそ、冒険者の誘導に、望郷のメンバーたちとルーが動くしかなかった。
どこから見ても冒険者の望郷であれば、他の冒険者も話を聞くだろう。ルーは素早く動くための移動手段と、徘徊している魔獣の対処、そして、冒険者への威嚇も兼ねている。
ルーの姿を見て、露骨に望郷のメンバーたちに対して敵対行動を取れる冒険者はいない。
今の大人姿のルーは、巨大な魔狼。どんなに高ランクの冒険者であっても、一目見て敵うはずがないと思うだろう。
そんな巨大な魔狼を従えている望郷の言うことなら、素直に聞いて避難してくれるはずだ。
ルーはダンジョンの中を高速で駆け続ける。
時々、身体に纏っている氷の帯から魔法が飛ぶ。敵対しそうな魔獣の気配を感じた時点で、ルーが攻撃を仕掛けていた。
望郷のメンバーたちの視界に入るのは、魔法で凍らされた魔獣たちの姿だけだった。襲われるどころか、動いている魔獣すらいない。
今のルーは遠距離攻撃も自由自在だ。
徘徊しているような魔獣では、一撃で倒してしまう。
「すごいな……」
ルーの活躍に頬を緩めつつ、興奮を隠しきれないディートリヒは、自分も戦いたいという衝動から無意識に腰の武器に手を当てた。
そして、今までと違う手触りに顔が引き締まる。
「……」
無言で自分の腰に視線を落とす。
そこにあるのは、一振りの剣。
今まで使っていた剣とは違う、新しい剣。
ディートリヒは、ロアと別れる直前にその剣を渡されていた。
「ダンジョンの中で打ちました。ディートリヒのための剣です」
そう言って、ロアは手渡してきた。
照れたような笑いを浮かべていたが、どうしてもディートリヒに渡しておきたいという強い意志が感じられたので受け取った。
その時に鞘から抜いてみたが、不思議な剣だった。
細身の片刃剣。
長さはディートリヒが使っている長剣とほぼ同じ。湾曲片刃剣や刺突剣のようだが、両手で扱うように出来ていた。
薄く、細い。
突き刺すための剣かと思ったが、緩やかに反りがあるのでどちらかと言えば、切り裂くための剣なのだろう。刃先は極限まで研がれていて、剃刀のように薄く鋭い。薄っすらと、波打つような刃紋が浮いている。
すぐに折れてしまいそうなだと思ったが、剣の背に細く魔法銀の線が入っていたことで察した。
これは、魔法を使うための剣だ。
ディートリヒは、今まで二本の剣を腰に下げていた。
一本はミスリルの剣。大嫌いな女王から下賜された剣だが、剣に罪はないので愛用していた。
もう一本は、ミスリルの線が入った鋼の剣だ。
暴力鍛冶屋のブルーノが作った剣で、魔法を纏わせて使うための剣だったが、ディートリヒはほとんど使用していない。
使う機会が無かったと言えば嘘になる。剣自体も、悪くはない。流石は名工の作った剣だと思わせる出来栄えだった。
なのにあまり使わなかったのは、ただ単に、自分がこの剣を使っている印象が上手く当てはまらず、なんとなく使わなかっただけだ。
ロアはその事に気付いていたのだろうか?
だから、ブルーノの剣の代わりに、この剣を打ってくれた?
ディートリヒの頭の中は疑問で満ちた。
たとえ気付いていたとしても、妖精王に記憶を奪われてディートリヒのことは忘れていたはずだ。
ロアが記憶を取り戻してから、まだ数時間と経っていない。
性悪グリフォンがロアが記憶を取り戻したことに気付いたのは望郷のメンバーと妖精王の配下が円形闘技場で戦う寸前だった。剣を打つほどの時間があったはずがない。
ならば、ロアはディートリヒのことを忘れたままで、ディートリヒのための剣を打ったことになる。ありえない。
だが、剣の柄を握っただけで、その剣が自分のために作られた物だと感じられた。
これほどまでに合わせて作れるのかと驚くほどに、太さも形も自分の手に合っていた。
鞘から抜いた時も、今腰に下げていても、重さに違和感が全くない。全体の型も、まったく動きの邪魔にならない。身に着けているだけで、自分のために作られた物だと実感できる。
ロアは鍛冶は出来ないと言っていた。
クリストフの報告によると実際は鍛冶屋を十分に名乗れるほどの腕前を持っているらしいが、暴力鍛冶屋がうるさいのでできないと言い張っているらしい。
だが、この剣を渡された今なら、その理由が何となく理解できる。
ロアは、誰が使っても使いやすい剣を作ることが出来ないのではないか?
ロアができるのは、特定の誰かのために極限まで調整された剣を打つことではないのか?
それも、自分のごく身近な、体格や身体の動かし方や、戦い方の癖などを全て知っている人間の為だけに。
それならば、商売として鍛冶をするのは不可能だ。
出来ないと言い張る理由も頷ける。
それはディートリヒの予測に過ぎない。
だがそう思わせるほどに、ディートリヒのために作られた剣は完璧だった。
唯一の難点は、見たことのない形だけだが、自分のために計算された形だと思おうと愛おしさすら感じた。
「……重いな」
込められた思いが重すぎる。
だが、その思いに答えないわけにはいかない。
それに、この剣ならあれが出来るかもしれない。遠いと思っていた目標に、手が届くかもしれない。
「ヨシッ!頑張るぞ!」
気合を入れて、ディートリヒは叫ぶ。
「「「応っ!!」」」
それに答えて、仲間たちの心地好い声が返ってきた。
<あたりまえ!!>
同時に可愛らしいルーの声も聞こえて、ディートリヒは久々に晴れやかに声を上げて笑ったのだった。
先行する二匹よりも遅れているが、決して遅いわけではない。
もし見ている者がいたら目で追いきれず、ダンジョンの中を疾風が吹き抜けたように感じるだろう。
それは、魔狼。
赤く、巨大な熱風。
双子の魔狼の片割れ、ルーだ。
「ルー、重くないか?」
その背には、四つの人間の影があった。
望郷のメンバーたちだ。
<ぜんぜん、だいじょうぶ!>
ディートリヒがかけた声に、楽し気に赤い魔狼が答える。
今のルーは、大人の姿だ。人間が四人、背中に乗っていてもびくともしない。ダンジョンの中を走り抜ける速さから見ても、それは明白だ。
楽しげなのは、ロアの決めた計画通りに行動しているから。正しくはロアだけが決めた計画ではないが、意思決定にロアが入っていることが大事だった。
ロアの役に立っている。ロアの望んだ通りに動いている。
その実感が持てる今の状況は、ルーにとって至福の時間だった。
今ここに青い魔狼はいない。別の役目があるからだ。
双子はとても仲が良いし、存在を同一視できるほどに互いを分かり合っている。
それでも、自分一匹だけに重要な役割を与えられるのは嬉しい。
双子の魔狼という群れではなく、個の目標を与えられ達成に挑める今が楽しい。
<はやく冒険者の人たちを追いだしちゃわないとね!ロアがうごけない!>
「おいおい、追い出すんじゃなくて、避難誘導だぞ」
ルーの言葉に、思わず苦笑を浮かべてクリストフが指摘した。
ルーと望郷のメンバーたちの役目は、ダンジョン内に残っている冒険者たちを迅速に外に誘導することだ。
ダンジョンは今も揺れ続けている。
暴走したロアの偽者が迷宮核に影響を与えて発生している揺れだが、そのことを知っている冒険者はいない。
知っているのは、ロアと従魔と、望郷だけだ。
揺れはそれほど酷くなく、無理をすればこうやって自由に走り回れるくらいでしかない。
ダンジョン全体が崩壊しそうな激しい揺れならば、冒険者たちも我先に逃げ出そうとしただろう。だが、耐えられる揺れだからこそ、しばらく様子見に徹する可能性は高い。
なにせ、ダンジョンの中には魔獣が徘徊しているのだ。
熟練の冒険者ほど焦って行動する危うさは知っている。安全地帯などの安全な場所に、避難して収まるのを待つだろう。
そういった冒険者を誘導し、ダンジョンの外に出してしまうのがルーと望郷の役割だった。
<ルーもフィーもがんばってるのに、ようせいおうの下僕は無能だよね!たくさんいるのに、なんの役にも立たない!>
非難するような言葉を漏らしたが、ルーは嬉しそうだ。
妖精王の配下たちに対しての不満に聞こえるが、その実は自分たちが役に立っているという主張に過ぎない。
ロア相手だったら素直に褒めて欲しい態度を見せられるのだが、望郷相手では遠回しな表現になってしまう。心の距離の差だろう。
「そうだよな、ルーは凄いよな!」
<うん!>
ディートリヒが乗っている背中を撫でながら褒めてやると、ルーは嬉しそうに頷いた。
ディートリヒとしても双子が嬉しそうにしているだけで嬉しいので、同じく満面の笑みを浮かべた。
現在、妖精王カラくんの配下は、最下層で準備が整うのを待っている。
ダンジョン内を徘徊しているのは、意思疎通のできない、いわゆる家畜的な立場の魔獣たちだけだが、そちらは仕方が無しに放置されていた。
意思疎通ができないと言っても、妖精王の配下たちが力で従えさせれば徘徊を止めて冒険者に攻撃させないように抑えるくらいできるだろうが、今それをすると逆に冒険者の不安を煽るだろう。
なにせ魔獣が魔獣を統制することになるのだ。
見かけた冒険者は混乱して恐怖を感じるだろう。集団として確立される前に、始末するように動く冒険者もいるかもしれない。
結果手に、冒険者集団と魔獣の集団の戦いになって、さらなる混乱を呼びかねない。
同様に配下の魔獣を使った冒険者の避難誘導も不可能だ。
こちらは単純に、誘導しようとした時点で敵対行動と見なされて戦闘になる。誘導どころか、足止めになってしまう。
結局のところ、今の時点で妖精王の配下は役立たずでしかなかった。
だからこそ、冒険者の誘導に、望郷のメンバーたちとルーが動くしかなかった。
どこから見ても冒険者の望郷であれば、他の冒険者も話を聞くだろう。ルーは素早く動くための移動手段と、徘徊している魔獣の対処、そして、冒険者への威嚇も兼ねている。
ルーの姿を見て、露骨に望郷のメンバーたちに対して敵対行動を取れる冒険者はいない。
今の大人姿のルーは、巨大な魔狼。どんなに高ランクの冒険者であっても、一目見て敵うはずがないと思うだろう。
そんな巨大な魔狼を従えている望郷の言うことなら、素直に聞いて避難してくれるはずだ。
ルーはダンジョンの中を高速で駆け続ける。
時々、身体に纏っている氷の帯から魔法が飛ぶ。敵対しそうな魔獣の気配を感じた時点で、ルーが攻撃を仕掛けていた。
望郷のメンバーたちの視界に入るのは、魔法で凍らされた魔獣たちの姿だけだった。襲われるどころか、動いている魔獣すらいない。
今のルーは遠距離攻撃も自由自在だ。
徘徊しているような魔獣では、一撃で倒してしまう。
「すごいな……」
ルーの活躍に頬を緩めつつ、興奮を隠しきれないディートリヒは、自分も戦いたいという衝動から無意識に腰の武器に手を当てた。
そして、今までと違う手触りに顔が引き締まる。
「……」
無言で自分の腰に視線を落とす。
そこにあるのは、一振りの剣。
今まで使っていた剣とは違う、新しい剣。
ディートリヒは、ロアと別れる直前にその剣を渡されていた。
「ダンジョンの中で打ちました。ディートリヒのための剣です」
そう言って、ロアは手渡してきた。
照れたような笑いを浮かべていたが、どうしてもディートリヒに渡しておきたいという強い意志が感じられたので受け取った。
その時に鞘から抜いてみたが、不思議な剣だった。
細身の片刃剣。
長さはディートリヒが使っている長剣とほぼ同じ。湾曲片刃剣や刺突剣のようだが、両手で扱うように出来ていた。
薄く、細い。
突き刺すための剣かと思ったが、緩やかに反りがあるのでどちらかと言えば、切り裂くための剣なのだろう。刃先は極限まで研がれていて、剃刀のように薄く鋭い。薄っすらと、波打つような刃紋が浮いている。
すぐに折れてしまいそうなだと思ったが、剣の背に細く魔法銀の線が入っていたことで察した。
これは、魔法を使うための剣だ。
ディートリヒは、今まで二本の剣を腰に下げていた。
一本はミスリルの剣。大嫌いな女王から下賜された剣だが、剣に罪はないので愛用していた。
もう一本は、ミスリルの線が入った鋼の剣だ。
暴力鍛冶屋のブルーノが作った剣で、魔法を纏わせて使うための剣だったが、ディートリヒはほとんど使用していない。
使う機会が無かったと言えば嘘になる。剣自体も、悪くはない。流石は名工の作った剣だと思わせる出来栄えだった。
なのにあまり使わなかったのは、ただ単に、自分がこの剣を使っている印象が上手く当てはまらず、なんとなく使わなかっただけだ。
ロアはその事に気付いていたのだろうか?
だから、ブルーノの剣の代わりに、この剣を打ってくれた?
ディートリヒの頭の中は疑問で満ちた。
たとえ気付いていたとしても、妖精王に記憶を奪われてディートリヒのことは忘れていたはずだ。
ロアが記憶を取り戻してから、まだ数時間と経っていない。
性悪グリフォンがロアが記憶を取り戻したことに気付いたのは望郷のメンバーと妖精王の配下が円形闘技場で戦う寸前だった。剣を打つほどの時間があったはずがない。
ならば、ロアはディートリヒのことを忘れたままで、ディートリヒのための剣を打ったことになる。ありえない。
だが、剣の柄を握っただけで、その剣が自分のために作られた物だと感じられた。
これほどまでに合わせて作れるのかと驚くほどに、太さも形も自分の手に合っていた。
鞘から抜いた時も、今腰に下げていても、重さに違和感が全くない。全体の型も、まったく動きの邪魔にならない。身に着けているだけで、自分のために作られた物だと実感できる。
ロアは鍛冶は出来ないと言っていた。
クリストフの報告によると実際は鍛冶屋を十分に名乗れるほどの腕前を持っているらしいが、暴力鍛冶屋がうるさいのでできないと言い張っているらしい。
だが、この剣を渡された今なら、その理由が何となく理解できる。
ロアは、誰が使っても使いやすい剣を作ることが出来ないのではないか?
ロアができるのは、特定の誰かのために極限まで調整された剣を打つことではないのか?
それも、自分のごく身近な、体格や身体の動かし方や、戦い方の癖などを全て知っている人間の為だけに。
それならば、商売として鍛冶をするのは不可能だ。
出来ないと言い張る理由も頷ける。
それはディートリヒの予測に過ぎない。
だがそう思わせるほどに、ディートリヒのために作られた剣は完璧だった。
唯一の難点は、見たことのない形だけだが、自分のために計算された形だと思おうと愛おしさすら感じた。
「……重いな」
込められた思いが重すぎる。
だが、その思いに答えないわけにはいかない。
それに、この剣ならあれが出来るかもしれない。遠いと思っていた目標に、手が届くかもしれない。
「ヨシッ!頑張るぞ!」
気合を入れて、ディートリヒは叫ぶ。
「「「応っ!!」」」
それに答えて、仲間たちの心地好い声が返ってきた。
<あたりまえ!!>
同時に可愛らしいルーの声も聞こえて、ディートリヒは久々に晴れやかに声を上げて笑ったのだった。
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