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四章 新しい仲間たちの始まり
破滅への、兆し
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巨大魔道銅像。
身の丈五メートルを超える巨大な鎧を着た戦士の銅像としか見えないそれは、古代の錬金術師が生み出した半魔道具の魔獣だ。
半魔道具の魔獣は、主の命令には絶対服従という特徴がある。
それに魔力の供給のみで活動できる性質から眠りも休息も必要としない。さらには、壊れても修復すれば復活するという特殊性があった。
そのため古代の権力者たちには重宝されたらしく、生み出すには多くの特殊な素材と労力が必要ながらも、多くの砦などの重要拠点で運用されていた。
同じく半魔道具の魔道石像が内部に侵入した敵の排除と味方の補助をも茎に作られたのに対して、このタロスは侵入前の敵を屋外で撃破することを主目的として作られていた。
攻撃方法は、岩魔法による投石と、火魔法による火炎攻撃。
実に屋外向けという過激な物ばかりだ。
戦士の見た目に相応しく、当然ながら剣を振るって攻撃することも可能だ。
また、タロスの全身を作っている魔法銅は、鉄よりは遥かに硬いながらも魔法銀などよりも手に入りやすい鉱石だった。
量産するのには適していたことだろう。
すでに作成のための技術も知識を失われているため、目の前にいるタロスも太古に作られた一体に違いない。
「我が知ってるのは、この程度だ。他にも知らぬ能力があるかもしれぬ」
「……厄介そうね……」
ディートリヒの身体のグリおじさんから目の前の魔獣についての説明を聞き、コルネリアはため息混じりに呟いた。
タロスに動きはない。
本来もっと下層にいるはずのタロスを五十層のボス部屋に配置した妖精王も、それ以上の掟破りをする気はなかったのだろう。他のボス部屋にいる魔獣と同じく、近付かない限りは攻撃してくる様子はない。撤退の猶予を与えてくれている。
呑気に説明できていたのも、そのおかげだ。
「という訳でだ、寝坊助の身体の我だけで倒せる敵ではない。そこで、ルーとフィーよ!我の手伝いを……」
<やだ!>
<オジちゃんの遊びのしりぬぐいしないよ?>
「……せめて最後まで言わせてくれぬか?」
「手伝いをしてくれるか?」と言いかけたグリーダーを、双子の魔狼はバッサリと斬り捨てて拒否した。
双子は丸まってボス部屋の壁際で丸まって眠ったままだ。耳が動いているので一応は話を聞いているらしいが、身体を動かす素振りすら無い。
言葉の通り、戦いに参加する気はないのだろう。
つれない態度に、グリーダーは眉尻を下げて若干涙目になった。
「はあぁ……。仕方があるまい。ルーとフィーに比べればいくらか格が下がるが、貴様らで我慢してやるか」
そう言ってグリーダーが声を掛けたのは、ディートリヒ以外の望郷のメンバーたちだった。
「え?」
と、戸惑いの表情を浮かべたのはコルネリアだけだ。
クリストフは声を掛けられると同時に目を輝かせて喜びに腕を振り上げ、ベルンハルトは無言で頷いた。
「マジックバッグをよこせ」
「はいっ!」
グリーダーの一言にクリストフは元気よく返事を返して、ベルンハルトから自分たちの魔法の鞄を奪い取って手渡した。
その姿は召使いか下僕にしか見えない。しかも、命令されたクリストフは実に良い笑顔を浮かべてる。
手渡されたグリーダーはそんなクリストフを一瞥することなく受け取ると、魔法の鞄の中を探り始めた。
「…………ふむ、過剰なくらい小僧が作った物が揃っておるな。これを使えば貴様ら程度と組んでも何とかあの人形を倒すことが出来よう!ルーとフィーが手つ……」
<手伝わないよー>
<めんどう!>
「…………」
またもや、「手伝ってくれればもっと早く済むのだが」と言いかけたところを双子にバッサリ斬られ、グリーダーは肩を落とした。
「と、ともかくだ!我が前衛で戦いつつ敵を引き付けてやるから、貴様らで我を補助してみせよ!」
「ちょ!ちょっと、みせよ!って、無理!そんなの無理だから!!」
予想もしない無理難題に、コルネリアは思わず声を上げた。
それも当然だ。複数の人間が連携して戦うのは難しい。
せめて、ここに至るまでの道中で共闘し、連携の練習をしていれば可能だったかもしれないが、グリーダーが強すぎたせいでそんな機会も無かった。
どう見ても格上であり、パーティーとして一体となり全力を出さないといけないような魔獣が初戦となると、無理があり過ぎる。
「我は貴様らの訓練も戦いもずっと見て来たのだぞ?貴様らが足りぬ頭で考て仕掛ける攻撃など簡単に予想できるわ!貴様らが無理でも、我が貴様らに合わせてやる!!」
だが、コルネリアの拒否する言葉など聞く耳を持たず、グリーダーは豪語して見せたのだった。
「信頼関係も無いのに無理っ!」
「ほう、うるさい女、貴様は我を信頼していないというのか?」
叫ぶコルネリアに、地を這うような低い声でグリーダーは答えるた。ニヤリと笑う口元が、不穏な雰囲気を醸し出していた。
「信頼してないのは、貴方でしょう!?」
「我は貴様らが、ほどほどには役に立つことを信じておるぞ?」
「ほどほどって、なによ!!?」
「信じてもらえてる……」
「その信頼に応えようと思います!」
なおも叫ぶコルネリアに反して喜びの声を上げたのは、クリストフとベルンハルトだ。
クリストフは胸に拳を押し付けて言葉を噛み締めており、ベルンハルトはグリーダーの前に片膝を突いて臣下の礼を返す。
「ほどほど」と言った部分は耳に入っていなかったらしい。二人は涙せんばかりに感激していた。
「もう、クリストフは変なまま元に戻ってくれないし……。グリーダーもなんで、ルーとフィーが断ったらアッサリ引き下がったのに、私たちの場合はごり押しなのよ……」
「ルーとフィーと貴様らは立場も格も違うであろう?」
「はいはい。私たちは二人の下僕のパーティーメンバーですよ……」
コルネリアは不貞腐れて呟く。
二人というのは双子の事である。ロアがいつも双子を二匹ではなく二人と言うため、コルネリアにもいつの間にかそう言うのが普通になっていた。
それに、加えてコルネリアが言う下僕は、ディートリヒの事だ。
ディートリヒは『下僕紋』によって双子の下僕ということになっている。つまるところ、リーダーが下僕なのだから、望郷のメンバーたちは双子の魔狼の格下の格下ということである。
望郷の仲間であり弟分と言うべきロアがいれば、色々と平均化されてパーティーも従魔も関係なく全員が対等の関係になるのだが、現状は妙な格付けが成立してしまっている。
従うしかないかと、コルネリアは大きくため息をついた。
そもそも、ロアを助けに行くという目的があるため、引くに引けない。
そして、ディートリヒとグリおじさんの精神の入れ替わりの解除もできそうにない。
それならば、無理に共闘してでも前に進むしかない。そう、コルネリアは結論を出し顔を上げる。
「……仕方ないわね……」
「あのー。ディー様」
コルネリアが共闘することを認める言葉を言おうとした時。
横から声が掛かった。
グリーダーの事をディー様と呼んだその声の主は、ハーレムパーティーことアダドの勇者パーティー降りしきる花の女神官だった。
「その女が嫌がっているのでしたら、わたくしたちがお力になりますわ!」
甘い声で話しかける。
それと同時に、彼女は敵対心たっぷりの視線をコルネリアに向けた。
彼女だけではない。先ほどからグリーダーを独り占めして会話しているコルネリアに、ハーレムパーティーの女性たち全員が突き刺すような嫉妬の視線を向けていた。
さながら獲物を横取りされた野獣の群れの様だった。
「貴様らではダメだ」
グリーダーは、そんな彼女たちの提案を即座に退ける。
提案を考える素振りすらない。
「で、でも。わたくしたちは、アダドが誇る勇者パーティーです!お役に立って見せ……」
サマルはなおも食い下がろうとしたが、途中でその声は止まった。
グリーダーの瞳を見てしまったから。
彼が彼女たちを見る目は、まるで興味のない異物を見る目だった。
彼にとって今の彼女たちは靴の中の小石だ。
邪魔だから目を向けたが、興味すら持っていない。
靴の中から出されれば、存在すら忘れ去られるのだろう。
「貴様らは壁際で事が終わるまで見ているがいい!身動きすら許さぬ!我の邪魔をするな!!」
そう告げた後、グリーダーは彼女たちに視線を向けることはなかった。
ハーレムパーティーの女性たちは、ただ立ち尽くすしかできなかった。
身の丈五メートルを超える巨大な鎧を着た戦士の銅像としか見えないそれは、古代の錬金術師が生み出した半魔道具の魔獣だ。
半魔道具の魔獣は、主の命令には絶対服従という特徴がある。
それに魔力の供給のみで活動できる性質から眠りも休息も必要としない。さらには、壊れても修復すれば復活するという特殊性があった。
そのため古代の権力者たちには重宝されたらしく、生み出すには多くの特殊な素材と労力が必要ながらも、多くの砦などの重要拠点で運用されていた。
同じく半魔道具の魔道石像が内部に侵入した敵の排除と味方の補助をも茎に作られたのに対して、このタロスは侵入前の敵を屋外で撃破することを主目的として作られていた。
攻撃方法は、岩魔法による投石と、火魔法による火炎攻撃。
実に屋外向けという過激な物ばかりだ。
戦士の見た目に相応しく、当然ながら剣を振るって攻撃することも可能だ。
また、タロスの全身を作っている魔法銅は、鉄よりは遥かに硬いながらも魔法銀などよりも手に入りやすい鉱石だった。
量産するのには適していたことだろう。
すでに作成のための技術も知識を失われているため、目の前にいるタロスも太古に作られた一体に違いない。
「我が知ってるのは、この程度だ。他にも知らぬ能力があるかもしれぬ」
「……厄介そうね……」
ディートリヒの身体のグリおじさんから目の前の魔獣についての説明を聞き、コルネリアはため息混じりに呟いた。
タロスに動きはない。
本来もっと下層にいるはずのタロスを五十層のボス部屋に配置した妖精王も、それ以上の掟破りをする気はなかったのだろう。他のボス部屋にいる魔獣と同じく、近付かない限りは攻撃してくる様子はない。撤退の猶予を与えてくれている。
呑気に説明できていたのも、そのおかげだ。
「という訳でだ、寝坊助の身体の我だけで倒せる敵ではない。そこで、ルーとフィーよ!我の手伝いを……」
<やだ!>
<オジちゃんの遊びのしりぬぐいしないよ?>
「……せめて最後まで言わせてくれぬか?」
「手伝いをしてくれるか?」と言いかけたグリーダーを、双子の魔狼はバッサリと斬り捨てて拒否した。
双子は丸まってボス部屋の壁際で丸まって眠ったままだ。耳が動いているので一応は話を聞いているらしいが、身体を動かす素振りすら無い。
言葉の通り、戦いに参加する気はないのだろう。
つれない態度に、グリーダーは眉尻を下げて若干涙目になった。
「はあぁ……。仕方があるまい。ルーとフィーに比べればいくらか格が下がるが、貴様らで我慢してやるか」
そう言ってグリーダーが声を掛けたのは、ディートリヒ以外の望郷のメンバーたちだった。
「え?」
と、戸惑いの表情を浮かべたのはコルネリアだけだ。
クリストフは声を掛けられると同時に目を輝かせて喜びに腕を振り上げ、ベルンハルトは無言で頷いた。
「マジックバッグをよこせ」
「はいっ!」
グリーダーの一言にクリストフは元気よく返事を返して、ベルンハルトから自分たちの魔法の鞄を奪い取って手渡した。
その姿は召使いか下僕にしか見えない。しかも、命令されたクリストフは実に良い笑顔を浮かべてる。
手渡されたグリーダーはそんなクリストフを一瞥することなく受け取ると、魔法の鞄の中を探り始めた。
「…………ふむ、過剰なくらい小僧が作った物が揃っておるな。これを使えば貴様ら程度と組んでも何とかあの人形を倒すことが出来よう!ルーとフィーが手つ……」
<手伝わないよー>
<めんどう!>
「…………」
またもや、「手伝ってくれればもっと早く済むのだが」と言いかけたところを双子にバッサリ斬られ、グリーダーは肩を落とした。
「と、ともかくだ!我が前衛で戦いつつ敵を引き付けてやるから、貴様らで我を補助してみせよ!」
「ちょ!ちょっと、みせよ!って、無理!そんなの無理だから!!」
予想もしない無理難題に、コルネリアは思わず声を上げた。
それも当然だ。複数の人間が連携して戦うのは難しい。
せめて、ここに至るまでの道中で共闘し、連携の練習をしていれば可能だったかもしれないが、グリーダーが強すぎたせいでそんな機会も無かった。
どう見ても格上であり、パーティーとして一体となり全力を出さないといけないような魔獣が初戦となると、無理があり過ぎる。
「我は貴様らの訓練も戦いもずっと見て来たのだぞ?貴様らが足りぬ頭で考て仕掛ける攻撃など簡単に予想できるわ!貴様らが無理でも、我が貴様らに合わせてやる!!」
だが、コルネリアの拒否する言葉など聞く耳を持たず、グリーダーは豪語して見せたのだった。
「信頼関係も無いのに無理っ!」
「ほう、うるさい女、貴様は我を信頼していないというのか?」
叫ぶコルネリアに、地を這うような低い声でグリーダーは答えるた。ニヤリと笑う口元が、不穏な雰囲気を醸し出していた。
「信頼してないのは、貴方でしょう!?」
「我は貴様らが、ほどほどには役に立つことを信じておるぞ?」
「ほどほどって、なによ!!?」
「信じてもらえてる……」
「その信頼に応えようと思います!」
なおも叫ぶコルネリアに反して喜びの声を上げたのは、クリストフとベルンハルトだ。
クリストフは胸に拳を押し付けて言葉を噛み締めており、ベルンハルトはグリーダーの前に片膝を突いて臣下の礼を返す。
「ほどほど」と言った部分は耳に入っていなかったらしい。二人は涙せんばかりに感激していた。
「もう、クリストフは変なまま元に戻ってくれないし……。グリーダーもなんで、ルーとフィーが断ったらアッサリ引き下がったのに、私たちの場合はごり押しなのよ……」
「ルーとフィーと貴様らは立場も格も違うであろう?」
「はいはい。私たちは二人の下僕のパーティーメンバーですよ……」
コルネリアは不貞腐れて呟く。
二人というのは双子の事である。ロアがいつも双子を二匹ではなく二人と言うため、コルネリアにもいつの間にかそう言うのが普通になっていた。
それに、加えてコルネリアが言う下僕は、ディートリヒの事だ。
ディートリヒは『下僕紋』によって双子の下僕ということになっている。つまるところ、リーダーが下僕なのだから、望郷のメンバーたちは双子の魔狼の格下の格下ということである。
望郷の仲間であり弟分と言うべきロアがいれば、色々と平均化されてパーティーも従魔も関係なく全員が対等の関係になるのだが、現状は妙な格付けが成立してしまっている。
従うしかないかと、コルネリアは大きくため息をついた。
そもそも、ロアを助けに行くという目的があるため、引くに引けない。
そして、ディートリヒとグリおじさんの精神の入れ替わりの解除もできそうにない。
それならば、無理に共闘してでも前に進むしかない。そう、コルネリアは結論を出し顔を上げる。
「……仕方ないわね……」
「あのー。ディー様」
コルネリアが共闘することを認める言葉を言おうとした時。
横から声が掛かった。
グリーダーの事をディー様と呼んだその声の主は、ハーレムパーティーことアダドの勇者パーティー降りしきる花の女神官だった。
「その女が嫌がっているのでしたら、わたくしたちがお力になりますわ!」
甘い声で話しかける。
それと同時に、彼女は敵対心たっぷりの視線をコルネリアに向けた。
彼女だけではない。先ほどからグリーダーを独り占めして会話しているコルネリアに、ハーレムパーティーの女性たち全員が突き刺すような嫉妬の視線を向けていた。
さながら獲物を横取りされた野獣の群れの様だった。
「貴様らではダメだ」
グリーダーは、そんな彼女たちの提案を即座に退ける。
提案を考える素振りすらない。
「で、でも。わたくしたちは、アダドが誇る勇者パーティーです!お役に立って見せ……」
サマルはなおも食い下がろうとしたが、途中でその声は止まった。
グリーダーの瞳を見てしまったから。
彼が彼女たちを見る目は、まるで興味のない異物を見る目だった。
彼にとって今の彼女たちは靴の中の小石だ。
邪魔だから目を向けたが、興味すら持っていない。
靴の中から出されれば、存在すら忘れ去られるのだろう。
「貴様らは壁際で事が終わるまで見ているがいい!身動きすら許さぬ!我の邪魔をするな!!」
そう告げた後、グリーダーは彼女たちに視線を向けることはなかった。
ハーレムパーティーの女性たちは、ただ立ち尽くすしかできなかった。
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