表紙へ
上 下
145 / 246
閑話

クリストフ・レポート 1(書籍一巻前半ダイジェスト)

しおりを挟む
 これはクリストフの回顧録である。

 ※これはクリストフから見た物語のダイジェストになります。クリストフ視点のため、メインストーリーでない部分が中心であったり、物語中に無いシーンが含まれていたりします。また、クリストフがその時点で知りえない情報は含まれていません。
 ※文中の『バカ』『バカリーダー』『リーダー』は全てディートリヒのことです。


●月●日

 アマダン伯領はお祭り騒ぎだ。
 昨日、この街に所属している冒険者パーティーが勇者パーティーに選ばれたらしい。
 勇者パーティーはこの国の冒険者ランキング最上位のパーティーが得る称号で、一年毎に選出されるそうだ。

 そんな浮かれた街の中を、オレは泣きそうになりながら肩を落として歩いて宿まで帰ってくる羽目になった。
 あのバカの所為だ。
 あのバカがやらかした事への賠償金を払ってきたからだ。

 あのバカが冒険者ギルドで酔って暴れた損害は、莫大だった。
 特別予算をなんとか捻出して持ってきた路銀がすっからかんになってしまった。
 冒険者ギルドがオレたちの財布の中身を知っていたんじゃないかと思えるほど、見事に金が無くなった。借金ができなかったのは不幸中の幸いだろう。
 
 宿へ帰りオレとバカが使っている部屋に入ると、バカリーダーがドアの前に土下座して待ち構えていた。
 オレは気付かなかったふりをして、部屋に入った勢いのまま力いっぱいバカを蹴飛ばした。
 そして説教を始める。

 ガキの頃の俺は不良少年のトップのバカリーダーの手下になっていた。
 そして今もオレの地位はバカリーダーより遥かに下だ。
 しかし、地位に関係なくバカは厳しく躾けないといけない。やるときは全力だ。

 バカリーダーも自分が悪いことは分かっているため、抵抗したりはしない。反省している態度を見せる。
 この男のこういう潔いところは嫌いじゃないが、反省するなら同じような問題を繰り返し起こさないようにして欲しい。

 オレが心行くまで説教をしていると、隣の部屋からオレと同じく鬱憤がたまっているコルネリアもやってきて二人がかりで説教をすることになった。


●月●日

 前日の説教地獄から解放され、リーダーは朝から機嫌がいい。とても反省している態度には見えない。
 この無駄に打たれ強いところと、切り替えの早さは何なのだろう?
 逆に頼もしいと思ってしまうオレは、かなりリーダーに毒されていると思う。

 オレたちは早朝から冒険者ギルドに行った。朝一番に張り出される依頼を見に行くためだ。
 財布が空の状態では生活はできない。だから少しでも条件が良い依頼をみつけるために、朝一番から動いたのだった。

 そして、一つの依頼を受けることにした。
 魔獣の森へ採取するために入る『万能職の少年』の護衛依頼だ。
 一人を護衛して魔獣の森に入るだけなのに、やたらと高額な報酬が約束されていた。

 これはこの国の気質によるものらしい。
 万能職は冒険者の最底辺の職業で、一人前と認められていない見習い職だ。
 全ての職業に成れる可能性があって色々な仕事の下働きをするため、万能職と呼ばれている。
 ただ、実情はパーティーに寄生する雑用係のような扱いで、かなり見下されていた。

 そんな見下す対象を雇い主として守りながら行動するなど、この国の冒険者にとっては恥でしかないらしい。
 だからこそ、高額な依頼料になっていた。

 ただ、他国から来て、考え方が違うオレたちにはそんなことは関係ない。
 それに、元々他国の人間という事であまり良い扱いはされていなかったし、さらにバカリーダーのおかげでこの街の冒険者と冒険者ギルドからも睨まれている。悲しい話だが、事実だ。
 恥になる様な依頼を受けても、今更状況は変わらない。

 依頼主が知り合いの信頼できる商人だったという事もあり、オレたちは全員一致で、この依頼を受けることに決めた。金が無いオレたちにとっては、渡りに船の依頼だった。

 そして、依頼主と顔を合わせる。
 依頼主のコラルドさんは相変わらずこの国の商人らしからぬ雰囲気の人だった。
 この国の人間は商人であっても他国の人間を見下す傾向があるが、そういった感じが無い人だ。

 同行していた護衛対象になる万能職の少年も、純真な感じの少年だった。オレたちを見て最初は萎縮していた。
 実はオレたちはこの少年の事を知っていた。
 それはこの依頼を受けた理由の一つでもあった。

 オレたちはこの少年に少し前に起こった、地下迷宮ダンジョンから魔獣があふれた事件の時に会っていた。
 その事件でリーダーは、オレたちを守るために無理に無理を重ねて重傷を負ったのだ。本当にこの時は冷や汗が止まらなかった。リーダーが死ぬと思ってオレとコルネリアどころか、普段表情すら変えないベルンハルトまで真っ青になっていた。
 その時に治癒魔法薬を使って治療してくれたのが、この万能職の少年だった。要するに、リーダーの命の恩人だ。

 名前をロアと言い、助けられた時は従魔を連れていたこともあって従魔師テイマーだと思っていた。
 後で『暁の光』という冒険者パーティーの万能職だと知って驚いた。

 朝に依頼を探しに行ったときに、冒険者ギルドは彼の話題でいっぱいになっていた。
 暁の光を追い出され、その日の内にコラルドさんに雇われたという話だから、話題にならない方がおかしいだろう。どういう経緯があれば万能職が一流の商人に雇われるのか想像もつかない。
 元々気になっていた者が、さらに興味深い立場になっていたのだから、興味を持って依頼を受けるのも当然だろう。
 ただ、彼はオレたちの事をまったく覚えていないらしい。

 顔合わせの最中、バカリーダーが特技の常識ある大人の男のふりをして、ロアを泣かせてしまった。
 泣かせたと言っても、虐めたわけではない。
 パーティーを追い出されて自信を失って自虐的になっていたロアの心を解し、お互いに信用できるように自分たちの考え方を説明した所為だ。
 リーダーは頭の中がガキなのに、人を安心さえたり信用させたりすることは上手い。オレもバカリーダーなんて悪口を言うが、ガキの頃から今までしっかりと心を掴まれてるんだから間違いない。
 見事に涙と共にロアに心を開かせ、信用してもらう事に成功した。

 こんな風に人を信用させることができるのに、なぜ女性相手だとただの恋愛下手になるのか不思議過ぎる。
 女性の前だと余裕が無いのが行けないんだろうな。


●月●日

 オレたちはアルドンの森という魔獣の森に向けて出発した。
 依頼を受けた次の日に出発と言うと早急な感じがするが、冒険者の依頼などこんなもんだ。
 冒険者パーティー単独であれば、依頼を受けたその日に出発するのだから次の日なら余裕がある方だろう。

 出発前からバカリーダーがバカを晒したが、いつものことだから問題ない。
 コラルド商会の御者頭のチャックさんに叱られやがった。チャックさん、もっと叱ってやってください。
 チャックさんに叱られたことでバカが少し落ち込んでいたが、昼ごろにはいつも通りケロッと復活してやがた。
 もっと反省して、次に生かせよ。

 昼食は街道沿いの休憩所で食べた。
 その時にロアが染み付いた万能職の習性とやらで、昼食も食べずにどこかへ行こうとしたので慌てて羽交い絞めにして止めた。
 ロアの話を聞いた後に全員で飯を食い、ロアの希望した採取と、休憩中の御者の仕事も全員で分担してやることになった。
 リーダーがまたバカを晒したので、それを利用してやらかしたことで落ち込んだロアの気分を和らげる。
 たまにバカリーダーのバカが役に立つこともある。たまにしか無いのが辛い所だけど。

 ロアと採取したついでに、一緒に採取していたコルネリアとベルンハルトがロアの実力を確かめた。
 その結果、ロアは正しく教育されていなかっただけで、決して冒険者の才能が無い訳ではないという事が分かった。
 剣でも魔法でも一人前になれるだけの才能は有った。

 むしろ、通常の冒険者の才能も有り、錬金術師として活動でき、その他雑用も完璧にこなせる本当の意味の『万能』職と言って良い存在だった。

 結局のところ、ロアは暁の光のメンバーから搾取だけされ、まともに扱ってもらってなかったという事だ。
 都合のいい時は利用され、地位を得たらあっさりとパーティーから追い出された。

 そのことに気付いたリーダーは本気で怒っていた。
 他人のために素直に怒れるリーダーを、オレは尊敬する。
 





   ※   ※   ※   ※
ぼちぼちですが、書籍分のダイジェストを書き始めました。
と言っても、色々な人物(主にディートリヒ)に振り回され続けるクリストフの苦労話しかならなかった……。
ちゃんと内心で文句を言いまくりながらも、クリストフが今の状況が好きで楽しんでる内容になってればいいのですが、書いてて心配になってきた。

しおりを挟む
表紙へ
感想 1,412

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。