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二章 新しい生活の始まり
【書籍2巻発売記念SS】グリおじさんと双子の出会い ※書籍2巻 6月20日発売予定
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これは二年ほど前の話……。
まだグリおじさんと名付けられる前のグリフォンは、ある魔獣の森の中にいた。
森の中は夕闇に支配され、月明かりだけが木々の影を大地に落としている。
<我の勝ちだな>
グリフォンは、目の前の一匹の魔獣に問いかける。
その相手は白い巨大な魔狼。グリフォンと比べても一回り大きい。
フェンリルと呼ばれ、魔狼が最高位まで進化した姿だった。
純白のその毛皮は淡く柔らかな光を常に発し、まるで天空の月がそのまま地上に現れたかのようだった。
しかし、その身は鮮やかな血で汚れている。
フェンリルは大地に横たわり、荒い呼吸の音が森に響いている。
致命傷となった腹の傷からは血が流れ続け、純白の毛皮を赤く変えていく。
<……グリフォンごときに敗れるとは、私も落ちたものだな……>
フェンリルの言葉に、グリフォンは目を細めた。
不満げな表情でフェンリルを見下ろす。
<最初から我に殺されるつもりだったのであろう? 子との殺し合いを避けるために我を利用するとは、見下げ果てたやつだ>
<私の望みを知りながら戦ったくせに、その言い草はないだろう?>
フェンリルは弱々しく笑う。
彼女はこの森の主だった。森を支配している魔狼の群れの女王だった。
しかし、八百歳を超えて力が弱まってきたために、代替わりを余儀なくされていた。
いずれ野心を持った子供たちが彼女の命を狙うだろう。
齢を経て高い知能を持ち愛情の意味を知った彼女は、我が子に殺されることも、我が子を殺すことも望まなかった。
だが、力が全ての魔狼の群れに、平和的な引退は存在しない……。殺すか殺されるか。その結末しかない。
だからこそ彼女は、偶然この森にやってきたグリフォンに自ら殺さることを望んだ。
<愛情など、つまらぬな。 親子と言えど力で支配してこそ魔獣であろう>
<人間の臭いをプンプンさせているお主に言われとうないわ。 しかも頭から一番強く匂わせおって。 人間を愛おしんで擦り寄せているのだろう?>
くくく……と笑うフェンリルに、グリフォンはばつが悪そうに目を逸らした。
<そんな愛情深いお主に頼みがある。 愛する子たち、こちらにおいで……>
その声を合図に、近くの草むらがガサリと揺れた。キューキューと鳴き声を上げ、二匹の小さな影が飛び出してくる。
魔狼の子供だ。
まだ歩けるようになったばかりの様で、足取りはおぼつかない。乳離れすらしているかどうか怪しかった。
その二匹の魔狼の子供は普通の魔狼ともフェンリルとも違い、それぞれ毛色が赤と青に薄っすらと染まっていた。
<私が最後に産んだ子たちだ。 最後と思い力を注ぎ過ぎた故に、高位の魔狼として生まれてしまった。 その所為で他の子たちから命を狙われてしまってな>
いずれ脅威になるなら、子供の内に殺してしまえばいい。そんな卑怯な考えで命を狙われているのだろう。
グリフォンはそのことに思い至ると、不快に感じて羽毛をわずかに逆立てる。
<……まさか、我に保護しろと言うのではないだろうな? 知らぬぞ?>
この状況で、この場に子供を呼び寄せる理由など、他に思い当たらない。グリフォンは顔を背けたが、その目は母親に駆け寄る二匹の魔狼の子供を追っていた。
<自分で獲物を狩れるようになるまでで良い>
<……我と共にいると人間臭く育ってしまうぞ?>
<魔狼の群れで生き残れたとしても、いずれこの二匹で争うことになるだろう……。そんな……未来は……私は見たくない……。人と共に生き……愛を知って生きてくれるなら……>
フェンリルの声が弱っていく。
命が尽きようとしている。
だが、二匹の魔狼の子供はそのことを理解できておらず、フェンリルの毛皮にその身を埋めようと必死になっているだけだった。
<……頼んだぞ……優しすぎるグリフォン……>
その言葉を最後に、フェンリルは息絶えた。淡く光っていた毛皮は光を失い、ただの白い躯と化した。
グリフォンは、月を仰ぎ見る。
月はフェンリルの死など無かったかのように、変わりなく輝いていた。
<やっかいな事を……>
そう言いながらも、魔狼の子供を見つめるグリフォンの目は優しい。
<小僧に頭を下げねばならぬではないか……>
不満げなその呟きもまた、優しかった。
※ ※ ※ ※
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
明日より「追い出された万能職に新しい人生が始まりました2」が発売されます。イラストは1巻と同じらむ屋様です。今回も素敵なイラストを多数描いていただきました。地域によって店頭に並ぶのは若干のずれがあるようです。ご了承ください。
無事2巻を発売できたのも、すべていつも応援していただいている皆様のおかげです!
ありがとうございます!!
今回もとらのあな販売分の特典冊子と電子書籍の巻末にSSを書き下ろさせていただきました。
このSS「グリおじさんと双子の出会い」の直後の話で、双子の魔狼とロアの出会いになっております。
……と言っても、双子は物心つく前でキューキュー言ったり、ロアに抱きかかえられてるだけだのですが……。
本編と合わせて楽しんでいたけますと幸いです。
よろしくお願いします!
また、先月末より「追い出された万能職に新しい人生が始まりました」のコミカライズが始まっております。
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/852000274
今月の更新は27日の予定となっております。
今後とも、小説、漫画版合わせてよろしくお願いします。
まだグリおじさんと名付けられる前のグリフォンは、ある魔獣の森の中にいた。
森の中は夕闇に支配され、月明かりだけが木々の影を大地に落としている。
<我の勝ちだな>
グリフォンは、目の前の一匹の魔獣に問いかける。
その相手は白い巨大な魔狼。グリフォンと比べても一回り大きい。
フェンリルと呼ばれ、魔狼が最高位まで進化した姿だった。
純白のその毛皮は淡く柔らかな光を常に発し、まるで天空の月がそのまま地上に現れたかのようだった。
しかし、その身は鮮やかな血で汚れている。
フェンリルは大地に横たわり、荒い呼吸の音が森に響いている。
致命傷となった腹の傷からは血が流れ続け、純白の毛皮を赤く変えていく。
<……グリフォンごときに敗れるとは、私も落ちたものだな……>
フェンリルの言葉に、グリフォンは目を細めた。
不満げな表情でフェンリルを見下ろす。
<最初から我に殺されるつもりだったのであろう? 子との殺し合いを避けるために我を利用するとは、見下げ果てたやつだ>
<私の望みを知りながら戦ったくせに、その言い草はないだろう?>
フェンリルは弱々しく笑う。
彼女はこの森の主だった。森を支配している魔狼の群れの女王だった。
しかし、八百歳を超えて力が弱まってきたために、代替わりを余儀なくされていた。
いずれ野心を持った子供たちが彼女の命を狙うだろう。
齢を経て高い知能を持ち愛情の意味を知った彼女は、我が子に殺されることも、我が子を殺すことも望まなかった。
だが、力が全ての魔狼の群れに、平和的な引退は存在しない……。殺すか殺されるか。その結末しかない。
だからこそ彼女は、偶然この森にやってきたグリフォンに自ら殺さることを望んだ。
<愛情など、つまらぬな。 親子と言えど力で支配してこそ魔獣であろう>
<人間の臭いをプンプンさせているお主に言われとうないわ。 しかも頭から一番強く匂わせおって。 人間を愛おしんで擦り寄せているのだろう?>
くくく……と笑うフェンリルに、グリフォンはばつが悪そうに目を逸らした。
<そんな愛情深いお主に頼みがある。 愛する子たち、こちらにおいで……>
その声を合図に、近くの草むらがガサリと揺れた。キューキューと鳴き声を上げ、二匹の小さな影が飛び出してくる。
魔狼の子供だ。
まだ歩けるようになったばかりの様で、足取りはおぼつかない。乳離れすらしているかどうか怪しかった。
その二匹の魔狼の子供は普通の魔狼ともフェンリルとも違い、それぞれ毛色が赤と青に薄っすらと染まっていた。
<私が最後に産んだ子たちだ。 最後と思い力を注ぎ過ぎた故に、高位の魔狼として生まれてしまった。 その所為で他の子たちから命を狙われてしまってな>
いずれ脅威になるなら、子供の内に殺してしまえばいい。そんな卑怯な考えで命を狙われているのだろう。
グリフォンはそのことに思い至ると、不快に感じて羽毛をわずかに逆立てる。
<……まさか、我に保護しろと言うのではないだろうな? 知らぬぞ?>
この状況で、この場に子供を呼び寄せる理由など、他に思い当たらない。グリフォンは顔を背けたが、その目は母親に駆け寄る二匹の魔狼の子供を追っていた。
<自分で獲物を狩れるようになるまでで良い>
<……我と共にいると人間臭く育ってしまうぞ?>
<魔狼の群れで生き残れたとしても、いずれこの二匹で争うことになるだろう……。そんな……未来は……私は見たくない……。人と共に生き……愛を知って生きてくれるなら……>
フェンリルの声が弱っていく。
命が尽きようとしている。
だが、二匹の魔狼の子供はそのことを理解できておらず、フェンリルの毛皮にその身を埋めようと必死になっているだけだった。
<……頼んだぞ……優しすぎるグリフォン……>
その言葉を最後に、フェンリルは息絶えた。淡く光っていた毛皮は光を失い、ただの白い躯と化した。
グリフォンは、月を仰ぎ見る。
月はフェンリルの死など無かったかのように、変わりなく輝いていた。
<やっかいな事を……>
そう言いながらも、魔狼の子供を見つめるグリフォンの目は優しい。
<小僧に頭を下げねばならぬではないか……>
不満げなその呟きもまた、優しかった。
※ ※ ※ ※
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
明日より「追い出された万能職に新しい人生が始まりました2」が発売されます。イラストは1巻と同じらむ屋様です。今回も素敵なイラストを多数描いていただきました。地域によって店頭に並ぶのは若干のずれがあるようです。ご了承ください。
無事2巻を発売できたのも、すべていつも応援していただいている皆様のおかげです!
ありがとうございます!!
今回もとらのあな販売分の特典冊子と電子書籍の巻末にSSを書き下ろさせていただきました。
このSS「グリおじさんと双子の出会い」の直後の話で、双子の魔狼とロアの出会いになっております。
……と言っても、双子は物心つく前でキューキュー言ったり、ロアに抱きかかえられてるだけだのですが……。
本編と合わせて楽しんでいたけますと幸いです。
よろしくお願いします!
また、先月末より「追い出された万能職に新しい人生が始まりました」のコミカライズが始まっております。
https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/852000274
今月の更新は27日の予定となっております。
今後とも、小説、漫画版合わせてよろしくお願いします。
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