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第六話
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その男がシュゼット達を訪ねてきたのは、早朝の事だった。
「あ~、おはよう。すまない、こんな朝早くに。俺はジェルマン・ヴァロ。一応、ジャン達とパーティーを組んでる」
「え、あ、どうも……?」
「あらあらあら……」
その男――黒髪碧眼を持つ整った顔の男は、かつて勇者の伴侶となる姫君の護衛騎士を務め、勇者パーティーに加わり、魔王討伐の最中に命を落としたとされる騎士の生まれ変わりだった。
取り敢えずお互い朝食がまだだったので、一緒に食べる事にし、席に着いた。
宿の女将さんが大丈夫なのか、と目で尋ねてくるが、それには頷く事で大丈夫だと返した。
「それで、何の御用なのかしら?」
そう切り出したのは、アンヌだった。にこやかではあるが、笑ってない目で尋ねるその様は、顔が整っているだけに恐ろしい。
そんなアンヌに、ジェルマンは申し訳なさそうに苦笑して告げた。
「すまない、君たちへ取った態度で警戒されているのは当然だと思っているんだが……、いや、そうだな。まず、謝罪が先だよな」
そう言い、ジェルマンは居住まいを正し、深く頭を下げた。
「貴女達を過剰に警戒し、嫌な思いをさせてしまった。申し訳ありませんでした」
潔い謝罪に、シュゼット達は目を丸くし、顔を見合わせた。
ジェルマンは顔を上げ、更に告げる。
「それから、俺がここへ来た理由なんだが、実は君達が居た喫茶店に俺も偶然居て、その時の会話を聞いていたからなんだ」
盗み聞きなんて事をしてしまって、申し訳ない、とジェルマンは再び頭を下げ、シュゼット達は戸惑いながら頭を上げてくれ、と言った。
気まずい雰囲気の中、朝食が届けられ、三人は取り敢えずそれを食べてから、場所を移して話すことにした。
朝食を摂り終え、三人は冒険者組合の近くにある喫茶店へと向かい、改めて話し始めた。
「取り敢えず、貴方が私達に会いに来たのは、私達の会話を聞いて、何か聞きたい事があるからかしら?」
「ああ、その通りだ」
シュゼットの言葉に、ジェルマンが頷いた。
「今さらになるが、俺も貴女の様子が途中から変わったように思えたから、申し訳ないが少し観察させてもらっていたんだ」
「え、そうなの?」
目を瞬かせるシュゼットに、ジェルマンは再び頷き、続きを話し出した。
「一応、ジャン狙いの女達は嫌って程見てきたんだ。だから、諦めたり、熱が冷めたりした女達も見飽きるほど見てきた。貴女は、途中から明らかにジャンに対する好意は冷めたものになっていた」
おや、とシュゼットとアンヌは顔を見合わせ、少し居住まいを正した。話をする価値がありそうだ、と思ったのだ。
「だから、どうして熱が冷めている筈のシュゼットさんがジャンに近寄るのか気になったんだ。ただ、俺の勘違いだったり、厄介事だと困るから、観察させてもらっていた」
成る程、とシュゼットとアンヌは頷いた。
「じゃあ、昨日の私達の会話を聞いていて、接触してきたという事は、こちらの話を聞く気になった、という事で良いかしら?」
「ああ。少なくとも、俺は――」
そこまで言って、ジェルマンはハッとした様子で、窓の外の何かから身を隠すように、メニュー表を取って顔を隠した。
その様子にシュゼット達は驚き、窓の外をのぞいた。
すると、そこには向かいの店に入ろうとしているジャンとアイリスが居た。
パーティーメンバーである筈の二人から身を隠そうとしているジェルマンに、シュゼットとアンヌは顔を見合わせ、目を瞬かせた。
「えっと……、何してるの?」
「あー……、いや、うん……。あの二人はもう行ったか?」
「向かいの店に入っちゃったわぁ」
「そうか……」
ほっと、安堵の息を吐き、ジェルマンはメニュー表を定位置に片付けた。
不思議そうにジェルマンを見るシュゼット達に、ジェルマンは苦笑いしながら言った。
「実は、ちょっとジャン達と合わなくてな。多分、俺が二人に会っている所を見られたら、面倒な事になると思うんだ」
思わぬことを言われ、シュゼットとアンヌは目を見開いた。
「え、けど、勇者パーティーの一人の騎士様だったんでしょう?」
「しかも、神に誓う様な……」
勇者パーティーの騎士は勇者とは親友だった、という話すらあった。それが、合わないとはどういう事か。
二人の言葉に、ジェルマンは肩をすくめて言う。
「いや、俺は未練が強かった方の転生だよ。しかも、うっすら覚えているだけさ。性格もだいぶ違うと思うぜ。何せ、生まれは前世みたいな貴族様じゃなく、ただの小さな商家の五男坊だからな」
先ほどまであった固い雰囲気を放り投げ、素で話すようにそう言われ、その仕草や雰囲気から、確かに高貴な身分の者では無く、ただの庶民だと分かった。
「俺は魔王討伐のパーティーに入っていたが、途中で死んで脱落したのさ。それで、その時に未練を残した。その未練ってのが、片思いしていたお姫様に想いを告げたかった、って今となっては割とどうでも良い内容でさ。しかも、覚えてる事も少なすぎて、今世の俺は前世にあんまり影響されなかったんだよ。ただ、前世の仲間達と再会したのは面白くて、パーティーを組んだんだが、あくまで前世の俺扱いされてなぁ……」
ジェルマンは、あの転生勇者パーティーで、随分と窮屈な思いをしているらしい。
「まあ、俺の事はどうでも良いんだ。それで、二人が昨日話していた神の天罰の事や、シュゼットさんの前世の事を教えてほしいんだ」
あくまで真摯に頼むジェルマンに、シュゼットとアンヌは顔を見合わせ、頷き合った。
「私の事はシュゼットと呼び捨てで良いわよ。話せ、って言うなら、こちらも好都合だから話すわね。それで、ジャンに伝えてくれると助かるわ」
そう言って、シュゼットは前世の事を順番に話し始めた。
「あ~、おはよう。すまない、こんな朝早くに。俺はジェルマン・ヴァロ。一応、ジャン達とパーティーを組んでる」
「え、あ、どうも……?」
「あらあらあら……」
その男――黒髪碧眼を持つ整った顔の男は、かつて勇者の伴侶となる姫君の護衛騎士を務め、勇者パーティーに加わり、魔王討伐の最中に命を落としたとされる騎士の生まれ変わりだった。
取り敢えずお互い朝食がまだだったので、一緒に食べる事にし、席に着いた。
宿の女将さんが大丈夫なのか、と目で尋ねてくるが、それには頷く事で大丈夫だと返した。
「それで、何の御用なのかしら?」
そう切り出したのは、アンヌだった。にこやかではあるが、笑ってない目で尋ねるその様は、顔が整っているだけに恐ろしい。
そんなアンヌに、ジェルマンは申し訳なさそうに苦笑して告げた。
「すまない、君たちへ取った態度で警戒されているのは当然だと思っているんだが……、いや、そうだな。まず、謝罪が先だよな」
そう言い、ジェルマンは居住まいを正し、深く頭を下げた。
「貴女達を過剰に警戒し、嫌な思いをさせてしまった。申し訳ありませんでした」
潔い謝罪に、シュゼット達は目を丸くし、顔を見合わせた。
ジェルマンは顔を上げ、更に告げる。
「それから、俺がここへ来た理由なんだが、実は君達が居た喫茶店に俺も偶然居て、その時の会話を聞いていたからなんだ」
盗み聞きなんて事をしてしまって、申し訳ない、とジェルマンは再び頭を下げ、シュゼット達は戸惑いながら頭を上げてくれ、と言った。
気まずい雰囲気の中、朝食が届けられ、三人は取り敢えずそれを食べてから、場所を移して話すことにした。
朝食を摂り終え、三人は冒険者組合の近くにある喫茶店へと向かい、改めて話し始めた。
「取り敢えず、貴方が私達に会いに来たのは、私達の会話を聞いて、何か聞きたい事があるからかしら?」
「ああ、その通りだ」
シュゼットの言葉に、ジェルマンが頷いた。
「今さらになるが、俺も貴女の様子が途中から変わったように思えたから、申し訳ないが少し観察させてもらっていたんだ」
「え、そうなの?」
目を瞬かせるシュゼットに、ジェルマンは再び頷き、続きを話し出した。
「一応、ジャン狙いの女達は嫌って程見てきたんだ。だから、諦めたり、熱が冷めたりした女達も見飽きるほど見てきた。貴女は、途中から明らかにジャンに対する好意は冷めたものになっていた」
おや、とシュゼットとアンヌは顔を見合わせ、少し居住まいを正した。話をする価値がありそうだ、と思ったのだ。
「だから、どうして熱が冷めている筈のシュゼットさんがジャンに近寄るのか気になったんだ。ただ、俺の勘違いだったり、厄介事だと困るから、観察させてもらっていた」
成る程、とシュゼットとアンヌは頷いた。
「じゃあ、昨日の私達の会話を聞いていて、接触してきたという事は、こちらの話を聞く気になった、という事で良いかしら?」
「ああ。少なくとも、俺は――」
そこまで言って、ジェルマンはハッとした様子で、窓の外の何かから身を隠すように、メニュー表を取って顔を隠した。
その様子にシュゼット達は驚き、窓の外をのぞいた。
すると、そこには向かいの店に入ろうとしているジャンとアイリスが居た。
パーティーメンバーである筈の二人から身を隠そうとしているジェルマンに、シュゼットとアンヌは顔を見合わせ、目を瞬かせた。
「えっと……、何してるの?」
「あー……、いや、うん……。あの二人はもう行ったか?」
「向かいの店に入っちゃったわぁ」
「そうか……」
ほっと、安堵の息を吐き、ジェルマンはメニュー表を定位置に片付けた。
不思議そうにジェルマンを見るシュゼット達に、ジェルマンは苦笑いしながら言った。
「実は、ちょっとジャン達と合わなくてな。多分、俺が二人に会っている所を見られたら、面倒な事になると思うんだ」
思わぬことを言われ、シュゼットとアンヌは目を見開いた。
「え、けど、勇者パーティーの一人の騎士様だったんでしょう?」
「しかも、神に誓う様な……」
勇者パーティーの騎士は勇者とは親友だった、という話すらあった。それが、合わないとはどういう事か。
二人の言葉に、ジェルマンは肩をすくめて言う。
「いや、俺は未練が強かった方の転生だよ。しかも、うっすら覚えているだけさ。性格もだいぶ違うと思うぜ。何せ、生まれは前世みたいな貴族様じゃなく、ただの小さな商家の五男坊だからな」
先ほどまであった固い雰囲気を放り投げ、素で話すようにそう言われ、その仕草や雰囲気から、確かに高貴な身分の者では無く、ただの庶民だと分かった。
「俺は魔王討伐のパーティーに入っていたが、途中で死んで脱落したのさ。それで、その時に未練を残した。その未練ってのが、片思いしていたお姫様に想いを告げたかった、って今となっては割とどうでも良い内容でさ。しかも、覚えてる事も少なすぎて、今世の俺は前世にあんまり影響されなかったんだよ。ただ、前世の仲間達と再会したのは面白くて、パーティーを組んだんだが、あくまで前世の俺扱いされてなぁ……」
ジェルマンは、あの転生勇者パーティーで、随分と窮屈な思いをしているらしい。
「まあ、俺の事はどうでも良いんだ。それで、二人が昨日話していた神の天罰の事や、シュゼットさんの前世の事を教えてほしいんだ」
あくまで真摯に頼むジェルマンに、シュゼットとアンヌは顔を見合わせ、頷き合った。
「私の事はシュゼットと呼び捨てで良いわよ。話せ、って言うなら、こちらも好都合だから話すわね。それで、ジャンに伝えてくれると助かるわ」
そう言って、シュゼットは前世の事を順番に話し始めた。
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