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令嬢は踊る
第二十四話 前日
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「それで、なんだか着る物に悩んでいたみたいだけど、どうしたの? 気に入るものが無かったのかしら?」
新しく作っちゃう? とオーダーメイドを示唆され、レナは全力で首を横に振った。
「いえ! 十分です! ただ、今まで来ていた服じゃなくて、あっちの服を着ようか迷っていただけで!」
「あら、残念」
もっと色んなお洋服を着せてみたいのよね、と微笑む養母に戦慄する。
養子入りする際に支度金としてもらったお金でかなり買い込んだのに、それからもガンガン洋服やドレスを買ってもらっているのだ。これ以上買ってもらうのは恐れ多い。
そして、エセルがランランと鼻歌交じりにウォークインクローゼットへ入って行く。どうやら、こちらを着ろという事のようだ。
「そうねぇ、最近涼しくなってきたけど、昼間はちょっと汗ばむ時もあるから……」
ゴソゴソと服を探し、ふと手を止める。
「そういえば、一人でお買い物に行くの? それともお友達と?」
楽しそうな笑顔を浮かべる養母に、そちらの服を着ないとは言えそうにない。
まあ、可愛い服が着たかったし、と思いながら、そろそろと自身もウォークインクローゼットへ入る。
「えっと、イヴァン先輩と買い出――」
「まあ! デートね!」
途中で言葉を遮られたうえ、とんでもない事を叫ばれた。
「ええっ⁉ いや、あの、違――」
「大変! それじゃあ、可愛い恰好をして行かないと!」
エセルが鼻息荒く服を漁る。
「奥様、こちらのワンピースなどいかがでしょう?」
「あら、良いじゃない!」
「ぴえっ!? ど、どこから――」
エセルがクローゼット内を漁る向こうから、スッ、と音もなく黒髪の侍女が現れる。
「靴はこちらなど」
「まあ、素敵!」
「ひょわぁっ!?」
足元に膝をつき、気配無く現れた銀髪の侍女が、そっとパンプスを差し出す。
「次はバックよ!」
「「お任せください」」
「ひえぇぇ……」
エセルの号令の下、さっとメイドが姿を消す。
東国のニンジャと呼ばれる隠密の如き身のこなしに慄きながらも、レナは養母に言う。
「あの、お母様。あまり大げさな格好は困ります。デートじゃなくて、買い出しなんです」
「あら、そうなの?」
お洒落なカフェに行くのに似合いそうな可愛らしいワンピースを手に、エセルは首を傾げる。
「でも、相手はイヴァンなんでしょう?」
「え、あの、はい……。そうです……」
相手を改めて確認され、尻すぼみに肯定すれば、エセルはにっこりと輝くような笑みを浮かべる。
「それじゃあ、やっぱりオシャレしないと~」
歌でも歌いだすのではないかと言うくらいテンションを上げるエセルに、レナは何故⁉ と目を剥く。
「け、けど、行くのは職人街の素材屋なんです! そんな綺麗な格好で行ったら、悪目立ちしてしまいます!」
「あら、そうなの?」
それに、エセルが持つワンピースは、スカートの裾や袖口の繊細なレースが美しい品だ。雑多に物が置いてある職人街では、レースが引っ掛かって悲惨な事になりかねない。
「残念ねぇ……」
よく似合っているのに、とレナにワンピースを当てて残念そうに溜息をつくエセルに、そっと黒髪の侍女が葡萄の刺繍の入った生成り色の軽やかな印象のブラウスと、焦げ茶のワイドパンツをそっと差し出す。
「あら、これも良いわね」
「それと、そちらの服でしたら、ワイドパンツと同色のパンプスを」
「バックはマジックバック機能付きの物を」
黒髪の侍女が更にパンプスを差し出し、銀髪の侍女が赤味の強い茶色の皮のバックを差し出す。
しれっとマジックバックを出され、レナが目を剥く。このクローゼットにそんな物があるとは、知らなかったのだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って、待って下さい! そのマジックバック、何処から⁉」
「あら、言ってなかったかしら? 旦那様が買っていらしたのよ。娘に何か買うのが楽しい、って言っていらしたから、他にも色々あるんじゃないかしら?」
ねえ? と侍女の二人に言えば、色々ございます、と答えが返って来た。
「聞いてないです!」
「わざわざ言う程の物は買ってなかったからでしょうね。あ、でも、何が増えたか分からないと、身につけるチャンスがある時に身に付けられないわよね。やだわ、私ったら。その辺は侍女任せにしてあるから、つい、自分の感覚のままでクローゼットに入れておくよう指示しただけだったわ」
ごめんなさいね、と言われ、レナはブンブンと音がするのではないかというくらいに必死に首を横に振った。
「お寒い場合は、こちらのカーディガンを」
「マジックバックを持って行くなら、荷物にもならないわね」
灰茶色のカーディガンはかぎ針編みの見事なものだった。これも引っかけやすそうに見えるが、職人街に行く時間帯を考えれば、その場で着る事は無いだろう。
侍女はさっとカーディガンを畳み、マジックバックへ入れてしまう。
「職人街デートだなんて、錬金術師らしくて素敵ね~」
「お、おかあさまぁ~……」
浮かれる社交界の女傑相手では、淑女見習いの小娘ではあまりにも力不足だった。
新しく作っちゃう? とオーダーメイドを示唆され、レナは全力で首を横に振った。
「いえ! 十分です! ただ、今まで来ていた服じゃなくて、あっちの服を着ようか迷っていただけで!」
「あら、残念」
もっと色んなお洋服を着せてみたいのよね、と微笑む養母に戦慄する。
養子入りする際に支度金としてもらったお金でかなり買い込んだのに、それからもガンガン洋服やドレスを買ってもらっているのだ。これ以上買ってもらうのは恐れ多い。
そして、エセルがランランと鼻歌交じりにウォークインクローゼットへ入って行く。どうやら、こちらを着ろという事のようだ。
「そうねぇ、最近涼しくなってきたけど、昼間はちょっと汗ばむ時もあるから……」
ゴソゴソと服を探し、ふと手を止める。
「そういえば、一人でお買い物に行くの? それともお友達と?」
楽しそうな笑顔を浮かべる養母に、そちらの服を着ないとは言えそうにない。
まあ、可愛い服が着たかったし、と思いながら、そろそろと自身もウォークインクローゼットへ入る。
「えっと、イヴァン先輩と買い出――」
「まあ! デートね!」
途中で言葉を遮られたうえ、とんでもない事を叫ばれた。
「ええっ⁉ いや、あの、違――」
「大変! それじゃあ、可愛い恰好をして行かないと!」
エセルが鼻息荒く服を漁る。
「奥様、こちらのワンピースなどいかがでしょう?」
「あら、良いじゃない!」
「ぴえっ!? ど、どこから――」
エセルがクローゼット内を漁る向こうから、スッ、と音もなく黒髪の侍女が現れる。
「靴はこちらなど」
「まあ、素敵!」
「ひょわぁっ!?」
足元に膝をつき、気配無く現れた銀髪の侍女が、そっとパンプスを差し出す。
「次はバックよ!」
「「お任せください」」
「ひえぇぇ……」
エセルの号令の下、さっとメイドが姿を消す。
東国のニンジャと呼ばれる隠密の如き身のこなしに慄きながらも、レナは養母に言う。
「あの、お母様。あまり大げさな格好は困ります。デートじゃなくて、買い出しなんです」
「あら、そうなの?」
お洒落なカフェに行くのに似合いそうな可愛らしいワンピースを手に、エセルは首を傾げる。
「でも、相手はイヴァンなんでしょう?」
「え、あの、はい……。そうです……」
相手を改めて確認され、尻すぼみに肯定すれば、エセルはにっこりと輝くような笑みを浮かべる。
「それじゃあ、やっぱりオシャレしないと~」
歌でも歌いだすのではないかと言うくらいテンションを上げるエセルに、レナは何故⁉ と目を剥く。
「け、けど、行くのは職人街の素材屋なんです! そんな綺麗な格好で行ったら、悪目立ちしてしまいます!」
「あら、そうなの?」
それに、エセルが持つワンピースは、スカートの裾や袖口の繊細なレースが美しい品だ。雑多に物が置いてある職人街では、レースが引っ掛かって悲惨な事になりかねない。
「残念ねぇ……」
よく似合っているのに、とレナにワンピースを当てて残念そうに溜息をつくエセルに、そっと黒髪の侍女が葡萄の刺繍の入った生成り色の軽やかな印象のブラウスと、焦げ茶のワイドパンツをそっと差し出す。
「あら、これも良いわね」
「それと、そちらの服でしたら、ワイドパンツと同色のパンプスを」
「バックはマジックバック機能付きの物を」
黒髪の侍女が更にパンプスを差し出し、銀髪の侍女が赤味の強い茶色の皮のバックを差し出す。
しれっとマジックバックを出され、レナが目を剥く。このクローゼットにそんな物があるとは、知らなかったのだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って、待って下さい! そのマジックバック、何処から⁉」
「あら、言ってなかったかしら? 旦那様が買っていらしたのよ。娘に何か買うのが楽しい、って言っていらしたから、他にも色々あるんじゃないかしら?」
ねえ? と侍女の二人に言えば、色々ございます、と答えが返って来た。
「聞いてないです!」
「わざわざ言う程の物は買ってなかったからでしょうね。あ、でも、何が増えたか分からないと、身につけるチャンスがある時に身に付けられないわよね。やだわ、私ったら。その辺は侍女任せにしてあるから、つい、自分の感覚のままでクローゼットに入れておくよう指示しただけだったわ」
ごめんなさいね、と言われ、レナはブンブンと音がするのではないかというくらいに必死に首を横に振った。
「お寒い場合は、こちらのカーディガンを」
「マジックバックを持って行くなら、荷物にもならないわね」
灰茶色のカーディガンはかぎ針編みの見事なものだった。これも引っかけやすそうに見えるが、職人街に行く時間帯を考えれば、その場で着る事は無いだろう。
侍女はさっとカーディガンを畳み、マジックバックへ入れてしまう。
「職人街デートだなんて、錬金術師らしくて素敵ね~」
「お、おかあさまぁ~……」
浮かれる社交界の女傑相手では、淑女見習いの小娘ではあまりにも力不足だった。
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