妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第八話 関わり

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 オベロンはうっかり『名付け』てしまった幻獣の今後について、女神様と共に話し合う。

「オベロンは幻獣種の『神』になったけど、神の基礎となるものは持っていても、結局はこの地に住まう生物である事には変わりないの。純粋な神では無いから、幻獣種との関りで、積極的に手を出せる範囲は広いわ。そうね、『妖精王』が本業で、『幻獣種の神』が副業と言った所かしら?」

 小首を傾げる女神様に、そんな認識で良いのか、とオベロンは目を丸くする。

「貴方の立場だと、そう難しく考える必要は無いのよ。まあ、扱いはこの島に居る野生動物に対する対応と同じで十分だと思うわよ? 寄ってきたら可愛がってあげる、という程度であちらは満足するでしょうね」

 可笑し気に笑う女神様に、そんなのものなのか、と少し身構えていたオベロンは、少しばかり肩の荷が降りた様な気がして、ほっと安堵の息を吐いた。

「それから、幻獣なんだけど、調べてみたら他にもそれらしき種族が少しだけ居たのよ」
「え、そうなんですか?」
「そうなの。天狼以外にも、後三つ程固有種が居たわ」

 猫型と鳥型、そして鼠型の固有種が居るらしい。

「貴方が幻獣種の神になっているのだから、今度南大陸に行って会う様な事があったら、固有種名を付けてあげてね?」
「はい、分かりました」

 姿を見ていない状態で名前を付けるのも難しいので、他の幻獣の固有種名は実際に見てからという事になった。
 オベロンとしては、出来る限りその姿や性質に沿った名前を付けてやりたい所である。

「それから南大陸での魔物狩りなんだけど、中止してもらっても良いかしら?」
「え?」

 女神様の言葉に、オベロンは少し驚く。

「どうやら幻獣の食料が魔物の様なの。しばらく様子を見てみたいのよ」
「ああ、成る程……」

 大型の魔物は食いでがあるだろうが、数が多いとは言い切れない。幻獣という生き物が居るのなら、これ以上魔物を狩るのは良くないだろう。

「それと、南大陸の中心部の緑化と『生命の樹』の派遣をお願いできないかしら?」
「えっ?」

 思わぬお願いに、オベロンは目を瞬かせた。

「人族の次に栄えるかもしれない種族ですもの。大切にしたいのよ」

 くすり、と微笑む女神様のその瞳はあまりにも透明で、何処か恐ろしく感じた。



   ***



 翌日、オベロンは再び南大陸に来ていた。南大陸の中心部分を緑化する為である。

「真ん中だけで良いのかのう?」
「沿岸部だと人族に見つかるかもしれないから、って。中心部から徐々に緑化して、幻獣の数を増やしたいんだってさ」

 ノームの疑問に、オベロンがそう答えると、成る程、とノームは納得し、頷いた。

「女神様は人族より幻獣に期待してるみたいだね」
「人族には裏切られたからのう」

 女神様の人族への期待はマイナスである。

「人族が今度こそ自分達の立場を理解して、女神様からの信頼を回復出来れば良いなぁ」
「う~む。難しい問題じゃのう……」

 オベロンとノームは困った様に話し合いながら、南大陸の中心部へ向かう。
 そして、オベロンはいつかの様に『緑の王笏』を取り出し、緑の伊吹を目覚めさせるのだった。



   ***



 オベロンとノームが南大陸の緑化作業に勤しんでいる頃、ロムルド王国では、聖女ブームが巻き起こっていた。
 そもそも聖女と言う存在は女神教の中でも特別で、それが神秘的な美貌を持つ少女ともなれば更に注目は集まるというものである。
 今や、その人気は止まる所を知らなかった。

「やっぱり聖女様はお美しいな」
「お優しいし、そのお声を聴くと心が洗われる様だ」
「やっぱり女神様も、聖女様みたいな感じなのかしら」
「聖女様は女神様を体現していらっしゃるのかもしれない」

 聖女に対する評判は、概ね好意的で、憧れを含んだものだった。
 しかし、それはあくまで概ねであり、それとは反する想いを抱く物も居た。

「城内が浮足立っている様な気がするな」
「そうだな。これは、少し気を付けなければならないかもしれない」

 それは、城を、国を守る一部の騎士達であった。
 聖女を妄信し、国家機密がある場所、部外者の立ち入りを禁じている場所に聖女を入れやしないかと心配になる様な有様の者が出始めたのだ。

「豊作故に、気の緩みが出たか……」

 苦い顔をするのは、国王だ。
 聖女に対し好意的になるのは良い。しかし、女神教は未だに妖精が魔物では無いと認めてはいないのだ。
 国家的な機密が外に漏れるのも駄目だが、それ以上に妖精に害をなされるのが恐ろしかった。

「聖女様の意向が、妖精に対し悪いものでなければいいが……」

 聖女がロムルド王国へ来たのは、妖精がどの様な者か見る為だろう。しかし、その妖精を見てどのように感じたかは、その胸中を未だに知る者は居ないのだ。
 どうその胸中を探るかと上層部が頭を悩ませる中、そんな心配をよそに、真っ向からそれに切り込む存在が居た。

「ねー、せいじょさま。せいじょさまはようせいさんをどう思う?」

 それは、子供達である。
 無垢なる魂を持ち、世間の黒さも暗さも未だ知らぬ、真っ白な存在だ。
 故に、素直に疑問をぶつけたのである。
 最近では、ミサには聖女が参加するようになった為、町の人間達は、その姿をよく見かけるようになった。そんな多少見慣れた存在となった聖女に、序列など理解できない幼い子供達には、なんか偉いらしい綺麗なお姉さん、と言うだけの認識で、気軽に突撃してしまったのだ。
 親が慌てて駆け付け、頭を下げる中、聖女セリーナは鷹揚に気にしないで、と微笑む。

「そうねぇ。お人形さんみたいで、可愛らしいと思うわ」
「そうだよね! わたしも、かわいいとおもうの!」
「えー! おれはへんなやつだと思う!」
「俺、きっとあいつは大きくなって、ドカーンとかっこ良くなるんだと思う!」

 聖女の返答に、子供達がキャーキャーと騒ぎ出す。
 親たちがオロオロする中、聖女はくすくす笑いながら言う。

「皆、あの妖精が好きなのね」
「うん!」
「だって、かわいいもん!」
「おもしろい奴だもんな!」

 弾ける様な子供達の笑顔に、聖女は慈悲深い微笑みを浮かべたのだった。
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