上 下
7 / 33
ヒロインはざまぁされた

第六話 愛と情熱の大精霊

しおりを挟む
 精霊の格を測るのは、実はとても簡単だ。魔力量云々もあるのだが、それ以前に視覚でそれが判断できるからだ。
 
 精霊は、格が高ければ高いほど、美しくなる。

 精霊の外見は獣型だったり、虫型なんてものも居るが、最も多いのは人型である。
 人型が多いのは、人が思考能力に優れ、その行動が複雑であるがゆえに興味を惹かれるからだ。つまるところ、暇つぶしの観察対象として最適な生き物なのである。
 そういったことから、影響を受けて精霊は人型をとることが多い。
 ただの精霊でもその美しさは一見の価値があるのに、大精霊ともなれば目を見張るものとなる。
 さて、そんな分かりやすい精霊の格なのだが、目の前にいる御仁の格を見た目で測るのは、ちょっと難しいかもしれなかった。
(これは、意見が分かれるお方だわ……!)
 目の前の人間の大男サイズのゴリマッチョオネェ精霊は、単純な男女の美しさから外れた外見をしている。
 格好は女神の如き艶やかさなのに、その身は筋骨隆々の男性のものだ。だが、下品ではなく、美しくあろうとしている努力に付随した、堂々たる自信がこの精霊を一回り大きく見せている。
 追い詰められた某ギャンブラーのような顔をして戸惑うアリスに、精霊達は無理もないと視線を交わす。
 このゴリマッチョオネェ精霊は、精霊たちの間でもどう対応すべきか迷う御仁なのだ。
 精霊には基本的に性別は無いのだが、どちらかには寄る。その気になれば、ちゃんと性別を持ち、他種族との間に子供を持つことすらできる。
 そんな、どちらかに性別が寄る精霊だが、この御仁はどちらにも寄せているのだからどう接するのかが正解なのか分からない。
 アリスが「つよそう」と言った通り、この精霊は強い。このお方は、ここに居る精霊たちより格上の大精霊なのだ。精霊達はこのゴリマッチョオネェ精霊の機嫌を損ねる訳にはいかなかった。
 そんな緊迫した空気の中、アリスは気づく。
(このお方、髪がすっごく綺麗! つやっつやのキューティクル! よく見れば肌も誰よりも張りがあって綺麗だし、目だって白目部分が赤ちゃんみたいに澄んでる! 筋肉だって変なつき方なんてしてないし、むしろ綺麗なのでは? これは、まさに――)
「健康美の化身! なんて美しいの!」
 ピシャーン!
 精霊達は、アリスのバックに雷が落ちる幻を見た。
 そして、アリスの発言にゴリマッチョオネェ精霊は「アラァ!」と嬉しそうな声を上げた。
「アナタ、なかなか見る目があるじゃない!」
 実のところ、ゴリマッチョオネェ精霊は面と向かって褒められたことが殆どない。
 流行の最先端は常に孤独なモノ、とかなんとか言って全く気にせず、常にプラス思考で健康的な精神のままやってきた。己が美しいと思うものを体現し、肯定的な言葉がなくともその道を突き進んできたが、やはり誰かに褒められるというのは気分がいい。
「アタシの名は、ローズ。愛と情熱の大精霊よ」
 ふふん、と胸を張ってそう言うゴリマッチョオネェ精霊に隠れ、小さな子供の姿をした手の平大の精霊が、「あの方の本当の名前は、ゴルバトス様だよ。炎の大精霊なんだ」と耳打ちしてきた。耳ざとく「ローズよ!」とシャウトされたが。
 さて、その大精霊ゴル――ではなく、ローズは、アリスを見下ろして言った。
「アナタの惚れた殿方の愛を掴み取らんとするその情熱、アタシはとても共感するわ。やっぱり、愛を得ようとするなら、待っているだけじゃダメよ。走って鷲掴みに行くくらいの気概がなくちゃ!」
 アリスの脳内で、ビーチフラッグのごとくローズに砂浜で飛びかかられるアルフォンスの姿が再生された。アルフォンスのためならいくらでも盾になる所存だが、簡単に弾き飛ばされるまで余裕で想像できてしまった。勝てる気がしないのは仕方ないと思う。
「愛を成し、愛に生き、愛を残すのがこの世で最も美しい生き方よ! アナタならそれが出来る! アタシがそれを手伝ってあげるわ!」
 そんなアリスの珍妙な想像なぞつゆ知らず、ローズは高らかに宣言する。
「愛に積極的で、情熱的なアリス・コニア! さあ、アタシと契約しましょう!」
 キラキラを通り越してギラギラと生命力が輝いている大精霊のその言葉に、アリスは暫し呆けた。そして、彼女の言葉が脳に浸透すると、アリスは神に祈りを捧げるがごとく跪き、「女神様……」と呟いてゴリマッチョオネェ大精霊を大いに喜ばせたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...