上 下
8 / 12

7

しおりを挟む
「実はね、学園で常駐してる医師から君のことを聞いてね」
「はい」
「パトリシアの視線が気になって体調を崩したんだって? すまないね、私の婚約者が」
「いえ、そんな……」
「実はね、私も彼女の様子が気になってたんだよ。なんだか、君を警戒しているように見えてね」
「はい」
「だから申し訳ないけど、君のことをちょっと調べさせてもらったんだ。結果はもちろん白だったよ」
「はい。大事な婚約者様に関わることですから、仕方がないかと思います」
「けどね、じゃあ、なんであんなに君を警戒するのか分からないんだ。パトリシアに聞いてみてもはぐらかされてしまうし」
「はい」
「だからね、もし、君に何か心当たりがあるなら、教えて欲しいんだ」

 キャロルは長い沈黙のあと、苦渋の決断、と言わんばかりに渋い顔をして、口を開いた。

「あの、荒唐無稽な話になるんですが、私の心当たりは本当にこれだけなので、どうか最後までお聞きいただけるよう、お願いいたします」

 王太子はにっこりと笑んで、頷いた。



   ***



「ざっくぅぅぅ! こわかったよぉぉぉ!」
「うおっ⁉」

 半泣きのキャロルに出合い頭に飛びつかれ、ザックはよろける。
 
「おい、危ないだろうが! ――というか、どうした。なんかあったのか?」
「ううぅ……、王太子殿下とお話しして来た……」
「はあ⁉」

 ぎょっと目を剥くザックに、キャロルは怖かった、怖かったんだよ、と訴える。

「いったい何でそんなことになったんだ?」
「ほら、保健室のお医者様。あの先生から私の体調に関して話が行ったみたいで、パトリシア様のことを気にしてらっしゃる殿下はいい機会とでも思ったんじゃないかな? もう、隠しても良い事はなさそうだから、洗いざらい話して来たよ」
「あー……、そうだな。下手に隠した方が面倒になりそうだからな」

 下手に隠して妙なことになるより、頭のおかしい奴だと思われた方がマシそうだ、とザックは頷く。
 
「これからどうなると思う?」
「さあ……? ただ、あの有能な殿下のことだ。お前を敵と認識しない限り、変なことにはならないと思うぞ」
「敵って認識されたらどうなっちゃうの!?」
「んん~……」

 泣き出しそうなキャロルの手を取り、ザックは言う。

「一緒に逃げてやるよ」
「えっ……」

 ポカン、とするキャロルに、ザックは真剣な顔をして言う。

「一緒に逃げて、一緒に居てやる。大丈夫だ。お前を一人にはしない」
「ザック……」

 キャロルは唖然としてザックを見つめ、じわじわと脳に沁み込むようにザックに言われた言葉を理解する。
 そして、蕾がほころぶように微笑み、嬉しそうに頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【一話完結】才色兼備な公爵令嬢は皇太子に婚約破棄されたけど、その場で第二皇子から愛を告げられる

皐月 誘
恋愛
「お前のその可愛げのない態度にはほとほと愛想が尽きた!今ここで婚約破棄を宣言する!」 この帝国の皇太子であるセルジオが高らかに宣言した。 その隣には、紫のドレスを身に纏った1人の令嬢が嘲笑うかのように笑みを浮かべて、セルジオにしなだれ掛かっている。 意図せず夜会で注目を浴びる事になったソフィア エインズワース公爵令嬢は、まるで自分には関係のない話の様に不思議そうな顔で2人を見つめ返した。 ------------------------------------- 1話完結の超短編です。 想像が膨らめば、後日長編化します。 ------------------------------------ お時間があれば、こちらもお読み頂けると嬉しいです! 連載中長編「前世占い師な伯爵令嬢は、魔女狩りの後に聖女認定される」 連載中 R18短編「【R18】聖女となった公爵令嬢は、元婚約者の皇太子に監禁調教される」 完結済み長編「シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす」 よろしくお願い致します!

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...