15 / 18
第十四話
しおりを挟む
プレスコット王国の王宮内を覗き、戦争の兆しを感じ取ってしばらくしたころ。ブレスト皇国の王宮内を覗いて情報収集していると、使用人たちが皇妃がいよいよ危ないらしい、と噂していた。
メイドに混ざって働いていたミリアリスもそれを聞き、複雑そうな顔をする。ミリアリスは、ヴィヴィアン皇妃が不義密通をしたため、その罰を受けたのだと勘違いしていたからだ。
「随分前から患ってらしたけど、とうとうか……」
「姫様もまだ幼いのに、お可哀想よね……」
洗濯物を干しながら、メイド達は囀る。
「皇妃様がお亡くなりになったら、次に皇妃になるのはプレスコット王国の姫君かしら」
「そうじゃない? たしか、お名前は……ミリア……なんだったかしら?」
「やぁね。ミリアリア様よ!」
「えっ。ミリアリス様じゃなかった?」
メイド達は首を傾げるなか、ミリアリスは自分の名前が出てギクリと肩を跳ねさせた。
「ええ~、ミリアリス様よ。だって、私、庭園で陛下が側妃様のことをミリアリス、ってお呼びになっていたのを聞いたもの!」
「あら、そうなの?」
「それじゃあ、ミリアリス様ね」
「えっ」
メイド達の会話に、ミリアリスは思わず声を上げる。
そんなミリアリスに、メイド達の視線が集まり、ミリアリスは少し慌てながらも訂正する。
「あの、ミリアリス……様は、男爵令嬢の方の側妃様、ですよ?」
恐る恐る言われたそれに、メイド達はキョトン、と目を瞬かせ、一斉に笑った。
「やだー! 何言ってるのよ! 庭園で陛下と一緒に居るのを見て、聞いたって言ったでしょ!」
「今、逢瀬を重ねて、陛下の寵愛を受けていらっしゃるのはプレスコット王国の側妃様! 男爵令嬢の側妃様じゃないんだから、プレスコット王国の姫様のお名前はミリアリス様で間違いないわ!」
きゃらきゃらと笑い、メイド達は洗濯物を干し終わると、次の仕事へと足早に向かった。
それを困ったような顔をしてミリアリスは見送り、呟く。
「本当なんだけどな……」
小さく苦笑して、ミリアリスもまた仕事をする為に歩き出した。
その背を水晶は映し、ミアはそれを見送った。
「なんか、プレスコット王国のお姫様が自分の名前と勘違いされて覚えられている、とか単純に考えてそうよね」
「そうネェ。まさか、わざと入れ替えられてるだナんて、夢ニも思ってナいでしょうネェ」
微妙な顔をするミアに、ノアも同意して頷く。
「これ、いつ気付くかしら?」
「そう遠くナいんじゃナァい?」
なにせ、皇妃が本格的に命の灯が消えそうになっている。皇帝は今までミリアリスにプレスコット王国の姫との立場入れ替えを秘密にしていたが、正妃にしようとするなら、それを秘密のままにしておくことは不可能だ。
「思うんだけど、あのお嬢さんは酷い鈍感だけど、普通の感性を持ってるのよね。皇妃様を殺して、プレスコット王国の姫と立場を入れ替えて正妃として立たせる、なんて計画を聞いたら、あのお嬢さんならまず反対すると思うのよ」
「そうネェ。猫でもわかるオカシナ計画ですもノネェ」
のんびり頷くノアを撫でながら、溜息をつく。
「だから、あの皇帝は逃げ場を無くしてから暴露するつもりなんでしょうね。多分、サプライズのつもりなんでしょうけど、喜ぶはずが無いし、皇帝もそこのところは見ない様にしてるけど、わかっていそうよね」
「ええ~? わかってるノニ、そんなことするノォ?」
驚くノアに、ミアは頷く。
「ええ。なにせ、アレは頭がスッカラカンの暴君ですもの。好意でラッピングした自分のワガママを押し付けるつもりなのよ。ヴィヴィアン皇妃を隣からどかして、自分のお気に入りの女の子を隣に置きたくて仕方ない、っていうワガママをね。君の為にしたんだよと、さも愛のための行為だとばかりに宣って、責任をミリアリス妃に押し付けるつもりだわ。反吐が出るわね」
ハンッ、と鼻で嗤うミアに、ノアは「猫には理解できナい思考ネェ」と耳をぺしょりと寝かせる。
崩壊の日は、すぐそこまで迫っていた。
メイドに混ざって働いていたミリアリスもそれを聞き、複雑そうな顔をする。ミリアリスは、ヴィヴィアン皇妃が不義密通をしたため、その罰を受けたのだと勘違いしていたからだ。
「随分前から患ってらしたけど、とうとうか……」
「姫様もまだ幼いのに、お可哀想よね……」
洗濯物を干しながら、メイド達は囀る。
「皇妃様がお亡くなりになったら、次に皇妃になるのはプレスコット王国の姫君かしら」
「そうじゃない? たしか、お名前は……ミリア……なんだったかしら?」
「やぁね。ミリアリア様よ!」
「えっ。ミリアリス様じゃなかった?」
メイド達は首を傾げるなか、ミリアリスは自分の名前が出てギクリと肩を跳ねさせた。
「ええ~、ミリアリス様よ。だって、私、庭園で陛下が側妃様のことをミリアリス、ってお呼びになっていたのを聞いたもの!」
「あら、そうなの?」
「それじゃあ、ミリアリス様ね」
「えっ」
メイド達の会話に、ミリアリスは思わず声を上げる。
そんなミリアリスに、メイド達の視線が集まり、ミリアリスは少し慌てながらも訂正する。
「あの、ミリアリス……様は、男爵令嬢の方の側妃様、ですよ?」
恐る恐る言われたそれに、メイド達はキョトン、と目を瞬かせ、一斉に笑った。
「やだー! 何言ってるのよ! 庭園で陛下と一緒に居るのを見て、聞いたって言ったでしょ!」
「今、逢瀬を重ねて、陛下の寵愛を受けていらっしゃるのはプレスコット王国の側妃様! 男爵令嬢の側妃様じゃないんだから、プレスコット王国の姫様のお名前はミリアリス様で間違いないわ!」
きゃらきゃらと笑い、メイド達は洗濯物を干し終わると、次の仕事へと足早に向かった。
それを困ったような顔をしてミリアリスは見送り、呟く。
「本当なんだけどな……」
小さく苦笑して、ミリアリスもまた仕事をする為に歩き出した。
その背を水晶は映し、ミアはそれを見送った。
「なんか、プレスコット王国のお姫様が自分の名前と勘違いされて覚えられている、とか単純に考えてそうよね」
「そうネェ。まさか、わざと入れ替えられてるだナんて、夢ニも思ってナいでしょうネェ」
微妙な顔をするミアに、ノアも同意して頷く。
「これ、いつ気付くかしら?」
「そう遠くナいんじゃナァい?」
なにせ、皇妃が本格的に命の灯が消えそうになっている。皇帝は今までミリアリスにプレスコット王国の姫との立場入れ替えを秘密にしていたが、正妃にしようとするなら、それを秘密のままにしておくことは不可能だ。
「思うんだけど、あのお嬢さんは酷い鈍感だけど、普通の感性を持ってるのよね。皇妃様を殺して、プレスコット王国の姫と立場を入れ替えて正妃として立たせる、なんて計画を聞いたら、あのお嬢さんならまず反対すると思うのよ」
「そうネェ。猫でもわかるオカシナ計画ですもノネェ」
のんびり頷くノアを撫でながら、溜息をつく。
「だから、あの皇帝は逃げ場を無くしてから暴露するつもりなんでしょうね。多分、サプライズのつもりなんでしょうけど、喜ぶはずが無いし、皇帝もそこのところは見ない様にしてるけど、わかっていそうよね」
「ええ~? わかってるノニ、そんなことするノォ?」
驚くノアに、ミアは頷く。
「ええ。なにせ、アレは頭がスッカラカンの暴君ですもの。好意でラッピングした自分のワガママを押し付けるつもりなのよ。ヴィヴィアン皇妃を隣からどかして、自分のお気に入りの女の子を隣に置きたくて仕方ない、っていうワガママをね。君の為にしたんだよと、さも愛のための行為だとばかりに宣って、責任をミリアリス妃に押し付けるつもりだわ。反吐が出るわね」
ハンッ、と鼻で嗤うミアに、ノアは「猫には理解できナい思考ネェ」と耳をぺしょりと寝かせる。
崩壊の日は、すぐそこまで迫っていた。
43
お気に入りに追加
1,788
あなたにおすすめの小説
転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!
九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。
しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。
ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。
しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。
どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが……
これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。
死に戻ったわたくしは、あのひとからお義兄様を奪ってみせます!
秋月真鳥
恋愛
アデライドはバルテルミー公爵家の養子で、十三歳。
大好きな義兄のマクシミリアンが学園の卒業式のパーティーで婚約者に、婚約破棄を申し入れられてしまう。
公爵家の後継者としての威厳を保つために、婚約者を社交界に出られなくしてしまったマクシミリアンは、そのことで恨まれて暗殺されてしまう。
義兄の死に悲しみ、憤ったアデライドは、復讐を誓うが、その拍子に階段から落ちてしまう。
目覚めたアデライドは五歳に戻っていた。
義兄を死なせないためにも、婚約を白紙にするしかない。
わたくしがお義兄様を幸せにする!
そう誓ったアデライドは十三歳の知識と記憶で婚約者の貴族としてのマナーのなってなさを暴き、平民の特待生に懸想する証拠を手に入れて、婚約を白紙に戻し、自分とマクシミリアンの婚約を結ばせるのだった。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
かつて「お前の力なんぞ不要だっ」と追放された聖女の末裔は、国は救うけれど王子の心までは救えない。
当麻月菜
恋愛
「浄化の力を持つ聖女よ、どうか我が国をお救いください」
「......ねえ、それやったら、私に何か利点があるの?」
聖なる力を持つ姫巫女(略して聖女)の末裔サーシャの前に突如現れ、そんな願いを口にしたのは、見目麗しいプラチナブロンドの髪を持つ王子様だった。
だが、ちょっと待った!!
実はサーシャの曾祖母は「お前のその力なんぞ不要だわっ」と言われ、自国ライボスアの女王に追放された過去を持つ。そしてそのまま国境近くの森の中で、ひっそりとあばら家暮らしを余儀なくされていたりもする。
そんな扱いを受けているサーシャに、どの面下げてそんなことが言えるのだろうか。
......と言っても、腐っても聖女の末裔であるサーシャは、嫌々ながらも王都にて浄化の義を行うことにする。
万物を穢れを払うことができる聖女は、瘴気に侵された国を救うことなど意図も容易いこと。
でも王子のたった一つの願いだけは、叶えることができなかった。
などという重いテーマのお話に思えるけれど、要は(自称)イケメン種馬王子アズレイトが、あまのじゃく聖女を頑張って口説くお話です。
※一話の文字数は少な目ですがマメに更新したいと思いますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
婚約破棄されたら、国が滅びかけました
Nau
恋愛
「貴様には失望した!私は、シャルロッテ・グリースベルトと婚約破棄をする!そしてここにいる私の愛おしい、マリーネ・スルベリオと婚約をする!」
学園の卒業パーティーの日、婚約者の王子から突然婚約破棄された。目の前で繰り広げられている茶番に溜息を吐きつつ、無罪だと言うと王子の取り巻きで魔術師団の団長の次に実力があり天才と言われる男子生徒と騎士団長の息子にに攻撃されてしまう。絶体絶命の中、彼女を救ったのは…?
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
王族なんてお断りです!!
紗砂
恋愛
この度めでたく私、エリス・フォーリアは男爵令嬢のいじめなんて生ぬる……馬鹿らしいことをしたという理由で婚約破棄をされました。
全く身に覚えもありませんし、その男爵令嬢の名前すら知らないのですが。
まぁ、そういうことで王家を見限った私は王国から店舗を撤退させていただきます♪
……のはずが、何故国王選定の最有力候補に名前があがっているのでしょうか?
そのうえ、他の公爵家の方々から頭を下げられ、隣国の王子との婚約話も進んでいるのですが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる