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第十四話

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 プレスコット王国の王宮内を覗き、戦争の兆しを感じ取ってしばらくしたころ。ブレスト皇国の王宮内を覗いて情報収集していると、使用人たちが皇妃がいよいよ危ないらしい、と噂していた。
 メイドに混ざって働いていたミリアリスもそれを聞き、複雑そうな顔をする。ミリアリスは、ヴィヴィアン皇妃が不義密通をしたため、その罰を受けたのだと勘違いしていたからだ。

「随分前から患ってらしたけど、とうとうか……」
「姫様もまだ幼いのに、お可哀想よね……」

 洗濯物を干しながら、メイド達は囀る。

「皇妃様がお亡くなりになったら、次に皇妃になるのはプレスコット王国の姫君かしら」
「そうじゃない? たしか、お名前は……ミリア……なんだったかしら?」
「やぁね。ミリアリア様よ!」
「えっ。ミリアリス様じゃなかった?」

 メイド達は首を傾げるなか、ミリアリスは自分の名前が出てギクリと肩を跳ねさせた。

「ええ~、ミリアリス様よ。だって、私、庭園で陛下が側妃様のことをミリアリス、ってお呼びになっていたのを聞いたもの!」
「あら、そうなの?」
「それじゃあ、ミリアリス様ね」
「えっ」

 メイド達の会話に、ミリアリスは思わず声を上げる。
 そんなミリアリスに、メイド達の視線が集まり、ミリアリスは少し慌てながらも訂正する。

「あの、ミリアリス……様は、男爵令嬢の方の側妃様、ですよ?」

 恐る恐る言われたそれに、メイド達はキョトン、と目を瞬かせ、一斉に笑った。

「やだー! 何言ってるのよ! 庭園で陛下と一緒に居るのを見て、聞いたって言ったでしょ!」
「今、逢瀬を重ねて、陛下の寵愛を受けていらっしゃるのはプレスコット王国の側妃様! 男爵令嬢の側妃様じゃないんだから、プレスコット王国の姫様のお名前はミリアリス様で間違いないわ!」

 きゃらきゃらと笑い、メイド達は洗濯物を干し終わると、次の仕事へと足早に向かった。
 それを困ったような顔をしてミリアリスは見送り、呟く。

「本当なんだけどな……」

 小さく苦笑して、ミリアリスもまた仕事をする為に歩き出した。


 その背を水晶は映し、ミアはそれを見送った。

「なんか、プレスコット王国のお姫様が自分の名前と勘違いされて覚えられている、とか単純に考えてそうよね」
「そうネェ。まさか、わざと入れ替えられてるだナんて、夢ニも思ってナいでしょうネェ」
 
 微妙な顔をするミアに、ノアも同意して頷く。
 
「これ、いつ気付くかしら?」
「そう遠くナいんじゃナァい?」

 なにせ、皇妃が本格的に命の灯が消えそうになっている。皇帝は今までミリアリスにプレスコット王国の姫との立場入れ替えを秘密にしていたが、正妃にしようとするなら、それを秘密のままにしておくことは不可能だ。

「思うんだけど、あのお嬢さんは酷い鈍感だけど、普通の感性を持ってるのよね。皇妃様を殺して、プレスコット王国の姫と立場を入れ替えて正妃として立たせる、なんて計画を聞いたら、あのお嬢さんならまず反対すると思うのよ」
「そうネェ。猫でもわかるオカシナ計画ですもノネェ」

 のんびり頷くノアを撫でながら、溜息をつく。

「だから、あの皇帝は逃げ場を無くしてから暴露するつもりなんでしょうね。多分、サプライズのつもりなんでしょうけど、喜ぶはずが無いし、皇帝もそこのところは見ない様にしてるけど、わかっていそうよね」
「ええ~? わかってるノニ、そんなことするノォ?」

 驚くノアに、ミアは頷く。

「ええ。なにせ、アレは頭がスッカラカンの暴君ですもの。好意でラッピングした自分のワガママを押し付けるつもりなのよ。ヴィヴィアン皇妃を隣からどかして、自分のお気に入りの女の子を隣に置きたくて仕方ない、っていうワガママをね。君の為にしたんだよと、さも愛のための行為だとばかりに宣って、責任をミリアリス妃に押し付けるつもりだわ。反吐が出るわね」

 ハンッ、と鼻で嗤うミアに、ノアは「猫には理解できナい思考ネェ」と耳をぺしょりと寝かせる。
 崩壊の日は、すぐそこまで迫っていた。
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