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第十三話

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 ブレスト皇国内や、戦火に巻き込まれる心配のある地域から続々と魔女が引っ越していると聞いたのは、魔女協会支部でだった。
 
「ここだけの話、ロスコー王国が周辺国に働きかけて、水面下で動いてるみたいなんですよ。ヴィヴィアン皇妃はロスコー王国で未だに人気がありますし、姫様と一緒に救出するのが目的のようですね」
「うわぁ。とうとう、ですか……」

 ロスコー王国の外交官が動いていると知ってから、そうかな、とは思っていたが、ミリアリスはやり遂げたらしい。彼女は意図せず、いろんな人間の破滅を運んでいる。いったい、どういう星の元に生まれたのか。鈍感であり、運命がかった間の悪さも持っているが、彼女自身は間違いなく善人だ。なんともまあ、哀れなことである。

「それと、プレスコット王国の方でも動きがありました。ロスコー王国の使者と頻繁にやり取りしているみたいです。ミアさんにはあちらの方も気にかけていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」
「えっ。あ、はい、わかりました」

 とうとうあちらも動き出したのかと思いながら、ミアは頷く。
 プレスコット王国の方も少しは見て来たが、ブレスト皇国よりも頻度は断然下だ。ブレスト皇国の方が気になり過ぎるのと、すこしばかりプレスコット王国の方に気まずい思いがあったためだ。
 ミアは帰宅した後、覚悟を決めてプレスコット王国の王宮を遠見の水晶で覗いた。
 遠見の水晶が映し出したのは、ミリアリア姫の使っていた部屋だった。
 部屋の主人が嫁いで行ったため、家具や調度品のいくつかは片付けられたようだが、内装はあまり変わっていなかった。
 その部屋に、ミリアリアの母であり、プレスコット王国の側妃であるクリスティーンが居た。
 彼女は青褪め、やつれていた。

「ミリアリア……」

 その声には、覇気は無かった。どこか絶望しているようで、部屋の主を惜しむ色が見えた。

「クリスティーン様……」

 開け放たれた部屋のドアの向こうに、王太子のジャクソンが立っていた。
 
「王太子殿下……」
「顔色が悪い。横になられた方がよろしいのでは?」

 ジャクソンはクリスティーンにそっと近づき、そう言うが、クリスティーンは首を横に振った。

「いいえ、大丈夫です。もう少し、ここに居ます……」
「そうですか……。ならば、せめて座ってください。温かいお茶も持ってこさせましょう」
「ありがとうございます……」

 椅子までエスコートし、使用人にお茶を持ってくるように指示を出す。
 ジャクソンはクリスティーンと向かい合わせになるように座り、二人は用意されたお茶に口を付けた。

「……王太子殿下。あの子は、やはり、もう……?」
「……はい。可能性は高いかと……」

 ジャクソンの答えを聞き、クリスティーンはくしゃりと顔を貴族の女らしからぬ歪め方をし、ボロボロと涙をこぼした。貴族の女ではなく、一人の母親としての顔だった。

「こんな、こんなことになるなんて……! こんなことなら、ブレスト皇国にお嫁に出すんじゃなかった!」

 嘆くクリスティーンに、ジャクソンはハンカチを差し出す。

「我が国を、――私達の大切な妹を殺したブレスト皇国を、私も、陛下も許しはしません。必ずや、あの子の仇を討って見せます。その時まで、どうか気を強く持ってください」
「……はい」

 クリスティーンはハンカチを握りしめ、悔しく、悲しい、ぐちゃぐちゃの感情のままに頷いた。

 そんなプレスコット王国の王族二人を見て、ミアは苦い顔のままにその映像を掻き消す。
 そんな彼女の足に、するりと柔らかな毛並みを持つノアがすりよる。
 ミアがノアに視線を向ければ、彼女は意味深に視線を動かし、窓辺の小さなテーブルの上を見た。
 その視線を追い、テーブルの方を見てみれば、そこにはワインとグラス、そして二日酔いの薬が置いてあった。
 ミアはそれに目を丸くし、そして苦笑する。

「貴女って、本当に優秀な使い魔よね」

 ノアは、にゃ~ん、と愛らしく鳴いた。
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