14 / 18
第十三話
しおりを挟む
ブレスト皇国内や、戦火に巻き込まれる心配のある地域から続々と魔女が引っ越していると聞いたのは、魔女協会支部でだった。
「ここだけの話、ロスコー王国が周辺国に働きかけて、水面下で動いてるみたいなんですよ。ヴィヴィアン皇妃はロスコー王国で未だに人気がありますし、姫様と一緒に救出するのが目的のようですね」
「うわぁ。とうとう、ですか……」
ロスコー王国の外交官が動いていると知ってから、そうかな、とは思っていたが、ミリアリスはやり遂げたらしい。彼女は意図せず、いろんな人間の破滅を運んでいる。いったい、どういう星の元に生まれたのか。鈍感であり、運命がかった間の悪さも持っているが、彼女自身は間違いなく善人だ。なんともまあ、哀れなことである。
「それと、プレスコット王国の方でも動きがありました。ロスコー王国の使者と頻繁にやり取りしているみたいです。ミアさんにはあちらの方も気にかけていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」
「えっ。あ、はい、わかりました」
とうとうあちらも動き出したのかと思いながら、ミアは頷く。
プレスコット王国の方も少しは見て来たが、ブレスト皇国よりも頻度は断然下だ。ブレスト皇国の方が気になり過ぎるのと、すこしばかりプレスコット王国の方に気まずい思いがあったためだ。
ミアは帰宅した後、覚悟を決めてプレスコット王国の王宮を遠見の水晶で覗いた。
遠見の水晶が映し出したのは、ミリアリア姫の使っていた部屋だった。
部屋の主人が嫁いで行ったため、家具や調度品のいくつかは片付けられたようだが、内装はあまり変わっていなかった。
その部屋に、ミリアリアの母であり、プレスコット王国の側妃であるクリスティーンが居た。
彼女は青褪め、やつれていた。
「ミリアリア……」
その声には、覇気は無かった。どこか絶望しているようで、部屋の主を惜しむ色が見えた。
「クリスティーン様……」
開け放たれた部屋のドアの向こうに、王太子のジャクソンが立っていた。
「王太子殿下……」
「顔色が悪い。横になられた方がよろしいのでは?」
ジャクソンはクリスティーンにそっと近づき、そう言うが、クリスティーンは首を横に振った。
「いいえ、大丈夫です。もう少し、ここに居ます……」
「そうですか……。ならば、せめて座ってください。温かいお茶も持ってこさせましょう」
「ありがとうございます……」
椅子までエスコートし、使用人にお茶を持ってくるように指示を出す。
ジャクソンはクリスティーンと向かい合わせになるように座り、二人は用意されたお茶に口を付けた。
「……王太子殿下。あの子は、やはり、もう……?」
「……はい。可能性は高いかと……」
ジャクソンの答えを聞き、クリスティーンはくしゃりと顔を貴族の女らしからぬ歪め方をし、ボロボロと涙をこぼした。貴族の女ではなく、一人の母親としての顔だった。
「こんな、こんなことになるなんて……! こんなことなら、ブレスト皇国にお嫁に出すんじゃなかった!」
嘆くクリスティーンに、ジャクソンはハンカチを差し出す。
「我が国を、――私達の大切な妹を殺したブレスト皇国を、私も、陛下も許しはしません。必ずや、あの子の仇を討って見せます。その時まで、どうか気を強く持ってください」
「……はい」
クリスティーンはハンカチを握りしめ、悔しく、悲しい、ぐちゃぐちゃの感情のままに頷いた。
そんなプレスコット王国の王族二人を見て、ミアは苦い顔のままにその映像を掻き消す。
そんな彼女の足に、するりと柔らかな毛並みを持つノアがすりよる。
ミアがノアに視線を向ければ、彼女は意味深に視線を動かし、窓辺の小さなテーブルの上を見た。
その視線を追い、テーブルの方を見てみれば、そこにはワインとグラス、そして二日酔いの薬が置いてあった。
ミアはそれに目を丸くし、そして苦笑する。
「貴女って、本当に優秀な使い魔よね」
ノアは、にゃ~ん、と愛らしく鳴いた。
「ここだけの話、ロスコー王国が周辺国に働きかけて、水面下で動いてるみたいなんですよ。ヴィヴィアン皇妃はロスコー王国で未だに人気がありますし、姫様と一緒に救出するのが目的のようですね」
「うわぁ。とうとう、ですか……」
ロスコー王国の外交官が動いていると知ってから、そうかな、とは思っていたが、ミリアリスはやり遂げたらしい。彼女は意図せず、いろんな人間の破滅を運んでいる。いったい、どういう星の元に生まれたのか。鈍感であり、運命がかった間の悪さも持っているが、彼女自身は間違いなく善人だ。なんともまあ、哀れなことである。
「それと、プレスコット王国の方でも動きがありました。ロスコー王国の使者と頻繁にやり取りしているみたいです。ミアさんにはあちらの方も気にかけていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」
「えっ。あ、はい、わかりました」
とうとうあちらも動き出したのかと思いながら、ミアは頷く。
プレスコット王国の方も少しは見て来たが、ブレスト皇国よりも頻度は断然下だ。ブレスト皇国の方が気になり過ぎるのと、すこしばかりプレスコット王国の方に気まずい思いがあったためだ。
ミアは帰宅した後、覚悟を決めてプレスコット王国の王宮を遠見の水晶で覗いた。
遠見の水晶が映し出したのは、ミリアリア姫の使っていた部屋だった。
部屋の主人が嫁いで行ったため、家具や調度品のいくつかは片付けられたようだが、内装はあまり変わっていなかった。
その部屋に、ミリアリアの母であり、プレスコット王国の側妃であるクリスティーンが居た。
彼女は青褪め、やつれていた。
「ミリアリア……」
その声には、覇気は無かった。どこか絶望しているようで、部屋の主を惜しむ色が見えた。
「クリスティーン様……」
開け放たれた部屋のドアの向こうに、王太子のジャクソンが立っていた。
「王太子殿下……」
「顔色が悪い。横になられた方がよろしいのでは?」
ジャクソンはクリスティーンにそっと近づき、そう言うが、クリスティーンは首を横に振った。
「いいえ、大丈夫です。もう少し、ここに居ます……」
「そうですか……。ならば、せめて座ってください。温かいお茶も持ってこさせましょう」
「ありがとうございます……」
椅子までエスコートし、使用人にお茶を持ってくるように指示を出す。
ジャクソンはクリスティーンと向かい合わせになるように座り、二人は用意されたお茶に口を付けた。
「……王太子殿下。あの子は、やはり、もう……?」
「……はい。可能性は高いかと……」
ジャクソンの答えを聞き、クリスティーンはくしゃりと顔を貴族の女らしからぬ歪め方をし、ボロボロと涙をこぼした。貴族の女ではなく、一人の母親としての顔だった。
「こんな、こんなことになるなんて……! こんなことなら、ブレスト皇国にお嫁に出すんじゃなかった!」
嘆くクリスティーンに、ジャクソンはハンカチを差し出す。
「我が国を、――私達の大切な妹を殺したブレスト皇国を、私も、陛下も許しはしません。必ずや、あの子の仇を討って見せます。その時まで、どうか気を強く持ってください」
「……はい」
クリスティーンはハンカチを握りしめ、悔しく、悲しい、ぐちゃぐちゃの感情のままに頷いた。
そんなプレスコット王国の王族二人を見て、ミアは苦い顔のままにその映像を掻き消す。
そんな彼女の足に、するりと柔らかな毛並みを持つノアがすりよる。
ミアがノアに視線を向ければ、彼女は意味深に視線を動かし、窓辺の小さなテーブルの上を見た。
その視線を追い、テーブルの方を見てみれば、そこにはワインとグラス、そして二日酔いの薬が置いてあった。
ミアはそれに目を丸くし、そして苦笑する。
「貴女って、本当に優秀な使い魔よね」
ノアは、にゃ~ん、と愛らしく鳴いた。
29
お気に入りに追加
1,785
あなたにおすすめの小説
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約者が知らない女性とキスしてた~従順な婚約者はもう辞めます!~
ともどーも
恋愛
愛する人は、私ではない女性を抱きしめ、淫らな口づけをしていた……。
私はエスメローラ・マルマーダ(18)
マルマーダ伯爵家の娘だ。
オルトハット王国の貴族学院に通っている。
愛する婚約者・ブラント・エヴァンス公爵令息とは七歳の時に出会い、私は一目で恋に落ちた。
大好きだった……。
ブラントは成績優秀、文武両道、眉目秀麗とみんなの人気者で、たくさんの女の子と噂が絶えなかった。
『あなたを一番に愛しています』
その誓いを信じていたのに……。
もう……信じられない。
だから、もう辞めます!!
全34話です。
執筆は完了しているので、手直しが済み次第順次投稿していきます。
設定はゆるいです💦
楽しんで頂ければ幸いです!
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる