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第九話

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 スカーレットとクソ皇帝の花畑以下の思考を確認した翌日、ミアはその旨を報告書にしたため、魔女協会へと送った。
 どういう判断を下すかは分からないが、これでブレスト皇国やその周辺に住む魔女には、魔女協会が良いように取り計らってくれるだろう。
 そうしてミアはちょっとばかし肩の荷を下ろした気分で鍋をかき回していた。鍋の中身は、近くの村で頼まれた風邪の初期症状の時に飲む常備薬である。
 全ての工程を終え、後は冷めるのを待つだけとなり、鍋に蓋をして一息つくためにお茶を淹れる。

「お疲れさまぁ」
「はぁ……。久しぶりに作ったけど、これ、まだ使ってるのねぇ。私が目を覚ました時には新しいタイプの薬が出てると思ったんだけど、やっぱ十八年程度じゃ出ないのね」
「本当ナら、六十年以上は眠ってるつもりだったんだもノネェ」

 そんな会話をノアとしながら、ミアは魔法で遠見の水晶を呼び寄せる。
 
「また見るノォ?」
「もう日課になっちゃってるし、気になるのよねぇ。……そういえば、ミリアリス妃はどうしてるのかしら? いつも朝と夜にチラっと見てるだけなのよね」

 ミリアリスは明らかに何も知らない様子だったので、皇帝と皇妃を優先的に見ていたのだ。
 そう思い、ミリアリスの様子を見ようと水晶にミリアリスの部屋を映したのだが、そこには掃除をする使用人しかいなかった。
 ならば庭かと思えば、そこにもいない。
 一体どこにいるのかと探してみても、何処にも居ないのだ。

「ええ~? ちょっと、何処にいるわけ? まさか、ミリアリス、行方不明になっちゃった? 誘拐事件?」
「ご主人サマ、落ち着いてぇ――あらぁ?」

 あまりにも見つからないため、そんなことをぼやいていると、ノアが身を乗り出して水晶を覗き込んだ。

「ご主人サマ、ご主人サマ、これ、ちょっと拡大してみてぇ?」
「うん?」

 ちょいちょい、と前足で示す人物は下級侍女を表す侍女服を着ていた。言われた通りにクローズアップしてみて、ミアはポカンと口を開ける。

「は?」

その顔は、見覚えのある金髪碧眼の美少女――ミリアリス妃だった。

「は、はぁぁぁぁぁ!?」

 水晶玉を鷲掴みにし、ミアは叫ぶ。

「なんっっっで、ミリアリス妃が侍女の格好をして働いてるわけぇぇぇ!?」

 クソ皇帝の寵妃は、わけの分からない事になっていた。
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