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魔王城編
エピローグ
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転移陣の間に続く扉の前で、二人は睨みあっていた。
一人はガンつけるように、一人は笑ってない目をしながら笑顔で。
「なにこれ、怖っ」
そう言って後ずさったのは、ダリオである。睨みあう二人――テオドアとアビーは、セスがテオドアを連れてこの場に来た時から、何を感じ取ったのか、目を合わせた途端睨みあいを始めたのだ。
セスはそんな二人から視線を逸らし、ダリオに話しかける。
「凄い荷物だな。……用意の良い事だ」
「まぁな」
にっ、と笑うダリオの背にはパンパンに膨らんだリュックがあり、その両脇にも大量の荷物が抱えられていた。
「まあ、お誘いがあれば坊ちゃんなら絶対ついて行くと思ったからな。ま、持って来といて良かったぜ。これからもよろしくな、坊ちゃ――いや、セス様」
ダリオにはテオドアを連れ出す計画の事など何も話してはいなかったのだが、どうやら確信があったらしい。その証拠が、彼の大荷物である。
さて、そんな有能な従者の主人は、アビーと睨みあい、マウントを取り合っていた。
「良いですか? 私こそが、セス様の一の僕。私の指示に従ってもらいますからね」
「はぁ? 何を言っているの? 僕は兄上の『物』なのだから、お前に従う義理など無いね。大体、お前のような変態を兄上のお傍に置くなど、虫唾が走る」
「はああ? 何言っちゃってるんですかぁ? この、優秀なアビーがセス様のお傍に仕えずして、誰を傍に置くと?」
「あ゛あ? 変態だけは無いよ? 兄上のお傍にお仕えするのは、僕だけで十分だね!」
「はあああ? 馬鹿なんですかぁ? 理解力、足りてないんじゃないんですかぁ?」
「あ゛あ゛あ? 全てが足りてないお前が何言ってるの?」
一触即発。
殺気まで放ち始めた二人に、セスは呆れた様に溜息を吐く。
「二人とも、そこまでだ。さっさと行くぞ」
「えぇ~、セス様。このガキに一の僕の怖さを教えなくてはいけませんのに」
「はっ、イチノシモベ? 兄上、やっぱりこの変態は解雇しましょう。これからは僕という兄上の『物』が居るのですから、コレはもう必要ありませんよ!」
二人はそうセスに言い募り、再び「アァン?」とガンつけ合う。
セスはそんな二人に付き合ってられん、と肩をすくめ、さっさと歩き出した。それに気付いたアビーとテオドアは慌てて後を追い、ダリオは笑いながら後に続いた。
いつも通り、騒がしい出立だった。
※ ※ ※
ぼんやりと窓の外を眺めるのは、輝く金髪と、紅玉のような赤い瞳が美しい美貌の男だった。
そんな彼――魔王アルベルトに、側近の一人である黒髪黒目の細身の男が親し気に話しかける。
「セス殿は無事に城を出て行ったようだよ」
「……そうか」
魔王の薄い反応に苦笑しながら、男は言葉を続ける。
「テオドア殿も嬉しそうについて行ったそうだ」
「………」
魔王の眉間に皺が寄り、男は笑う。
「結局、末っ子君がお前に一番良く似ていたな。外見も、中身も」
「……ふん」
不満そうに鼻を鳴らす魔王に、楽し気に男は言葉を紡ぐ。
「セス殿はお前の子供達の中で一番目立たなかったが……。さて……、これからが楽しみだね」
光が差し込む部屋に、二人の長い影が落ちた。
一人はガンつけるように、一人は笑ってない目をしながら笑顔で。
「なにこれ、怖っ」
そう言って後ずさったのは、ダリオである。睨みあう二人――テオドアとアビーは、セスがテオドアを連れてこの場に来た時から、何を感じ取ったのか、目を合わせた途端睨みあいを始めたのだ。
セスはそんな二人から視線を逸らし、ダリオに話しかける。
「凄い荷物だな。……用意の良い事だ」
「まぁな」
にっ、と笑うダリオの背にはパンパンに膨らんだリュックがあり、その両脇にも大量の荷物が抱えられていた。
「まあ、お誘いがあれば坊ちゃんなら絶対ついて行くと思ったからな。ま、持って来といて良かったぜ。これからもよろしくな、坊ちゃ――いや、セス様」
ダリオにはテオドアを連れ出す計画の事など何も話してはいなかったのだが、どうやら確信があったらしい。その証拠が、彼の大荷物である。
さて、そんな有能な従者の主人は、アビーと睨みあい、マウントを取り合っていた。
「良いですか? 私こそが、セス様の一の僕。私の指示に従ってもらいますからね」
「はぁ? 何を言っているの? 僕は兄上の『物』なのだから、お前に従う義理など無いね。大体、お前のような変態を兄上のお傍に置くなど、虫唾が走る」
「はああ? 何言っちゃってるんですかぁ? この、優秀なアビーがセス様のお傍に仕えずして、誰を傍に置くと?」
「あ゛あ? 変態だけは無いよ? 兄上のお傍にお仕えするのは、僕だけで十分だね!」
「はあああ? 馬鹿なんですかぁ? 理解力、足りてないんじゃないんですかぁ?」
「あ゛あ゛あ? 全てが足りてないお前が何言ってるの?」
一触即発。
殺気まで放ち始めた二人に、セスは呆れた様に溜息を吐く。
「二人とも、そこまでだ。さっさと行くぞ」
「えぇ~、セス様。このガキに一の僕の怖さを教えなくてはいけませんのに」
「はっ、イチノシモベ? 兄上、やっぱりこの変態は解雇しましょう。これからは僕という兄上の『物』が居るのですから、コレはもう必要ありませんよ!」
二人はそうセスに言い募り、再び「アァン?」とガンつけ合う。
セスはそんな二人に付き合ってられん、と肩をすくめ、さっさと歩き出した。それに気付いたアビーとテオドアは慌てて後を追い、ダリオは笑いながら後に続いた。
いつも通り、騒がしい出立だった。
※ ※ ※
ぼんやりと窓の外を眺めるのは、輝く金髪と、紅玉のような赤い瞳が美しい美貌の男だった。
そんな彼――魔王アルベルトに、側近の一人である黒髪黒目の細身の男が親し気に話しかける。
「セス殿は無事に城を出て行ったようだよ」
「……そうか」
魔王の薄い反応に苦笑しながら、男は言葉を続ける。
「テオドア殿も嬉しそうについて行ったそうだ」
「………」
魔王の眉間に皺が寄り、男は笑う。
「結局、末っ子君がお前に一番良く似ていたな。外見も、中身も」
「……ふん」
不満そうに鼻を鳴らす魔王に、楽し気に男は言葉を紡ぐ。
「セス殿はお前の子供達の中で一番目立たなかったが……。さて……、これからが楽しみだね」
光が差し込む部屋に、二人の長い影が落ちた。
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