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対峙
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――――臭いが消えた…………
その時優希は、敵が自分の存在を認知し、警戒したことを確信する。
臭いが完全に消えたということは、敵が【堅護】を使っているという事。
この状況でその恵術を行使する理由は、優希か宝玉龍と対峙するくらいだ。
宝玉龍はこの時間、巣にはいない。
つまり、残ったのは優希を敵視しているという事。
優希は魔石灯を懐にしまう。
灯を無くし、暗闇に包まれた優希は、瞳を閉じて鑑定士の恵術【聴識】を使用した。
【聴識】は聴覚を強化し、僅かな音の変化でさえも聞き分けることが出来る恵術だ。
それに契約者の研ぎ澄まされた五感が加わり、優希の聴覚は音の返しすらも聞き分けることが出来る。
優希は軽く靴音を立てた。
僅かな音だが、洞窟の中は反響して、音は洞窟を駆け巡る。
その音の反響、洞窟の中で疎らな音の返しを聞き取り、敵の存在を確認した。
約四十五メートル先、敵は二人。
男女の二人組、武器は確認できない。
そこまでの道に、仕掛けのような怪しい音は無い。
そこまで確認し、優希は大地を蹴った。
二対一、敵がこちらの事を認識している時点で不意打ちは難しい。
奴らも灯は消して待ち構えているはず。
そうでなかったとしても、灯があれば優希は明確な場所を認識できる。
優希としては、全速で距離を詰め、敵に圧迫感を与えて反応を遅らせたい。
優希は契約者の洗練された五感と〖行動命令〗による自動回避で、反応速度では勝っている自信がある。
だからこそ先手必勝、速戦即決で決める。
「走ってきているのな。俺達が気付いたことに気付いたか……」
「レッグは早くラインを張って。敵が来るよ」
【聴識】の恵術で敵の声が確認できた。
男女の二人組、声質からまだ若い。
敵が少し奥に移動した。
最終的な敵の正確な位置は――――。
「――――ッ!?」
突然、優希の身体が少し跳ね上がった。
前に踏み出した前足を地面につける前に、後ろ脚を上にホップさせ、その代償に身体は前のめりに崩れ落ちる。
受け身を取って、体勢を立て直した優希は走っていた場所を確認。
身体の動きからして、敵の攻撃ではなく、〖行動命令〗による自動回避。
踏み出した右足。靴底が焼き焦げたような跡があった。
その場所は、敵がもともといた場所。
敵が言っていた“ラインを張る”。
「レーザーか…………」
敵が優希の存在に気づいた時、優希の周囲には生物的な反応は無かった。
その時点で、敵が獣使である確率は低い。勿論、優希の知らない魔族だって当然存在する。だが、鑑定士の恵術と契約者の五感による索敵能力はメアリーの【感索】に劣らない程の力がある。
それを考えれば、今の攻撃、トラップを考えてレーザー的な光線を操る能力だと予測する。
優希の存在に気付いたのは、赤外線センサーのような光線探知機能の線が張られていたから。
靴底の焼き後は、レーザー切断機能の線が貼られていたから。
もし、優希が権能によって回避していなければ、優希の足は土踏まずの部分から縦に切断されていただろう。
優希は【鑑識】を発動。
ダメもとでやってみたが、どうやら敵の恵術と鑑定士は天敵なようで、視界には赤い線と緑の線が可視出来た。
優希は地面を砕き、小石を緑の線に投げてみた。
小石は綺麗に切断され、小石を切った緑の線は消えた。
これで必要な情報は揃った。
赤の線は感知、緑の線は切断の力を持つ。
敵を足止め、もしくは殺すのなら、敵は地の利を活かして蜘蛛の巣上にレーザーを配置するはず。
それをしないということは、一度に張れる線の数は限られているという事。
そして、振り返っても線が張られていない事と、今の小石での確認で、一度切断、感知した線は消えてしまうことが分かった。
鑑定士なら線は可視化できるが、そうでない場合煙などを利用すれば確認できることも一応確認。
そして、この天恵は洞窟や森のような場所でしか最大の力を発揮できない。
完全なる感知、罠に特化した天恵で、近接戦は不得手と予想。
あとは、もう一人の恩恵。
それが分からない今、優希がすることは変わらない。
優希は再び洞窟を疾走する。
煙などを使わずとも線を可視出来る優希は、疎らに張り付けられた赤緑の線を躱しながら進むことはそう難しい事ではない。
線と線に隙間が大きいことから、一度に張り付けられる線の数は限られていることは確かなようだ。
もうすぐ敵に追いつく。
赤い線もかわしているので、敵は最後に触れた緑の線の情報しかないはず。
それで足を切断できたかどうかは、今の相手では分からない。
つまり、今の優希は完全に安否不明の敵。
仕掛けるなら今。
「――――ッ!」
暗闇。
優希は眼、耳、鼻にそれぞれ恵術を行使し、敵の正確な位置、態勢も把握できる。
光源はいらない。
敵は既に、優希の白籠手の間合いに踏み込んだ。
その時――――――。
「油断したわね――――」
優希は咄嗟に腕に【堅護】を使用し、その攻撃を防いだ。
痛みは無い。それでも骨が軋むような感覚。
光源は、敵が用意して、優希も敵もお互いの姿を直に確認が取れた。
「思ったより若ぇな」
「でも、多分強い」
名前――レッグ・ギディオン
恩恵――魔導士
練度――6780
天恵――【赤緑光線】……特殊なマナの光線を直線に結ぶ。
名前――ラリーニ・ファブリツィア
恩恵――武闘家
練度――6880
天恵――【衝撃の乱舞】……衝撃を反射、跳弾させる。
【神の諜報眼】で読み取った敵の情報が脳に刻まれる。
紅色の髪をした男――レッグがさっきまでの線を張っていたのなら、先に始末すべきは男の方だ。
だが、今の敵の陣形はレッグが後ろ、ラリーニが前だ。
武闘家のラリーニの天恵。
衝撃の反射と跳弾。
優希がさっき攻撃を受けたのはおそらくラリーニの攻撃。
咄嗟の【堅護】とはいえ、それでも優希の身体に確実なダメージを与えた。
練度差はそれほどないはず。
彼女が攻撃した時、自分が受ける反作用の衝撃すらも優希に加わる。
と考えれば、彼女の一撃は通常の倍の威力になる。
「早く終わらせるよレッグ。はぁあッ!!」
彼女は地面を殴りつけた。
真下ではなく、一歩前を斜めに突き刺すように殴りつける。
その行動に優希は警戒。
彼女が殴った場所はクレーターが出来上がり、それは洞窟の天井にも時間差で出来上がった。
そして、ラリーニから更に先にクレーターが地面に出来る。
クレーターは徐々に優希に近づき、
「ッッ――――」
優希は一歩引く。
優希が立っていた場所にもクレータが出来上がった。
「衝撃の跳弾……」
「へぇ~察しが良いねアンタ」
優希の呟きに、ラリーニはマスクをしたまま眼は笑みを刻んだ。
これが彼女の天恵の能力。
彼女が地面を殴った時の衝撃は、まるでスーパーボールのように地面、壁、天井を跳ね返る。
クレーターが徐々に小さくなっていることから、エネルギーは跳ね返る度に小さくなっていると考えられる。
この衝撃波は恵術を使ってもみることは出来ないが、跳ね返り跡から大体の軌道は予測できる。
だが、懐に入ればその力は意味が無いが、それでも反作用すらも威力に上乗せできる彼女にとって接近戦は彼女の分野。
同じ武闘家としても、彼女の方が上手であり、レッグの罠も警戒しながらとなると、この場所は完全に彼らの土俵だ。
「アンタが何の目的でここに来ているかは知らないけど、アンタには死んでもらう。恨むなら自分の不運を恨みなさい」
彼女は乱雑に、乱方向に地面や壁を殴りつける。
洞窟を埋め尽くすように、衝撃の軌跡が優希の脳裏に浮かび上がる。
躱すのは不可能。
優希に与えられた二択は、衝撃が消えるまで後方に逃げるか、すべての衝撃を耐えるかだ。
だが、後ろに逃げた場合、彼らは再び線を張って距離を取るだろう。
優希がそれを躱しながら追いかけても、衝撃の跳弾も重なって優希に襲い掛かる。
勿論、それをすれば洞窟を崩壊させてて帰路を失う可能性があるから彼女は最初にしなかったのだろうが、優希を始末するうえでそれを考慮せず天恵を使う可能性は高い。
だからこそ、優希は彼らから目を離すわけにはいかない。
優希は弾道からなるべく衝撃の軌道が重ならないところに移動し、全身の【堅護】を強めた。
衝撃の波は徐々に優希に迫り、優希の全身を打ち付けた。
衝撃は見えず、痛みを感じない優希にとって、何も起きていないのに全身に圧迫感を与えられるような感覚を味わった。
痛みは無いと言っても、ダメージは確かに与えているようで、優希は膝が崩れ額から血が流れる。
「あれを受けて表情一つ変えねぇとか、神経イカれてんのかアイツ」
「まったくね。でもダメージは与えてるはずよ。平然を装ってはいるけど、全身に痛みは走ってるはず」
痛みを感じることが無い優希に、痛覚による表情の変化は確かにない。
それでも痛みを感じないだけで、ダメージを受けているのは確か。
事実、優希の膝の動きが鈍い。
「この調子ならあと一回ぐらい今の連撃を加えれば死ぬわね」
彼女が言った。
それは遠回しに降参を促しているんだろうか。
だが、優希にその気はない。
優希には彼らを殺す方法はある。
敵の手札を見た優希は、ようやくその方法を行使するに至った。
「…………なんか取り出したぞ」
レッグが警戒する。
優希はコートで隠れた腰に手をやり、それを取り出しラリーニに向けた。
サイズのわりに重厚感を与える漆黒の色合い。
ただの筒。それなのに、それからは危機感を煽るものを感じて。
「精々踏ん張れよ。こいつは結構痛いから」
優希の最新にして最高の手札。
漆黒の流星が敵の額を睨みつけた――――。
その時優希は、敵が自分の存在を認知し、警戒したことを確信する。
臭いが完全に消えたということは、敵が【堅護】を使っているという事。
この状況でその恵術を行使する理由は、優希か宝玉龍と対峙するくらいだ。
宝玉龍はこの時間、巣にはいない。
つまり、残ったのは優希を敵視しているという事。
優希は魔石灯を懐にしまう。
灯を無くし、暗闇に包まれた優希は、瞳を閉じて鑑定士の恵術【聴識】を使用した。
【聴識】は聴覚を強化し、僅かな音の変化でさえも聞き分けることが出来る恵術だ。
それに契約者の研ぎ澄まされた五感が加わり、優希の聴覚は音の返しすらも聞き分けることが出来る。
優希は軽く靴音を立てた。
僅かな音だが、洞窟の中は反響して、音は洞窟を駆け巡る。
その音の反響、洞窟の中で疎らな音の返しを聞き取り、敵の存在を確認した。
約四十五メートル先、敵は二人。
男女の二人組、武器は確認できない。
そこまでの道に、仕掛けのような怪しい音は無い。
そこまで確認し、優希は大地を蹴った。
二対一、敵がこちらの事を認識している時点で不意打ちは難しい。
奴らも灯は消して待ち構えているはず。
そうでなかったとしても、灯があれば優希は明確な場所を認識できる。
優希としては、全速で距離を詰め、敵に圧迫感を与えて反応を遅らせたい。
優希は契約者の洗練された五感と〖行動命令〗による自動回避で、反応速度では勝っている自信がある。
だからこそ先手必勝、速戦即決で決める。
「走ってきているのな。俺達が気付いたことに気付いたか……」
「レッグは早くラインを張って。敵が来るよ」
【聴識】の恵術で敵の声が確認できた。
男女の二人組、声質からまだ若い。
敵が少し奥に移動した。
最終的な敵の正確な位置は――――。
「――――ッ!?」
突然、優希の身体が少し跳ね上がった。
前に踏み出した前足を地面につける前に、後ろ脚を上にホップさせ、その代償に身体は前のめりに崩れ落ちる。
受け身を取って、体勢を立て直した優希は走っていた場所を確認。
身体の動きからして、敵の攻撃ではなく、〖行動命令〗による自動回避。
踏み出した右足。靴底が焼き焦げたような跡があった。
その場所は、敵がもともといた場所。
敵が言っていた“ラインを張る”。
「レーザーか…………」
敵が優希の存在に気づいた時、優希の周囲には生物的な反応は無かった。
その時点で、敵が獣使である確率は低い。勿論、優希の知らない魔族だって当然存在する。だが、鑑定士の恵術と契約者の五感による索敵能力はメアリーの【感索】に劣らない程の力がある。
それを考えれば、今の攻撃、トラップを考えてレーザー的な光線を操る能力だと予測する。
優希の存在に気付いたのは、赤外線センサーのような光線探知機能の線が張られていたから。
靴底の焼き後は、レーザー切断機能の線が貼られていたから。
もし、優希が権能によって回避していなければ、優希の足は土踏まずの部分から縦に切断されていただろう。
優希は【鑑識】を発動。
ダメもとでやってみたが、どうやら敵の恵術と鑑定士は天敵なようで、視界には赤い線と緑の線が可視出来た。
優希は地面を砕き、小石を緑の線に投げてみた。
小石は綺麗に切断され、小石を切った緑の線は消えた。
これで必要な情報は揃った。
赤の線は感知、緑の線は切断の力を持つ。
敵を足止め、もしくは殺すのなら、敵は地の利を活かして蜘蛛の巣上にレーザーを配置するはず。
それをしないということは、一度に張れる線の数は限られているという事。
そして、振り返っても線が張られていない事と、今の小石での確認で、一度切断、感知した線は消えてしまうことが分かった。
鑑定士なら線は可視化できるが、そうでない場合煙などを利用すれば確認できることも一応確認。
そして、この天恵は洞窟や森のような場所でしか最大の力を発揮できない。
完全なる感知、罠に特化した天恵で、近接戦は不得手と予想。
あとは、もう一人の恩恵。
それが分からない今、優希がすることは変わらない。
優希は再び洞窟を疾走する。
煙などを使わずとも線を可視出来る優希は、疎らに張り付けられた赤緑の線を躱しながら進むことはそう難しい事ではない。
線と線に隙間が大きいことから、一度に張り付けられる線の数は限られていることは確かなようだ。
もうすぐ敵に追いつく。
赤い線もかわしているので、敵は最後に触れた緑の線の情報しかないはず。
それで足を切断できたかどうかは、今の相手では分からない。
つまり、今の優希は完全に安否不明の敵。
仕掛けるなら今。
「――――ッ!」
暗闇。
優希は眼、耳、鼻にそれぞれ恵術を行使し、敵の正確な位置、態勢も把握できる。
光源はいらない。
敵は既に、優希の白籠手の間合いに踏み込んだ。
その時――――――。
「油断したわね――――」
優希は咄嗟に腕に【堅護】を使用し、その攻撃を防いだ。
痛みは無い。それでも骨が軋むような感覚。
光源は、敵が用意して、優希も敵もお互いの姿を直に確認が取れた。
「思ったより若ぇな」
「でも、多分強い」
名前――レッグ・ギディオン
恩恵――魔導士
練度――6780
天恵――【赤緑光線】……特殊なマナの光線を直線に結ぶ。
名前――ラリーニ・ファブリツィア
恩恵――武闘家
練度――6880
天恵――【衝撃の乱舞】……衝撃を反射、跳弾させる。
【神の諜報眼】で読み取った敵の情報が脳に刻まれる。
紅色の髪をした男――レッグがさっきまでの線を張っていたのなら、先に始末すべきは男の方だ。
だが、今の敵の陣形はレッグが後ろ、ラリーニが前だ。
武闘家のラリーニの天恵。
衝撃の反射と跳弾。
優希がさっき攻撃を受けたのはおそらくラリーニの攻撃。
咄嗟の【堅護】とはいえ、それでも優希の身体に確実なダメージを与えた。
練度差はそれほどないはず。
彼女が攻撃した時、自分が受ける反作用の衝撃すらも優希に加わる。
と考えれば、彼女の一撃は通常の倍の威力になる。
「早く終わらせるよレッグ。はぁあッ!!」
彼女は地面を殴りつけた。
真下ではなく、一歩前を斜めに突き刺すように殴りつける。
その行動に優希は警戒。
彼女が殴った場所はクレーターが出来上がり、それは洞窟の天井にも時間差で出来上がった。
そして、ラリーニから更に先にクレーターが地面に出来る。
クレーターは徐々に優希に近づき、
「ッッ――――」
優希は一歩引く。
優希が立っていた場所にもクレータが出来上がった。
「衝撃の跳弾……」
「へぇ~察しが良いねアンタ」
優希の呟きに、ラリーニはマスクをしたまま眼は笑みを刻んだ。
これが彼女の天恵の能力。
彼女が地面を殴った時の衝撃は、まるでスーパーボールのように地面、壁、天井を跳ね返る。
クレーターが徐々に小さくなっていることから、エネルギーは跳ね返る度に小さくなっていると考えられる。
この衝撃波は恵術を使ってもみることは出来ないが、跳ね返り跡から大体の軌道は予測できる。
だが、懐に入ればその力は意味が無いが、それでも反作用すらも威力に上乗せできる彼女にとって接近戦は彼女の分野。
同じ武闘家としても、彼女の方が上手であり、レッグの罠も警戒しながらとなると、この場所は完全に彼らの土俵だ。
「アンタが何の目的でここに来ているかは知らないけど、アンタには死んでもらう。恨むなら自分の不運を恨みなさい」
彼女は乱雑に、乱方向に地面や壁を殴りつける。
洞窟を埋め尽くすように、衝撃の軌跡が優希の脳裏に浮かび上がる。
躱すのは不可能。
優希に与えられた二択は、衝撃が消えるまで後方に逃げるか、すべての衝撃を耐えるかだ。
だが、後ろに逃げた場合、彼らは再び線を張って距離を取るだろう。
優希がそれを躱しながら追いかけても、衝撃の跳弾も重なって優希に襲い掛かる。
勿論、それをすれば洞窟を崩壊させてて帰路を失う可能性があるから彼女は最初にしなかったのだろうが、優希を始末するうえでそれを考慮せず天恵を使う可能性は高い。
だからこそ、優希は彼らから目を離すわけにはいかない。
優希は弾道からなるべく衝撃の軌道が重ならないところに移動し、全身の【堅護】を強めた。
衝撃の波は徐々に優希に迫り、優希の全身を打ち付けた。
衝撃は見えず、痛みを感じない優希にとって、何も起きていないのに全身に圧迫感を与えられるような感覚を味わった。
痛みは無いと言っても、ダメージは確かに与えているようで、優希は膝が崩れ額から血が流れる。
「あれを受けて表情一つ変えねぇとか、神経イカれてんのかアイツ」
「まったくね。でもダメージは与えてるはずよ。平然を装ってはいるけど、全身に痛みは走ってるはず」
痛みを感じることが無い優希に、痛覚による表情の変化は確かにない。
それでも痛みを感じないだけで、ダメージを受けているのは確か。
事実、優希の膝の動きが鈍い。
「この調子ならあと一回ぐらい今の連撃を加えれば死ぬわね」
彼女が言った。
それは遠回しに降参を促しているんだろうか。
だが、優希にその気はない。
優希には彼らを殺す方法はある。
敵の手札を見た優希は、ようやくその方法を行使するに至った。
「…………なんか取り出したぞ」
レッグが警戒する。
優希はコートで隠れた腰に手をやり、それを取り出しラリーニに向けた。
サイズのわりに重厚感を与える漆黒の色合い。
ただの筒。それなのに、それからは危機感を煽るものを感じて。
「精々踏ん張れよ。こいつは結構痛いから」
優希の最新にして最高の手札。
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