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眷属たちの宴 3

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 古家、相須、坊垣内、最上、釘町、菊谷、西願寺。
 この7人は、学校でもグループを作っている。他と違ってバランスのいいグループだ。しかし、このメンバー以外にもう一人、この輪の中にいた人がいる。ある日から、そいつはグループから外されたが。


「……」

 優希は、意識が覚醒しきる前に体を起こす。そして、朝日が体の細胞を刺激し、脳が活動を始めたのを感じた優希は、メアリーを見る。

「……何やってんだ?」

「ん? 男というものはこうすれば喜ぶと釘町が言っていたぞ」

 メアリーは一切衣服を見纏わず、優希の体に寄り添うようにベッドに入ってきている。

「それで……なんで実行してるんだ?」

「面白い反応を期待してたんだがな。つまらん」

 そう言って、速やかにベッドから出て服を着るメアリー。優希は朝からなんだったんだ? という表情を浮かべながら、再び眠りにつこうとしたその時、

「すいません、ジークさんいらっしゃいますか?」

 若い女性の声で、ドアを力強く叩いて優希の仮の名前を呼ぶ。優希はけだるそうに体を起こして、ゆっくりとした足取りで向かい、ドアを開ける。
 そこには、走って来たのか息を切らし、少し汗をかいて色っぽくなっている西願寺が居た。

「どうしたんだ? そんなに疲れて――」

「大変なんです!」

 優希は西願寺の声で、虚ろな目をしっかりと開く。
 彼女の表情から切羽詰まっているのを感じた優希はメアリーとともにすぐ準備をして、西願寺に案内されるまま走っていった。


 西願寺に案内されたのは、いつもの狩場――ダンジョンだった。ただし、普段のように和気あいあいとしている古家たちの姿ではなく、傷だらけで地面に倒れていた。
 そして、その場にはほかに3人の男たちがいた。

「ん? なんだまだ残ってたのか。これで全員だと思ってたんだが……」

「いや、兄貴あの女目当てでこいつらに近づいたんじゃ……」

「無駄だよ。兄貴は楽しいことがあると本来の目的すぐに忘れるんだから」

 3人の会話を聞き、優希は大体の状況を把握した。
 プレートを持ってる当たり眷属ではあるだろうが、眷属の中にもタチが悪い奴らもいるらしい。
 3人のうち、2人は金プレート、兄貴と言われている男は黒プレートだ。実力は古家たち全員でも太刀打ちできないだろう。それほど、金プレートと黒のプレートの差は大きいのだ。昇格試験の難易度は金が100人に一人なら、黒は1万に1人といったところだ。

「ん~よしそこの女、俺のパーティに入れ」

 兄貴の男が西願寺に指を指して、パーティ勧誘を始めた。
 しかし、それと同時にもう1人の女にも目をつけたらしい。

「ん? そこの銀髪の女、お前も来い」

 メアリーに視線を送り、命令口調で言う兄貴の男に対して、メアリーはごみを見る目で返し、

「断る。私はこいつから離れるつもりはない」

 そう言って、メアリーは優希のコートを掴む。すると、男たちの視線は、メアリーの手元から優希に移った。

「じゃ、その男には消えてもらうしかないな」

 兄貴の男が剣を抜こうとすると、隣の2人が前に出て、

「いや、兄貴はこいつらをやってますんで、休んでてください。行くぞシン!」

「ああ、セン!」

 見た目から双子と思われる、シンとセンは腰にしている短剣を抜き、優希に近づく。
 優希は構えることなく、ただ立っている。しかし、警戒は怠らない。

「どうしたぁ? 構えないと死ぬぜ」

「まぁ、構えても死ぬんだけど」

 シンが持っていた短剣を投げつける。それは、優希の顔をめがけていたが、わずかに外れている。優希がよけなくても大丈夫なほどに外れていた。しかし、

「ほらよ」

「――!?」

 センが持っている短剣を横に振るうと、優希の横を通り過ぎようとしていた短剣がいきなり軌道を変え、優希に迫ったのだ。
 優希は後ろに体を反り、紙一重でかわす。その超反応にシンとセンは驚くが、センはすぐさま、短剣を縦に振る。
 またしても軌道を変えた短剣は、優希に突き刺さるように上から迫る。優希は今度は横に体を移動させかわす。しかし、いくら優希がかわそうと、短剣は優希を追尾する。

(契約術……いや、オリジナルスキルか)

 オリジナルスキル――練度が500に達するとえられるスキル。ただし、そう考えるには何かがおかしい。

 本来、オリジナルスキルはその人特有のスキル。だが、いまシンとセンが使っているのは二人のスキルのように思える。

(契約術なら、武器ではなくそいつ自信の力のはず……あいつが握っている短剣はフェイクか?)

 優希は知らなかった。契約術、スキル以外に戦う力が存在することを。


「神の落とし物ディバインドロップだな」

「神の落とし物ディバインドロップ?」

 すました顔でメアリーは言う。西願寺もその存在は知らないようだ。

「神の落とし物ディバインドロップは、武器そのものが力を持っている武器だ。マナを使わずに扱えるが、武器に認められないと使えないものだ。おそらくあれは二つで一つの短剣。どちらか、あるいは両方がお互いのコントローラーになっている。二人で所有しているのは、あれを二つの武器と認識させ、オリジナルスキルとして相手に思わせるためだろう。どちらかを止めれば片方も止まるからな」

 メアリーの説明で、西願寺は理解する。しかし、その言葉は優希には聞こえてない。


(おそらくあいつの持っている短剣がこっちの短剣を操っている。なら――)

 優希は追尾してくる短剣をかわしながら、センのもとに走る。しかし、優希の意識は完全にセンと追ってくる短剣に集中させていた。シンとセンの作戦にまんまと引っかかったのだ。

「フッバカめ……」

 センがそう呟くと、優希の足に違和感が走った。優希の足に矢が深く刺さっていたのだ。
 意識をセンと短剣に集中させ、シンは遠くから矢を放つ。シンの職業は剣士ではなく弓兵だったのだ。

「お前の足に刺さったのは、通常より何倍も痛みが走る、シンのオリジナルスキルだ。もうお前は立つことも――ぐぇえ!?」

 センが説明を終える前に、優希の拳がセンの顔面を捉える。センは後ろに吹き飛び、口から砕けた歯が何本か出てきた。

「……ら、らぁんで……らってぇられるんらぁ?(な、なんで、立ってられるんだ?)」

 優希に痛覚増強の矢を放ったのは間違いだった。優希には痛覚がない。
 優希は顔色一つ変えずに足に刺さった矢を抜き、少し離れているシンの方を見る。

「今の状態じゃ届かないな……」

 ――機能向上アップデート……

 途端、優希の威圧感が増すのを西願寺は感じた。優希は矢を握りしめると、矢が刺さって血が出ているはずの足をぐっと踏みしめて、メジャーリーガーの如き投球フォームで矢をシンの方に投げつける。
 シンが逃げようとしたが、飛んでくる矢の速さに対応できずに、腹部に突き刺さる。一度優希に刺さっているのでスキルの効果はないが、それでも痛い。

 その様子を見ていた、兄貴の男は、首を鳴らしながら前に出る。

「お前、結構やるじゃねぇか。お前、名前は?」

「ジークだ」

「俺は、ガドルフ。戦闘系ギルド、覇王の道ロード・オブ・キングのメンバーだ。一応帝国じゃ有名なんだが……」

「知らん」

「知らないな」

「知らないです」

 優希とメアリーはともかく、西願寺まで名前を知られてないあたり、言うほど有名ではないらしい。

「……そ、そんなことはどうでもいいんだよ!」

(お前が言ったんじゃ……)

「俺の部下がここまでやられちゃ引くことは出来ねぇ。悪いがお前にはそれなりの落とし前をつけてもらう」

 言ってることはめちゃくちゃだが、ガドルフは優希たちに反論の隙を与えることなく、背中にしている大剣を抜いて迫る。しかし、大剣はパワーこそあるが、動きは遅い。当然、今の優希にはかすりもしない。  西願寺も、二人の戦闘から、相性は良いだろうと優希の心配は薄れていた。その時、

「ヘヴィワールド!!」

 ガドルフが叫び、大剣を地面にたたきつけるように振るうと、優希は上から押しつぶされる感覚とともに地面に割れ目が入った。
 これがガドルフのオリジナルスキル。対象周辺の重力を跳ね上げる。今優希が立っていることに、ガドルフも驚いているが、さらに威力を挙げると、優希の膝はどんどん深くなり、最終的には片膝をつくまでになった。

「どうだ、動けないだろ。これがあれが大剣でも戦えている証拠だ。」

 体験は主にモンスター、それも、動きが鈍いものに限っては強い。しかし、早いモンスター、ましてや人相手には確実に不利なのだ。
 ガドルフの肉体はがっしりとしており、相当鍛えてはいるだろうが、それでも遅い。そのハンデをこのスキルは補うのだ。相手が動かなければ大剣は最高の威力を発揮する。

 ガドルフは優希と同じくらいあるだろう大剣を肩に乗せ、優希に近づく。優希はオリジナルスキルにより、動くことができなかった。

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