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第一部

ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:9

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「自分の孫みたいな年齢の子に欲情するなんて、どうかしてる!」
「自分の子供みたいな年齢の子に欲情するのと、どう違うのかね?」



 ブォンー 
 ヒュルルルルルルル~ 
 グサッ!



 「うぐっ」



 盛大なブーメランがまた僕に突き刺さった。ロリコンだの変態だのという方面でおじいさんを責めても無駄だった。僕も同じなんだから、ダメージがなんか、倍になって返ってくる。



 「このおじいさんは理知的じゃない」なんて、うかつに判断してしまったけど、反論はことごとく的確だった。・・・というか僕がアホなだけなのかもしれない。



 何度かおじいさんに罵声を投げかけては、その度、ブーメランのようにそれが返ってきて、僕は再び、こんなカッコ→OTZで倒れ込んでいた。



 じいさんの首を180度曲げて、トリックアートにして葬ろうにも、今やもう隙がない。先代勇者ってことは、このおじいさんだって死線を乗り越えてきたんだろう。何かの気配を察したのかもしれない。纏うオーラが変わり、今、間合いに入ったら、殺られるまである・・・。



「落ち着け明日太くん。わしは何も、お主と争いたいわけではない。逆に語り合いたくてお主を待っておったのじゃよ。・・・ロリ同志としてな・・・」
「・・・」



 口でも物理でも、戦って勝てなさそうな今、トリックアート作りは一旦保留だ。(というか作らずに済むにこしたことはない)とりあえず話だけは聞いてみよう・・・。
 


手強いおじいさんを前に・・・というか思った以上に(特にメンタルが)弱かった自分を目の当たりにして、僕はそう思った。



■■■■■■
□□□□□□



ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:9



■■■■■■
□□□□□□



「パンツを脱げ、明日太くん!!!」
「うえぇっ!」



 不意に老人がそう言った。このじいさん、そっちの気まであるの!? 僕はドン引きして、おじいさんから距離を置いて、部屋のすみっこで、壁に貼り付いた。こわー!・・・。



「違う違う! わしは別にお主の尻になぞ興味はない。比喩的な意味じゃよ!」
「へ?」



「お主はかっこつけすぎじゃ! 明日太くん! もっと自分の欲望や性癖をさらけだせ! ・・・それが出来ないから、お主は童貞なのじゃよ」
「くっ」



 悔しいけど、そういう部分は確かにあるのだと思う。「紳士たれ」とか言って結局は、自分のやりたいこととかを隠してきたのは事実だ。だから今「言いたいことを言えるようになろう」とかって、努力してるわけで・・・。



「そ、そういうおじいさんは、女性経験は豊富なのですか?」
「うっ。うむ。まあのぉ・・・わしはバンバンじゃよ」



 おじいさんは若干、目を逸らした。フサフサの眉毛越しでもそれがわかった。汗ダラダラで、アゴヒゲを右手で延ばしたくりながら、ごまかそうとしている。



 ・・・この人もそんなに経験がないのかもしれない。・・・というかおじいさんも自分の言葉で、ブーメランをくらったみたいだ。



「その年齢で経験少ないのぉ?(ニヤニヤ)」



 ・・・なんて、リリなら煽りそうだけど、僕はやめておいた。そんなことを言った後に、もし反論(ブーメラン)が返ってきたら、耐えられそうにもなかった。強い攻撃ほど、仕留められなかった時に手ひどいカウンターが来る。



 あと。なんか、ちょっとだけ「僕と、このおじいさんは似ているのかもしれない」とも思ってしまった。勇者としてこの世界に巻き込まれたり、自分の発言がブーメランになっちゃったり。なので、ほんの少しだけ親近感も沸いたのだ。



ーーーーーー



「わしは、6歳~12歳が『すとらいくぞおん』じゃ! お主はどうじゃ?」
「ぼ、僕は、膨らみかけおっぱいが至高だと、思ってましたが、最近はつるぺたも最高だと思ってます! それもこれも、スーとワフルのおかげです!」
「うむうむ、いいぞ明日太くん。その調子じゃ」



 その後、僕は何故か、おじいさんと、暴露合戦を繰り広げることになった。



ー こういう時は、お互いの性癖をさらけ出しあうのが一番いい! ー



 おじいさんに自信たっぷりにそう言われて、なんか、僕もそんな気がしてしまったのだ。僕は押しにも弱いのかもしれない。



「お主の好きなエロ漫画家は誰じゃ? わしはあにゃ○こ先生の作品が好きでのぉ・・・」



 今度は好きなロリエロ漫画家さんの話になった。てかドペドじゃねぇか、その先生・・・まあ知ってる時点で僕も僕だ。というか嫌いじゃない。てかごめんなさい。大好きです。二次つるぺたなら前世から好物だったし。



「僕はみさ○。先生の作品に大変お世話になりました!」
「ほぅほぅ。今度、買ってみるかのぉ・・・」



 おじいさんは魔王討伐の功労者として、前世の品物も(高額だが)神様経由で、購入できるのだと言う。くじらの口の中に宅配品箱があったのはそういう訳だったのだ。ちょっと羨ましい。僕もそのうち宅配してもらえるように、なったりするのかな?



 てか、このおじいさん、僕らの冒険を見て、幼女に目覚めてからは、前世の品物は、ほとんど「ロリエロ漫画」しか買ってないらしい・・・。目覚めすぎだよね?



ーーーーーー



 とにかくまあ、性癖暴露で僕らは多少、打ち解けた。特に僕が提示したロリエロ漫画のラインナップに老人は満足したようだった。作品名とその内容が、いっぱい言えちゃったロリコン前世を思い出して、僕は、ちょっとげんなりもしてしまったけど。



 それからおじいさんと、やっとまとも? な会話をすることができた。



「その・・・おじいさんのロリ漫画ストックは、まさかスーに教えた本棚にあったりしないでしょうね?」
「ほっほっほ、まさかまさか。隠し部屋にちゃんとしまってあるよ」
「なら、良かったです・・・」
「安心せい、あそこにあったのは、情操教育に良さそうな絵本だけじゃて」
「それなら、いいんですけど・・・」



ーーー



「なんでおじいちゃんはクジラに乗ってたんです?」
「お主らのサポートじゃよ。先代の勇者が、次の勇者を少しだけ助けるのが、毎回のお約束らしくてな・・・。大精霊をお主らに宿した後は、クジラに乗って、空中の魔物を倒したりして、被害が広がりすぎないように気をつけておったのじゃよ。クジラ型にしてもらったのはただの趣味じゃが」



「そうだったんですね」
「うんむ。そんで、今も魔物の残党がおれば、倒しておるよ」
「ありがとうございます」
「なぁに。それで給金も出るしな。ロリエロ漫画のためでもある」
「・・・」



 いい話が台無し感はあったけど、少しずつこの世界のことが知れてきた。おじいさんの舌も滑らかだ。この勢いで「なんで僕が大きくなっちゃったのか?」も聞いてしまおう。



「ところで、僕の体は何で大きくなっちゃったんです?」
「・・・」



 老人は突然、また無言になった。・・・なんだろう? この話題は地雷だったりするんだろうか?



「逆にわしから、質問していいかね? 明日太くん?」
「・・・は、はい」



 また若干、圧がすごくなり、なんとなく僕は身構えた。



「何故、お主は仲間に、異世界から来たと打ち明けんのじゃね?」
「・・・そ、それは・・・・」



 特に理由なんてなかった・・・ハズだ・・・。異世界からの転生者だって気づいた時には、すぐに特訓が始まってたし、それが終わったら、あっという間に魔王討伐だった。



 旅の途中も、次の計画を考えて、みんなのケアをすることで手一杯で・・・。でも討伐した後の最近なら、時間もあったし打ち明けることも確かにできたんだろう。僕は何故それをしなかったのだろう・・・。



「ただ、言う機会が無くて忘れていただけです・・・」
「ふむ・・・」



 僕はただそう言うしかなかった。老人はアゴヒゲを触りながら何か考え込んでいる。



「わしの時は、すぐに転移者だと『かみんぐあうと』して、特別待遇されて心地よかったものじゃがのぉ・・・お主はそういうのは望まなかったのかね?」
「いえ、特には・・・むしろ昔の自分を思い出したくなかったのかもです」



 僕は前世の自分が嫌いだった。こっちへ転生できて、新たな気持ちで頑張れたのがすごく良かった。そこらへんはおじいさんと違うのかもしれない。その辺はどう説明したらいいんだろう?



「まあ、人生いろいろ、苦もあろうな。お主のやりたいようにやれば良かろうて」
「はあ。ありがとうございます」



 サラリと流してくれて良かった。



「ところでじゃ!」
「は、はい!」



 ふいの大声に僕は直立した。このおじいさん、感情の起伏、大丈夫かな?



「お主は、体が大きくなった理由が知りたい。・・・じゃよな?」
「は、はい・・・むしろ、その為に来た感じです」
「わしは、スーちゃんの裸がちょっとでもいいから見たい。・・・わかるよな?」
「わかりません」



 何が言いたいか? は、わかったけど、わかりたくはなかった。



「体が大きくなった原因を教える代わりに、ちょっとでもいいから、スーちゃんの裸が見たい! って言っておるんじゃ! わかるじゃろ? 同志、明日太くん?」



 老人は、さらに攻めてくる。語尾に「同志」とかつけても、さっきまでの性癖暴露の延長的な感じで、スーの裸は見せないよ? なんかこのおじいさん「さきっちょだけ」とか言いながら挿入しちゃうタイプの気がするし。



「わしはノータッチじゃ! 約束する! COMIC L○の信念を貫く! じゃから!じゃから! せめてしこらせろ! しこるだけでいいんじゃ! ずっとEDだったわしがやっと勃ったんじゃよ! ハイ○で言うとこの、クラ○が立ったんじゃよ! なあ、頼む!」



・・・幼女で勃つとかどうかしてる。



・・・って言える立場じゃないんだよなぁ・・・どうせ言っても盛大なブーメランが返ってくるし。てか、スーの裸を今見たら、僕も興奮するだろうしね。エロい話のしすぎた。



 さて、どうしたものか?



 おじいさんが興奮してる分、僕は若干、冷静になれた。そんで解決策を思いついた。



「・・・わかりました。僕が責任をもって、スーに聞いてみます。・・・でも本人が嫌って言ったら、もちろん紳士として、諦めてくれますよね?」
「もちろんじゃ! わしはロリコン紳士じゃしのぉ。L○の理念をつらぬくぞぃ!」
「ありがとうございます」
「うむ」



 僕らはがっしり握手した。おじいちゃん、ごめんね。



ーーーーーー



「スー!・・・スー! いる?」



 僕はおじいさんと階下に降りながらスーを呼んだ。



 トテトテトテとスーが小走りにやってきて、僕にピタッと抱きついた。ああ可愛い。



「お帰り、ポチ兄ぃ」
「ただいま、スー」
 僕はスーの頭を撫でながら、おじいさんを見た。



 おじいさんは、羨ましそうな顔で、口ひげを噛みしめている。そんでもって眉毛越しに僕に訴えかけている「早くスーちゃんに聞いてくれ!」と。



 性癖を暴露しあったせいなのか、おじいさんの思考が少しわかってしまって、ちょっと複雑な気分だ。でも、毎回毎回、思い通りになんて、なってやるものか。今までのお返しとばかりに、僕はスーを撫でたくりながら質問するのを引き延ばした。



「・・・ん。ポチ兄ぃ。撫でられるの、気持ちいい」
「(おまたを当てるのは、おじいちゃんのいないとこで、後でね)」
「うん・・・」



 今にも、おまたを擦りつけてきそうだったスーに小声で僕はそう告げた。そんなシーンはこのおじいさんには見せられない。見せたくはない。



・・・
・・・
・・・。



 たっぷりスーを撫でた後、僕はやんわりと聞いてみた。



「スーは僕以外の人に裸を見られるのとか嫌だよね? ね? 例えば、おじいちゃんとか?」
「うん。普通に嫌だけど」
「ほら。おじいちゃん、嫌だって」
「くっ、お主の言うことなら、スーちゃんも言うことを聞いてくれると思ったのに! 誘導しおったの!」



「・・・」
 スーが無言でおじいさんにジト目を送る。おじいさんはそれにたじろいだ。



「・・・でも、そのスーちゃんの目も悪くない・・・これはこれで『ぐっじょぶ』じゃ。ア・・・ポチタロウくん」
 まんざらでもなさそうだ。この人も真性だな。



 とりあえず、刺さりまくったブーメランに一矢報いた感じはした。ブーメランを投げたのは自分自身だけど・・・。



ーーーーーー



「ところでスーちゃんは、何を読んでおったの・・・」



 話題を変えるためと、おそらくスーと会話がしたかったのであろう、おじいさんは、そこまで喋って、「の」の口のまま、固まってしまった。



 不穏を察して、僕もスーがやってきた方に目をやった。乱雑に本が広げられていて、全部が全部、ロリエロ漫画だった。それを見た瞬間、僕も固まりそうになった。



「ス、スー・・・あれは?」
「棚の本、読んじゃったから、探してきた」
「バ、バカな。あの壁の仕掛けを解除したというのかね・・・?」
「うん」



・・・忘れてた。スーは天才ちゃんだった。本を読むのも早ければ、カラクリの類は、見てすぐに仕組みを理解してしまう。



「ポチにぃ。ボク、あの本で、いろいろ覚えたよ」
 サムズアップしてスーは言った。



「ち、知識覚え立ての幼女キター!」
 じいさんは鼻血を出してヒゲを真っ赤にしながら倒れた。



 この隙に首をポッキリ180度、折ろうかとも思ったけどやめておいた。まだ、聞く話もあるし。



ーーーーーー



「スー、おじいちゃんをこっち側から見てごらん」
「ん? なんか、こっちから見ても、顔に見える」
「こういうのを、トリックアートって言うんだよ」
「おー。面白いね、ポチにぃ」
「うん。面白いよね」



 気絶したおじいちゃんをトリックアートにして葬らなかった代わりに、僕は、スーが新たな知識を獲得するのに、使わせてもらった。おじいちゃん、ごめんね。



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