20 / 25
二件目『ガーディニアス:木の聖域』
04
しおりを挟む…気にしない。
私は気を取り直して辺りを見渡す。先程までは崖の風景しか無かったのに、今は緑に覆われた深い森に居る。木の聖域だから森なのだろうか。
「ナツ。ちゃんと僕に抱きついてるんだよ」
「きゅ?…きゅ!!」
犬が抱きつけるのか?と突っ込みを入れた瞬間、凄い勢いでナツさんの身体が後方に飛ぶ。その後に聞こえる破壊音。間違い無く攻撃されそうになった感じだよね?全く気付かなかった。
「不法侵入しちゃったからねぇ。…おっ、と」
「きゅー!」
少し驚いた声と共にハイネさんの身体が鞭のようなもので吹き飛ぶ。間違い無い。攻撃されているのだ。先程から蔓のようなものが鞭のように撓り私達を狙っている。
ハイネさんにしがみ付く私はガクブルだ。だってあのハイネさんが吹き飛ばされたんだよ?
「悪い子だねぇ」
ほら、蔓を掴んでピンピンして…吹き飛ばされてないんかーい!
あ、蔓に合わせて動いただけなんですね。ですよね、チートハイネさんがやられる訳ないですよね。
「木の主はお怒り?知らないよ。僕達には関係無いもの」
「きゅ!?」
この人、何でけんか腰?表情も少し苛ついてるよね?目が据わってる。怖い。
「おーい、木の主さーん。力をくださーい」
「きゅ!?」
「ほら、ナツもお祈りってやつだよ。お祈りしてあげて?」
「きゅ…」
そうか。そうだ。私達は戦争をしにきた訳ではない。私は目を閉じ、必死に祈る。え?何を?取りあえず目を瞑れば良いの?あ、でもクー様は私の心を読んでたから…木の主サマー、力をくださーい…。こんな感じで良いのかな?分かんないや。だって前世は神社にすら手を合わせたことが無い程の無神論者だ。いきなり祈れっ!と言われても…
『ごちゃごちゃ煩い神獣だな』
「きゅ!?」
「おっ、やっと出て来た」
いきなり声が反響するように森に響き渡ると同時にゴゴゴゴゴ…と地鳴りがした。そしてぽっかりと開かれた空間から現れる巨体。
――木の主が現れたのだ。
見た目はクー様に似ている。龍の身体を持ち、美しい鱗で覆われている。色は美しい緑色だった。木に習って緑なのだろうか。クー様も水の主だから身体が蒼いのかな。わかりやすい。
私はハイネさんの腕の中で出て来た主を見上げる。
『力が欲しいのか、神獣よ』
「きゅ!」
『だがお前は巡礼の理を破ったな?』
「きゅ!?」
理って何?聞いてない。あ、もしかして祈りを捧げて何ちゃら…と言う話だろうか。
「理も何も要らないよ。ねぇ、力。くれないかな?」
『お前は…』
強引過ぎるハイネさんの言葉に木の主がぽかん、とした表情を浮かべる。恐らくハイネさんの神力を読んでいるのだろう。どんどん木の主の顔色が悪くなっていく。
『お前…本当に人間か?』
「は?何言ってるの?」
「きゅ!」
計り知れない神力に圧倒された木の主がぽつりと呟く。その言葉を耳にしたハイネさんが眉を顰めながら不服そうに文句を言った。
そんなやり取りに吹き出してしまったのは秘密という事で。
『おぞましい巫女だな…我の聖域を壊し、修復した時も驚いたが…。だが、それはそれだ。神獣。お前は駄目だ』
「きゅ!?」
『お前の神力は弱すぎる。そもそもここまで来たのは誰の力だ?本来は巫女を護り、祈りを捧げるのが神獣の役目。それをお前が出来るとは思えん』
木の主の言葉が刃物のように突き刺さる。その通りだし、思い切りコンプレックスに触れられた。ぐうの音も出ない。正論過ぎて。
しょんぼりする私を一瞥する木の主。だが、言葉は止まらなかった。
『そもそもお前のような者は初めて見たぞ?何故巡礼が出来た?普通は巫女を上回る程の神力が無ければ神獣すら名乗れないのに』
「きゅ…」
『ほお…しかも言葉が喋れないようだな。無理だ。お前に加護を授ける事は出来ん』
「きゅぅ…」
弾丸のようだった。そして私はその弾丸に蜂の巣にされた。自分が無能な事も分かっているし、ハイネさんの力が凄い事も分かっている。けれど、私だって頑張ってるんだ。けれど…
『頑張ってるから何だ?現にお前に神力は無い。勿論これから増える事も無いだろう』
クー様も言っていた。濁すように、私を傷付けないように。でも、木の主は違う。ストレートな言葉で正論をずっと吐き続けている。
もうぽっきりと心が折れそうだった。あんな程度の魔法で喜んでいた自分が馬鹿みたいだ。ハイネさんに褒められて調子に乗った罰かもしれない。身の程知らず、だ。
「きゅ…きゅぅ…」
「…ナツ?」
「きゅぅ…」
大きな瞳からぽろぽろと涙が溢れる。悔しくて、情けなくてしょうがなかった。
私の顔を覗き込んだハイネさんがぴしり、と固まる。
「きゅぅ…きゅぅ…」
短い足で何度も顔を拭う。それでも涙は次から次へと溢れ、止まる事を知らないかのように流れ続けた。
――その時だった。
ドガァン!!と大きな破裂音が背後からする。そして身も凍るような凄まじい程の神力。もしかして。
「…ナツを泣かせたな?」
あ、これヤバいやつだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる