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二件目『ガーディニアス:木の聖域』

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…気にしない。
私は気を取り直して辺りを見渡す。先程までは崖の風景しか無かったのに、今は緑に覆われた深い森に居る。木の聖域だから森なのだろうか。

「ナツ。ちゃんと僕に抱きついてるんだよ」
「きゅ?…きゅ!!」

犬が抱きつけるのか?と突っ込みを入れた瞬間、凄い勢いでナツさんの身体が後方に飛ぶ。その後に聞こえる破壊音。間違い無く攻撃されそうになった感じだよね?全く気付かなかった。

「不法侵入しちゃったからねぇ。…おっ、と」
「きゅー!」

少し驚いた声と共にハイネさんの身体が鞭のようなもので吹き飛ぶ。間違い無い。攻撃されているのだ。先程から蔓のようなものが鞭のように撓り私達を狙っている。

ハイネさんにしがみ付く私はガクブルだ。だってあのハイネさんが吹き飛ばされたんだよ?

「悪い子だねぇ」

ほら、蔓を掴んでピンピンして…吹き飛ばされてないんかーい!
あ、蔓に合わせて動いただけなんですね。ですよね、チートハイネさんがやられる訳ないですよね。

「木の主はお怒り?知らないよ。僕達には関係無いもの」
「きゅ!?」

この人、何でけんか腰?表情も少し苛ついてるよね?目が据わってる。怖い。

「おーい、木の主さーん。力をくださーい」
「きゅ!?」
「ほら、ナツもお祈りってやつだよ。お祈りしてあげて?」
「きゅ…」

そうか。そうだ。私達は戦争をしにきた訳ではない。私は目を閉じ、必死に祈る。え?何を?取りあえず目を瞑れば良いの?あ、でもクー様は私の心を読んでたから…木の主サマー、力をくださーい…。こんな感じで良いのかな?分かんないや。だって前世は神社にすら手を合わせたことが無い程の無神論者だ。いきなり祈れっ!と言われても…

『ごちゃごちゃ煩い神獣だな』
「きゅ!?」
「おっ、やっと出て来た」

いきなり声が反響するように森に響き渡ると同時にゴゴゴゴゴ…と地鳴りがした。そしてぽっかりと開かれた空間から現れる巨体。
――木の主が現れたのだ。
見た目はクー様に似ている。龍の身体を持ち、美しい鱗で覆われている。色は美しい緑色だった。木に習って緑なのだろうか。クー様も水の主だから身体が蒼いのかな。わかりやすい。

私はハイネさんの腕の中で出て来た主を見上げる。

『力が欲しいのか、神獣よ』
「きゅ!」
『だがお前は巡礼の理を破ったな?』
「きゅ!?」

理って何?聞いてない。あ、もしかして祈りを捧げて何ちゃら…と言う話だろうか。

「理も何も要らないよ。ねぇ、力。くれないかな?」
『お前は…』

強引過ぎるハイネさんの言葉に木の主がぽかん、とした表情を浮かべる。恐らくハイネさんの神力を読んでいるのだろう。どんどん木の主の顔色が悪くなっていく。

『お前…本当に人間か?』
「は?何言ってるの?」
「きゅ!」

計り知れない神力に圧倒された木の主がぽつりと呟く。その言葉を耳にしたハイネさんが眉を顰めながら不服そうに文句を言った。
そんなやり取りに吹き出してしまったのは秘密という事で。

『おぞましい巫女だな…我の聖域を壊し、修復した時も驚いたが…。だが、それはそれだ。神獣。お前は駄目だ』
「きゅ!?」
『お前の神力は弱すぎる。そもそもここまで来たのは誰の力だ?本来は巫女を護り、祈りを捧げるのが神獣の役目。それをお前が出来るとは思えん』

木の主の言葉が刃物のように突き刺さる。その通りだし、思い切りコンプレックスに触れられた。ぐうの音も出ない。正論過ぎて。
しょんぼりする私を一瞥する木の主。だが、言葉は止まらなかった。

『そもそもお前のような者は初めて見たぞ?何故巡礼が出来た?普通は巫女を上回る程の神力が無ければ神獣すら名乗れないのに』
「きゅ…」
『ほお…しかも言葉が喋れないようだな。無理だ。お前に加護を授ける事は出来ん』
「きゅぅ…」

弾丸のようだった。そして私はその弾丸に蜂の巣にされた。自分が無能な事も分かっているし、ハイネさんの力が凄い事も分かっている。けれど、私だって頑張ってるんだ。けれど…

『頑張ってるから何だ?現にお前に神力は無い。勿論これから増える事も無いだろう』

クー様も言っていた。濁すように、私を傷付けないように。でも、木の主は違う。ストレートな言葉で正論をずっと吐き続けている。
もうぽっきりと心が折れそうだった。あんな程度の魔法で喜んでいた自分が馬鹿みたいだ。ハイネさんに褒められて調子に乗った罰かもしれない。身の程知らず、だ。

「きゅ…きゅぅ…」
「…ナツ?」
「きゅぅ…」

大きな瞳からぽろぽろと涙が溢れる。悔しくて、情けなくてしょうがなかった。
私の顔を覗き込んだハイネさんがぴしり、と固まる。

「きゅぅ…きゅぅ…」

短い足で何度も顔を拭う。それでも涙は次から次へと溢れ、止まる事を知らないかのように流れ続けた。

――その時だった。

ドガァン!!と大きな破裂音が背後からする。そして身も凍るような凄まじい程の神力。もしかして。

「…ナツを泣かせたな?」

あ、これヤバいやつだ。



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