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雨。

次の日、朝起きると珍しく雨が降っていた。

その日はただただぼーっとして過ごしていた。
本も読まず、勉強もせず、絵も描かず、ただただ机に座って窓の外を眺めていた。

朝食は食べないと言ってしまったが、何もしていなかったものだから、気も紛れず、お腹が鳴っている。

いつもは庭に出ている時刻になった。

門の前を見ても、カリーナはいない。

「雨だから来なかったのかな…」

少しほっとした。


コンコン…

「どうぞ」

「失礼します。マナ王女様、お腹が空いていらっしゃると思って、パンケーキを焼いてきました。」

いつもお世話をしてくれるメイドだ。

優しいなと思った。

「ありがとう。そこに置いておいて。」

「承知しました。」

メイドは、ドアの近くの棚に食器を起き、部屋から出ていった。

もう少し、心のこもったお礼をしたら良かったな。
後悔した。だけど、それは私にとっては難しいこと。

食器を机に置き、雨に打たれている花を見ながらパンケーキを頬張った。

「美味しい…」

友達に会えなくなり、落ち込んだ私を慰めてくれる、優しい味だった。

食べながら、ふと門の前を見てみる。

そこには、帽子を被り、バスケットを持った女の子がいた。

間違いない。

「カリーナ………」

私は今すぐ会いたいという衝動にかられたが、お父様とお母様の言葉が頭に過る。

私はパンケーキを食べることに集中し、見なかったことにした。


夕方になると、雨は止んだ。

雨が降っていたことが嘘かのように夕日が輝いている。

私は急いで外に出た。カリーナがいないことは分かっていた。だけど、部屋にいるのも嫌だった。

門の前に行くと、外側に、バスケットが置かれていた。

「カリーナ…ごめんね……」

今は謝りたい気持ちでいっぱいだ。

門の扉を少し開け、バスケットを手に取った。

中を開けると、クッキーが入っていた。

クッキーといっしょに、手紙のようなものも入っていた。

『マナ王女様へ、クッキー焼いたんだ。少し焦げてしまったけれど、美味しくできたよ。口に合わなかったらごめんね。私、明日引っ越すの。ここからすごく遠い街に。今までお話してくれてありがとうね。ずっと友達だからね。カリーナより。』

涙で視界がぼやけてきた。

ぽろぽろと落ちる涙……久しぶりの感覚に少し戸惑ったが、それよりも、カリーナに会いたかった。

私は、門を抜け出した。  
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