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4、薄暗い部屋で
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「……ちょっと、びっくりさせないでよ!」
クレモンティーヌは、扉の前に陣取っているクマみたいな大男に文句を言った。
薄明かりに浮かび上がった顔は、間違いなくカシス・ロンガンだった。
ただでさえ忙しいのに、今は気を遣って男と話す暇などない。
「もう!どいてよ!」
と、言ったのになぜか男はどんどんクレモンティーヌの近くに寄ってくる。
なんだかイヤな予感がした。
ジリジリと追い詰められて、後退りする。
しかし、すぐにクレモンティーヌのお尻に冷たくて固いテーブルが当たった。
逃げ場がもう無い。
目の前まで迫った男が、クレモンティーヌの手首を掴む。
「やめて!なにすんのよ」
「結婚を承諾しないのなら、既成事実を作るしかない」
「はぁ!?何言ってんの!頭おかし……」
クレモンティーヌが最後まで言い終わらないうちに、男がキスしようと顔を近づけてきた。
それを寸でのところで、顔を背け回避する。
「逃げるなよ」
「逃げるに決まってるでしょ!こんなことしたら犯罪よ!」
「お前が手に入るなら、犯罪者でも良い」
「いや、いや、あなた平和を守る近衛兵でしょ!?おかしいって」
キスできなくて諦めたのか、男は代わりにクレモンティーヌの首筋に唇を押し付けてきた。
体温が熱い。思わず全身に鳥肌が立つ。
男の手がクレモンティーヌの背中に回る。
キツく抱き寄せられて、そのままテーブルに押し倒された。
今まで生きてきた中で一番のピンチ。
「か、体だけ手に入れたって、心までは手に入らないんですからね!!」
クレモンティーヌの言葉に、男の動きが止まる。
「それは、本当か?」
「それはそうでしょ」
「でも、相談した長老は女は一度抱けば情が移ると……」
長老なんてこと教えてるんだ。
これだから単細胞は……。
「無理やりやられてそんなことあるわけないでしょ!そんなことしたら、あなたのこと一生許さないから」
「それは、困る。俺はお前に愛されたい」
どうやら、ただの筋肉バカではないらしい。
以外にも話が通じそうでホッとする。
「どうやったら、お前の気持ちまで手に入る?」
「それは……、分からないわ。でも、この状況じゃ絶対、無理ね」
男の腕の中に抱かれたままで、クレモンティーヌはどうやってここから逃げ出そうか考えていた。
腕っぷしの強い男に勝つには腕力ではなく、頭を使うしかない。
「……ちょっと、匂い嗅がないで!」
クレモンティーヌの髪に鼻先を埋め、男が荒い息を吐く。
「良い匂いがする」
「やめてよ!この変態!」
男の押し付けられた股間に違和感を感じた。
ーー固い。
クレモンティーヌは、さらなる身の危険を察知し青ざめる。
彼氏がいた経験はないが、周りの話がイヤでも耳に入ってくる。
いつの間にか、耳年増だ。
そのおかげで今、自分がどれだけ貞操の危機に晒されているのか。
その危機的状況がイヤというほど、分かる。
「や、優しい人が好きなの!」
「……えっ?」
「私の意見を尊重してくれる優しい人が好き」
「優しい人になれば良いのか?」
「そうね。手始めに、このテーブルと椅子を中庭まで運ぶのを手伝ってくれるのなら、一度デートしても良いわ」
「本当か!?」
その言葉を聞いて、男が体を勢いよく起こした。
ようやくクレモンティーヌは解放される。
体を起こしたことで、男の表情が初めて見えた。
嬉しそうな表情。
どうして、こんなにも自分に執着しているのか。
思い当たる節が一つもない。
不思議に思いながらも、クレモンティーヌは急いで起き上がり、衣服の乱れを整える。
なんとか、この状況から抜け出すことができそうだ。
「これを運べば良いのか」
男がテーブルを軽々と持ち上げる。
クレモンティーヌは、先に進み重い扉を開け放った。
「傷つけないようにお願いね」
「お安い御用!」
男は嬉々として、薄暗い倉庫からテーブルを運ぶために出て行った。
クレモンティーヌも一脚だけ椅子を持ち、続いて倉庫から出る。
無事、クレモンティーヌは貞操の危機を脱し、仕事に戻ることができたのだった。
しかし、咄嗟に出たデートの約束が新たな火種になるとは、この時のクレモンティーヌは知る由もなかった。
クレモンティーヌは、扉の前に陣取っているクマみたいな大男に文句を言った。
薄明かりに浮かび上がった顔は、間違いなくカシス・ロンガンだった。
ただでさえ忙しいのに、今は気を遣って男と話す暇などない。
「もう!どいてよ!」
と、言ったのになぜか男はどんどんクレモンティーヌの近くに寄ってくる。
なんだかイヤな予感がした。
ジリジリと追い詰められて、後退りする。
しかし、すぐにクレモンティーヌのお尻に冷たくて固いテーブルが当たった。
逃げ場がもう無い。
目の前まで迫った男が、クレモンティーヌの手首を掴む。
「やめて!なにすんのよ」
「結婚を承諾しないのなら、既成事実を作るしかない」
「はぁ!?何言ってんの!頭おかし……」
クレモンティーヌが最後まで言い終わらないうちに、男がキスしようと顔を近づけてきた。
それを寸でのところで、顔を背け回避する。
「逃げるなよ」
「逃げるに決まってるでしょ!こんなことしたら犯罪よ!」
「お前が手に入るなら、犯罪者でも良い」
「いや、いや、あなた平和を守る近衛兵でしょ!?おかしいって」
キスできなくて諦めたのか、男は代わりにクレモンティーヌの首筋に唇を押し付けてきた。
体温が熱い。思わず全身に鳥肌が立つ。
男の手がクレモンティーヌの背中に回る。
キツく抱き寄せられて、そのままテーブルに押し倒された。
今まで生きてきた中で一番のピンチ。
「か、体だけ手に入れたって、心までは手に入らないんですからね!!」
クレモンティーヌの言葉に、男の動きが止まる。
「それは、本当か?」
「それはそうでしょ」
「でも、相談した長老は女は一度抱けば情が移ると……」
長老なんてこと教えてるんだ。
これだから単細胞は……。
「無理やりやられてそんなことあるわけないでしょ!そんなことしたら、あなたのこと一生許さないから」
「それは、困る。俺はお前に愛されたい」
どうやら、ただの筋肉バカではないらしい。
以外にも話が通じそうでホッとする。
「どうやったら、お前の気持ちまで手に入る?」
「それは……、分からないわ。でも、この状況じゃ絶対、無理ね」
男の腕の中に抱かれたままで、クレモンティーヌはどうやってここから逃げ出そうか考えていた。
腕っぷしの強い男に勝つには腕力ではなく、頭を使うしかない。
「……ちょっと、匂い嗅がないで!」
クレモンティーヌの髪に鼻先を埋め、男が荒い息を吐く。
「良い匂いがする」
「やめてよ!この変態!」
男の押し付けられた股間に違和感を感じた。
ーー固い。
クレモンティーヌは、さらなる身の危険を察知し青ざめる。
彼氏がいた経験はないが、周りの話がイヤでも耳に入ってくる。
いつの間にか、耳年増だ。
そのおかげで今、自分がどれだけ貞操の危機に晒されているのか。
その危機的状況がイヤというほど、分かる。
「や、優しい人が好きなの!」
「……えっ?」
「私の意見を尊重してくれる優しい人が好き」
「優しい人になれば良いのか?」
「そうね。手始めに、このテーブルと椅子を中庭まで運ぶのを手伝ってくれるのなら、一度デートしても良いわ」
「本当か!?」
その言葉を聞いて、男が体を勢いよく起こした。
ようやくクレモンティーヌは解放される。
体を起こしたことで、男の表情が初めて見えた。
嬉しそうな表情。
どうして、こんなにも自分に執着しているのか。
思い当たる節が一つもない。
不思議に思いながらも、クレモンティーヌは急いで起き上がり、衣服の乱れを整える。
なんとか、この状況から抜け出すことができそうだ。
「これを運べば良いのか」
男がテーブルを軽々と持ち上げる。
クレモンティーヌは、先に進み重い扉を開け放った。
「傷つけないようにお願いね」
「お安い御用!」
男は嬉々として、薄暗い倉庫からテーブルを運ぶために出て行った。
クレモンティーヌも一脚だけ椅子を持ち、続いて倉庫から出る。
無事、クレモンティーヌは貞操の危機を脱し、仕事に戻ることができたのだった。
しかし、咄嗟に出たデートの約束が新たな火種になるとは、この時のクレモンティーヌは知る由もなかった。
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