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17・ご無礼します(ウィステリア編)
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放課後になり、雅と芙綺、そして寿の三人は一緒に教室を出た。
「旧館用の上履きがないなら、上履き持ってってねー」
「わかった」
「うん」
下駄箱で靴に履き替え、上履きを持って旧館へと歩いて向かう。
旧館前のゆるやかな小高い場所には古い桜の木があり、いまが盛りとばかりに満開に花を咲かせている。
その木の前にも木があるのだが、先に花は咲いてしまったのか、小さな緑の葉がぽつぽつと開いている。
桜の前には生徒らが通るたびに、スマホを持って写真を撮っている。
「いいよねーこの風景」
寿が言うと、雅も芙綺も頷いた。
「あたし、写真撮った」
「ワイもや。出来ればカメラ持ってきたい」
「そういや雅っちは映像研究部だっけ。どうせ旧館の中にあるからさ、先輩に挨拶したら?」
「マジでか。もうさっさと入部してしまおうな」
「そうしなよー、なにごとも済ましちゃったほうがいいって」
賑やかにお喋りする雅と寿に、いいなあ、と芙綺は思った。
中学生の頃なんて、女子と話すことなんか滅多になかった。
芙綺が興味があるのはサッカーだし、友人たちは芙綺の理解できない話ばかりで盛り上がっていた。
悪い人ばかりでなかったとは思う、気を使われていたのも判る。
でも芙綺には、これといった親友のような人は結局できなかった。
「美少女―、こっちこっち」
ぼうっと桜を眺めていた芙綺を、二階の窓から眺める人があった。
(確かに、すごい美少女だな)
ふ、と笑い、もうすぐここにやって来るだろう美少女らを出迎える為、立ち上がった。
「わあ」
煉瓦のアーチをくぐり、中へと入る。
階段を上り、ドアを開けると、最初に目についたのは玄関ホールだ。
足元にはタイルの模様が美しくデザインされてある。
「おお、ここだけでも映えますな」
スマホを取り出そうとした雅に、寿が言った。
「もう、雅っち、そんなん今度にしな、今度に。先に部室行こうよ、時間なくなっちゃう」
「判ったでござる」
ほおお、と雅も感心してきょろきょろしている。
確かにスマホを取り出す雅の気持ちもわかる。
「靴はそっちの靴箱に入れといて」
寿に教えられ、皆、靴を靴箱へつっこんで上履きに履き替えた。
「演劇部は上なんだー。こっちだよ」
飴色の手すりに手をそえて、案内の通りに二階へと登る。
古い建物の独特のにおい、木や、煉瓦や、外からだろうか、かすかに流れ込んで来る桜の香りが鼻をくすぐる。
明るい春の日差しが、建物の窓から差し込んでまっすぐに光のラインをあちこちに作っている。
(窓が多いのかな?)
よく判らないまま、足取りも軽く古い階段を上る。
制服のスカートのはためく重さとか、音。
どこかの部屋から聞こえる、女の子の楽しそうな声が響く。
階段を先に上る友人たちの姿が、小さな光で包まれている。
その時、なぜか芙綺は予感があった。
(絶対、絶対、あたしはこの学校が一生好きになる)
きっとそれは、変わらない。そんな気がした。
二階の廊下を進んですぐ、寿はある部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
仲から声がして、寿が「御無礼しまーす」と言って入る。
「あ、雅っちも美少女も、ウィステリアでは『失礼します』じゃなくて『御無礼します』っていうんだからね!覚えてね!ウィステリアでの常識!」
「がってん承知の助」
「判った」
そうなんだーーと思って部屋に入ると、窓際に立っている人が居た。
すらっとした立ち姿で、背が高いな、というのが芙綺の第一印象だった。
「いらっしゃい。入ってくるの見えたよ」
そう喋る女の子は、声もハスキーだ。
なんかかっこいいな、と芙綺はじっと女の子を見つめた。
髪はショートカット、目は涼やかでも鋭い。
どちらかといえば美女と言うより、美少年、といった雰囲気がある。
寿が美少年のような女の子のところへ駆け寄った。
「お蘭―!おつかれー。美少女連れて来た」
「言われなくても判るよ。近くで見ても凄く可愛いね」
そういってふっと笑う。
やっぱりなんかカッコいいなこの人、と芙綺は思った。
「えと、小早川芙綺です。周防市出身です」
「周防市ってことは寮だね」
「はい」
すると話を聞いていた寿が吹き出した。
「美少女、かしこまらなくてもいいって。そいつ先輩じゃないから」
「えっ」
てっきり背も高いし雰囲気もあるから先輩だと思い込んでいた芙綺は驚く。
「先輩じゃないんですか?ごめんなさい、あたしてっきり」
「気にしなくて良いよ。私けっこうあるからさ、よく間違われるんだ」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
「手塚蘭子です。演劇部に所属してます」
「蘭ねーちゃんとわたしでコンビ組んでるの!ウィステリアの星になるの!」
成程、確かにすらりとした蘭子と可愛い雰囲気の寿は宝塚の男役と女役のようだ。
「それより、今日はネイルしに来たんじゃなかったの?」
「そうなんよ。美少女と雅っちに」
「ワイもでござるか」
「そうよー、お揃いにしようよ。可愛い方がいいじゃん」
「ではワイは推しのカラーで頼む」
「りょーかーい」
びしっと敬礼する寿に、蘭子が言った。
「あ、先輩もあんたにネイルして欲しいって言ってたよ」
「はーん、この寿ちゃんの器用さに早速参ったってワケね」
「そうそう」
「蘭ねーちゃん、お返事軽いわ」
「蘭ねえちゃん言うな。お前はコナンくんか」
蘭子と寿のやりとりに、確かに良いコンビだと、芙綺と雅は笑った。
「旧館用の上履きがないなら、上履き持ってってねー」
「わかった」
「うん」
下駄箱で靴に履き替え、上履きを持って旧館へと歩いて向かう。
旧館前のゆるやかな小高い場所には古い桜の木があり、いまが盛りとばかりに満開に花を咲かせている。
その木の前にも木があるのだが、先に花は咲いてしまったのか、小さな緑の葉がぽつぽつと開いている。
桜の前には生徒らが通るたびに、スマホを持って写真を撮っている。
「いいよねーこの風景」
寿が言うと、雅も芙綺も頷いた。
「あたし、写真撮った」
「ワイもや。出来ればカメラ持ってきたい」
「そういや雅っちは映像研究部だっけ。どうせ旧館の中にあるからさ、先輩に挨拶したら?」
「マジでか。もうさっさと入部してしまおうな」
「そうしなよー、なにごとも済ましちゃったほうがいいって」
賑やかにお喋りする雅と寿に、いいなあ、と芙綺は思った。
中学生の頃なんて、女子と話すことなんか滅多になかった。
芙綺が興味があるのはサッカーだし、友人たちは芙綺の理解できない話ばかりで盛り上がっていた。
悪い人ばかりでなかったとは思う、気を使われていたのも判る。
でも芙綺には、これといった親友のような人は結局できなかった。
「美少女―、こっちこっち」
ぼうっと桜を眺めていた芙綺を、二階の窓から眺める人があった。
(確かに、すごい美少女だな)
ふ、と笑い、もうすぐここにやって来るだろう美少女らを出迎える為、立ち上がった。
「わあ」
煉瓦のアーチをくぐり、中へと入る。
階段を上り、ドアを開けると、最初に目についたのは玄関ホールだ。
足元にはタイルの模様が美しくデザインされてある。
「おお、ここだけでも映えますな」
スマホを取り出そうとした雅に、寿が言った。
「もう、雅っち、そんなん今度にしな、今度に。先に部室行こうよ、時間なくなっちゃう」
「判ったでござる」
ほおお、と雅も感心してきょろきょろしている。
確かにスマホを取り出す雅の気持ちもわかる。
「靴はそっちの靴箱に入れといて」
寿に教えられ、皆、靴を靴箱へつっこんで上履きに履き替えた。
「演劇部は上なんだー。こっちだよ」
飴色の手すりに手をそえて、案内の通りに二階へと登る。
古い建物の独特のにおい、木や、煉瓦や、外からだろうか、かすかに流れ込んで来る桜の香りが鼻をくすぐる。
明るい春の日差しが、建物の窓から差し込んでまっすぐに光のラインをあちこちに作っている。
(窓が多いのかな?)
よく判らないまま、足取りも軽く古い階段を上る。
制服のスカートのはためく重さとか、音。
どこかの部屋から聞こえる、女の子の楽しそうな声が響く。
階段を先に上る友人たちの姿が、小さな光で包まれている。
その時、なぜか芙綺は予感があった。
(絶対、絶対、あたしはこの学校が一生好きになる)
きっとそれは、変わらない。そんな気がした。
二階の廊下を進んですぐ、寿はある部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
仲から声がして、寿が「御無礼しまーす」と言って入る。
「あ、雅っちも美少女も、ウィステリアでは『失礼します』じゃなくて『御無礼します』っていうんだからね!覚えてね!ウィステリアでの常識!」
「がってん承知の助」
「判った」
そうなんだーーと思って部屋に入ると、窓際に立っている人が居た。
すらっとした立ち姿で、背が高いな、というのが芙綺の第一印象だった。
「いらっしゃい。入ってくるの見えたよ」
そう喋る女の子は、声もハスキーだ。
なんかかっこいいな、と芙綺はじっと女の子を見つめた。
髪はショートカット、目は涼やかでも鋭い。
どちらかといえば美女と言うより、美少年、といった雰囲気がある。
寿が美少年のような女の子のところへ駆け寄った。
「お蘭―!おつかれー。美少女連れて来た」
「言われなくても判るよ。近くで見ても凄く可愛いね」
そういってふっと笑う。
やっぱりなんかカッコいいなこの人、と芙綺は思った。
「えと、小早川芙綺です。周防市出身です」
「周防市ってことは寮だね」
「はい」
すると話を聞いていた寿が吹き出した。
「美少女、かしこまらなくてもいいって。そいつ先輩じゃないから」
「えっ」
てっきり背も高いし雰囲気もあるから先輩だと思い込んでいた芙綺は驚く。
「先輩じゃないんですか?ごめんなさい、あたしてっきり」
「気にしなくて良いよ。私けっこうあるからさ、よく間違われるんだ」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
「手塚蘭子です。演劇部に所属してます」
「蘭ねーちゃんとわたしでコンビ組んでるの!ウィステリアの星になるの!」
成程、確かにすらりとした蘭子と可愛い雰囲気の寿は宝塚の男役と女役のようだ。
「それより、今日はネイルしに来たんじゃなかったの?」
「そうなんよ。美少女と雅っちに」
「ワイもでござるか」
「そうよー、お揃いにしようよ。可愛い方がいいじゃん」
「ではワイは推しのカラーで頼む」
「りょーかーい」
びしっと敬礼する寿に、蘭子が言った。
「あ、先輩もあんたにネイルして欲しいって言ってたよ」
「はーん、この寿ちゃんの器用さに早速参ったってワケね」
「そうそう」
「蘭ねーちゃん、お返事軽いわ」
「蘭ねえちゃん言うな。お前はコナンくんか」
蘭子と寿のやりとりに、確かに良いコンビだと、芙綺と雅は笑った。
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