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15・ショートカットにもほどがある
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名前は乃木幾久君。
報国院男子高等学校の生徒で現在高校二年生。
ひとつ年上だ。
それなのに可愛い。ひたすら可愛い。
バインダーの中は公式(重要)グッズが詰まっている。
あとはスクショしていいと言われたやつをプリントしたものだとか、力作がぎっしり詰まっている。
(推しのおかげで、クラスが上がったと言っても過言ではない)
家から一番近いし、母もウィステリアだし、正直、勉強しなくても受かる最低ラインのクラスでいいや、と思っていた。
だが、ウィステリアの部活では、成績優秀なほうが優先されると聞いて雅は焦った。
元々ウィステリアで文化部は盛んでなく、ごく一部の生徒がやっているのに過ぎないのだが、そこに所属する場合、最低クラスである『蔦』クラスだと、入部すら許されない事があるのだと言う。
それを聞いて雅は驚いた。
しかも、丁度その頃、従姉の菫のおかげで(せいで)報国院の舞台、ロミジュリを映像で見せられ、ドはまりした。
ロミオ役の御堀誉君もドがつくイケメンだが、雅がハマったのはジュリエット役の乃木幾久君だ。
めちゃんこ可愛い。
とっても可愛い。
受験勉強の最中、時折開かれる不意打ちのインスタライブからでも見える人の良さと言うか可愛さにすっかり打ち抜かれた。
「部活でひょっとしたら、推しを撮るチャンスがあるかもしれん」
デュフフ、と雅は気色の悪い笑みを浮かべた。
ウィステリアと報国院は姉妹校。
報国院の文化祭である桜柳祭でも、ウィステリアは優先的に招待されるのだと言う。
(今年の舞台はわからないが、チャンスはきっとある!)
そのためにもカメラの腕は磨かねば!と思った雅だった。
翌朝。
まだ着慣れてない制服に悪戦苦闘しながらも、雅は約束した時間通りに支度を済ませた。
「おはよう雅!」
「おはよー美少女」
玄関のドアを開けると、それはそれはにこやかな、美少女の姿があった。
「美少女、早いね。朝型なの?」
今日、芙綺は起きる時間よりも早く、芙綺からのメッセージで目を覚ました。
「うん。ずっと朝は自主トレやってたから」
「へー、そうなんだ。ひょっとして今日も?」
芙綺は首を横に振る。
ロングヘアーが流れるようになびく。
「ううん。単純に早く目が覚めちゃってさ。学院長も起きてたから、みんなが起きるまで、お手伝いとかしながらお喋りしてた」
「おおう……あの迫力ある学院長とか」
「割と気さくだよ。確かに雰囲気ちょっと怖いけど」
「いやけっこうこええよ?」
「でもいい人だし」
芙綺はすっかり学院長に懐いていた。
「確かに美女だもんなあ。カッコよくて強い」
「あたしもあんな風になりたいなあ」
「そうなの?強いのがいいんだ?」
「そうだよ。この学校に居る間に、なんでも全部、自分でしっかり出来るようになりたいの。大学だって行きたいし」
高校に入学したばっかりなのに、もう大学の事を考えているのか、と雅は芙綺に目を見張った。
「えらいなあ、ワイはなんも考えとらん。高校入ってヒャッハーでしかないわ」
「別にそれでいいじゃないの。あたしが焦ってるだけだよ」
「若いのに」
「雅だって若いじゃん」
「そうだけどさ」
そんなふうにお喋りをしているうちに、学校がすぐに見えてくる。
「美少女、こっち。裏口からの近道を教える。ものすげーショートカットできるよ」
「まじで。教えて教えて」
ウィステリアは昔から地域と密着した古い場所にある学校なので、あたりに民家がぐるりと囲んでいるようになっている。
地域の人しか知らない抜け道も多く、古い家なんかはウィステリアの生徒が庭を駆け抜けても知らんふりしてくれることも多い。
「ちょっと、雅、ここって人んちじゃ」
「大丈夫、知ってる人ん家だから」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだよ」
勝手知ったる、で雅はさくさく進んでいくが、さすがに芙綺は戸惑っていた。
「おっはよーございまーす」
他人の家の庭、というか裏道の通路をそう言いながら進む雅に、芙綺は目を丸くするのだった。
確かに学校には驚くほどショートカットして到着する事が出来たが、さすがに他人の家を抜けるのは気が引ける。
「雅、あの通路は通るのやめて」
「通りづらい?」
「うん」
「わかった。じゃあ、次からは昨日の道の方を通ろっか」
良かった、と芙綺はほっと胸を撫でおろした。
裏口から入れば時間は短縮できるが、芙綺は正門の雰囲気も嫌いじゃなかった。
英国風で、黒い鉄製のお洒落な門は、現実離れしていて、故郷を思い出さずに済む。
下駄箱へ向かい、靴を入れ、上履きに履き替え教室へ向かう。
「なんかどこみても黒いね」
ウィステリアでは上履きも黒や紺を採用しているので、制服とあわせても真っ黒だ。
始業前なのでどこも賑やかで、クラスが違う友人同士なのか、廊下でお喋りをしているグループもある。
誰も自分の事しか目に入っていないようで、芙綺はちょっと気楽だ。
教室に入り、二人は自分の席についた。
「やっと迷わず教室に着いた」
そう言う雅に芙綺は苦笑した。
「なに言ってんの。迷うほどじゃないでしょ」
「あ、そうだ。美少女、今週の予定決めない?」
「予定?」
報国院男子高等学校の生徒で現在高校二年生。
ひとつ年上だ。
それなのに可愛い。ひたすら可愛い。
バインダーの中は公式(重要)グッズが詰まっている。
あとはスクショしていいと言われたやつをプリントしたものだとか、力作がぎっしり詰まっている。
(推しのおかげで、クラスが上がったと言っても過言ではない)
家から一番近いし、母もウィステリアだし、正直、勉強しなくても受かる最低ラインのクラスでいいや、と思っていた。
だが、ウィステリアの部活では、成績優秀なほうが優先されると聞いて雅は焦った。
元々ウィステリアで文化部は盛んでなく、ごく一部の生徒がやっているのに過ぎないのだが、そこに所属する場合、最低クラスである『蔦』クラスだと、入部すら許されない事があるのだと言う。
それを聞いて雅は驚いた。
しかも、丁度その頃、従姉の菫のおかげで(せいで)報国院の舞台、ロミジュリを映像で見せられ、ドはまりした。
ロミオ役の御堀誉君もドがつくイケメンだが、雅がハマったのはジュリエット役の乃木幾久君だ。
めちゃんこ可愛い。
とっても可愛い。
受験勉強の最中、時折開かれる不意打ちのインスタライブからでも見える人の良さと言うか可愛さにすっかり打ち抜かれた。
「部活でひょっとしたら、推しを撮るチャンスがあるかもしれん」
デュフフ、と雅は気色の悪い笑みを浮かべた。
ウィステリアと報国院は姉妹校。
報国院の文化祭である桜柳祭でも、ウィステリアは優先的に招待されるのだと言う。
(今年の舞台はわからないが、チャンスはきっとある!)
そのためにもカメラの腕は磨かねば!と思った雅だった。
翌朝。
まだ着慣れてない制服に悪戦苦闘しながらも、雅は約束した時間通りに支度を済ませた。
「おはよう雅!」
「おはよー美少女」
玄関のドアを開けると、それはそれはにこやかな、美少女の姿があった。
「美少女、早いね。朝型なの?」
今日、芙綺は起きる時間よりも早く、芙綺からのメッセージで目を覚ました。
「うん。ずっと朝は自主トレやってたから」
「へー、そうなんだ。ひょっとして今日も?」
芙綺は首を横に振る。
ロングヘアーが流れるようになびく。
「ううん。単純に早く目が覚めちゃってさ。学院長も起きてたから、みんなが起きるまで、お手伝いとかしながらお喋りしてた」
「おおう……あの迫力ある学院長とか」
「割と気さくだよ。確かに雰囲気ちょっと怖いけど」
「いやけっこうこええよ?」
「でもいい人だし」
芙綺はすっかり学院長に懐いていた。
「確かに美女だもんなあ。カッコよくて強い」
「あたしもあんな風になりたいなあ」
「そうなの?強いのがいいんだ?」
「そうだよ。この学校に居る間に、なんでも全部、自分でしっかり出来るようになりたいの。大学だって行きたいし」
高校に入学したばっかりなのに、もう大学の事を考えているのか、と雅は芙綺に目を見張った。
「えらいなあ、ワイはなんも考えとらん。高校入ってヒャッハーでしかないわ」
「別にそれでいいじゃないの。あたしが焦ってるだけだよ」
「若いのに」
「雅だって若いじゃん」
「そうだけどさ」
そんなふうにお喋りをしているうちに、学校がすぐに見えてくる。
「美少女、こっち。裏口からの近道を教える。ものすげーショートカットできるよ」
「まじで。教えて教えて」
ウィステリアは昔から地域と密着した古い場所にある学校なので、あたりに民家がぐるりと囲んでいるようになっている。
地域の人しか知らない抜け道も多く、古い家なんかはウィステリアの生徒が庭を駆け抜けても知らんふりしてくれることも多い。
「ちょっと、雅、ここって人んちじゃ」
「大丈夫、知ってる人ん家だから」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだよ」
勝手知ったる、で雅はさくさく進んでいくが、さすがに芙綺は戸惑っていた。
「おっはよーございまーす」
他人の家の庭、というか裏道の通路をそう言いながら進む雅に、芙綺は目を丸くするのだった。
確かに学校には驚くほどショートカットして到着する事が出来たが、さすがに他人の家を抜けるのは気が引ける。
「雅、あの通路は通るのやめて」
「通りづらい?」
「うん」
「わかった。じゃあ、次からは昨日の道の方を通ろっか」
良かった、と芙綺はほっと胸を撫でおろした。
裏口から入れば時間は短縮できるが、芙綺は正門の雰囲気も嫌いじゃなかった。
英国風で、黒い鉄製のお洒落な門は、現実離れしていて、故郷を思い出さずに済む。
下駄箱へ向かい、靴を入れ、上履きに履き替え教室へ向かう。
「なんかどこみても黒いね」
ウィステリアでは上履きも黒や紺を採用しているので、制服とあわせても真っ黒だ。
始業前なのでどこも賑やかで、クラスが違う友人同士なのか、廊下でお喋りをしているグループもある。
誰も自分の事しか目に入っていないようで、芙綺はちょっと気楽だ。
教室に入り、二人は自分の席についた。
「やっと迷わず教室に着いた」
そう言う雅に芙綺は苦笑した。
「なに言ってんの。迷うほどじゃないでしょ」
「あ、そうだ。美少女、今週の予定決めない?」
「予定?」
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