416 / 416
【28】麻中之蓬~二度目の呼吸【2年生編】プロローグ
二度目の呼吸
しおりを挟む
息を吸う。
目の前の真っ暗な空間には、きっと沢山の人がこちらを見つめているのだろう。
ひしめき合った人の雰囲気は暗くとも判る。
(まるで夜の海だ)
そう思った。
ざわめきを波と思えるなら、確かにここは海のようだ。
明治時代の軍服に身を包み、言いたくないと何度も詰まらせたこの言葉から、今日やっと解放される。
言葉を記号と思えば、どんな言葉も使うことが出来る。
だけど、もしこの記号に想いと願いがあるなら、どれほどの感情があったのだろう。
明治時代の元勲、陸軍将軍、乃木(のぎ)希典(まれすけ)。
彼の服を纏い、彼の名を纏い、彼の人生を纏い、ここに立つ。
ここから自分は彼になる。
前を見ると、見えるはずのない風景が広がった。
ここに居るのは、乃木を輝く瞳で見つめ、言葉を待つ、並び立つ生徒ら。
戦争で軍功を上げた乃木将軍の事を知らぬものは無い。
子供らが喜びます、さあどうぞ壇上へ、と、案内されるも足を止めた。
こんな事を、どんな顔をして上から言えと言うのか。
足を止めて、そのまま目の前の子らを向かい見た。
親、兄弟を失っただろう子供らの顔を見て、彼らの親を、兄を思う。
彼らは、どれほどこの目でこの子らを見たかっただろう。
どれほどまた会いたかっただろう。
抱きしめるはずの腕は引きちぎられ、足は飛び、地獄さながらの景色の中に強引に塗りこめられ、肉塊となり果てた。
生臭い匂いを纏い、遠い異国で、なぜ彼らは息絶えた。
それが戦争だ。それが命令だ。
そして運悪く、自分は常に生き残る。
生徒らの前に立ち、すう、と深く息を吸う。
あふれ出る気持ちを堪え、言葉を紡いだ。
「私が乃木であります」
静かな声だった。
だけど声色は気持ちに染まる。
「みなさんの、お父さん、お兄さんを殺した乃木であります」
世界から音が消え、真っ暗な空間には、ただ静寂があるのみ―――――
乃木希典さんのセリフは【古川薫・著の『軍神』より】
2年生編はPIXIVにて不定期連載中です。
ここにはチェック後、まとめてUPする予定です。
お急ぎの方はpixivへどうぞ。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14153371
目の前の真っ暗な空間には、きっと沢山の人がこちらを見つめているのだろう。
ひしめき合った人の雰囲気は暗くとも判る。
(まるで夜の海だ)
そう思った。
ざわめきを波と思えるなら、確かにここは海のようだ。
明治時代の軍服に身を包み、言いたくないと何度も詰まらせたこの言葉から、今日やっと解放される。
言葉を記号と思えば、どんな言葉も使うことが出来る。
だけど、もしこの記号に想いと願いがあるなら、どれほどの感情があったのだろう。
明治時代の元勲、陸軍将軍、乃木(のぎ)希典(まれすけ)。
彼の服を纏い、彼の名を纏い、彼の人生を纏い、ここに立つ。
ここから自分は彼になる。
前を見ると、見えるはずのない風景が広がった。
ここに居るのは、乃木を輝く瞳で見つめ、言葉を待つ、並び立つ生徒ら。
戦争で軍功を上げた乃木将軍の事を知らぬものは無い。
子供らが喜びます、さあどうぞ壇上へ、と、案内されるも足を止めた。
こんな事を、どんな顔をして上から言えと言うのか。
足を止めて、そのまま目の前の子らを向かい見た。
親、兄弟を失っただろう子供らの顔を見て、彼らの親を、兄を思う。
彼らは、どれほどこの目でこの子らを見たかっただろう。
どれほどまた会いたかっただろう。
抱きしめるはずの腕は引きちぎられ、足は飛び、地獄さながらの景色の中に強引に塗りこめられ、肉塊となり果てた。
生臭い匂いを纏い、遠い異国で、なぜ彼らは息絶えた。
それが戦争だ。それが命令だ。
そして運悪く、自分は常に生き残る。
生徒らの前に立ち、すう、と深く息を吸う。
あふれ出る気持ちを堪え、言葉を紡いだ。
「私が乃木であります」
静かな声だった。
だけど声色は気持ちに染まる。
「みなさんの、お父さん、お兄さんを殺した乃木であります」
世界から音が消え、真っ暗な空間には、ただ静寂があるのみ―――――
乃木希典さんのセリフは【古川薫・著の『軍神』より】
2年生編はPIXIVにて不定期連載中です。
ここにはチェック後、まとめてUPする予定です。
お急ぎの方はpixivへどうぞ。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14153371
0
お気に入りに追加
36
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
思春期ではすまない変化
こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。
自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。
落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく
初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる