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【26】秉燭夜遊~さよならアルクアラウンド
サイクルリサイクル
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駅に到着すると、確かにさっきの駅よりは一気に街になっていた。
だが、やはり地方という雰囲気がある。
「ここから歩いてすぐじゃ」
高杉が言うので、皆従ってついて歩いた。
「あっ!赤福!」
「あーとーでー、だよ」
この辺りでは赤福と呼ばれるお菓子が名物だが、その店舗を見つけて幾久の目は輝いた。
だが、先を急ぐためお菓子にくいつく幾久の袖を御堀が引っ張った。
その様子を見て児玉が苦笑するが、いつもなら茶化すはずの久坂が居ない。
あれ?と思っていると高杉が久坂を引っ張っていた。
「僕、もう行った事あるからいいよ。ここで待っとく」
「うるせえ!団体行動を乱すな!」
餡子大好きな久坂はちゃっかり自分だけ店に入ろうとしたところを高杉に見つかって引きずられている。
「あぁ……瑞祥先輩、餡子に目がないもんな」
じじくさい趣味丸出しで実際寮でもおやつは餡子ものばかりだ。
餡子がたっぷり乗っかった赤福は確かに瑞祥が好きそうだ。
「赤福の店なんぞ、どこにもあるじゃろう!いいから来い!」
「え、どこにもあるんスか?」
幾久が尋ねると、高杉と御堀が頷いた。
「ここじゃなくても、この後行くおかげ通りにあるよ」
「割とどこでも売ってる」
なーんだ、と幾久は安心した。
「じゃあ後でいいや。ゆっくり食べたいし」
御堀が言った。
「いろいろお菓子は種類があるよ」
「楽しみだなー」
「僕は贅沢言わないからここでいいよ」
まだ諦めが悪く久坂が言うも、高杉は「やかましい」と言ってずるずる久坂を引きずって行くのだった。
外宮に到着し、全員で一礼してから鳥居をくぐった。
橋を渡り、まずは手水舎(てみずしゃ)に向かい、全員で手を洗う。
「さすがに手水はデカいなー」
全員が使っても問題ないくらいに大きな手水鉢が置いてある。
「手水って言うよりお風呂だよね」
幾久が言うと、近くに居た人が「ぶっ」と水を噴出していた。
「幾久、お前本当に」
「えー?だって寮の風呂くらいあんじゃん。桜柳寮は?」
「うちはもっとデカいかなー」
そう言うのは普だ。
「お前ら、エエからさっさとやれ……」
すっかり疲れた高杉が言うので、全員わちゃわちゃと手水を済ませ、手を拭くと早速神社の敷地内へ向かった。
神楽殿にはお札やお守りがあったが、高杉が「後じゃぞ」という。
「先にお参りを済ませんとの」
確かに、と思ってつい向かいかけた足を戻す。
足元はごみひとつ落ちておらず、かなり掃除が行き届いているんだな、と思った。
当然だが、電柱も見えず、電線もない。
きちんと整備された山の中、といった雰囲気だ。
そして、幾久が驚くのは、その木々の高さと大きさだ。
地元であれば、まず間違いなくご神木とされるだろうくらいに大きな木が植えてあり、しかも絵で描かれたようにまっすぐ空へ向かっている。
「立派な木だなー、でっけえ!」
御門寮の敷地内にも高い木はあるが、もっと野性味あふれているというか、山の中にある、というのがしっくりくる雰囲気だ。
だが、ここにあるのものは、どれも奇麗で、寮の中を見慣れた幾久にとって驚くほど整っていた。
「すごい奇麗っスね。自然しかないのに」
「そうだね。広さもあるけと、よく手入れされているからだろうね」
雪充の言葉に幾久は驚いて辺りを見渡す。
どこも、自然そのままといった雰囲気なのに、ゴミもなく、整っていて奇麗だった。
「なんか、逆に不自然っていうか。絵の中にいるみたい」
「寮の中はまんま山だからね」
あはは、と雪充が笑う。
自然しかないのに、どこか不自然に感じてしまうのは、多分御門寮の中を見慣れているからだ。
苔が生え、うっかりすると足をすべらせるし、ちょっと勢いのある雨が降れば勝手に小さな流れを作り出したりする。
御門寮には定期的に庭師の人が入っていて、手入れをするからどうにかなっているけれど、ほったらかしだったらすぐに歩くのも難しくなるだろう。
「でもお散歩にはすげー良いっす」
「確かにね。道は広いし」
「もしマスターが居たらずっとトレーニングに使いそう」
「それは間違いない」
多分、今頃ますく・ど・かふぇでいつも通りカフェにいるだろう、マッチョのマスターを思い出して幾久は笑った。
最初に向かったのは、外宮の正宮と呼ばれる場所だ。
幾久の想像とは全く違い、驚くほどシンプルだった。
白木の鳥居に、大きな賽銭箱。
賽銭箱もただ、そこに箱があるというだけで、中に布が敷いてあるだけ。
目の前にある門にはカーテンのように白い布が閉じてあり、本殿はその向こうになるというのだが。
「―――――見えねえ」
幾久の言葉に高杉が笑った。
「行いが悪いけ、神さんが顔見たくないんじゃねえのか」
「じゃあオレのせいじゃなく間違いなく瑞祥先輩のせいじゃないっすか」
「なんだと」
「神様の前でやめえ。大人しゅうお参り済ませろ」
お参りの仕方は、報国院でもやっているのでそこは問題なくできた。
全員で並んで柏手を打って、頭を下げた、その瞬間だった。
ぶわっと大きな風が本殿から吹きあがって、白い布が舞い上がり、中が見えた。
「あ、見えた!!!」
「やった!見えた!」
わあっと一瞬盛り上がる。
「ほら、僕の行いがいいから」
久坂が言うと、幾久は返した。
「ここの神様って女神なんすよね?やっぱアレか、イケメンつえーのかな。ありがとう誉」
「僕を巻き込むな。それよりここはごはん担当の神様だよ」
「えっ、知らなかった。美味しいご飯が食べられますようにって言わないと!」
「違う、いつもおいしいごはんをありがとうございます、だよ」
「あそっか」
ここは普通の神社とは違って、お願いじゃなくて感謝するところと説明を受けたばっかりだった。
「お願いするのはまた別の所だからね」
「じゃあ、オレ、もっかい頭さげとく!麗子さんのおかげでおいしいごはん、食べられてるし!」
そういってぺこりと幾久は頭を下げた。
お参りを済ませ、高杉が幾久に本殿横の場所を示した。
「そこが古殿地(こでんち)じゃ」
「なんすか?広いけど、何に使う場所っすか?」
本殿の隣に、広い場所があり、しめ縄が張ってあり入れないようにしてある。
足元は整っているが、石造りの溝みたいなものがあり、まるで遺跡のようだ。
「ここに次のお社を建てるんだよ。式年遷宮があるだろ?」
雪充が言うと、幾久が首を傾げた。
「しきねんせんぐうって?」
「二十年に一度、伊勢である神事だよ。この敷地内にある、神社や橋や、鳥居なんかは全て、二十年でとっかえるんだ」
「えー!二十年で?全部?」
神社といえば古いのが当たり前と思っていた幾久は驚いた。
「じゃあさっきのお社も、実は新しいんスか?」
「そう。次の式年遷宮で、解体される。で、次はいまお社がある場所をこっちみたいに置いといて、次のお社を建てるんだよ」
「へぇー、そうなんだ!」
「じゃけ、伊勢神宮は世界遺産には指定されん。建物自体は新しいけえの」
高杉が説明して、皆がへえ、と驚く。
「伝統を無形文化財とする考え方もあるみたいじゃが、建物自体は長くて二十年じゃ。遺産とは言えんじゃろう」
「門だけ新品なんだと思ってたけど、そうじゃないんスね」
へえー、と幾久は驚く。
雪充が言った。
「その時にお社や鳥居を解体して、その木が全国の神社に渡るんだよ」
「そんなシステムなんだ」
成程、じゃあ立派な木が二十年後にいろんな神社に渡るのか、と幾久は感心した。
「すげーリサイクルシステムっすね」
「伝統を守るにはいいと思うよ。どんなに残そうと思っても限界はあるからね」
「でも、書いて残すとかだったらできそう」
「いっくん、江戸時代の文字読める?」
「―――――読めないっす」
「そういう事。書いて残すのは必要だけど、そうじゃないことも必要だよね」
「そっか。確かに書いて残してオッケーなら、寮の引継ぎとかも別にいらないっスもんねえ」
幾久が感心すると、雪充は心の中で(上出来!)と思わず拍手した。
たったこれだけの話で、本質を理解できるのは良い事だ。
こういった事を理解してほしくて、前原は山田と普を誘ったのだろう。
学校に居ても、寮に居ても、理解できることには限界がある。
だからこそ、報国院はこうして外に出る事を推奨する。
旅行の準備は勿論、テーマ、予算、目的、結果。
自分たちでやりこなすためには総合的な判断が必要になる。
自分の頭で考えて理解して実行して修正する。
それこそが、報国院が生徒に求めるものだからだ。
外宮には本殿以外にも神社がある。
それらを歩きながら、喋りながら、全員は回ったのだった。
一通り周り終わり、御朱印帳も済ませて歩いていると、突然幾久が驚いた。
小屋の中に、真っ白い馬が居たからだ。
「馬だ!」
「馬だね」
「白い馬だ」
「ここは御厩(みくりや)だよ。神馬(しんめ)だね」
雪充が言うと、周布が「おお」と声を上げた。
「見事な造形だな。馬のあうことよ」
うんうん、と感心する周布はただの建築オタクになってしまっているが、服部が尋ねた。
「普通の家の形に見えますけど、これも柱だけで?」
周っている間、服部は周布にいろいろ尋ねていたらしい。
よく判らないものを作っている服部は、ひょっとしたら建築にも興味を持っているのかもな、と幾久は思った。
「そうだぞ!基本神社の建築は釘を使わない」
「えっ、釘を使わずにどうやって?」
驚く幾久に、服部が説明した。
「聞いたばっかだけど、地震が多いからだって。しっかり固定すると揺れないから、地震では壊れやすいんだって」
「日本は昔から地震が多いだろ?壊れないようにするためには地震に負けないんじゃなくて、地震はあるものとして、どう力を受け流すのかってのが重要なんだよ」
周布の説明に、幾久は感心した。
「ホント、寮みたいっスね」
ん?と周布が首を傾げた。
「トラブルあるのが当たり前で、それをどう受け流したり、解決するかっていうの。なんか寮のトラブルとかの話聞いてるみたいっス」
さっきから、雪充と話をしながらの続きのつもりだったので、幾久にしてみたら全部繋がっている内容でしかなかったのだが、幾久の言葉に驚いたのは一年生らだった。
「―――――幾、お前すげえな」
そう感心したのは山田だ。
「よく思いつくよね。感心する」
普も頷く。
「そう考えたら、確かに建物って、すごく考えられて作られてるんだなって」
弥太郎も急に、御厩を見るめが変わり、服部も頷いた。
すると周布は、ふ、と笑って幾久の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「うわ、なんスか!」
「いっくんは、ホントーにおりこうさんな良い子だねえ」
「僕が育てたからね」
雪充が自慢げに言うと、高杉と久坂が「えー」と不満げに返した。
「雪ちゃんおいしいとこ持ってっただけじゃん」
「そうじゃぞ、ワシらがどれだけ面倒見たとおもっちょるんじゃ」
「先輩らの面倒を見てるのはオレの方っスけど」
むっとして幾久が言い返すと、全員がどっと噴出した。
だが、やはり地方という雰囲気がある。
「ここから歩いてすぐじゃ」
高杉が言うので、皆従ってついて歩いた。
「あっ!赤福!」
「あーとーでー、だよ」
この辺りでは赤福と呼ばれるお菓子が名物だが、その店舗を見つけて幾久の目は輝いた。
だが、先を急ぐためお菓子にくいつく幾久の袖を御堀が引っ張った。
その様子を見て児玉が苦笑するが、いつもなら茶化すはずの久坂が居ない。
あれ?と思っていると高杉が久坂を引っ張っていた。
「僕、もう行った事あるからいいよ。ここで待っとく」
「うるせえ!団体行動を乱すな!」
餡子大好きな久坂はちゃっかり自分だけ店に入ろうとしたところを高杉に見つかって引きずられている。
「あぁ……瑞祥先輩、餡子に目がないもんな」
じじくさい趣味丸出しで実際寮でもおやつは餡子ものばかりだ。
餡子がたっぷり乗っかった赤福は確かに瑞祥が好きそうだ。
「赤福の店なんぞ、どこにもあるじゃろう!いいから来い!」
「え、どこにもあるんスか?」
幾久が尋ねると、高杉と御堀が頷いた。
「ここじゃなくても、この後行くおかげ通りにあるよ」
「割とどこでも売ってる」
なーんだ、と幾久は安心した。
「じゃあ後でいいや。ゆっくり食べたいし」
御堀が言った。
「いろいろお菓子は種類があるよ」
「楽しみだなー」
「僕は贅沢言わないからここでいいよ」
まだ諦めが悪く久坂が言うも、高杉は「やかましい」と言ってずるずる久坂を引きずって行くのだった。
外宮に到着し、全員で一礼してから鳥居をくぐった。
橋を渡り、まずは手水舎(てみずしゃ)に向かい、全員で手を洗う。
「さすがに手水はデカいなー」
全員が使っても問題ないくらいに大きな手水鉢が置いてある。
「手水って言うよりお風呂だよね」
幾久が言うと、近くに居た人が「ぶっ」と水を噴出していた。
「幾久、お前本当に」
「えー?だって寮の風呂くらいあんじゃん。桜柳寮は?」
「うちはもっとデカいかなー」
そう言うのは普だ。
「お前ら、エエからさっさとやれ……」
すっかり疲れた高杉が言うので、全員わちゃわちゃと手水を済ませ、手を拭くと早速神社の敷地内へ向かった。
神楽殿にはお札やお守りがあったが、高杉が「後じゃぞ」という。
「先にお参りを済ませんとの」
確かに、と思ってつい向かいかけた足を戻す。
足元はごみひとつ落ちておらず、かなり掃除が行き届いているんだな、と思った。
当然だが、電柱も見えず、電線もない。
きちんと整備された山の中、といった雰囲気だ。
そして、幾久が驚くのは、その木々の高さと大きさだ。
地元であれば、まず間違いなくご神木とされるだろうくらいに大きな木が植えてあり、しかも絵で描かれたようにまっすぐ空へ向かっている。
「立派な木だなー、でっけえ!」
御門寮の敷地内にも高い木はあるが、もっと野性味あふれているというか、山の中にある、というのがしっくりくる雰囲気だ。
だが、ここにあるのものは、どれも奇麗で、寮の中を見慣れた幾久にとって驚くほど整っていた。
「すごい奇麗っスね。自然しかないのに」
「そうだね。広さもあるけと、よく手入れされているからだろうね」
雪充の言葉に幾久は驚いて辺りを見渡す。
どこも、自然そのままといった雰囲気なのに、ゴミもなく、整っていて奇麗だった。
「なんか、逆に不自然っていうか。絵の中にいるみたい」
「寮の中はまんま山だからね」
あはは、と雪充が笑う。
自然しかないのに、どこか不自然に感じてしまうのは、多分御門寮の中を見慣れているからだ。
苔が生え、うっかりすると足をすべらせるし、ちょっと勢いのある雨が降れば勝手に小さな流れを作り出したりする。
御門寮には定期的に庭師の人が入っていて、手入れをするからどうにかなっているけれど、ほったらかしだったらすぐに歩くのも難しくなるだろう。
「でもお散歩にはすげー良いっす」
「確かにね。道は広いし」
「もしマスターが居たらずっとトレーニングに使いそう」
「それは間違いない」
多分、今頃ますく・ど・かふぇでいつも通りカフェにいるだろう、マッチョのマスターを思い出して幾久は笑った。
最初に向かったのは、外宮の正宮と呼ばれる場所だ。
幾久の想像とは全く違い、驚くほどシンプルだった。
白木の鳥居に、大きな賽銭箱。
賽銭箱もただ、そこに箱があるというだけで、中に布が敷いてあるだけ。
目の前にある門にはカーテンのように白い布が閉じてあり、本殿はその向こうになるというのだが。
「―――――見えねえ」
幾久の言葉に高杉が笑った。
「行いが悪いけ、神さんが顔見たくないんじゃねえのか」
「じゃあオレのせいじゃなく間違いなく瑞祥先輩のせいじゃないっすか」
「なんだと」
「神様の前でやめえ。大人しゅうお参り済ませろ」
お参りの仕方は、報国院でもやっているのでそこは問題なくできた。
全員で並んで柏手を打って、頭を下げた、その瞬間だった。
ぶわっと大きな風が本殿から吹きあがって、白い布が舞い上がり、中が見えた。
「あ、見えた!!!」
「やった!見えた!」
わあっと一瞬盛り上がる。
「ほら、僕の行いがいいから」
久坂が言うと、幾久は返した。
「ここの神様って女神なんすよね?やっぱアレか、イケメンつえーのかな。ありがとう誉」
「僕を巻き込むな。それよりここはごはん担当の神様だよ」
「えっ、知らなかった。美味しいご飯が食べられますようにって言わないと!」
「違う、いつもおいしいごはんをありがとうございます、だよ」
「あそっか」
ここは普通の神社とは違って、お願いじゃなくて感謝するところと説明を受けたばっかりだった。
「お願いするのはまた別の所だからね」
「じゃあ、オレ、もっかい頭さげとく!麗子さんのおかげでおいしいごはん、食べられてるし!」
そういってぺこりと幾久は頭を下げた。
お参りを済ませ、高杉が幾久に本殿横の場所を示した。
「そこが古殿地(こでんち)じゃ」
「なんすか?広いけど、何に使う場所っすか?」
本殿の隣に、広い場所があり、しめ縄が張ってあり入れないようにしてある。
足元は整っているが、石造りの溝みたいなものがあり、まるで遺跡のようだ。
「ここに次のお社を建てるんだよ。式年遷宮があるだろ?」
雪充が言うと、幾久が首を傾げた。
「しきねんせんぐうって?」
「二十年に一度、伊勢である神事だよ。この敷地内にある、神社や橋や、鳥居なんかは全て、二十年でとっかえるんだ」
「えー!二十年で?全部?」
神社といえば古いのが当たり前と思っていた幾久は驚いた。
「じゃあさっきのお社も、実は新しいんスか?」
「そう。次の式年遷宮で、解体される。で、次はいまお社がある場所をこっちみたいに置いといて、次のお社を建てるんだよ」
「へぇー、そうなんだ!」
「じゃけ、伊勢神宮は世界遺産には指定されん。建物自体は新しいけえの」
高杉が説明して、皆がへえ、と驚く。
「伝統を無形文化財とする考え方もあるみたいじゃが、建物自体は長くて二十年じゃ。遺産とは言えんじゃろう」
「門だけ新品なんだと思ってたけど、そうじゃないんスね」
へえー、と幾久は驚く。
雪充が言った。
「その時にお社や鳥居を解体して、その木が全国の神社に渡るんだよ」
「そんなシステムなんだ」
成程、じゃあ立派な木が二十年後にいろんな神社に渡るのか、と幾久は感心した。
「すげーリサイクルシステムっすね」
「伝統を守るにはいいと思うよ。どんなに残そうと思っても限界はあるからね」
「でも、書いて残すとかだったらできそう」
「いっくん、江戸時代の文字読める?」
「―――――読めないっす」
「そういう事。書いて残すのは必要だけど、そうじゃないことも必要だよね」
「そっか。確かに書いて残してオッケーなら、寮の引継ぎとかも別にいらないっスもんねえ」
幾久が感心すると、雪充は心の中で(上出来!)と思わず拍手した。
たったこれだけの話で、本質を理解できるのは良い事だ。
こういった事を理解してほしくて、前原は山田と普を誘ったのだろう。
学校に居ても、寮に居ても、理解できることには限界がある。
だからこそ、報国院はこうして外に出る事を推奨する。
旅行の準備は勿論、テーマ、予算、目的、結果。
自分たちでやりこなすためには総合的な判断が必要になる。
自分の頭で考えて理解して実行して修正する。
それこそが、報国院が生徒に求めるものだからだ。
外宮には本殿以外にも神社がある。
それらを歩きながら、喋りながら、全員は回ったのだった。
一通り周り終わり、御朱印帳も済ませて歩いていると、突然幾久が驚いた。
小屋の中に、真っ白い馬が居たからだ。
「馬だ!」
「馬だね」
「白い馬だ」
「ここは御厩(みくりや)だよ。神馬(しんめ)だね」
雪充が言うと、周布が「おお」と声を上げた。
「見事な造形だな。馬のあうことよ」
うんうん、と感心する周布はただの建築オタクになってしまっているが、服部が尋ねた。
「普通の家の形に見えますけど、これも柱だけで?」
周っている間、服部は周布にいろいろ尋ねていたらしい。
よく判らないものを作っている服部は、ひょっとしたら建築にも興味を持っているのかもな、と幾久は思った。
「そうだぞ!基本神社の建築は釘を使わない」
「えっ、釘を使わずにどうやって?」
驚く幾久に、服部が説明した。
「聞いたばっかだけど、地震が多いからだって。しっかり固定すると揺れないから、地震では壊れやすいんだって」
「日本は昔から地震が多いだろ?壊れないようにするためには地震に負けないんじゃなくて、地震はあるものとして、どう力を受け流すのかってのが重要なんだよ」
周布の説明に、幾久は感心した。
「ホント、寮みたいっスね」
ん?と周布が首を傾げた。
「トラブルあるのが当たり前で、それをどう受け流したり、解決するかっていうの。なんか寮のトラブルとかの話聞いてるみたいっス」
さっきから、雪充と話をしながらの続きのつもりだったので、幾久にしてみたら全部繋がっている内容でしかなかったのだが、幾久の言葉に驚いたのは一年生らだった。
「―――――幾、お前すげえな」
そう感心したのは山田だ。
「よく思いつくよね。感心する」
普も頷く。
「そう考えたら、確かに建物って、すごく考えられて作られてるんだなって」
弥太郎も急に、御厩を見るめが変わり、服部も頷いた。
すると周布は、ふ、と笑って幾久の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「うわ、なんスか!」
「いっくんは、ホントーにおりこうさんな良い子だねえ」
「僕が育てたからね」
雪充が自慢げに言うと、高杉と久坂が「えー」と不満げに返した。
「雪ちゃんおいしいとこ持ってっただけじゃん」
「そうじゃぞ、ワシらがどれだけ面倒見たとおもっちょるんじゃ」
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