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【24】品行方正~ロミオとジュリエット、巌流島にていざ決戦す(白熊を添えて)
やっぱり毎年同じだった
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さて、夜になり雪充は恭王寮の誰も居ない応接室で一人過ごしていた。
ガラス張りの小さなコンサバトリーのようなお洒落なこの場所とももうじきお別れだ。
ストーブの上のやかんがかたかた音を立て、部屋を暖めている。
真っ暗い中、恭王寮の庭が見える。
ここで遅くまで寮生と話したことも、もうじき思い出になるのだろう。
雪充は御門の山縣と通話していた。
「山縣、そっちはどう?」
御門の様子を尋ねると『問題ねーよ』と返ってくる。
『大事なフィギュアを梱包するお仕事が終わったら、後は全部業者任せだかんな』
「はは、受かってもないのに強気だな」
『受かってなくったってあっち行くからな』
山縣の受験した大学は東大で、しかも合格ラインはギリギリのところだ。
だが、雪充の望む学校と同じく、東京には報国院が経営する寮がちゃんとある。
「落ちたら予備校に通うのか?」
『いいや。その場合は私立通って、そのまま受けなおす』
山縣は滑り止めの私学も受けており、そっちはすでに合格している。
レベルとしても、報国院からすれば全く問題ないレベルの大学だが、そこに一年通うとなると入学金も授業料もかなり高いはずだが。
『後輩がクソむかつくからな。ぜってー浪人なんかしねーわ』
そう吐き捨てるが、多分からかっているのは幾久に違いない。
「そりゃお前がさんざん茶化すから仕返しされてるんだろ」
『生意気だわ』
ふんと言い放つ山縣だが、雪充からしたら一年でも一緒に過ごせた山縣が羨ましい。
「いいじゃないか。僕が抜けて、忙しそうだったけど」
『まーな。お前みてーな事はできねーわ』
御門寮の三年生は、次々寮を抜けて行った。
時山も、自分も。
もしあの時、赤根を受け入れたり、もしくは赤根が変わったりすれば、ひょっとしてなにかが変わったのだろうか。
「悪かったと思ってるよ」
誰も雪充が御門寮を出て行くとは思っていなかった。
自分だってそのつもりはなかったけれど、ぎりぎりになって考えを変えた。
そのほうがきっと、報国院の為になると思ったからだ。
「思ったようにはいかなかったけど、悪くないとは思ってる」
『お前ができねーなら誰もできねーよ。よくやったんじゃねえの』
そっけないけれど山縣の言葉は、雪充への賞賛で溢れている。
判りにくい、だけど率直な言葉はいつも雪充の考えをクリアにしてくれた。
「お前にも感謝してる。これからもよろしく」
『そういう優等生なのお前はホンっと歪みねえな』
はあ、とため息をつくも、雪充は笑った。
「本当に感謝してるんだよ。いっくんも成長したし、児玉も御堀も楽しそうで」
『俺はなんもしてねえ。勝手にあいつらで盛り上がってるだけだ』
それでも、山縣が最低限、寮の事をやってくれているのは間違いない。
「それに―――――許可してくれただろ」
『反対する理由もねえしな』
ふっと山縣が笑う。
『それに、生意気後輩がひっくり返るのがみてーんだよ俺は』
「そこまで?」
山縣の言葉に雪充が苦笑すると、山縣は『わかってねえな』と笑った。
『お前、あいつのお前への心酔っぷり舐めんじゃねえぞ。お前の事、神棚に祀る勢いだぞ』
山縣の言葉に雪充はつい噴出した。
「ほんっと、面白いなあいっくんは」
『まーそれはそうだな。見てて飽きねーわ』
思えば、幾久は御門には不向きのように見えた。
一見大人しく、目立つことも嫌いで、穏やかに過ごしていきたいのだろうと。
だけど割と負けん気も強いし、誰かを信頼する強さもある。
受け止める器量もあるからこそ、児玉が御門寮へ逃げ出したり、御堀も幾久を頼ったりするのだろう。
「次が楽しみだね」
『まーな。俺は知らんけど』
自分たちが卒業して、次に新しい一年生が入ってくる。
幾久達は当然二年に、高杉や久坂は三年生だ。
受験もあるし、特に二年になると桜柳祭は忙しい。
御堀達は何をどう選ぶのか。
雪充が桜柳祭の運営を選んだように選ぶのか、それとも運営は誰かに任せて地球部をやるのか。
「もう次の桜柳祭が楽しみだよ」
『気が早えよ』
そういって山縣が笑っていると、電話越しに幾久の声が聞こえた。
『ガタせんぱーい、梱包終わりましたけど……って、何サボってんすか!こっちは忙しいのに手伝ってあげてんのに!』
『わりーわりー、じゃあな、また!』
そういって山縣は通話を切った。
騒がしい御門寮の様子に苦笑して、でもいいな、とちょっと羨ましくなる。
でもだからこそ、雪充はどうにかして幾久を引き込もうと決めたのだ。
もし、あのまま一緒に御門寮で過ごしていたら、たった一年の思い出で終わったのかもしれない。
違う寮だから見えないものもあって、雪充を理想にしてくれている気もしないでもない。
(御門じゃ、僕の良いところばっか見てなかったろうな)
久坂や高杉が一緒にいるあの寮じゃ、きっと雪充はやかましく怒鳴って叱って、なんだかんだ、先輩らしく面倒を見ただろう。
だけどもし一緒だったら、あそこまで幾久が慕ってくれただろうか。
(どうかなあ)
きらきらした憧れの目で雪充を見上げる幾久の目に、自分はどんな王子様に見えているのだろうか。
そういう風に仕向けはしたけど、ちょっと予想より大きかったかもしれない。
「面白いなあ」
もう入れなくなる恭王寮の応接室の椅子に深く腰掛け、雪充は部屋を見渡した。
ここも御門寮と同じように、雪充にとっては大切な寮になった。
いつかここを訪ねても、自分はもう報国院の生徒でもないし恭王寮の寮生でもない。
寂しいな、と思いながらも、きっと残される一年、二年は雪充以上に寂しいと思うのかもしれない。
だからその寂しさを一日でも誤魔化すことが出来たら、それは雪充にとってちょっとした誇りになるだろう。
(割と卒業しても忙しいな)
雪充は卒業後のスケジュールを確認して、うん、やっぱり詰め込みすぎたかな?と首を傾げた。
(でもまあ、いいか)
報国院では三年間、だけどずっとこの場所で育ってきた。
報国院を出た後、帰ってくる人もいるし帰ってこない人も居る。
雪充は、いずれここへ帰ってくるつもりでいるけれど、いつの事になるかは全く判らない。
その頃、自分は今みたいに、報国院を第一に考えるだろうか。
そう思うと、毛利や三吉は、羨ましい人生のようにも思える。
少なくとも、雪充に決まっているのは方向だけでこれといったなりたい何かがあるわけでもない。
それもきっと、報国院で学んだように、新しい場所で学んで見つける事になるのかもしれない。
(楽しくなればいいな)
報国院ほど滅茶苦茶じゃないかもしれないけど、同じ先輩が待っている、あの場所はきっと楽しいだろう。
春からは雪充はまた一年生の、末っ子の立場に戻る。
それまでは報国院の、そして御門寮の『長男』だ。
長男のお仕事もあと少し。
そして来週には、この寮から、学校から、三年生は巣立ってゆく。
もう見る事もできなくなる恭王寮の真夜中の風景を、雪充は焼き付けようと、いつまでも外を眺めたのだった。
在校生の試験が終わり、明日には予餞会という金曜日になった。
試験を終え、一息つく間もなく地球部の面々は部室に集まっていた。
「さて、明日の予餞会の事じゃが、卒業式の準備が行われるので当然我々はリハーサルは行えん」
高杉の言葉に全員が「あー」と残念な表情になる。
「とはいえ、一度も合わさないというのはやっぱり不安がある。という訳で、今夜、この教室で一度合わせる事をしてみたいと思う」
高杉の提案に、一年が挙手した。
「はい先輩!」
「なんじゃ三吉」
「そんな露骨な集まり方をしたら、絶対に三年生にバレると思います!」
皆がうんうんと頷く。
確かに予餞会で何かをするのは決まっているが、夜中に学校に行くとなると、やはり先輩たちに気づかれるし何も言わないわけにもいかない。
すると高杉が言った。
「心配ない。言い訳はちゃんと考えちょる」
「と、いいますと?」
お調子者の入江の三男坊、万寿が挙手して尋ねた。
高杉が言う。
「お前ら、先輩には全員、幾久が雪にサプライズをしかけちょる、言うちょけ。そうしたら誰もなんも疑わん」
「あー」
「あー、成程」
「成程」
全員が頷き納得するが、幾久は挙手した。
「異議あり!」
「なんじゃ」
「なんでそれで納得できるんすか?」
「それが一番ありそうじゃからの」
高杉の言葉に久坂も噴出しつつ言った。
「そうだね。いっくんがものすごいサプライズを雪ちゃんにしかけてるから、みんな手伝わされてるって言えば絶対誰も疑わないよね」
「なんすか、そこまでとか思われてるんスか」
「いや、幾そこまでだよ」
「そうだぞ。そこまでだぞ」
「俺はお前が雪ちゃん先輩にプロポーズしても驚かない」
「なんだよ御空まで」
むう、とむくれるも、気づかれないというのはありがたい。
「三年には予餞会の準備と気づかれても、内容までは絶対に気づかれとうはない。じゃけ、三吉の脚本は丁度良かった」
普の書いた脚本はコメディ、ギャグ要素とアドリブ要素が多いので、ノリでどうにかなる内容だ。
「効果音に関しては、軽音部一年の児玉が任されちょる。問題なかろうし、なんかあっても二年もおる。心配ない」
児玉が地球部を手伝いたいと希望すると、二年の先輩も快く手伝ってくれるという事だ。
軽音部とは桜柳祭の際も協力して、舞台音響を全部やってくれた経験もあるので心配はない。
「桜柳祭でも忙しかったのに、予餞会ってもっと忙しい」
品川が言うと、高杉が苦笑した。
「そりゃお前らがいたらんことをやろうとするからじゃ」
高杉の言葉に、他の二年がぷっと噴き出す。
「そうそう、だから嫌だったら来年はしないことだよ」
久坂が言うと、普が言った。
「言われなくても!来年先輩たちが卒業する時は、絶対に『お世話になりました!』って一言しか言わないです!」
すると二年生がこらえきれないという風にどっと笑いだした。
「何がおかしいんですか?」
普がむっとすると、二年の来島が笑いながら答えた。
「だって、それ全く同じセリフを俺らも言ったもん」
ガラス張りの小さなコンサバトリーのようなお洒落なこの場所とももうじきお別れだ。
ストーブの上のやかんがかたかた音を立て、部屋を暖めている。
真っ暗い中、恭王寮の庭が見える。
ここで遅くまで寮生と話したことも、もうじき思い出になるのだろう。
雪充は御門の山縣と通話していた。
「山縣、そっちはどう?」
御門の様子を尋ねると『問題ねーよ』と返ってくる。
『大事なフィギュアを梱包するお仕事が終わったら、後は全部業者任せだかんな』
「はは、受かってもないのに強気だな」
『受かってなくったってあっち行くからな』
山縣の受験した大学は東大で、しかも合格ラインはギリギリのところだ。
だが、雪充の望む学校と同じく、東京には報国院が経営する寮がちゃんとある。
「落ちたら予備校に通うのか?」
『いいや。その場合は私立通って、そのまま受けなおす』
山縣は滑り止めの私学も受けており、そっちはすでに合格している。
レベルとしても、報国院からすれば全く問題ないレベルの大学だが、そこに一年通うとなると入学金も授業料もかなり高いはずだが。
『後輩がクソむかつくからな。ぜってー浪人なんかしねーわ』
そう吐き捨てるが、多分からかっているのは幾久に違いない。
「そりゃお前がさんざん茶化すから仕返しされてるんだろ」
『生意気だわ』
ふんと言い放つ山縣だが、雪充からしたら一年でも一緒に過ごせた山縣が羨ましい。
「いいじゃないか。僕が抜けて、忙しそうだったけど」
『まーな。お前みてーな事はできねーわ』
御門寮の三年生は、次々寮を抜けて行った。
時山も、自分も。
もしあの時、赤根を受け入れたり、もしくは赤根が変わったりすれば、ひょっとしてなにかが変わったのだろうか。
「悪かったと思ってるよ」
誰も雪充が御門寮を出て行くとは思っていなかった。
自分だってそのつもりはなかったけれど、ぎりぎりになって考えを変えた。
そのほうがきっと、報国院の為になると思ったからだ。
「思ったようにはいかなかったけど、悪くないとは思ってる」
『お前ができねーなら誰もできねーよ。よくやったんじゃねえの』
そっけないけれど山縣の言葉は、雪充への賞賛で溢れている。
判りにくい、だけど率直な言葉はいつも雪充の考えをクリアにしてくれた。
「お前にも感謝してる。これからもよろしく」
『そういう優等生なのお前はホンっと歪みねえな』
はあ、とため息をつくも、雪充は笑った。
「本当に感謝してるんだよ。いっくんも成長したし、児玉も御堀も楽しそうで」
『俺はなんもしてねえ。勝手にあいつらで盛り上がってるだけだ』
それでも、山縣が最低限、寮の事をやってくれているのは間違いない。
「それに―――――許可してくれただろ」
『反対する理由もねえしな』
ふっと山縣が笑う。
『それに、生意気後輩がひっくり返るのがみてーんだよ俺は』
「そこまで?」
山縣の言葉に雪充が苦笑すると、山縣は『わかってねえな』と笑った。
『お前、あいつのお前への心酔っぷり舐めんじゃねえぞ。お前の事、神棚に祀る勢いだぞ』
山縣の言葉に雪充はつい噴出した。
「ほんっと、面白いなあいっくんは」
『まーそれはそうだな。見てて飽きねーわ』
思えば、幾久は御門には不向きのように見えた。
一見大人しく、目立つことも嫌いで、穏やかに過ごしていきたいのだろうと。
だけど割と負けん気も強いし、誰かを信頼する強さもある。
受け止める器量もあるからこそ、児玉が御門寮へ逃げ出したり、御堀も幾久を頼ったりするのだろう。
「次が楽しみだね」
『まーな。俺は知らんけど』
自分たちが卒業して、次に新しい一年生が入ってくる。
幾久達は当然二年に、高杉や久坂は三年生だ。
受験もあるし、特に二年になると桜柳祭は忙しい。
御堀達は何をどう選ぶのか。
雪充が桜柳祭の運営を選んだように選ぶのか、それとも運営は誰かに任せて地球部をやるのか。
「もう次の桜柳祭が楽しみだよ」
『気が早えよ』
そういって山縣が笑っていると、電話越しに幾久の声が聞こえた。
『ガタせんぱーい、梱包終わりましたけど……って、何サボってんすか!こっちは忙しいのに手伝ってあげてんのに!』
『わりーわりー、じゃあな、また!』
そういって山縣は通話を切った。
騒がしい御門寮の様子に苦笑して、でもいいな、とちょっと羨ましくなる。
でもだからこそ、雪充はどうにかして幾久を引き込もうと決めたのだ。
もし、あのまま一緒に御門寮で過ごしていたら、たった一年の思い出で終わったのかもしれない。
違う寮だから見えないものもあって、雪充を理想にしてくれている気もしないでもない。
(御門じゃ、僕の良いところばっか見てなかったろうな)
久坂や高杉が一緒にいるあの寮じゃ、きっと雪充はやかましく怒鳴って叱って、なんだかんだ、先輩らしく面倒を見ただろう。
だけどもし一緒だったら、あそこまで幾久が慕ってくれただろうか。
(どうかなあ)
きらきらした憧れの目で雪充を見上げる幾久の目に、自分はどんな王子様に見えているのだろうか。
そういう風に仕向けはしたけど、ちょっと予想より大きかったかもしれない。
「面白いなあ」
もう入れなくなる恭王寮の応接室の椅子に深く腰掛け、雪充は部屋を見渡した。
ここも御門寮と同じように、雪充にとっては大切な寮になった。
いつかここを訪ねても、自分はもう報国院の生徒でもないし恭王寮の寮生でもない。
寂しいな、と思いながらも、きっと残される一年、二年は雪充以上に寂しいと思うのかもしれない。
だからその寂しさを一日でも誤魔化すことが出来たら、それは雪充にとってちょっとした誇りになるだろう。
(割と卒業しても忙しいな)
雪充は卒業後のスケジュールを確認して、うん、やっぱり詰め込みすぎたかな?と首を傾げた。
(でもまあ、いいか)
報国院では三年間、だけどずっとこの場所で育ってきた。
報国院を出た後、帰ってくる人もいるし帰ってこない人も居る。
雪充は、いずれここへ帰ってくるつもりでいるけれど、いつの事になるかは全く判らない。
その頃、自分は今みたいに、報国院を第一に考えるだろうか。
そう思うと、毛利や三吉は、羨ましい人生のようにも思える。
少なくとも、雪充に決まっているのは方向だけでこれといったなりたい何かがあるわけでもない。
それもきっと、報国院で学んだように、新しい場所で学んで見つける事になるのかもしれない。
(楽しくなればいいな)
報国院ほど滅茶苦茶じゃないかもしれないけど、同じ先輩が待っている、あの場所はきっと楽しいだろう。
春からは雪充はまた一年生の、末っ子の立場に戻る。
それまでは報国院の、そして御門寮の『長男』だ。
長男のお仕事もあと少し。
そして来週には、この寮から、学校から、三年生は巣立ってゆく。
もう見る事もできなくなる恭王寮の真夜中の風景を、雪充は焼き付けようと、いつまでも外を眺めたのだった。
在校生の試験が終わり、明日には予餞会という金曜日になった。
試験を終え、一息つく間もなく地球部の面々は部室に集まっていた。
「さて、明日の予餞会の事じゃが、卒業式の準備が行われるので当然我々はリハーサルは行えん」
高杉の言葉に全員が「あー」と残念な表情になる。
「とはいえ、一度も合わさないというのはやっぱり不安がある。という訳で、今夜、この教室で一度合わせる事をしてみたいと思う」
高杉の提案に、一年が挙手した。
「はい先輩!」
「なんじゃ三吉」
「そんな露骨な集まり方をしたら、絶対に三年生にバレると思います!」
皆がうんうんと頷く。
確かに予餞会で何かをするのは決まっているが、夜中に学校に行くとなると、やはり先輩たちに気づかれるし何も言わないわけにもいかない。
すると高杉が言った。
「心配ない。言い訳はちゃんと考えちょる」
「と、いいますと?」
お調子者の入江の三男坊、万寿が挙手して尋ねた。
高杉が言う。
「お前ら、先輩には全員、幾久が雪にサプライズをしかけちょる、言うちょけ。そうしたら誰もなんも疑わん」
「あー」
「あー、成程」
「成程」
全員が頷き納得するが、幾久は挙手した。
「異議あり!」
「なんじゃ」
「なんでそれで納得できるんすか?」
「それが一番ありそうじゃからの」
高杉の言葉に久坂も噴出しつつ言った。
「そうだね。いっくんがものすごいサプライズを雪ちゃんにしかけてるから、みんな手伝わされてるって言えば絶対誰も疑わないよね」
「なんすか、そこまでとか思われてるんスか」
「いや、幾そこまでだよ」
「そうだぞ。そこまでだぞ」
「俺はお前が雪ちゃん先輩にプロポーズしても驚かない」
「なんだよ御空まで」
むう、とむくれるも、気づかれないというのはありがたい。
「三年には予餞会の準備と気づかれても、内容までは絶対に気づかれとうはない。じゃけ、三吉の脚本は丁度良かった」
普の書いた脚本はコメディ、ギャグ要素とアドリブ要素が多いので、ノリでどうにかなる内容だ。
「効果音に関しては、軽音部一年の児玉が任されちょる。問題なかろうし、なんかあっても二年もおる。心配ない」
児玉が地球部を手伝いたいと希望すると、二年の先輩も快く手伝ってくれるという事だ。
軽音部とは桜柳祭の際も協力して、舞台音響を全部やってくれた経験もあるので心配はない。
「桜柳祭でも忙しかったのに、予餞会ってもっと忙しい」
品川が言うと、高杉が苦笑した。
「そりゃお前らがいたらんことをやろうとするからじゃ」
高杉の言葉に、他の二年がぷっと噴き出す。
「そうそう、だから嫌だったら来年はしないことだよ」
久坂が言うと、普が言った。
「言われなくても!来年先輩たちが卒業する時は、絶対に『お世話になりました!』って一言しか言わないです!」
すると二年生がこらえきれないという風にどっと笑いだした。
「何がおかしいんですか?」
普がむっとすると、二年の来島が笑いながら答えた。
「だって、それ全く同じセリフを俺らも言ったもん」
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