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【23】拍手喝采~戦場のハッピーバレンタインデー
決戦のバレンタイン
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「誉も似たような事、さっき言ってたね。一瞬で食べちゃうくらい美味しいって思って貰えたら嬉しいって」
御堀も頷いて答えた。
「そりゃそうだよ。でないとあんな面倒な事絶対にしないよ」
すると話を聞いていた志道が、頷いて言った。
「判る!その『おいしい』って一言で、全部の苦労が報われるんだよなあー」
「でもできればロミジュリみたいに女子に買ってほしかった」
そうぼそりと言うのは二年の佐久間だ。
「それを言うな。羨ましいけど俺らにはない仕事だ」
河上は首を横に振る。
「結局頑張って作って男に食われるんだぞ。うんこになるとか最悪」
「いや、女子だろうが男子だろうが食えばうんこじゃん」
「……食べ物扱ってるのにその話はやめてくださいよ」
幾久が呆れて言うと、御堀が答えた。
「うんこは食べ物のなれの果てではなくて、腸内の細胞や細菌の死んだ後とか赤血球の成分と水分なんで」
「すごい誉詳しい!何でも知ってる!でもその顔でうんこはやめて!」
「顔で喋る単語が制限されるのかあ。じゃあ大便」
「もっと駄目!」
「どっちにしろその話題やめろよ……」
山田が呆れるが、すっかり叱られた事を忘れている品川、入江の二人がカヌレを包みながら「色的にうんこの形だったら面白かったのに!」「茶色だもんな!」とげらげら笑っていて、山田は肩を落としたのだった。
ホーム部での手伝いを終え、幾久達はカヌレを大量に分けて貰い、瀧川と普が居る地球部の部室へ向かった。
「お疲れ。脚本はどんな雰囲気?」
幾久が尋ねると、普が顔を上げ、物凄い笑顔で胸を叩いた。
「タッキーが凄いよ!僕のアイディアも自信作だったけど、タッキーの発想がめちゃめちゃ良くて!」
瀧川をべた褒めする普に、瀧川は「ふっ」と自慢げに揺れない髪を揺らすように首を振って言った。
「僕の発想力はなかなかのものだからね」
「本当に凄いから!」
大絶賛する普に、山田が頷いた。
「普がそこまで言うなら凄いんだろうな。でもまずは、カヌレ食おうぜ。休憩しながら話聞くわ」
ホーム部で貰って来たカヌレを出し、地球部に設置してあるお茶セットでティーバッグの紅茶を用意し、おやつを食べながら全員で話を聞くことになった。
「もうタイトルから自信作なんだ。これ見てよ!」
そう言って紙にでかでかと書かれたタイトルで、全員が首をかしげつつも、ちょっと噴き出した。
「なんだこれ」
「うーん、確かにタイトルだけでも面白そう」
「なんかわくわくする」
「でしょ!」
自慢げに普が胸を張る。
「本当はロミジュリのダイジェスト的なものを考えてたんだけどさ、それじゃ予想できるし面白くないし。でも、ロミジュリを残しつつ、絶対に想像できないけど地元ネタも含んでるって面白そうじゃない?」
「えっ、これって地元ネタなの?」
驚く幾久だったが、御堀が頷いた。
「そうだよ。割と有名だと思ったけど。聞いたことない?銅像とかもあったりするけど」
「見たことがあるような、ないような」
「覚えてないんだな幾久……」
山田が呆れるも、でもまあそうか、と苦笑する。
「興味なかったらそんなもんだよな。でも確かにタイトルだけでも面白そうだし、正直、俺もこれ気になる」
反応も上々で、普と瀧川は、やった、と満足げに頷いた。
「僕とタッキーで、大まかにアイディアは出てるけどさ、みんなでもっと煮詰めて面白くして、雪ちゃん先輩驚かせてやろう!」
普の言葉に、皆思い切り、うん、と頷いた。
本来なら二月十四日、バレンタインは女子が男子にチョコレートを渡し、恋を告白するという日だ。
当然、女子校であるウィステリア女学院の生徒たちも同じく、彼氏がいる子は彼氏にプレゼントを用意し、そうではない子もこのチャンスに告白をしようと思っている。
そして、ここ、ウィステリアにはそれとは別の勢力があった。
『報国院男子高等学校のバレンタインのお菓子を買う』という勢力である。
もとより姉妹校で付き合いも古く、同じ学校の男子部、女子部と言っても差し支えないほどの関係ではある。
つまり、彼氏と言えば報国院、彼女と言えばウィステリア、なんてのも普通に語られており、互いの学校の情報は常に筒抜けであった。
毎年、報国院の男子にバレンタインをきっかけにお菓子を送る生徒は居るし、それとはまた別に、『普通にお菓子が食いてえ』勢も存在した。
そして毎年、こちらもあるにはあるのだが、本年度は圧倒的な勢力を持っていたのが『ロミジュリのお菓子が食べたい』勢である。
報国院の伝統的な文化祭である桜柳祭、演劇部である地球部はロミオとジュリエットの舞台を大成功させ、ロミオ役の御堀誉、ジュリエット役の乃木幾久はいまやウィステリアでは『誉さま』『いっくん』と呼ばれるほどの人気を誇っている。
誉会と呼ばれる、御堀誉自身が運営するファンクラブに入ると今回はなんと、ロミジュリがわざわざ手作りしたという、バレンタインの特別なお菓子、カヌレが購入でき、しかも全てに宛名を手書きされたメッセージカード入り、希望者には送料は別になるが発送もしてくれる。
さて、殆どのウィステリアに所属するロミジュリファンの生徒はもうひとつ、お楽しみがあった。
バレンタイン当日、ロミジュリの二人がお菓子を手渡ししてくれるというものである。
手渡し!しかも当日まで判らないが、時間が許せば握手も可能かもしれないとの事!
当然、ロミジュリを応援するウィステリアの女子は沸き立つ。
朝から授業も上の空、昼食は匂いが残らないように気を使い、やっとこ放課後になると、受け取りに行くはずの女子全員が我先にと洗面所へと向かった。
髪を整えたり、薄くメイクをしたり、がっつりリップを塗ってみたり、この日の為にコートを新調した子もいるほど。
沸き立ち、にぎやかになる校内で、旧校舎の演劇部には三年生が集まっていた。
元部長の大庭(おおば)茄々(なな)、元副部長、時山の彼女の豊永(とよなが)杷子(わこ)、松浦の三人だ。
「ほらー、やっぱり凄い混んだでしょ」
そう言ったのは杷子だ。
今回のバレンタインは、お菓子の値段の割にサービスがいいということで、ウィステリアの女子がこぞって購入していた。
おまけにウィステリアの女子優先で、握手もOKとの事なので、誉会に入会しているファンはもちろんの事、ちょっとでも興味があったりする面々も、お祭り気分で参加していた。
「杷子の言う通りだったね。部室に来て正解」
茄々が頷き、髪を洗面所で整える。
演劇部は、メイクをする必要があるので、部室にちゃんと専用のメイクコーナーと洗面所が設置されている。
「トイレと洗面所、すっごい人みたいよ」
「って事は、さっさとしないとここも部員が来るかもね」
そう言って三人が支度を終えた所だった。
「あー、もう全然、洗面所あかない!アイロン使えない!」
そう怒鳴って入ってきたのは二年の部員たちだ。
「うわ、先輩ら、いたんすか」
「ごぶー」
「居たわよ。これから報国院行くし」
「えっ、一緒に行きたい!どうせロミジュリとお話するんでしょ!いいな!」
勿論、ロミジュリ大ファンである二年生らが言うので、三年生たちは「いいけど早く支度して」「四十秒で」と返した。
「無理―、ラピュタ探しに行けない。もう駄目だ」
そう言いつつ、さくさく支度をしている後輩らに、三年生は「三分間待ってやる」と言い直した。
「やべー死亡フラグ」
「それ言ったほうがじゃなかった?」
口は動かしてもいいが、体はもっと早く動かせ。
口うるさく言われるウィステリアの演劇部の言葉だが、後輩はすでにしっかり身についているらしく、喋りながらもあっという間に身支度を整えた。
今ではウィステリア特有の言い回しになってしまった、もともとは報国院との共有の言葉である「御無礼します」を省略して、「ごぶー」と言いながら、次々と二年、一年生が入って来て、これは結局、部員全員で向かう羽目になりそうだな、と三年生は顔を見合わせたのだった。
さて、時間は少し戻り、報国院のバレンタイン当日、朝である。
幾久が待ちに待ったバレンタイン、やっと雪充にバレンタインのプレゼントを渡すことが出来る日になった。
「……まさか、朝一番で渡しに行くとは思わなかった」
そう言って呆れたのは御堀である。
「別についてこなくて良かったのに」
そういうのは幾久だ。
「そういう訳にはいかないよ。雪ちゃん先輩には僕もお世話になってるんだし」
「どうせお前ら、今日は忙しいんだろ?だったら早めのほうが正解じゃん」
そう言ったのは児玉だ。
どうせ雪充はモテるし、報国院にも雪充宛ての注文がいくつも入っているとのことだ。
だったら、自分が絶対に朝一番に渡したいと幾久ははりきって、いつもより三十分も早くに寮を出たのだ。
それについてきたのが、御堀、児玉の二人だ。
「雪ちゃん先輩は来てもいいって言ってくれたもん」
ちゃんと事前に、恭王寮へ行ってもいいか、と尋ねてOKを貰っているので、幾久はうきうきとしながら通学路を歩いている。
そんな様子を見ながら、相変わらずだなあ、と御堀と児玉は呆れつつ苦笑した。
「お前、そんなんじゃ雪ちゃん先輩いなくなったらどうすんだよ」
児玉がからかい交じりに言うが、幾久は立ち止まり、児玉に「言うな」と返す。
「もう、割とマジでガチで限界なんだよね、そういうの」
「ああ……」
成程、あまりに寂しくて考えたくないという奴だ。
「やべえな幾久。ガチじゃん」
「オレは元から雪ちゃん先輩ガチ勢だもん。ファンクラブあったら入るし」
「だよね。しまったな、僕が立ち上げとけばよかったかな」
御堀が言うと、幾久は返した。
「オレ、毎日更新どころか一時間ごとに更新確認するし、更新されたら間違いなく秒で『いいね』押しまくる」
そう力説する幾久に児玉が呆れた。
「お前、アオさんのこと言えねえぞ」
「いや、オレはちゃんと先輩後輩の仲なんで」
御堀が言った。
「青木先輩とも、ちゃんと先輩、後輩の仲だよ」
「あ、」
御堀も頷いて答えた。
「そりゃそうだよ。でないとあんな面倒な事絶対にしないよ」
すると話を聞いていた志道が、頷いて言った。
「判る!その『おいしい』って一言で、全部の苦労が報われるんだよなあー」
「でもできればロミジュリみたいに女子に買ってほしかった」
そうぼそりと言うのは二年の佐久間だ。
「それを言うな。羨ましいけど俺らにはない仕事だ」
河上は首を横に振る。
「結局頑張って作って男に食われるんだぞ。うんこになるとか最悪」
「いや、女子だろうが男子だろうが食えばうんこじゃん」
「……食べ物扱ってるのにその話はやめてくださいよ」
幾久が呆れて言うと、御堀が答えた。
「うんこは食べ物のなれの果てではなくて、腸内の細胞や細菌の死んだ後とか赤血球の成分と水分なんで」
「すごい誉詳しい!何でも知ってる!でもその顔でうんこはやめて!」
「顔で喋る単語が制限されるのかあ。じゃあ大便」
「もっと駄目!」
「どっちにしろその話題やめろよ……」
山田が呆れるが、すっかり叱られた事を忘れている品川、入江の二人がカヌレを包みながら「色的にうんこの形だったら面白かったのに!」「茶色だもんな!」とげらげら笑っていて、山田は肩を落としたのだった。
ホーム部での手伝いを終え、幾久達はカヌレを大量に分けて貰い、瀧川と普が居る地球部の部室へ向かった。
「お疲れ。脚本はどんな雰囲気?」
幾久が尋ねると、普が顔を上げ、物凄い笑顔で胸を叩いた。
「タッキーが凄いよ!僕のアイディアも自信作だったけど、タッキーの発想がめちゃめちゃ良くて!」
瀧川をべた褒めする普に、瀧川は「ふっ」と自慢げに揺れない髪を揺らすように首を振って言った。
「僕の発想力はなかなかのものだからね」
「本当に凄いから!」
大絶賛する普に、山田が頷いた。
「普がそこまで言うなら凄いんだろうな。でもまずは、カヌレ食おうぜ。休憩しながら話聞くわ」
ホーム部で貰って来たカヌレを出し、地球部に設置してあるお茶セットでティーバッグの紅茶を用意し、おやつを食べながら全員で話を聞くことになった。
「もうタイトルから自信作なんだ。これ見てよ!」
そう言って紙にでかでかと書かれたタイトルで、全員が首をかしげつつも、ちょっと噴き出した。
「なんだこれ」
「うーん、確かにタイトルだけでも面白そう」
「なんかわくわくする」
「でしょ!」
自慢げに普が胸を張る。
「本当はロミジュリのダイジェスト的なものを考えてたんだけどさ、それじゃ予想できるし面白くないし。でも、ロミジュリを残しつつ、絶対に想像できないけど地元ネタも含んでるって面白そうじゃない?」
「えっ、これって地元ネタなの?」
驚く幾久だったが、御堀が頷いた。
「そうだよ。割と有名だと思ったけど。聞いたことない?銅像とかもあったりするけど」
「見たことがあるような、ないような」
「覚えてないんだな幾久……」
山田が呆れるも、でもまあそうか、と苦笑する。
「興味なかったらそんなもんだよな。でも確かにタイトルだけでも面白そうだし、正直、俺もこれ気になる」
反応も上々で、普と瀧川は、やった、と満足げに頷いた。
「僕とタッキーで、大まかにアイディアは出てるけどさ、みんなでもっと煮詰めて面白くして、雪ちゃん先輩驚かせてやろう!」
普の言葉に、皆思い切り、うん、と頷いた。
本来なら二月十四日、バレンタインは女子が男子にチョコレートを渡し、恋を告白するという日だ。
当然、女子校であるウィステリア女学院の生徒たちも同じく、彼氏がいる子は彼氏にプレゼントを用意し、そうではない子もこのチャンスに告白をしようと思っている。
そして、ここ、ウィステリアにはそれとは別の勢力があった。
『報国院男子高等学校のバレンタインのお菓子を買う』という勢力である。
もとより姉妹校で付き合いも古く、同じ学校の男子部、女子部と言っても差し支えないほどの関係ではある。
つまり、彼氏と言えば報国院、彼女と言えばウィステリア、なんてのも普通に語られており、互いの学校の情報は常に筒抜けであった。
毎年、報国院の男子にバレンタインをきっかけにお菓子を送る生徒は居るし、それとはまた別に、『普通にお菓子が食いてえ』勢も存在した。
そして毎年、こちらもあるにはあるのだが、本年度は圧倒的な勢力を持っていたのが『ロミジュリのお菓子が食べたい』勢である。
報国院の伝統的な文化祭である桜柳祭、演劇部である地球部はロミオとジュリエットの舞台を大成功させ、ロミオ役の御堀誉、ジュリエット役の乃木幾久はいまやウィステリアでは『誉さま』『いっくん』と呼ばれるほどの人気を誇っている。
誉会と呼ばれる、御堀誉自身が運営するファンクラブに入ると今回はなんと、ロミジュリがわざわざ手作りしたという、バレンタインの特別なお菓子、カヌレが購入でき、しかも全てに宛名を手書きされたメッセージカード入り、希望者には送料は別になるが発送もしてくれる。
さて、殆どのウィステリアに所属するロミジュリファンの生徒はもうひとつ、お楽しみがあった。
バレンタイン当日、ロミジュリの二人がお菓子を手渡ししてくれるというものである。
手渡し!しかも当日まで判らないが、時間が許せば握手も可能かもしれないとの事!
当然、ロミジュリを応援するウィステリアの女子は沸き立つ。
朝から授業も上の空、昼食は匂いが残らないように気を使い、やっとこ放課後になると、受け取りに行くはずの女子全員が我先にと洗面所へと向かった。
髪を整えたり、薄くメイクをしたり、がっつりリップを塗ってみたり、この日の為にコートを新調した子もいるほど。
沸き立ち、にぎやかになる校内で、旧校舎の演劇部には三年生が集まっていた。
元部長の大庭(おおば)茄々(なな)、元副部長、時山の彼女の豊永(とよなが)杷子(わこ)、松浦の三人だ。
「ほらー、やっぱり凄い混んだでしょ」
そう言ったのは杷子だ。
今回のバレンタインは、お菓子の値段の割にサービスがいいということで、ウィステリアの女子がこぞって購入していた。
おまけにウィステリアの女子優先で、握手もOKとの事なので、誉会に入会しているファンはもちろんの事、ちょっとでも興味があったりする面々も、お祭り気分で参加していた。
「杷子の言う通りだったね。部室に来て正解」
茄々が頷き、髪を洗面所で整える。
演劇部は、メイクをする必要があるので、部室にちゃんと専用のメイクコーナーと洗面所が設置されている。
「トイレと洗面所、すっごい人みたいよ」
「って事は、さっさとしないとここも部員が来るかもね」
そう言って三人が支度を終えた所だった。
「あー、もう全然、洗面所あかない!アイロン使えない!」
そう怒鳴って入ってきたのは二年の部員たちだ。
「うわ、先輩ら、いたんすか」
「ごぶー」
「居たわよ。これから報国院行くし」
「えっ、一緒に行きたい!どうせロミジュリとお話するんでしょ!いいな!」
勿論、ロミジュリ大ファンである二年生らが言うので、三年生たちは「いいけど早く支度して」「四十秒で」と返した。
「無理―、ラピュタ探しに行けない。もう駄目だ」
そう言いつつ、さくさく支度をしている後輩らに、三年生は「三分間待ってやる」と言い直した。
「やべー死亡フラグ」
「それ言ったほうがじゃなかった?」
口は動かしてもいいが、体はもっと早く動かせ。
口うるさく言われるウィステリアの演劇部の言葉だが、後輩はすでにしっかり身についているらしく、喋りながらもあっという間に身支度を整えた。
今ではウィステリア特有の言い回しになってしまった、もともとは報国院との共有の言葉である「御無礼します」を省略して、「ごぶー」と言いながら、次々と二年、一年生が入って来て、これは結局、部員全員で向かう羽目になりそうだな、と三年生は顔を見合わせたのだった。
さて、時間は少し戻り、報国院のバレンタイン当日、朝である。
幾久が待ちに待ったバレンタイン、やっと雪充にバレンタインのプレゼントを渡すことが出来る日になった。
「……まさか、朝一番で渡しに行くとは思わなかった」
そう言って呆れたのは御堀である。
「別についてこなくて良かったのに」
そういうのは幾久だ。
「そういう訳にはいかないよ。雪ちゃん先輩には僕もお世話になってるんだし」
「どうせお前ら、今日は忙しいんだろ?だったら早めのほうが正解じゃん」
そう言ったのは児玉だ。
どうせ雪充はモテるし、報国院にも雪充宛ての注文がいくつも入っているとのことだ。
だったら、自分が絶対に朝一番に渡したいと幾久ははりきって、いつもより三十分も早くに寮を出たのだ。
それについてきたのが、御堀、児玉の二人だ。
「雪ちゃん先輩は来てもいいって言ってくれたもん」
ちゃんと事前に、恭王寮へ行ってもいいか、と尋ねてOKを貰っているので、幾久はうきうきとしながら通学路を歩いている。
そんな様子を見ながら、相変わらずだなあ、と御堀と児玉は呆れつつ苦笑した。
「お前、そんなんじゃ雪ちゃん先輩いなくなったらどうすんだよ」
児玉がからかい交じりに言うが、幾久は立ち止まり、児玉に「言うな」と返す。
「もう、割とマジでガチで限界なんだよね、そういうの」
「ああ……」
成程、あまりに寂しくて考えたくないという奴だ。
「やべえな幾久。ガチじゃん」
「オレは元から雪ちゃん先輩ガチ勢だもん。ファンクラブあったら入るし」
「だよね。しまったな、僕が立ち上げとけばよかったかな」
御堀が言うと、幾久は返した。
「オレ、毎日更新どころか一時間ごとに更新確認するし、更新されたら間違いなく秒で『いいね』押しまくる」
そう力説する幾久に児玉が呆れた。
「お前、アオさんのこと言えねえぞ」
「いや、オレはちゃんと先輩後輩の仲なんで」
御堀が言った。
「青木先輩とも、ちゃんと先輩、後輩の仲だよ」
「あ、」
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