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【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝
王子救済のテンペスト
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中年男は幾久が言い返すとは思っていなかったのだろう、はっと鼻で笑ってもう一度言った。
「おまえのいう、報国院っちゃ、そこまで女にヘコヘコせんにゃあ、相手にされんような学校なんか。情けないのう」
「そういうオッサンはなにしに学校行ってたの?汚い中年太りでも女にヘコヘコせずに相手にされる方法教えてくれる学校?へえ、めずらしい学校だね。オレは報国院は勉強しに通ってるけど」
こらえきれず御堀が噴出した。
すると中年男は頭から湯気が出んばかりに怒り怒鳴った。
「大人の言う事も聞けんとは!!!!!」
「お前なんか大人じゃない」
幾久は言い返す。
絶対に違う。
玉木みたいに紳士じゃない、毛利みたいに護ってはくれない。
三吉のように、さりげなくサポートもしていない。
「お前が自分を大人って言うんなら、子供を納得させてみろ。それが上の器量だろ」
幾久は知っている。
久坂にそれを習ったのだ。
それなのに一度失敗して高杉を傷つけた。
だからもう二度と、失敗はしない。
中年男は幾久に怒鳴った。
「礼儀を知らんのか!」
「知ってるけどお前みたいなオッサンには使わない」
報国院はちゃんと教えてくれた。
ちゃんとした人にはちゃんとすべきで、無礼者にはちゃんと節度を持って礼儀作法を伝えしろと。
礼儀には礼儀をもって。
非礼には非礼をもって。
「なぁにが調子にのりおって!世間知らずのなんも知らん奴がでけえ口叩き追って!なぁんも知らん!考えもない!なんも考えちょらん、考えもないアホがよう言うのぉ!」
幾久は言い返した。
「子供相手に調子に乗ってるのオッサンだろ。知らねー子供にいきなり悪口は言うしマウンティングするし性犯罪までかます小太りに礼儀正しくするほうが頭おかしい」
「小太りじゃと?!」
つい本音の方が出てしまったらしい。
幾久は、あ、しまったと思ったのについまた言った。
「やべ、本音のほう」
こらえきれない芙綺が噴出した。
かっとなった中年男が芙綺にだけ手を出し、殴りかかるも、御堀が芙綺を庇い、幾久が御堀の前に乗り出し二人を守った。
(こいつ、女しか殴ろうとしない)
最低どころか、最悪だと幾久は男を睨む。
「お前本当に最低だな」
幾久が言うと中年男は「生意気な!」というが、男相手には怯むのか、ある程度の距離を測ったまま幾久に怒鳴った。
「なにが世間知らずのガキが、いたらんことを!」
「オレが世間知らずなら、お前なんか汚い言葉覚えただけの、性犯罪者のキタねーゴミだろ。誰も処理したがらない、ただの産業廃棄物じゃん」
ゴミ呼ばわりされて、中年男は赤くなったり青くなったりを繰り返し、幾久達を指さして怒鳴った。
「わ、わ、わ、わしは総理と知り合いだぞ!お前なんか生意気な奴は、どうにでもなるからな!」
幾久は鼻で中年男を笑った。
「小学生かよ」
「お前が知らんだけじゃあ!ここをな、何県じゃと思うちょる?!わからんのはお前が馬鹿じゃけえじゃ!」
すると幾久は言い返した。
「いつからこの国は独裁国になったんすか?ここ日本っスよ?じゃあこの県だけ法律が違うんすか?治外法権?いつから?ひょっとしてオッサン時代間違えてないっすか?それとも転生してきたの?じゃあとっとと元の時代に帰ったら?」
多分、必殺の一撃であったろう中年男の反撃を馬鹿にしてかわした幾久に、中年男はもう我慢がならないとばかりに、両腕を伸ばし、幾久を掴んだ。
「調子に乗るな!こんの、クソガキがあ!」
幾久の腕をつかみ、引っ張り上げた大人は腕をひねり上げて言った。
「いってぇえ!」
「幾に触るな!」
幾久に手出しされ、さすがにこらえ切れない御堀が割って入り、中年男から幾久の手を奪い返す。
御堀の反抗的な目に、中年男は怒りのまま怒鳴った。
「ぼんぼんが調子に乗りおって!生意気な!」
御堀の背後の幾久を再び掴もうとしたが、御堀が中年男の手をはじく。
「触るなって言ってるだろ!」
「やかましい!金持ちの世間知らずの苦労知らずのぼんくらに、なにがわかる!」
「本音が出たな」
ぼそっと呟いた御堀の声は、これまで聞いたどんな声より低く、重く、その冷たい声と表情に、中年男は一瞬たじろいだ。
「くそガキめ!」
乱暴に無茶苦茶に振り回す手にぶつかる御堀を庇おうと、幾久が前に出ようとする、それを御堀が更に庇う。
その隙に中年男が幾久の腕を掴み、引っ張ろうとしたら、池の傍、幾久は体制を崩してしまった。
「え、うそ」
このまま転べば、池の傍の石に頭ぶつけてしんじゃうかも。
幾久がやばい、と思った瞬間、御堀が飛び出した。
「幾!あぶない!」
不自然な体制のまま、池に落ちそうになった幾久を庇って抱きしめ、御堀が幾久の頭を抱えた。
「危ない!」
そう言って慌てて芙綺も手を伸ばし、御堀と幾久を支えようとするも、当然中学生女子に、高校生男子二人を支える力などあるわけがなく。
ばしゃん、という音とともに、三人は仲良く池へと落ちた。
池といっても浅い部分だったのがまだ救いで、膝丈くらいの深さしかなかったものの、山のふもとの自然あふれる池なので、泥や藻で水は濁りまくっている。
三人とも、なんとか立ち上がりは出来たものの、全員泥水だらけだ。
「冬に池に落とすとか、殺す気かよ」
幾久がぶつくさ文句を言いながら、御堀と芙綺を背でかばいながら文句を言い、御堀は芙綺を引っ張って起こした。
せっかくの奇麗な着物が泥まみれになったが、中年男は池の上から幾久達を指さし怒鳴った。
「今から総理の秘書さんにのう、電話してお前の素性を調べてやるからな!待ってろ!」
そう言って怒鳴り散らかす男の携帯を、ひょいとつまんで持ち上げた人がいた。
宇佐美だった。
「宇佐美先輩」
幾久が驚いてみていると、宇佐美はニコニコしていて、隣に居る、品の良さそうな中年男性は青ざめていた。
ひょっとしてこれが御堀の父親だろうか、と幾久が池の中で見ていると、宇佐美は男の腕を掴んだまま御堀の父に言った。
「暴行と脅迫、しかも未成年にとは。現行犯ですね」
中年男は宇佐美に怒鳴った。
「田舎高校の奴になにができる!ワシは!総理と!知り合いじゃぞおおおおお!はなせぇええ!お前らを捕まえてもらうけえのおおお!」
御堀の父は真っ蒼になって返した。
「現行犯逮捕は一般人でも可能ですよ」
そして宇佐美に向いて頭を深々と下げた。
「どうかここはお納め下さい。お願いします」
都合のいい、と見えるが、御堀の父にしてみたらそれはそうだろう。
時代錯誤にもほどがある、本人たちの望まない見合いをさせた上に大人が暴力まで振るった。
しかも、ちょっと前には全国区で話題にもされた老舗和菓子屋の跡取りの話だ。
マスコミは大喜びでニュースにするだろう。
『だってこれ、立派に児童虐待ですもんねえ』
にこやかに、宇佐美からそう告げられて、御堀の父親はそこでやっと、自分がどんな立場になっていたか気づいた。
当人が望まない婚姻を、未成年に約束させるのは、笑い話で済むはずもない。
見合いなんて時代錯誤、という話ではなかった。
自分はいつの間にか、耄碌した田舎の老人になっていた事を御堀の父は思い知った。
だから、今更であっても、この場を隠蔽する必要があった。
ところが中年男は、全く自分の立場に気づかず喚き散らす。
「いいや!わしは引き下がらんぞ!こんな無礼を受けて、総理から叱って貰うように、大臣の秘書に伝えて」
「税金の無駄遣いすんな。バカじゃねえの」
「なにっ!っ、いてててててててっ!」
宇佐美は男の腕を軽々と高くひねり上げ、背中に回させた上に、ひざを落とさせると男の背に自らの膝をのせて固定した。
あれスッゲー痛い奴、と幾久は見ながら思い、御堀と芙綺と引っ張り合いながら池から上がった。
宇佐美に腕を捻られながらも、唸る中年男は御堀の父に言った。
「御堀さん、あんた子供になんちゅう教育しとるんじゃ!」
「はい黙ろうね」
「いてててて!」
宇佐美に一層腕をねじられ、中年男は御堀の父に文句を言おうとして、一瞬で黙った。
「あんた、なんてことを」
御堀の父は中年男に言うも、拳を握って震えていた。
青ざめた表情で怒りに震え、中年男を睨みつけ、そこでやっと中年男は口を閉じる。
宇佐美が中年男の腕を捻り上げたまま、微笑んで御堀の父に言った。
「後日、当学院の弁護士から書類、お送りさせていただきますね」
蒼白と言ってもいいほどの表情で、御堀の父は流石に感情を隠さなかった。
「―――――とんでもない事になった」
ぼそりと御堀の父が呟き、そこでやっと中年男は段々大人しくなったのだが。
がさっと音がして、現れたのは誉会のトップスリーの一人、黒田呉服店の奥様だった。
「やれ騒がしい事。誉様のお迎えくらい、上手にできませんの?」
白と黒の格子のような、上品な織り模様のスーツはノーカラー。
生地は込み入っているがシンプルなデザインで、黒のラインでかっちりした印象に見える。
首元にはパールの三連のネックレスが輝いている。
(あ、あのおばさん、じゃなくて奥さまだっけ)
桜柳会の時に面識がある幾久は、誉会の奥様を見て、あの人もいたのか、と思って小さくぺこりと頭を下げた。
一瞬、黒田の奥様は幾久と御堀を見て、にこっと微笑んだものの、その後すぐに顔面蒼白になった。
「ほ、ほ、ほ。誉様!!!!!お、お、お、」
お?と幾久が首をかしげていると、黒田の奥様がすさまじい勢いで近づいてきて叫んだ。
「お着物がぁ―――――っ!!!!!ににににににに人間国宝の精好仙台平がぁあああああ!!!!!!」
「おまえのいう、報国院っちゃ、そこまで女にヘコヘコせんにゃあ、相手にされんような学校なんか。情けないのう」
「そういうオッサンはなにしに学校行ってたの?汚い中年太りでも女にヘコヘコせずに相手にされる方法教えてくれる学校?へえ、めずらしい学校だね。オレは報国院は勉強しに通ってるけど」
こらえきれず御堀が噴出した。
すると中年男は頭から湯気が出んばかりに怒り怒鳴った。
「大人の言う事も聞けんとは!!!!!」
「お前なんか大人じゃない」
幾久は言い返す。
絶対に違う。
玉木みたいに紳士じゃない、毛利みたいに護ってはくれない。
三吉のように、さりげなくサポートもしていない。
「お前が自分を大人って言うんなら、子供を納得させてみろ。それが上の器量だろ」
幾久は知っている。
久坂にそれを習ったのだ。
それなのに一度失敗して高杉を傷つけた。
だからもう二度と、失敗はしない。
中年男は幾久に怒鳴った。
「礼儀を知らんのか!」
「知ってるけどお前みたいなオッサンには使わない」
報国院はちゃんと教えてくれた。
ちゃんとした人にはちゃんとすべきで、無礼者にはちゃんと節度を持って礼儀作法を伝えしろと。
礼儀には礼儀をもって。
非礼には非礼をもって。
「なぁにが調子にのりおって!世間知らずのなんも知らん奴がでけえ口叩き追って!なぁんも知らん!考えもない!なんも考えちょらん、考えもないアホがよう言うのぉ!」
幾久は言い返した。
「子供相手に調子に乗ってるのオッサンだろ。知らねー子供にいきなり悪口は言うしマウンティングするし性犯罪までかます小太りに礼儀正しくするほうが頭おかしい」
「小太りじゃと?!」
つい本音の方が出てしまったらしい。
幾久は、あ、しまったと思ったのについまた言った。
「やべ、本音のほう」
こらえきれない芙綺が噴出した。
かっとなった中年男が芙綺にだけ手を出し、殴りかかるも、御堀が芙綺を庇い、幾久が御堀の前に乗り出し二人を守った。
(こいつ、女しか殴ろうとしない)
最低どころか、最悪だと幾久は男を睨む。
「お前本当に最低だな」
幾久が言うと中年男は「生意気な!」というが、男相手には怯むのか、ある程度の距離を測ったまま幾久に怒鳴った。
「なにが世間知らずのガキが、いたらんことを!」
「オレが世間知らずなら、お前なんか汚い言葉覚えただけの、性犯罪者のキタねーゴミだろ。誰も処理したがらない、ただの産業廃棄物じゃん」
ゴミ呼ばわりされて、中年男は赤くなったり青くなったりを繰り返し、幾久達を指さして怒鳴った。
「わ、わ、わ、わしは総理と知り合いだぞ!お前なんか生意気な奴は、どうにでもなるからな!」
幾久は鼻で中年男を笑った。
「小学生かよ」
「お前が知らんだけじゃあ!ここをな、何県じゃと思うちょる?!わからんのはお前が馬鹿じゃけえじゃ!」
すると幾久は言い返した。
「いつからこの国は独裁国になったんすか?ここ日本っスよ?じゃあこの県だけ法律が違うんすか?治外法権?いつから?ひょっとしてオッサン時代間違えてないっすか?それとも転生してきたの?じゃあとっとと元の時代に帰ったら?」
多分、必殺の一撃であったろう中年男の反撃を馬鹿にしてかわした幾久に、中年男はもう我慢がならないとばかりに、両腕を伸ばし、幾久を掴んだ。
「調子に乗るな!こんの、クソガキがあ!」
幾久の腕をつかみ、引っ張り上げた大人は腕をひねり上げて言った。
「いってぇえ!」
「幾に触るな!」
幾久に手出しされ、さすがにこらえ切れない御堀が割って入り、中年男から幾久の手を奪い返す。
御堀の反抗的な目に、中年男は怒りのまま怒鳴った。
「ぼんぼんが調子に乗りおって!生意気な!」
御堀の背後の幾久を再び掴もうとしたが、御堀が中年男の手をはじく。
「触るなって言ってるだろ!」
「やかましい!金持ちの世間知らずの苦労知らずのぼんくらに、なにがわかる!」
「本音が出たな」
ぼそっと呟いた御堀の声は、これまで聞いたどんな声より低く、重く、その冷たい声と表情に、中年男は一瞬たじろいだ。
「くそガキめ!」
乱暴に無茶苦茶に振り回す手にぶつかる御堀を庇おうと、幾久が前に出ようとする、それを御堀が更に庇う。
その隙に中年男が幾久の腕を掴み、引っ張ろうとしたら、池の傍、幾久は体制を崩してしまった。
「え、うそ」
このまま転べば、池の傍の石に頭ぶつけてしんじゃうかも。
幾久がやばい、と思った瞬間、御堀が飛び出した。
「幾!あぶない!」
不自然な体制のまま、池に落ちそうになった幾久を庇って抱きしめ、御堀が幾久の頭を抱えた。
「危ない!」
そう言って慌てて芙綺も手を伸ばし、御堀と幾久を支えようとするも、当然中学生女子に、高校生男子二人を支える力などあるわけがなく。
ばしゃん、という音とともに、三人は仲良く池へと落ちた。
池といっても浅い部分だったのがまだ救いで、膝丈くらいの深さしかなかったものの、山のふもとの自然あふれる池なので、泥や藻で水は濁りまくっている。
三人とも、なんとか立ち上がりは出来たものの、全員泥水だらけだ。
「冬に池に落とすとか、殺す気かよ」
幾久がぶつくさ文句を言いながら、御堀と芙綺を背でかばいながら文句を言い、御堀は芙綺を引っ張って起こした。
せっかくの奇麗な着物が泥まみれになったが、中年男は池の上から幾久達を指さし怒鳴った。
「今から総理の秘書さんにのう、電話してお前の素性を調べてやるからな!待ってろ!」
そう言って怒鳴り散らかす男の携帯を、ひょいとつまんで持ち上げた人がいた。
宇佐美だった。
「宇佐美先輩」
幾久が驚いてみていると、宇佐美はニコニコしていて、隣に居る、品の良さそうな中年男性は青ざめていた。
ひょっとしてこれが御堀の父親だろうか、と幾久が池の中で見ていると、宇佐美は男の腕を掴んだまま御堀の父に言った。
「暴行と脅迫、しかも未成年にとは。現行犯ですね」
中年男は宇佐美に怒鳴った。
「田舎高校の奴になにができる!ワシは!総理と!知り合いじゃぞおおおおお!はなせぇええ!お前らを捕まえてもらうけえのおおお!」
御堀の父は真っ蒼になって返した。
「現行犯逮捕は一般人でも可能ですよ」
そして宇佐美に向いて頭を深々と下げた。
「どうかここはお納め下さい。お願いします」
都合のいい、と見えるが、御堀の父にしてみたらそれはそうだろう。
時代錯誤にもほどがある、本人たちの望まない見合いをさせた上に大人が暴力まで振るった。
しかも、ちょっと前には全国区で話題にもされた老舗和菓子屋の跡取りの話だ。
マスコミは大喜びでニュースにするだろう。
『だってこれ、立派に児童虐待ですもんねえ』
にこやかに、宇佐美からそう告げられて、御堀の父親はそこでやっと、自分がどんな立場になっていたか気づいた。
当人が望まない婚姻を、未成年に約束させるのは、笑い話で済むはずもない。
見合いなんて時代錯誤、という話ではなかった。
自分はいつの間にか、耄碌した田舎の老人になっていた事を御堀の父は思い知った。
だから、今更であっても、この場を隠蔽する必要があった。
ところが中年男は、全く自分の立場に気づかず喚き散らす。
「いいや!わしは引き下がらんぞ!こんな無礼を受けて、総理から叱って貰うように、大臣の秘書に伝えて」
「税金の無駄遣いすんな。バカじゃねえの」
「なにっ!っ、いてててててててっ!」
宇佐美は男の腕を軽々と高くひねり上げ、背中に回させた上に、ひざを落とさせると男の背に自らの膝をのせて固定した。
あれスッゲー痛い奴、と幾久は見ながら思い、御堀と芙綺と引っ張り合いながら池から上がった。
宇佐美に腕を捻られながらも、唸る中年男は御堀の父に言った。
「御堀さん、あんた子供になんちゅう教育しとるんじゃ!」
「はい黙ろうね」
「いてててて!」
宇佐美に一層腕をねじられ、中年男は御堀の父に文句を言おうとして、一瞬で黙った。
「あんた、なんてことを」
御堀の父は中年男に言うも、拳を握って震えていた。
青ざめた表情で怒りに震え、中年男を睨みつけ、そこでやっと中年男は口を閉じる。
宇佐美が中年男の腕を捻り上げたまま、微笑んで御堀の父に言った。
「後日、当学院の弁護士から書類、お送りさせていただきますね」
蒼白と言ってもいいほどの表情で、御堀の父は流石に感情を隠さなかった。
「―――――とんでもない事になった」
ぼそりと御堀の父が呟き、そこでやっと中年男は段々大人しくなったのだが。
がさっと音がして、現れたのは誉会のトップスリーの一人、黒田呉服店の奥様だった。
「やれ騒がしい事。誉様のお迎えくらい、上手にできませんの?」
白と黒の格子のような、上品な織り模様のスーツはノーカラー。
生地は込み入っているがシンプルなデザインで、黒のラインでかっちりした印象に見える。
首元にはパールの三連のネックレスが輝いている。
(あ、あのおばさん、じゃなくて奥さまだっけ)
桜柳会の時に面識がある幾久は、誉会の奥様を見て、あの人もいたのか、と思って小さくぺこりと頭を下げた。
一瞬、黒田の奥様は幾久と御堀を見て、にこっと微笑んだものの、その後すぐに顔面蒼白になった。
「ほ、ほ、ほ。誉様!!!!!お、お、お、」
お?と幾久が首をかしげていると、黒田の奥様がすさまじい勢いで近づいてきて叫んだ。
「お着物がぁ―――――っ!!!!!ににににににに人間国宝の精好仙台平がぁあああああ!!!!!!」
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