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【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝
王子様のお見合い大作戦
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元日、通常なら静かなはずのこの日、報国町は賑やかだ。
年末から新年の数日、人通りは途絶えることなく、挨拶周りに向かう人も多い。
城下町には寺や神社が多く、報国町には旧城下町の中でも一層古い家が残る地域がある。
宮内と呼ばれるその地域には昔からの家々が連なり、また新しく家を建てても街並みにあわせて日本家屋にすることが多い。
そんな家のひとつ、久坂家もだが、挨拶に訪れるのはもっぱらその家を仕切る後妻の六花への客ばかりだった。
初詣のついでに挨拶に、と尋ねてくる客の相手をしている六花をよそに、家にいる高校生たちは、久坂の家だというのにすっかり寮と同じ日常に染まっていた。
「ったく、いっくんのせいで散々な元旦だよ」
そう言ってぶつくさ文句を言っているのは、この家の主、ではなく、今はただの手下でしかない久坂瑞祥だ。
初詣で偶然会った幾久の同級生を、久坂の義理の姉である六花は家へ招いた。
遠慮のない幾久の友人たちは、六花の進めるままにおせちを食い散らかし、お菓子を食べ、ゲームに熱中して疲れて転寝をして、おやつを食べてやっと帰った。
児玉も自宅へと戻ったので、いまは久坂、高杉、幾久に御堀の四人が揃っている。
「いいじゃないっすか。六花さんのごはんおいしいし」
そう言ってみかんを食べているのは、この家のお邪魔虫、御門寮の乃木幾久だ。
「答えになってないよ、幾」
そう言いながら幾久の食べるみかんの皮をむいているのは御堀。
六花と御堀の姉は、報国院高校と姉妹校にあたるウィステリアの出身で、先輩後輩の仲にあたるという。
「お前はあたりが怖いと思われちょるからの、後輩には新鮮だったじゃろう」
そう言うのは久坂の親友である高杉呼春だ。
自宅が近所にあるにも関わらず、久坂家に入り浸っている。
毎日実家に顔だけは見せているらしいが、大抵不機嫌な顔で帰ってくるのであまり家族とはうまくいっていないのかもしれない。
「正月休みなんかまだあるじゃないっすか。明日リベンジしたらいいんすよ、明日」
幾久が言うと、久坂はため息をついてちゃぶ台につっぷした。
「明日ハルは出かけるんだよ」
むっとする久坂に高杉が苦笑した。
「しょうがなかろう。明日さえやり過ごせばええんじゃから」
いつもべったり一緒の久坂と高杉だったが、明日は高杉は実家の用事があるとの事だ。
「なんならお前も参加してエエんじゃぞ」
高杉が言うと、久坂が露骨にむくれた。
「僕がゴルフなんかするわけないだろ。面倒くさい」
ばかばかしいと久坂が言うと、高杉も「そうじゃろ?」と苦笑する。
「ハル先輩、ゴルフもするんすねえ」
幾久が感心すると、高杉が今度はため息をついた。
「したくてする訳じゃない。親の付き合いで仕方なく、じゃ」
「親の付き合いでゴルフって、なんか世界が違う」
幾久は言うが、御堀が訪ねた。
「幾のお父さんとかはゴルフしないの?」
「さー?してるかもしんないけど、見たことないし、話も聞いたことないからなあ」
幾久は父親がどういう人なのか、いまだによく分からない。
実の父親だし、ずっと家族で過ごしてはきたけれど、いつも忙しそうだったし、ろくに話したことすらなかったからだ。
「幾も官僚になるならやっといたほうがいいんじゃない?」
御堀がからかいながら言って、幾久の口にむいたみかんを近づけると、幾久はあーん、と口を開けてみかんを食べる。
「オレ官僚なんか無理だよ。それにゴルフよりサッカーがいいし」
「サッカーでは接待にならないんじゃない?」
御堀が言うと幾久が答えた。
「だからオレそういうのしないから。面倒くさそうだし」
「面倒しかねえの」
高杉が言うので幾久も「ほらね」と御堀に言う。
「どういったお付き合いなんですか?」
御堀が高杉に尋ねると、高杉がまたため息をついて言った。
「父親の関係じゃの。なんか偉そうな肩書をつけちょる連中に見せびらかすつもりじゃろう。報国院で首席入学は、このあたりじゃそこそこの箔になるけえの」
「ハル先輩がそういうのから逃げないって珍しいっすね」
いくら親相手でも、そういう事は断固と拒否しそうなのに、と幾久が首をかしげるが高杉は言った。
「そうでなければ妹がおもちゃにされるだけじゃ」
「あー、そういう」
成程、と幾久は頷いた。
高杉には腹違いの妹がおり、年が離れたその妹を溺愛している。嫌々ながらも家に関わるのは、妹がいるせいなのは幾久にも判る。
「ワシが行って、大人のしょーもない付き合いに数時間我慢すりゃ、自由な学校に帰れるんじゃから、ま、仕方ねえの」
「ゴルフって何時からっすか?」
幾久が訪ねると、高杉が答えた。
「朝からじゃから、夕方には帰ってこれる。じゃけ大人しゅう幾久と留守番しちょけの、瑞祥」
「嫌だよ。僕は寝る」
「いつもと同じじゃないっすか」
「なんだと」
幾久と久坂がいつものように引っ張ったりつねったりと低レベルな争いを始めたので、高杉は呆れて御堀に話を振った。
「御堀も明日は実家じゃったの」
「はい。明日と明後日」
「お見合いって言ってたっけ」
久坂が言うと、御堀が頷く。
「お見合いって、あれマジだったの?!」
幾久が驚くと、御堀は「マジだよ」と返し、幾久の口にみかんを入れた。
「って言っても、相手は知ってる子なんだ。ファイブクロスのユースで一緒にやってた奴の妹でさ。あっちもけっこう古い家の子でね」
「許嫁ってやつ?」
久坂が言うと御堀が頷いた。
「っぽくはなってますけど。でもあっちもその気はないです」
「そんなのわかんないじゃん」
幾久が言うも、御堀は苦笑した。
「本当にそうだって。幼馴染みたいなものだし、こっちも向こうも全くそういう気がないから僕だって受けるんだし」
「なんだ、てっきりドラマみたいなのかと思ってわくわくしたのに」
「残念ながら幾の妄想みたいにはならないよ。夫が見合いするのに、ちょっとは慌てないの?」
「え?もう夫だから慌てないよ?」
「慌ててよ」
そう言ってロミオのような雰囲気で幾久の頬を指でなぞると、高杉が呆れて言った。
「そういうのは是非撮影中にやれ。飛ぶように写真が売れるからの」
「そうですね。また何か新しいシリーズ考えておきたいですね」
「またお金の話してる」
新年早々がめつい御堀に幾久は肩を落としたのだった。
翌朝、幾久達は気を使って寮と同じ時間に起きたのだが、高杉はとっくに久坂家を出た後だった。
久坂はふて寝して、まだ布団の中で眠っている。
「ハル先輩、こんな早くから出たんすね」
ふわあ、とあくびをしながら朝食の準備を手伝う幾久に、六花は「そうよー」と笑った。
「ここからゴルフ場まで、車で一時間近くかかるからね。準備して、着替えて、なんてやってたら朝一番に間に合わないもの」
そういって朝食の雑煮を幾久に渡す。
「御堀君だって、そんなのんびりしてられないでしょ?」
御堀も頷く。
「はい。食べたらすぐに出ます。お世話になりました」
ぺこりと頭を下げるが、六花は笑顔で首を横に振った。
「いいのよ、どうせ正月は暇なんだし。それにどういうスケジュールになるかわかんないんだから、なにかあったら遠慮せずにこっちに帰って来てもいいからね」
六花の言葉に幾久も頷く。
「そーだよ。オレなんかガタ先輩のせいで夏にとんでもねー目にあったんだもん。逃げ場所はあったほうがいいって」
夏休み、東京から報国町に帰ってきた幾久は寮が工事中なのを知らされず、山縣にほったらかしにされた事がある。
高杉に泣きついて、結果この久坂家に世話になり、事なきを得たがあれ以来、絶対に山縣を信用しまいと決めている。
とはいえ、お詫びに貰ったなんでもカードはけっこうな役に立っているが。
「いっくん、お餅おかわりあるからね」
「はーい!遠慮なくもらいます!」
幾久はいただきます、と雑煮をすする。
東京に居た頃も、母親が雑煮を作ってくれてはいたが、六花が作る雑煮とは全く別物だ。
こっちの地方の雑煮は、白菜と葱くらいの具しかなく、だしも煮干しベースで味付けは醤油、というシンプルなものだ。
地味でしょ、と六花は笑うが、幾久はこれはこれでおいしい、と思っている。
実際、六花の作る料理はどれも麗子と味付けが同じなので、安心してなんでも食べられる。
雑煮のおかわりを貰い、おせちをつまんで食べる幾久とは対照的に、御堀の表情はどこか冴えない。
「誉?どうしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけ」
そういって笑うけれど、どうも覇気がない。
(ひょっとして、家に帰るの嫌なのかな)
高杉も家に帰るのが嫌だ、と文句を言っていたけれど、御堀もそうなのだろうか。
だけど、もうすぐ家に帰ろうとしている御堀になにか尋ねるのも邪魔をしそうな気がした。
幾久の表情に御堀は気づき、「どうせすぐ帰ってくるから」と笑顔で答えて、やっぱりバレているのか、と幾久は逆にがっかりした。
「オレ、そこまでわかりやすい?」
「まあね。幾って案外素直に顔に出るし。心配することないよ。明後日には帰ってくるんだし。どうせあいさつ回りばっかりだよ」
御堀がそう言うので、幾久は、そう、と小さく頷く。
「だったらいいけどさ」
「職人さんもお正月休みだから、出来立ての外郎はないし」
「それスッゲー残念」
「あはは。ちゃんと幾へのお土産は用意して貰うから。大人しく待ってて」
そう言って笑う御堀はいつも通りで、幾久はちょっとほっとした。
年末から新年の数日、人通りは途絶えることなく、挨拶周りに向かう人も多い。
城下町には寺や神社が多く、報国町には旧城下町の中でも一層古い家が残る地域がある。
宮内と呼ばれるその地域には昔からの家々が連なり、また新しく家を建てても街並みにあわせて日本家屋にすることが多い。
そんな家のひとつ、久坂家もだが、挨拶に訪れるのはもっぱらその家を仕切る後妻の六花への客ばかりだった。
初詣のついでに挨拶に、と尋ねてくる客の相手をしている六花をよそに、家にいる高校生たちは、久坂の家だというのにすっかり寮と同じ日常に染まっていた。
「ったく、いっくんのせいで散々な元旦だよ」
そう言ってぶつくさ文句を言っているのは、この家の主、ではなく、今はただの手下でしかない久坂瑞祥だ。
初詣で偶然会った幾久の同級生を、久坂の義理の姉である六花は家へ招いた。
遠慮のない幾久の友人たちは、六花の進めるままにおせちを食い散らかし、お菓子を食べ、ゲームに熱中して疲れて転寝をして、おやつを食べてやっと帰った。
児玉も自宅へと戻ったので、いまは久坂、高杉、幾久に御堀の四人が揃っている。
「いいじゃないっすか。六花さんのごはんおいしいし」
そう言ってみかんを食べているのは、この家のお邪魔虫、御門寮の乃木幾久だ。
「答えになってないよ、幾」
そう言いながら幾久の食べるみかんの皮をむいているのは御堀。
六花と御堀の姉は、報国院高校と姉妹校にあたるウィステリアの出身で、先輩後輩の仲にあたるという。
「お前はあたりが怖いと思われちょるからの、後輩には新鮮だったじゃろう」
そう言うのは久坂の親友である高杉呼春だ。
自宅が近所にあるにも関わらず、久坂家に入り浸っている。
毎日実家に顔だけは見せているらしいが、大抵不機嫌な顔で帰ってくるのであまり家族とはうまくいっていないのかもしれない。
「正月休みなんかまだあるじゃないっすか。明日リベンジしたらいいんすよ、明日」
幾久が言うと、久坂はため息をついてちゃぶ台につっぷした。
「明日ハルは出かけるんだよ」
むっとする久坂に高杉が苦笑した。
「しょうがなかろう。明日さえやり過ごせばええんじゃから」
いつもべったり一緒の久坂と高杉だったが、明日は高杉は実家の用事があるとの事だ。
「なんならお前も参加してエエんじゃぞ」
高杉が言うと、久坂が露骨にむくれた。
「僕がゴルフなんかするわけないだろ。面倒くさい」
ばかばかしいと久坂が言うと、高杉も「そうじゃろ?」と苦笑する。
「ハル先輩、ゴルフもするんすねえ」
幾久が感心すると、高杉が今度はため息をついた。
「したくてする訳じゃない。親の付き合いで仕方なく、じゃ」
「親の付き合いでゴルフって、なんか世界が違う」
幾久は言うが、御堀が訪ねた。
「幾のお父さんとかはゴルフしないの?」
「さー?してるかもしんないけど、見たことないし、話も聞いたことないからなあ」
幾久は父親がどういう人なのか、いまだによく分からない。
実の父親だし、ずっと家族で過ごしてはきたけれど、いつも忙しそうだったし、ろくに話したことすらなかったからだ。
「幾も官僚になるならやっといたほうがいいんじゃない?」
御堀がからかいながら言って、幾久の口にむいたみかんを近づけると、幾久はあーん、と口を開けてみかんを食べる。
「オレ官僚なんか無理だよ。それにゴルフよりサッカーがいいし」
「サッカーでは接待にならないんじゃない?」
御堀が言うと幾久が答えた。
「だからオレそういうのしないから。面倒くさそうだし」
「面倒しかねえの」
高杉が言うので幾久も「ほらね」と御堀に言う。
「どういったお付き合いなんですか?」
御堀が高杉に尋ねると、高杉がまたため息をついて言った。
「父親の関係じゃの。なんか偉そうな肩書をつけちょる連中に見せびらかすつもりじゃろう。報国院で首席入学は、このあたりじゃそこそこの箔になるけえの」
「ハル先輩がそういうのから逃げないって珍しいっすね」
いくら親相手でも、そういう事は断固と拒否しそうなのに、と幾久が首をかしげるが高杉は言った。
「そうでなければ妹がおもちゃにされるだけじゃ」
「あー、そういう」
成程、と幾久は頷いた。
高杉には腹違いの妹がおり、年が離れたその妹を溺愛している。嫌々ながらも家に関わるのは、妹がいるせいなのは幾久にも判る。
「ワシが行って、大人のしょーもない付き合いに数時間我慢すりゃ、自由な学校に帰れるんじゃから、ま、仕方ねえの」
「ゴルフって何時からっすか?」
幾久が訪ねると、高杉が答えた。
「朝からじゃから、夕方には帰ってこれる。じゃけ大人しゅう幾久と留守番しちょけの、瑞祥」
「嫌だよ。僕は寝る」
「いつもと同じじゃないっすか」
「なんだと」
幾久と久坂がいつものように引っ張ったりつねったりと低レベルな争いを始めたので、高杉は呆れて御堀に話を振った。
「御堀も明日は実家じゃったの」
「はい。明日と明後日」
「お見合いって言ってたっけ」
久坂が言うと、御堀が頷く。
「お見合いって、あれマジだったの?!」
幾久が驚くと、御堀は「マジだよ」と返し、幾久の口にみかんを入れた。
「って言っても、相手は知ってる子なんだ。ファイブクロスのユースで一緒にやってた奴の妹でさ。あっちもけっこう古い家の子でね」
「許嫁ってやつ?」
久坂が言うと御堀が頷いた。
「っぽくはなってますけど。でもあっちもその気はないです」
「そんなのわかんないじゃん」
幾久が言うも、御堀は苦笑した。
「本当にそうだって。幼馴染みたいなものだし、こっちも向こうも全くそういう気がないから僕だって受けるんだし」
「なんだ、てっきりドラマみたいなのかと思ってわくわくしたのに」
「残念ながら幾の妄想みたいにはならないよ。夫が見合いするのに、ちょっとは慌てないの?」
「え?もう夫だから慌てないよ?」
「慌ててよ」
そう言ってロミオのような雰囲気で幾久の頬を指でなぞると、高杉が呆れて言った。
「そういうのは是非撮影中にやれ。飛ぶように写真が売れるからの」
「そうですね。また何か新しいシリーズ考えておきたいですね」
「またお金の話してる」
新年早々がめつい御堀に幾久は肩を落としたのだった。
翌朝、幾久達は気を使って寮と同じ時間に起きたのだが、高杉はとっくに久坂家を出た後だった。
久坂はふて寝して、まだ布団の中で眠っている。
「ハル先輩、こんな早くから出たんすね」
ふわあ、とあくびをしながら朝食の準備を手伝う幾久に、六花は「そうよー」と笑った。
「ここからゴルフ場まで、車で一時間近くかかるからね。準備して、着替えて、なんてやってたら朝一番に間に合わないもの」
そういって朝食の雑煮を幾久に渡す。
「御堀君だって、そんなのんびりしてられないでしょ?」
御堀も頷く。
「はい。食べたらすぐに出ます。お世話になりました」
ぺこりと頭を下げるが、六花は笑顔で首を横に振った。
「いいのよ、どうせ正月は暇なんだし。それにどういうスケジュールになるかわかんないんだから、なにかあったら遠慮せずにこっちに帰って来てもいいからね」
六花の言葉に幾久も頷く。
「そーだよ。オレなんかガタ先輩のせいで夏にとんでもねー目にあったんだもん。逃げ場所はあったほうがいいって」
夏休み、東京から報国町に帰ってきた幾久は寮が工事中なのを知らされず、山縣にほったらかしにされた事がある。
高杉に泣きついて、結果この久坂家に世話になり、事なきを得たがあれ以来、絶対に山縣を信用しまいと決めている。
とはいえ、お詫びに貰ったなんでもカードはけっこうな役に立っているが。
「いっくん、お餅おかわりあるからね」
「はーい!遠慮なくもらいます!」
幾久はいただきます、と雑煮をすする。
東京に居た頃も、母親が雑煮を作ってくれてはいたが、六花が作る雑煮とは全く別物だ。
こっちの地方の雑煮は、白菜と葱くらいの具しかなく、だしも煮干しベースで味付けは醤油、というシンプルなものだ。
地味でしょ、と六花は笑うが、幾久はこれはこれでおいしい、と思っている。
実際、六花の作る料理はどれも麗子と味付けが同じなので、安心してなんでも食べられる。
雑煮のおかわりを貰い、おせちをつまんで食べる幾久とは対照的に、御堀の表情はどこか冴えない。
「誉?どうしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけ」
そういって笑うけれど、どうも覇気がない。
(ひょっとして、家に帰るの嫌なのかな)
高杉も家に帰るのが嫌だ、と文句を言っていたけれど、御堀もそうなのだろうか。
だけど、もうすぐ家に帰ろうとしている御堀になにか尋ねるのも邪魔をしそうな気がした。
幾久の表情に御堀は気づき、「どうせすぐ帰ってくるから」と笑顔で答えて、やっぱりバレているのか、と幾久は逆にがっかりした。
「オレ、そこまでわかりやすい?」
「まあね。幾って案外素直に顔に出るし。心配することないよ。明後日には帰ってくるんだし。どうせあいさつ回りばっかりだよ」
御堀がそう言うので、幾久は、そう、と小さく頷く。
「だったらいいけどさ」
「職人さんもお正月休みだから、出来立ての外郎はないし」
「それスッゲー残念」
「あはは。ちゃんと幾へのお土産は用意して貰うから。大人しく待ってて」
そう言って笑う御堀はいつも通りで、幾久はちょっとほっとした。
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