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【20】適材適所~愛とは君が居るということ

ロミオ様の成算と誤算

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「―――――そう、ですね。僕は鳳、だった」
 御堀が言うと、福原が御堀の肩を軽く叩いた。
「鳳はしゃんとしとけ。堂々としてねーとな」
「はい」
 その通りだと御堀は思い、再び顔を上げた。
 そこには、やはり知っている騒がしい先輩、というより、見慣れたような報国院の先輩の空気をまとった人達が居た。
(やっぱり、この人達は先輩なのか)
 なんだかそう思うと、急にこの人達が身近に感じられた。
 御堀が肩の力を落とすと、それを見て福原も青木も、ちょっと笑ったような気がした。
「でさでさ、結局これっていっくんには内緒なんだろ?」
 福原が尋ねると、御堀は頷いた。
「はい。でないと幾は絶対に自分の為って思うし。でも状況が出来ると割と流されてくれるんで」
「断られる可能性は?」
 青木が尋ねると御堀は言った。
「OKさせます」
 きっぱりと言い切った御堀に、福原は笑った。
「そういうのいいねいいね。なんか懐かしい!」
「デザインは全部、僕がするからね。そこは譲らないからね」
 青木が言うと、御堀は頷いた。
「法令に関わる基準については記載しています」
 つまり、決まりさえ守っておけばあとは青木の好きに出来るという事だ。
「よし。僕のデザインでいっくんを染めるよ!」
 張り切りだす青木に、宮部が苦笑いで言った。
「それはいいんだけど……ライヴ中にデザイン画なんか描かないでよアオ。今日と明日はライヴだよ?」
 そう言われてそっぽを向く青木に、宮部は慌てた。
「ちょっと!なんで黙るのアオ!」
「だってどうせピアノ弾いてもいっくん僕を無視するだろ。それならデザインやってたほうがマシ」
「そうだねー、どうせ打ち込みだもんね。青木君いらね」
「ふっくん!面白そうだからってアオを煽るな!」
「俺もステージでうどん打とうかな」
「やめて!オンやめて!ファンがどこまでジョークか理解できないから!」
 混乱し始めたグラスエッジに、御堀が告げた。
「青木先輩がピアノ弾かないと、幾、がっかりしますよ」
 そこに居た全員が、「え?」と驚き御堀を見た。
 御堀は逆に首をかしげて言った。
「だって、幾、わりと頻繁に青木先輩のピアノ動画見てますよ。グラスエッジも同じ寮の奴が聴いてるから、一緒に流れで聞いてるし」
「え……え?それ本当に?マジで?」
 青木が言うと、御堀は頷く。
「はい。殆ど毎日です」
 同じ寮の児玉はとにかくグラスエッジの大ファンで、ことあるごとに聴いているのだが、寮内でヘッドホンやイヤホンをしていると先輩の用事を聞き逃すので、今はスピーカーを部屋において聴いている。
 児玉と幾久は同じ場所で過ごす事が多いので、自然、幾久もグラスエッジの楽曲を聴くことになる。
 動画で見ていることも多いのだが、幾久はピアノがお気に入りらしく、青木のピアノ動画はよく見ていた。
「『アオ先輩も、ピアノ弾いてるとこはかっこいいのに』って口癖みたいに」
 御堀が言うと、青木がソファーに突っ伏す。
 福原がニヤニヤしながら、宮部に言った。
「おいおい、宮部っち、こりゃ後輩にたっぷり包まないと、今日のグラスエッジ青木やべーよ?」
「それを見込んでカメラ用意したんだからね!」
「カメラ?」
 御堀が尋ねると、福原が言った。
「今日と明日のライヴ映像を撮るんだよ。特番を撮ってて、音楽番組でも使うの」
「僕、お邪魔では」
 御堀が珍しく慌てるが、福原が笑った。
「だから大丈夫だって。そんなの仕込んだ上でのスケジュールなんだしさ。それに後輩の為にだったら、時間どんだけでも作るよ」
「僕は、いっくんの為にしかやらないけどね!」
 すると、様子を見ていた中岡が挙手した。
「この子が持ってきた件だけどさ、俺も参加してもいいの?」
「え?」
 福原が驚くと、中岡が言った。
「だって、サッカー繋がりなら俺も参加したいな。ケートスなら俺もちょっとは思いいれあるしさ」
「……いいん、ですか?」
 御堀が驚くと、中岡は頷く。
「俺、ふっくんとはガキん時にユースで知り合ったんだよ。大会の時に偶然、好きなアーティストのキーホルダー持っててて、ふっくんが俺に声かけてくれて」
 人生がそれで変わったんだ、と中岡は目を細めて言った。
「ふっくんが居なかったら、ベーシストになってなかったし、バンドも組んでなかったと思う。だから、ふっくんを育ててくれた学校なら俺もなにかしたい」
「見た?青木君の私欲にまみれた考えと違ってリーダーのこの美しさ!青木君見習って?!」
「うるせえ、金は多いほうが美しいし正しいんだよ」
 ごちゃごちゃと騒がしく話しながらも、メンバーの考えが一致したところで宮部はほっとした。
「じゃ、方向性は決まったし、後はアツと来だけだね」
「あいつらには俺っちから言うから、いいよ」
 福原が言うと、宮部はそうだな、と頷いた。
「ことがサッカー関連なら、ふっくんが最適だろうね。じゃあ後は君、御堀君との話になるのかな」
「いえ、僕は一旦学校でこの話を説明したいと思います。案が通ったことを伝えれば、あとは学校から担当を用意されると」
 御堀の答えに福原が笑って言った。
「あっまーい!甘い甘いよ!御堀君?学校がそんなチャンス逃すわけないでしょ」
 青木も頷く。
「そう。報国院がこんな仕事持ってきた生徒を、『よくやりましたね、じゃあ』ってほっとくわけないだろ」
 御堀はまさか、と思って言った。
「もしかして、僕が担当になるんですか?」
 まさか。
 けっこうなこれは大事業だ。
 いくら御堀が鳳で首席だからといって、出来るような内容じゃない。
 すると福原は頷き言った。
「あったりまえじゃん。学校だってこんな夢みたいな話まとめてくるとは思わねーじゃん。俺らに言いに行くって学校は知らねーんだろ?」
 御堀は頷く。そんな馬鹿げた事をわざわざ報告する必要はないと思ったからだ。
 青木が言った。
「だったらせいぜい銀行に頼みに行ったくらいしか思わないだろ。なのに僕らに言ってきて、しかも話もまとめてきたってさ」
 青木の言葉に頷いて、福原がニヤッと笑って御堀に言った。
「覚悟しろよ御堀君。報国院はもうお前を離さねーよ?いい教育のチャンスな上に、有能な奴の実力も見れる」
 うわあ、面倒くさそう。
 御堀がもっとも嫌いでやりたくないお仕事が目の前に見えてしまい、今更御堀は呟いた。
「しまった。失敗した。僕の企画じゃなくて寄付をお願いすべきでした」
「はい残念。頑張ってね担当」
 福原の言葉に御堀は言った。
「僕のアイディアじゃなかったことになりませんか?」
 御堀が言うと青木は答えた。
「絶対にしないから諦めろ。お前が持ちこんだんだからお前がやれよ」
「えー……ちょっと面倒くさい気がしてきたなあ」
「いっくんの為だろ。やれよ」
 青木が言うと、御堀は肩を落とした。
「そうですね。仕方ないけどやらなくちゃ」
 あーあ、と御堀は露骨にがっかりした。
「僕もまだまだだなあ。そこまで考えてなかった」
「いいんじゃねーの。高校生なら及第過ぎんだろ。立派立派」
 福原の答えに、御堀は不満げに言った。
「所詮、高校生の浅知恵って奴でした」
 ああしまった、と御堀は本当に思った。
 折角桜柳会から逃げられたと思ったのに、また面倒を引き受けてしまった。
 そんな御堀の様子を見て、福原がふっと笑って御堀に言った。

「でもさ、自分の妄想が形になるってさ、最高に気持ちいいって思うだろ?」

 妄想。
 御堀ははっと気づく。
 そうだ、これはついこの前まで、御堀の夢、というよりただの妄想に過ぎなかった。
 出来ないだろうか。まさかね。
 そう思いながら願う事は止められず、報国院に質問した。
 できないことはないが、予算が難しいね。出来るのは土地の提供くらい。
 それだけでも、かなりの譲歩でチャンスを貰ったのだと判った。
 後は自分がどうにかする番。
 だから必死に考えて、どんな相手でも利用してやろうと思っていた。
 形にして、考えて、企画にして走り出した。
 今、現実になろうとしている。

 夢じゃない。
 もう、御堀の妄想は、すでに現実に現れようとしているのだ。

 御堀はぶるっと体を震わせた。
「僕の、夢が―――――」
 思いつきの馬鹿げた夢を、わずかでも形にして見せ付けた。
 みっともない学生の妄想だったはずなのに。
「現実に、なるんだ」
 御堀の、誰に言ったわけでもない呟きを福原は受け取り頷いた。

「そう。お前と、俺らでやっちゃうんだぜ」

 福原はニヤッと笑った。


 長い長い物販の列に、二人で協力して並んだかいがあり、児玉と江村はお目当てのグッズを全部ゲットすることが出来ていた。
 買い物を終えると列を抜け出す。
「あー、マジ疲れた!」
「ほんっと、疲れたよな!」
 二人は列を抜け、ほっとして伸びをした。
 とりあえずの目的をひとつ終えたことにほっとして、二人は階段を見つけると腰を下ろした。
 あたりは二人と同じくグラスエッジのライヴに来たファンの人が沢山居て、やはり二人と同じように腰を下ろして話をしたり、買ったグッズを確認したりしていた。
 児玉は荷物から飲み物を取り出し、ごくごくと飲んだ。
 江村も同じく、飲み物を飲み、二人で「はー、」とため息をつく。
「グッズ確認しようぜ」
「そうだな。今のうちに」
 二人は互いに購入したグッズを確認し、値段を計算し、間違いがないことを確かめるとほっとしてもう一度飲み物を飲んだ。
「開場までもーしばらくあんな」
 江村が言うと、児玉も時間を確認して頷く。
「そうだな。開くまでここに居たらいいだろ」
 グッズ販売は外で行われているから、早く開場の中に入る理由は特にない。
「ファンクラブ特典、早めに行くべきかな」
「特典はあわてなくて大丈夫ってあったから、入った時でいいんじゃね?」
「そっか」
 ふう、と江村はため息をついた。
「なあ、児玉。あいつらは大丈夫なんだろ?」
 あいつら、とは幾久と御堀の事だ。
「大丈夫だろ。適当にしてるだろうし、帰り合流すりゃ問題ねーよ」
「ならいいけどさ。なんか俺らばっか盛り上がってるみたいでちょっと申し訳ねーかなって」
「気にする奴らじゃないし、今日はちょっと興味あるから来るだけだし」
 児玉が言うと、江村が「そこよ!」と児玉に詰め寄った。
「そこよって、何が?」
「だってさ、そんな興味ねーのに、なんであいつらチケット取れてんの?」
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