上 下
264 / 416
【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ

ロミオ様の本領発揮

しおりを挟む
 幾久が驚いていると、外から「よいしょぉー!」と掛け声がする。
「あいつらの仕事は速いからの。あっという間に出来上がるじゃろう」
「それにしたって、誉っていくら持ってるんだろう」
 高校生がリフォームをするなんて、そんなの考えもしないし想像もつかない。
「一応、内部の割引はされてるはずだよ」
 久坂が言うも、幾久は首を横に振る。
「だからってそんなお安くはないっすよね」
「お安くはないだろうね。さすが御堀はお坊ちゃんか、もしくは稼いでいるか」
「―――――なんか世界が違う」
 幾久が言うも児玉も頷く。
「元々雰囲気違ったけど、ここにきて一層って感じだよな」
 するといつの間にか、御堀が居間に入ってきて言った。
「所詮上っ面を飾り立てたに過ぎないよ。お金は誤魔化しがきくからね」
「うわ、誉」
「いきなりか」
 驚く幾久と児玉に御堀は笑う。
「そりゃ居るよ。僕だってもう御門寮生なんだから」
「それはありがたいけどさ」
 幾久の隣に御堀は腰を下ろす。
 どうやら自分の定位置を決めたらしい。
「問題なければ明日の昼前までには終わるそうです」
 御堀が言うと高杉が頷いた。
「そうじゃろうの。少々騒がしいが、ま、仕方がない」
 そういえば、と幾久が気づく。
「ガタ先輩大丈夫なんスか?」
 一応山縣は受験生だし、部屋でずっと勉強をしている。
 いくら防音室とはいえ、音だけでなくあの振動はかなり響くのではないのだろうか。
 幾久が心配すると、御堀が笑った。
「大丈夫だよ。山縣先輩は図書館に行ってる」
「え?いつの間に。っていうか、どこの?」
「長州市の一番大きなところ」
「よくガタ先輩が出かけてくれたね」
 驚く幾久に対し、御堀はにこにこと微笑んでいて、幾久はそれで気づいた。
「ひょっとして金の力」
「そう。移動の代金といくばくかをね」
「いったい、いくら使ったの?」
 御堀が御門寮に来たかったのも、そのためにがんばったのも判るけど、本気でいくらつぎ込んだのか、幾久は怖くなった。
「リフォームに買収に、移動費用って。こわい。誉こわい」
「はは、お金は使ってこそ経済をまわすんだよ」
「誉、なんかお金先輩に似てきたね」
「そうかな?」
「そうだよ。なんかもう……なんでもいいや」
 がっかりする幾久に御堀が言った。
「ところで幾、外郎食べる?」
「たべる!」
 相変わらずの幾久に、児玉は御堀に言った。
「おい誉、幾久に与える外郎の量はちゃんと管理してやれよ。そいつ際限ねーから」
「そんなどーぶつみたいに」
 むっとする幾久に、久坂も高杉も(動物だよなあ)と思ったけれどあえてそこまでは言わなかった。


 御堀が御門寮に来て、なにか変わるかといえば変化はなかった。
 仕方のないことで、御堀はもう数度御門寮に泊まっていたし、そもそもこれ以上ないほどにすっとなじんでしまっていた。
「誉ってさー、なんかスタイリッシュだよね」
 いつもなら、夕食後の片付けは幾久や児玉の仕事なのだが、寮に来たからには自分にもさせて欲しいと、御堀は栄人にレクチャーを受けていた。
「そう?嬉しいな」
 児玉も頷く。
「なんでそう、やけに格好つけるんだ?」
「格好?」
「エプロン」
 児玉の指摘に、御堀が「ああ、」と笑った。
「かっこいいだろ?」
 御堀が言うと幾久が頷く。
「めちゃくちゃ、かっこいい!」
 御堀が腰に巻いているのは、長い黒のカフェエプロンだ。
 シャツの袖をまくり、腰にはカフェエプロン、女子が見たら絶対にキャーキャーいうヤツだ。
 栄人が言った。
「それ備品だよ。桜柳祭の制服カフェで使って、あまったの貰ったの。みほりん、背があるから映えるよねえ」
 桜柳祭では報国院が主催する制服カフェというのがあって、報国院の生徒が皆、黒い儀式用のタイとジャケットを脱いだベストでカフェをする。
 毎年凄い人気で、ファンもかなり多いという。
 幾久たちは地球部に参加しなければならなかったので、カフェへの参加はしなくて済んだが、相当忙しかった、と聞く。
「誉がカフェに参加したら、チップぐいぐい押し込まれそう」
「じゃあ格好つけるからさ、幾がチップ押し込んでよ」
 お皿を拭きながら御堀が言うと、まるで雑誌の中みたいだ。
「外郎でいい?」
「なんでだよ。それ絶対僕があげたヤツでしょ」
「だって誉ん家の外郎が世界一おいしいじゃん」
 幾久が言うと、御堀はちょっと頬を染めた。
「幾はそういうの上手だよね」
「本当においしいよ?」
 小首をかしげて言うも、御堀は言った。
「今日の分はもう食べただろ」
「ちえー、やっぱ駄目かあ」
 なんとなくおねだりしてみたものの、やはり駄目らしい。
「ほんっと、みほりんがうちに来たのはいいんだけどさ、外郎だけが心配だよね」
 栄人が苦笑していい、児玉も頷く。
「外郎食べすぎて医者呼ぶとか恥ずかしいぞ」
「そこまでじゃないって。この前だって大人しくしてたら治ったし!」
 幾久が言うも御堀が言った。
「あれは消化するまで待った、っていうの。全くもう」
 言いながら御堀はお皿を片付けてしまうと、お茶を用意しはじめた。
「おいしいお茶を入れてあげるから、それ飲んで。干菓子食べる?」
「食べる!」
 頷く幾久に、御堀は小さな箱と綺麗な盆を取り出した。
「じゃあ、居間にお茶もって行くから、幾はお菓子を並べておいて」
 干菓子は、御堀の実家である和菓子屋で作っている、お茶席用のかわいらしい飴や落雁だ。
「判った」
 そういって幾久は早速、居間へと移動した。

 お茶を持ってきた御堀が目にしたのは、ちゃぶ台の真ん中に置かれた大きな盆の上に、おもちゃのように可愛い干菓子が綺麗に並べてある、までは良かったのだが。
 三年の山縣を含む先輩達を前に、幾久が干菓子を特徴のある形に並べていた。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう、御堀ってお茶入れるの上手だよね」
 久坂が言うと、幾久が文句を言った。
「オレが下手みたい」
「みたいじゃなくて下手なんだよ。いっくんはお茶にいきなり熱湯ぶっかけるでしょ。時々苦いよ」
「それわざとっす」
「なんだと?」
「……嘘っす」
「嘘じゃないよね?」
「……ごく、たまに」
 幾久がじりじりと逃げようとするが、久坂が近づく。
 さっと御堀の影に隠れる幾久に、御堀が苦笑して草かに言った。
「今度から僕が入れますよ」
「そっちをちゃんと躾けておいて」
「わかりました」
 そういって御堀が苦笑する。
「それよりさー、誉、見てよ!オレ上手に並べただろ?」
 いばって幾久が盆を見せるも、御堀はそれを見て爆笑した。
「なにこれ。フォーメーション?」
「さっすが!あたり!綺麗に並べたろ?」
 二人の会話に他の面々が呆れた。
「なんじゃ。そういう並びじゃったんか」
「そうじゃないかとは思ったけどね」
「誉に見せたら一発って言ったでしょ、オレ」
 なぜか得意げな幾久に、御堀が笑った。
「まあ、並びとしては綺麗だから」
 そういって全員にお茶をまわした。
 それにしても、綺麗に色で並べてある。
「幾のチーム?4-4-2」
 幾久の居たチーム、ルセロ東京が得意とするシステムだ。
「そう。オレがここ」
 幾久が中央のお菓子を指差すと、山縣がひょいっと指でつまんで口の中に放り込んだ。
「あ―――――っ!オレが!」
「おめーじゃねえだろ」
 ぼりぼり音を立てて噛み砕く山縣に、御堀が苦笑して新しいのを出した。
「ホラ、また並べたらいいだろ」
「むかつくからフォーメーションかえる」
 そういって幾久はお菓子を並べはじめると、御堀が手を出した。
「じゃあ、次は僕が並べるよ」
 そうして綺麗に、みっつ、よっつ、ふたつ、ひとつ、と縦に四列に並べた。
 それを見て幾久が尋ねた。
「誉んとこのシステム、3-4-2-1なんだ」
「そう。僕がここ」
 ひとつだけおいてある場所を指差した。
「そこが攻撃ってことか?」
 児玉が尋ねると、御堀が「そう」と頷いた。
「じゃあ、さっきの幾久が並べたやつって、どうなんの?」
 児玉が尋ねると、幾久が違う色の干菓子を並べ始めた。
「オレのは、こうなって、こうなる」
 御堀が並べた場所の隙間に適当に置くと、児玉はへえ、と感心した。
「なんかこれって、幾久のほうが不利に見えるけどな」
 幾久のならびに比べて、御堀の方は散らばっていて、こっちのほうがうまく行きそうに見える。
「動かなかったらわかんないけど、実際はボールもフォーメーションも動くから」
「そうだよな。そう考えるとややこしいな」
 久坂が笑った。
「まるで動く囲碁だね」
「っていうよりは将棋じゃろう。役目が決まっちょるんなら」
 高杉が言うと御堀がそうですね、と答えた。
「確かに、将棋のほうが近いかもしれないですね」
「なんだ、御堀は囲碁も将棋も出来るの?」
 久坂が尋ねると、御堀は頷いた。
「少しだけです。お客さんに鍛えられて」
「ほう」
 それは楽しみだ、と高杉も頷く。
「そのうち時間が出来たら相手してくれ。ワシもこいつも、お互い相手は飽きてての」
「かまいませんよ」
 御堀が言うと、幾久が言った。
「やめてくださいよ。やっと誉と思う存分遊ぼうと思ったのに。オレと遊ぶ時間が減る」
「いっくんはオセロしかできないもんね」
 久坂が言うと、幾久が言った。
「サッカーが出来るっス」
「体育会系だよねー」
 久坂が茶化すと、幾久が反論した。
「サッカーは頭脳ゲームですぅ」
 御堀が苦笑して幾久に言った。
「それよりお茶が冷めちゃうよ。お菓子食べなよ」
 幾久はさっと自分のポジションの干菓子を取り上げた。
「ガタ先輩に食べられたらむかつくから、誉、あーん」
 幾久に高杉が呆れていった。
「お前らそういうのはふたりきりの時にせえ」
「ハル先輩と瑞祥先輩に言われても説得力ないっす」
 すると久坂が、干菓子をひとつつまんだ。
「じゃあ、ハルもあーん」
 高杉は露骨に表情をしかめると「やめんか」といったが、久坂が引き下がらないので、高杉は指ごとがぶりと食いついたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...