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【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ

ロミオ様の本領発揮

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 幾久が驚いていると、外から「よいしょぉー!」と掛け声がする。
「あいつらの仕事は速いからの。あっという間に出来上がるじゃろう」
「それにしたって、誉っていくら持ってるんだろう」
 高校生がリフォームをするなんて、そんなの考えもしないし想像もつかない。
「一応、内部の割引はされてるはずだよ」
 久坂が言うも、幾久は首を横に振る。
「だからってそんなお安くはないっすよね」
「お安くはないだろうね。さすが御堀はお坊ちゃんか、もしくは稼いでいるか」
「―――――なんか世界が違う」
 幾久が言うも児玉も頷く。
「元々雰囲気違ったけど、ここにきて一層って感じだよな」
 するといつの間にか、御堀が居間に入ってきて言った。
「所詮上っ面を飾り立てたに過ぎないよ。お金は誤魔化しがきくからね」
「うわ、誉」
「いきなりか」
 驚く幾久と児玉に御堀は笑う。
「そりゃ居るよ。僕だってもう御門寮生なんだから」
「それはありがたいけどさ」
 幾久の隣に御堀は腰を下ろす。
 どうやら自分の定位置を決めたらしい。
「問題なければ明日の昼前までには終わるそうです」
 御堀が言うと高杉が頷いた。
「そうじゃろうの。少々騒がしいが、ま、仕方がない」
 そういえば、と幾久が気づく。
「ガタ先輩大丈夫なんスか?」
 一応山縣は受験生だし、部屋でずっと勉強をしている。
 いくら防音室とはいえ、音だけでなくあの振動はかなり響くのではないのだろうか。
 幾久が心配すると、御堀が笑った。
「大丈夫だよ。山縣先輩は図書館に行ってる」
「え?いつの間に。っていうか、どこの?」
「長州市の一番大きなところ」
「よくガタ先輩が出かけてくれたね」
 驚く幾久に対し、御堀はにこにこと微笑んでいて、幾久はそれで気づいた。
「ひょっとして金の力」
「そう。移動の代金といくばくかをね」
「いったい、いくら使ったの?」
 御堀が御門寮に来たかったのも、そのためにがんばったのも判るけど、本気でいくらつぎ込んだのか、幾久は怖くなった。
「リフォームに買収に、移動費用って。こわい。誉こわい」
「はは、お金は使ってこそ経済をまわすんだよ」
「誉、なんかお金先輩に似てきたね」
「そうかな?」
「そうだよ。なんかもう……なんでもいいや」
 がっかりする幾久に御堀が言った。
「ところで幾、外郎食べる?」
「たべる!」
 相変わらずの幾久に、児玉は御堀に言った。
「おい誉、幾久に与える外郎の量はちゃんと管理してやれよ。そいつ際限ねーから」
「そんなどーぶつみたいに」
 むっとする幾久に、久坂も高杉も(動物だよなあ)と思ったけれどあえてそこまでは言わなかった。


 御堀が御門寮に来て、なにか変わるかといえば変化はなかった。
 仕方のないことで、御堀はもう数度御門寮に泊まっていたし、そもそもこれ以上ないほどにすっとなじんでしまっていた。
「誉ってさー、なんかスタイリッシュだよね」
 いつもなら、夕食後の片付けは幾久や児玉の仕事なのだが、寮に来たからには自分にもさせて欲しいと、御堀は栄人にレクチャーを受けていた。
「そう?嬉しいな」
 児玉も頷く。
「なんでそう、やけに格好つけるんだ?」
「格好?」
「エプロン」
 児玉の指摘に、御堀が「ああ、」と笑った。
「かっこいいだろ?」
 御堀が言うと幾久が頷く。
「めちゃくちゃ、かっこいい!」
 御堀が腰に巻いているのは、長い黒のカフェエプロンだ。
 シャツの袖をまくり、腰にはカフェエプロン、女子が見たら絶対にキャーキャーいうヤツだ。
 栄人が言った。
「それ備品だよ。桜柳祭の制服カフェで使って、あまったの貰ったの。みほりん、背があるから映えるよねえ」
 桜柳祭では報国院が主催する制服カフェというのがあって、報国院の生徒が皆、黒い儀式用のタイとジャケットを脱いだベストでカフェをする。
 毎年凄い人気で、ファンもかなり多いという。
 幾久たちは地球部に参加しなければならなかったので、カフェへの参加はしなくて済んだが、相当忙しかった、と聞く。
「誉がカフェに参加したら、チップぐいぐい押し込まれそう」
「じゃあ格好つけるからさ、幾がチップ押し込んでよ」
 お皿を拭きながら御堀が言うと、まるで雑誌の中みたいだ。
「外郎でいい?」
「なんでだよ。それ絶対僕があげたヤツでしょ」
「だって誉ん家の外郎が世界一おいしいじゃん」
 幾久が言うと、御堀はちょっと頬を染めた。
「幾はそういうの上手だよね」
「本当においしいよ?」
 小首をかしげて言うも、御堀は言った。
「今日の分はもう食べただろ」
「ちえー、やっぱ駄目かあ」
 なんとなくおねだりしてみたものの、やはり駄目らしい。
「ほんっと、みほりんがうちに来たのはいいんだけどさ、外郎だけが心配だよね」
 栄人が苦笑していい、児玉も頷く。
「外郎食べすぎて医者呼ぶとか恥ずかしいぞ」
「そこまでじゃないって。この前だって大人しくしてたら治ったし!」
 幾久が言うも御堀が言った。
「あれは消化するまで待った、っていうの。全くもう」
 言いながら御堀はお皿を片付けてしまうと、お茶を用意しはじめた。
「おいしいお茶を入れてあげるから、それ飲んで。干菓子食べる?」
「食べる!」
 頷く幾久に、御堀は小さな箱と綺麗な盆を取り出した。
「じゃあ、居間にお茶もって行くから、幾はお菓子を並べておいて」
 干菓子は、御堀の実家である和菓子屋で作っている、お茶席用のかわいらしい飴や落雁だ。
「判った」
 そういって幾久は早速、居間へと移動した。

 お茶を持ってきた御堀が目にしたのは、ちゃぶ台の真ん中に置かれた大きな盆の上に、おもちゃのように可愛い干菓子が綺麗に並べてある、までは良かったのだが。
 三年の山縣を含む先輩達を前に、幾久が干菓子を特徴のある形に並べていた。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう、御堀ってお茶入れるの上手だよね」
 久坂が言うと、幾久が文句を言った。
「オレが下手みたい」
「みたいじゃなくて下手なんだよ。いっくんはお茶にいきなり熱湯ぶっかけるでしょ。時々苦いよ」
「それわざとっす」
「なんだと?」
「……嘘っす」
「嘘じゃないよね?」
「……ごく、たまに」
 幾久がじりじりと逃げようとするが、久坂が近づく。
 さっと御堀の影に隠れる幾久に、御堀が苦笑して草かに言った。
「今度から僕が入れますよ」
「そっちをちゃんと躾けておいて」
「わかりました」
 そういって御堀が苦笑する。
「それよりさー、誉、見てよ!オレ上手に並べただろ?」
 いばって幾久が盆を見せるも、御堀はそれを見て爆笑した。
「なにこれ。フォーメーション?」
「さっすが!あたり!綺麗に並べたろ?」
 二人の会話に他の面々が呆れた。
「なんじゃ。そういう並びじゃったんか」
「そうじゃないかとは思ったけどね」
「誉に見せたら一発って言ったでしょ、オレ」
 なぜか得意げな幾久に、御堀が笑った。
「まあ、並びとしては綺麗だから」
 そういって全員にお茶をまわした。
 それにしても、綺麗に色で並べてある。
「幾のチーム?4-4-2」
 幾久の居たチーム、ルセロ東京が得意とするシステムだ。
「そう。オレがここ」
 幾久が中央のお菓子を指差すと、山縣がひょいっと指でつまんで口の中に放り込んだ。
「あ―――――っ!オレが!」
「おめーじゃねえだろ」
 ぼりぼり音を立てて噛み砕く山縣に、御堀が苦笑して新しいのを出した。
「ホラ、また並べたらいいだろ」
「むかつくからフォーメーションかえる」
 そういって幾久はお菓子を並べはじめると、御堀が手を出した。
「じゃあ、次は僕が並べるよ」
 そうして綺麗に、みっつ、よっつ、ふたつ、ひとつ、と縦に四列に並べた。
 それを見て幾久が尋ねた。
「誉んとこのシステム、3-4-2-1なんだ」
「そう。僕がここ」
 ひとつだけおいてある場所を指差した。
「そこが攻撃ってことか?」
 児玉が尋ねると、御堀が「そう」と頷いた。
「じゃあ、さっきの幾久が並べたやつって、どうなんの?」
 児玉が尋ねると、幾久が違う色の干菓子を並べ始めた。
「オレのは、こうなって、こうなる」
 御堀が並べた場所の隙間に適当に置くと、児玉はへえ、と感心した。
「なんかこれって、幾久のほうが不利に見えるけどな」
 幾久のならびに比べて、御堀の方は散らばっていて、こっちのほうがうまく行きそうに見える。
「動かなかったらわかんないけど、実際はボールもフォーメーションも動くから」
「そうだよな。そう考えるとややこしいな」
 久坂が笑った。
「まるで動く囲碁だね」
「っていうよりは将棋じゃろう。役目が決まっちょるんなら」
 高杉が言うと御堀がそうですね、と答えた。
「確かに、将棋のほうが近いかもしれないですね」
「なんだ、御堀は囲碁も将棋も出来るの?」
 久坂が尋ねると、御堀は頷いた。
「少しだけです。お客さんに鍛えられて」
「ほう」
 それは楽しみだ、と高杉も頷く。
「そのうち時間が出来たら相手してくれ。ワシもこいつも、お互い相手は飽きてての」
「かまいませんよ」
 御堀が言うと、幾久が言った。
「やめてくださいよ。やっと誉と思う存分遊ぼうと思ったのに。オレと遊ぶ時間が減る」
「いっくんはオセロしかできないもんね」
 久坂が言うと、幾久が言った。
「サッカーが出来るっス」
「体育会系だよねー」
 久坂が茶化すと、幾久が反論した。
「サッカーは頭脳ゲームですぅ」
 御堀が苦笑して幾久に言った。
「それよりお茶が冷めちゃうよ。お菓子食べなよ」
 幾久はさっと自分のポジションの干菓子を取り上げた。
「ガタ先輩に食べられたらむかつくから、誉、あーん」
 幾久に高杉が呆れていった。
「お前らそういうのはふたりきりの時にせえ」
「ハル先輩と瑞祥先輩に言われても説得力ないっす」
 すると久坂が、干菓子をひとつつまんだ。
「じゃあ、ハルもあーん」
 高杉は露骨に表情をしかめると「やめんか」といったが、久坂が引き下がらないので、高杉は指ごとがぶりと食いついたのだった。
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