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プロローグ
好きで子孫なわけじゃないのに
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幼い頃、幾久(いくひさ)には夢があった。
サッカー選手になりたかった。
ずっと夢で、追いかけて、運よくトップリーグのユースに参加出来、いずれ「そう」なるんだと信じていた。
コンビを組んだ親友は才能のあるFW(フォワード)、自分はMF(ミッドフィルダー)。
最高のコンビだった。
だけど中学生になる前、ユースに受かったのは親友だけで、幾久は『才能がない』そう判断されてユースを落とされた。
待っていたのは母親の笑顔だけ。
『ほらね、言ったとおりサッカーなんか無駄だったでしょう。私の言う事を聞かないからよ。さっさと受験に本腰を入れなさい。そのほうが将来楽なんだから』
お受験に本腰を入れたかった母は、幾久が父の薦めでサッカーをするのを、本当に嫌がっていた。
だから幾久は、頷くしかなかった。
はい。
はい、母さん。はい。
そう頷いて、納得したつもりだった。
そういうものだ。
どうせ自分に才能はなかった。
今から人生は正しく修正したほうがいい。
所詮、小学生の頃しか通用しないサッカーだった。
気を使った親友に、フットサルで遊ぼうと誘われもしたけれど、やっぱりサッカーのことを思い出すばかりで、段々つらくなってしまった。
―――――ごめん、最近忙しくてさ。マジ塾、参るけど行かなくちゃいけないし。
―――――そっか。あんまり誘っちゃ悪いな。
そう。諦めたから、もういいんだ。
親友はきっと、このままプロにもなるだろう。
才能のなかった自分は、早めに普通に人生を歩むほうがきっと賢い。
そうして親友とも離れた。
ずっと夢を追いかけて、その繋がりしかなかった自分は、結局いまさら、違う繋がりも上手に掴めなかった。
受験のために外部から入った中等部では特に親しい友人でもできず、かといって必要かといえばそうでもなく、毎日、学校といくつもの塾の往復だけ。
自分にある繋がりは家族だけで、でも父は忙しく殆ど喋ることもなく。
母は、ただ勉強しろと、お受験に夢中だった。
人の繋がりなんか、こんなものか。
そう思っていた頃、幾久に、思いがけない『人の繋がり』が現れた。
多分、それは、そのときの幾久にとっては、最悪の繋がりでしかなかったが。
中学の卒業式も目の前に差し迫った、二月二十九日の登校日の事だった。
東京はまだ冬の寒さが厳しく、学校に行くのも面倒だった。
だが、今日を過ぎれば卒業式、そして卒業式を来週末に終えれば付属の高等部に進学するだけで、今日さえ無事しのげばこの先の高校生活も、これまでと変わらぬ日が続くはずだった。
だけど、幾久は上手にしのげなかった。
目の前に倒れた同級生を見て、幾久(いくひさ)は、やっと自分がなにをしでかしたのかを自覚した。
―――――やってしまった
しまった、と思いはしても、同級生を殴ってしまった事に後悔はひとつもなかった。
それどころか、これまで言われたさんざんな嫌味が一気に幾久の頭に浮かんできた。
「……ってえ、なにすんだよ、この、」
なにすんだ、という同級生に、幾久は一気に怒りが沸き上がった。
なにすんだじゃねえよ。
お前がこれまでなにやってきたか考えろよ。
どれだけ煽って馬鹿にしてきたんだ。
だけどこれまでの蓄積された怒りが言葉を閉じ込めてしまい、幾久は尻をついたままの同級生の前へ出、ぐいっと同級生の胸倉をつかむと、言った。
「ついでだから、もう一発殴る」
「え、ちょ、やめ」
これまでずっと幾久にマウントをとってきた同級生の情けない声に、幾久はずっと我慢し続けてきた自分に呆れた。
ことの発端は、担任の何気ない一言だった。
小説が原作のある歴史ものが、公共放送で映像化され大人気になっていた。
歴史に興味がなければ「ふーん」で終わるようなものだったが、歴史好きには有名な作品らしく、小説はベストセラーになり、ドラマも高視聴率をたたき出した。
『あのドラマの主人公は、乃木君のご先祖様なんだよね!』
多分、担任には全く悪気なんてなかっただろう。
だけど、中等部から外部進学で、三年間もクラスにもなじめず、塾と家の往復ばかりの幾久への視線は、良いものは含まれなかった。
ドラマの予定を知った時、幾久にとっては先祖と言っても知らない人でしかなかった。
無口な父がめずらしく、『面倒だな』と苦々しく言ったのが印象に残っていたくらいで。
でも今はその意味が嫌と言う程判ってしまった。
幾久が、そのドラマの主人公である、明治時代の軍人、乃木(のぎ)希典(まれすけ)の子孫であることを知った、同じクラスの相馬(そうま)はその日からやたら幾久に絡んでくるようになった。
面倒でずっと無視する幾久が気にくわなかったのか、相馬のいじりはエスカレートしていったが、友人もとくにおらず、塾と学校の往復ばかりの幾久にとってはどうでもいい事だった。
それがますます、火に油を注ぐ形になった。
今日の事の発端はこうだ。
「よう乃木―。昨日のドラマ、見たか?」
相馬は幾久が乃木希典の子孫と知ってから、毎週こう幾久に声をかけるようになっていた。
勿論、好意的なものはない。
というのも、ドラマでの乃木希典の描かれ方が決して良いものではなく、『無能な将軍』と揶揄されていたからだった。
歴史にも先祖にも興味のない幾久はテレビを見る事もなかったのに、何度説明しても相馬は絡むのをやめなかった。
『よう、無能の子孫』
『なんだ、子孫のくせに知らねえのかよ』
『本当はフカシてんじゃねえの?嘘はやめろよ。名字かぶってるだけだろ』
面倒くさい、という感想しか幾久にはなかった。
そもそも、塾をかけもちしていたから勉強に忙しかったし、いちいちクラスで同じだけの奴に構うのも面倒くさい。
クラスメイトは幾久と相馬のやりとりをいつも遠巻きに見ている。面倒に巻き込まれたくないのだろう。
幾久は別にそれを責める気にもなれなかった。もし自分がこういう状況を見たとしても同じようにするだろうからだ。
卒業式を迎えるだけの時期に面倒なんかおこしたくないし巻き込まれたくない。
クラスメイトも幾久もそう思っているのに、もしくはそう思っているのを知っているからこそ、相馬はちょっかいをかけてくるのだろう。
「無視すんなよ、見たんだろ?」
「見てない」
そう幾久は言い返して顔を背ける。
これもいつもの事だ。
「子孫のくせに見てない?マジありえねーっつーか、そうか、余裕?」
なあ、とクラスメイトに同意を求めると、数人が頷き、賛同する。
別に相馬に従っているわけでもない。
ただ、面倒だから流しているだけというのは判る。
だから、幾久も同じように思って、いつものようにやりすごすつもりだった。
「余裕とか、意味判らない」
「あ、そっかあ!乃木君には全部、もうとっくに知ってることだもんなぁ、当然っちゃ当然かあー、そっかあ!放送局から先にもう見せて貰ってるから、今更なんだあ」
「んなわけねーよ」
「またまたー。どうせ放送局からお金とか入るんだろ?いいなあ金持ちはよー」
入るかよ。
うちが貧乏じゃねーのは父さんが役人だからだよバーカ。
そもそも儲かってるのは小説の作家と出版社だろ。
言い返す言葉は思い浮かんでも、幾久はぐっとこらえた。
面倒は嫌だったからだ。
どうせドラマはもうすぐ終わるし、卒業して違うクラスになれば、絡んでくることもないだろう。
今さえやりすごせば。
相馬はそれを判っているからこそ、余計に幾久を煽った。
「やっぱいいよな、歴史に名が残る一族っていうのはさあ。それだけで信用があるもんだしさ。まあ、役立たずの軍人でも神だもんなあ。神!あなたが神か!なんつて!」
有名なマンガの台詞を引用してつついてくる。
盛り上がって言う相馬にクラスメイト達がクスクス笑い出した。
幾久にとっては嫌な雰囲気だ。
ああ、うざい。物凄くうざい。
でも実際、『神』になってる自分の祖先の存在も、正直、うざい。
「なあ神、願いかなえてくれよー神―」
しつこい相馬のからかいに、幾久はがたんと席を立つ。
一瞬、相馬がひるんだ。
「な、なんだよ」
「トイレ」
そう幾久が答えると相馬はほっと安心して、よせばいいのに調子に乗った。
「へぇー、神でもトイレ行くのか!」
遠巻きに見ていた相馬の友人やクラスメイトがどっと笑った。
面倒で、ここから逃げようとトイレへ向かう幾久に、相馬は怒鳴った。
「調子のって生きてんじゃねーよ!人殺しの子孫のくせに!」
その瞬間、幾久の手が相馬の襟首を掴み―――――
気が付くと幾久は相馬を思い切りぶん殴ってしまっていた。
どおっと相馬が倒れ、尻餅をついた。
それにびっくりしたのは幾久の方で、一瞬自分が何をしたのか理解できなかった。
他人なんか一度も殴ったことはない。
殴ってから、初めてそこまで自分が怒っていたのか、と気が付いて自分でもびっくりしたほどだ。
だが、自分が思わず相馬を殴ってしまったことに気付いた瞬間、もういいや、という気持ちになった。
「ついでだから、もう一発殴る」
「え?え?ちょ、やめ、おいっ!」
ごすん、ともう一度、音が響いた。
まさか、その結果がこんな世界に繋がるとは、まだ誰も知らなかった。
もちろん幾久さえ。
サッカー選手になりたかった。
ずっと夢で、追いかけて、運よくトップリーグのユースに参加出来、いずれ「そう」なるんだと信じていた。
コンビを組んだ親友は才能のあるFW(フォワード)、自分はMF(ミッドフィルダー)。
最高のコンビだった。
だけど中学生になる前、ユースに受かったのは親友だけで、幾久は『才能がない』そう判断されてユースを落とされた。
待っていたのは母親の笑顔だけ。
『ほらね、言ったとおりサッカーなんか無駄だったでしょう。私の言う事を聞かないからよ。さっさと受験に本腰を入れなさい。そのほうが将来楽なんだから』
お受験に本腰を入れたかった母は、幾久が父の薦めでサッカーをするのを、本当に嫌がっていた。
だから幾久は、頷くしかなかった。
はい。
はい、母さん。はい。
そう頷いて、納得したつもりだった。
そういうものだ。
どうせ自分に才能はなかった。
今から人生は正しく修正したほうがいい。
所詮、小学生の頃しか通用しないサッカーだった。
気を使った親友に、フットサルで遊ぼうと誘われもしたけれど、やっぱりサッカーのことを思い出すばかりで、段々つらくなってしまった。
―――――ごめん、最近忙しくてさ。マジ塾、参るけど行かなくちゃいけないし。
―――――そっか。あんまり誘っちゃ悪いな。
そう。諦めたから、もういいんだ。
親友はきっと、このままプロにもなるだろう。
才能のなかった自分は、早めに普通に人生を歩むほうがきっと賢い。
そうして親友とも離れた。
ずっと夢を追いかけて、その繋がりしかなかった自分は、結局いまさら、違う繋がりも上手に掴めなかった。
受験のために外部から入った中等部では特に親しい友人でもできず、かといって必要かといえばそうでもなく、毎日、学校といくつもの塾の往復だけ。
自分にある繋がりは家族だけで、でも父は忙しく殆ど喋ることもなく。
母は、ただ勉強しろと、お受験に夢中だった。
人の繋がりなんか、こんなものか。
そう思っていた頃、幾久に、思いがけない『人の繋がり』が現れた。
多分、それは、そのときの幾久にとっては、最悪の繋がりでしかなかったが。
中学の卒業式も目の前に差し迫った、二月二十九日の登校日の事だった。
東京はまだ冬の寒さが厳しく、学校に行くのも面倒だった。
だが、今日を過ぎれば卒業式、そして卒業式を来週末に終えれば付属の高等部に進学するだけで、今日さえ無事しのげばこの先の高校生活も、これまでと変わらぬ日が続くはずだった。
だけど、幾久は上手にしのげなかった。
目の前に倒れた同級生を見て、幾久(いくひさ)は、やっと自分がなにをしでかしたのかを自覚した。
―――――やってしまった
しまった、と思いはしても、同級生を殴ってしまった事に後悔はひとつもなかった。
それどころか、これまで言われたさんざんな嫌味が一気に幾久の頭に浮かんできた。
「……ってえ、なにすんだよ、この、」
なにすんだ、という同級生に、幾久は一気に怒りが沸き上がった。
なにすんだじゃねえよ。
お前がこれまでなにやってきたか考えろよ。
どれだけ煽って馬鹿にしてきたんだ。
だけどこれまでの蓄積された怒りが言葉を閉じ込めてしまい、幾久は尻をついたままの同級生の前へ出、ぐいっと同級生の胸倉をつかむと、言った。
「ついでだから、もう一発殴る」
「え、ちょ、やめ」
これまでずっと幾久にマウントをとってきた同級生の情けない声に、幾久はずっと我慢し続けてきた自分に呆れた。
ことの発端は、担任の何気ない一言だった。
小説が原作のある歴史ものが、公共放送で映像化され大人気になっていた。
歴史に興味がなければ「ふーん」で終わるようなものだったが、歴史好きには有名な作品らしく、小説はベストセラーになり、ドラマも高視聴率をたたき出した。
『あのドラマの主人公は、乃木君のご先祖様なんだよね!』
多分、担任には全く悪気なんてなかっただろう。
だけど、中等部から外部進学で、三年間もクラスにもなじめず、塾と家の往復ばかりの幾久への視線は、良いものは含まれなかった。
ドラマの予定を知った時、幾久にとっては先祖と言っても知らない人でしかなかった。
無口な父がめずらしく、『面倒だな』と苦々しく言ったのが印象に残っていたくらいで。
でも今はその意味が嫌と言う程判ってしまった。
幾久が、そのドラマの主人公である、明治時代の軍人、乃木(のぎ)希典(まれすけ)の子孫であることを知った、同じクラスの相馬(そうま)はその日からやたら幾久に絡んでくるようになった。
面倒でずっと無視する幾久が気にくわなかったのか、相馬のいじりはエスカレートしていったが、友人もとくにおらず、塾と学校の往復ばかりの幾久にとってはどうでもいい事だった。
それがますます、火に油を注ぐ形になった。
今日の事の発端はこうだ。
「よう乃木―。昨日のドラマ、見たか?」
相馬は幾久が乃木希典の子孫と知ってから、毎週こう幾久に声をかけるようになっていた。
勿論、好意的なものはない。
というのも、ドラマでの乃木希典の描かれ方が決して良いものではなく、『無能な将軍』と揶揄されていたからだった。
歴史にも先祖にも興味のない幾久はテレビを見る事もなかったのに、何度説明しても相馬は絡むのをやめなかった。
『よう、無能の子孫』
『なんだ、子孫のくせに知らねえのかよ』
『本当はフカシてんじゃねえの?嘘はやめろよ。名字かぶってるだけだろ』
面倒くさい、という感想しか幾久にはなかった。
そもそも、塾をかけもちしていたから勉強に忙しかったし、いちいちクラスで同じだけの奴に構うのも面倒くさい。
クラスメイトは幾久と相馬のやりとりをいつも遠巻きに見ている。面倒に巻き込まれたくないのだろう。
幾久は別にそれを責める気にもなれなかった。もし自分がこういう状況を見たとしても同じようにするだろうからだ。
卒業式を迎えるだけの時期に面倒なんかおこしたくないし巻き込まれたくない。
クラスメイトも幾久もそう思っているのに、もしくはそう思っているのを知っているからこそ、相馬はちょっかいをかけてくるのだろう。
「無視すんなよ、見たんだろ?」
「見てない」
そう幾久は言い返して顔を背ける。
これもいつもの事だ。
「子孫のくせに見てない?マジありえねーっつーか、そうか、余裕?」
なあ、とクラスメイトに同意を求めると、数人が頷き、賛同する。
別に相馬に従っているわけでもない。
ただ、面倒だから流しているだけというのは判る。
だから、幾久も同じように思って、いつものようにやりすごすつもりだった。
「余裕とか、意味判らない」
「あ、そっかあ!乃木君には全部、もうとっくに知ってることだもんなぁ、当然っちゃ当然かあー、そっかあ!放送局から先にもう見せて貰ってるから、今更なんだあ」
「んなわけねーよ」
「またまたー。どうせ放送局からお金とか入るんだろ?いいなあ金持ちはよー」
入るかよ。
うちが貧乏じゃねーのは父さんが役人だからだよバーカ。
そもそも儲かってるのは小説の作家と出版社だろ。
言い返す言葉は思い浮かんでも、幾久はぐっとこらえた。
面倒は嫌だったからだ。
どうせドラマはもうすぐ終わるし、卒業して違うクラスになれば、絡んでくることもないだろう。
今さえやりすごせば。
相馬はそれを判っているからこそ、余計に幾久を煽った。
「やっぱいいよな、歴史に名が残る一族っていうのはさあ。それだけで信用があるもんだしさ。まあ、役立たずの軍人でも神だもんなあ。神!あなたが神か!なんつて!」
有名なマンガの台詞を引用してつついてくる。
盛り上がって言う相馬にクラスメイト達がクスクス笑い出した。
幾久にとっては嫌な雰囲気だ。
ああ、うざい。物凄くうざい。
でも実際、『神』になってる自分の祖先の存在も、正直、うざい。
「なあ神、願いかなえてくれよー神―」
しつこい相馬のからかいに、幾久はがたんと席を立つ。
一瞬、相馬がひるんだ。
「な、なんだよ」
「トイレ」
そう幾久が答えると相馬はほっと安心して、よせばいいのに調子に乗った。
「へぇー、神でもトイレ行くのか!」
遠巻きに見ていた相馬の友人やクラスメイトがどっと笑った。
面倒で、ここから逃げようとトイレへ向かう幾久に、相馬は怒鳴った。
「調子のって生きてんじゃねーよ!人殺しの子孫のくせに!」
その瞬間、幾久の手が相馬の襟首を掴み―――――
気が付くと幾久は相馬を思い切りぶん殴ってしまっていた。
どおっと相馬が倒れ、尻餅をついた。
それにびっくりしたのは幾久の方で、一瞬自分が何をしたのか理解できなかった。
他人なんか一度も殴ったことはない。
殴ってから、初めてそこまで自分が怒っていたのか、と気が付いて自分でもびっくりしたほどだ。
だが、自分が思わず相馬を殴ってしまったことに気付いた瞬間、もういいや、という気持ちになった。
「ついでだから、もう一発殴る」
「え?え?ちょ、やめ、おいっ!」
ごすん、ともう一度、音が響いた。
まさか、その結果がこんな世界に繋がるとは、まだ誰も知らなかった。
もちろん幾久さえ。
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