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 長く争っていた隣国イーデンとの和平が続いて五年目。その記念式典でステンとティーア、そして護衛のディーデリックは常に忙しい。すでに寵姫としての役割を終えているリサはその輪から一人外れているので、申し訳ないなと思いつつも巻き込まれずに本当に良かったと喜んでいた。
 そんな式典の一つ、王都の西にある孤児院に国王夫妻が慰問に訪れたのが本日。この孤児院は長く戦災孤児を受け入れており、決して多くはない寄付金をやりくりして子ども達に読み書き等の教育を熱心に行っていた。国としてもようやく潤沢な資金をそういった施設に回せる様になり、その第一弾として選ばれたのである。

「その帰りに襲撃に遭ったんだ」

 ステンは眉間に深く皺を刻み忌々しげに吐き捨てた。いわゆる戦争特需で利益を貪っていた人間達にとって、戦争を終わらせたステンの存在は邪魔でしかない。あげく、戦争に乗じて私腹を肥やしていた層からステンは容赦なく財産を没収した。これで余計に敵意を招き、これまでにも命を狙われる事は数多くあった。

「ここ最近はすっかり無くなっていたからな……それでも油断したつもりはなかったんだが」
「それについては陛下の責ではなく、我々護衛の」
「その護衛の数を減らせと命じたのは俺で、つまりは俺の責任だ」

 それでも国王夫妻を守るには足りるだけの護衛はいたのだ。にも関わらず、襲撃は起きた。

「陛下とティーア様はどこもお怪我は!?」

 ここにきてようやくその事に思い至り、リサは慌てて椅子から立ち上がりティーアの手を取る。

「完全にティーアの心配しかしてないな」
「陛下がご無事なのは見れば分かりますから」
「わたくしも大丈夫よお姉様。皆が守ってくれたから、どこも怪我なんてしていないの」

 ティーアもそっとリサの手を握り返す。その温もりにリサは「良かった」と笑みを浮かべた。

「欠片でもいいからその優しさを俺に向けてもいいんだぞ」
「その余裕があったらより一層ティーア様に捧げますね」
「そこはせめて夫に、と言ってやれよ」
「ディーデリック様の分は別枠なので」
「……言う様になったじゃないか」

 んん、とわざとらしい咳払いがディーデリックから上がる。ほんのりと目元が赤く染まっているので、今のくだらない会話ですら彼にとっては嬉しくもあり恥ずかしくもあるらしい。思春期か、とこの時ばかりはステンとリサの気持ちは重なる。

「そう、それでね、陛下とわたくしの乗った馬車を襲ってきた者はすぐに逃げ出したの。それをディーが馬で追って、そこで……」

 逸れた話をティーアが懸命に戻す。ああすまない、とステンはティーアの肩を抱き寄せ詫びを入れる。大人げない会話を大人達が繰り広げてしまったと、苦笑しつつリサに再度状況を説明する。


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