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小話
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しおりを挟む「何もしていませんから」
「……はい?」
「ドレスを脱がせてしまったのは、着たままだと寝苦しいだろうと思ったからです。それでも勝手に脱がせたというのは変わらないので、それについては謝罪します」
「むしろ……お手数とおかけしてしまったのと……そのお気遣いにこちらこそお詫びと感謝を……」
最早ディーデリックの顔を見ていられず、リサは両手で自分の顔を覆った。お詫びと言いつつ顔を隠すなど失礼の極みではあるけれど、あまりにも恥ずかしすぎて無理すぎる。
「脱がせはしましたがそこまでです。それ以上は何もしていません、まだ」
「はい……本当にありがとうございま、し、た」
あれ? とリサは顔を隠したまま首を傾げた。なんだろうか、なんだか、今、とても、引っ掛かる物の言い方をしなかっただろうか、この人は。
「いくら夫婦とはいえ……いくら好きな相手だとはいえ、酔った状態の貴女に手を出すほど俺は落ちぶれてはいません」
「っ、すよね! ですよねわかってます! わかってますよディーデリック様!!」
「ですが、ずっと想い続けていた貴女と一晩共に過ごすのは俺にとっては拷問に等しかったわけですよ」
ぎゃあ、と叫びたい気持ちをどうにか堪え、リサは蚊の鳴く様な声で「お詫びのしようもなく」と指の隙間からそう漏らした。
「詫びはいいので、その代わりに許可をください」
「……許可、とは?」
「貴女の、全てに、触れる許可、を、欲しいです」
途切れ途切れのその声にリサは思わず指の隙間を広げてしまう。そしてそれを即座に後悔した。
ディーデリックは耳から首まで真っ赤に染めながら、それでも視線だけは鋭く見つめている。その瞳の奥に宿る色と、彼の発した言葉の意味を正確に理解してしまいリサはそのまま固まるしかない。
「ちゃんと許可が出るまで我慢します! 今の時点でもうわりと結構限界ではありますが、それでもどうにか耐えます。だから、どうか、その時がきたら許可をください……できれば、早めに……」
それはつまりはリサから求めるという事だ。
無理、そんなの絶対無理、と言いたい。そういうのは空気を読んで、それこそ男性の方からリードしてくれるものではないのか。
だがしかし相手は五年、どころかもっとずっと前からリサを想い続け、自他共に認める拗らせっぷりを発揮している人物だ。そういった空気を読むのは難しいだろう。
本を正せば己のやらかしだ。あの状況では欲をぶつけられていても文句は言えない。実際彼はリサにそういった欲を抱いていると白状しているのだ。それでもひたすら耐えてリサを大切にしてくれているのだから、これはもう断る事などできようか。
「――ぜ、善処します」
酒に酔った時よりも酷い目眩に襲われながら、それでもリサはどうにかそう答えた。
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