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小話
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しおりを挟む男女がベッドを共にしているのだからして導き出される物は一つだ。しかし身体のどこにも違和感など無い。経験こそ無いが知識は一応はあるからして、おそらく、ほぼ、まだ清い身体のままだ。そもそもからして、いくら夫婦であろうとも酒に酔っている相手をどうこうする様な人物では無いのだ、自分の夫は。
そう、だから、これは完全にリサが寝やすいようにとディーデリックが脱がせてくれただけだ。
いやああああ、とリサは心の中で盛大に叫びつつシーツを被って悶絶する。ただ脱がせてくれただけ、という事実が何よりも恥ずかしい。いっそ記憶を無くしている間にコトに及ばれていた方がまだマシだと思えてしまう。それ程までに恥ずかしくて堪らない。
とにもかくにもこのままでは駄目だとリサはヨロヨロとしたまま身体を動かす。ディーデリックが起きる前にせめて服を着ていたい。その一身でベッドから降りようとすれば、猛烈な力で身体を引き寄せられた。
「……え」
視界が反転している。見上げる先には天井、の、前にディーデリックの顔があった。
「え!?」
「おはようございます、リサ――気分は? どこか具合が悪かったりはしませんか?」
「あ、はい、だいじょうぶ、です」
つい片言になってしまうのは昨夜の失態による反省と、目の前のディーデリックの圧によるものだ。
「どこかに行こうとされていたようですが、一体どこへ?」
「き、着替えを、しようかなと……」
ディーデリックに押し倒された為にシーツはかろうじてリサの胸元を隠しているだけだ。下の方は捲れ上がっているせいで太股が露わになっている。もぞもぞと動かしてどうにか隠そうとするが、ディーデリックの足が間にあるのでどうにもうまくいかない。
そんなリサの答えにディーデリックは少し考えた後に「ああ」と呟いた。寝起きなのが原因か、いつもより反応が鈍い。
「昨日の事は覚えていますか?」
「……お、おぼろげには……ご、ご迷惑をおかけしまして……」
「いえ、貴女が酔っているのは分かっていたのだから、もっと早くに俺が止めるべきでした」
「ちゃんと止めてくださいました! それでも聞かなかったわたしの自業自得です」
そう、全ては自業自得なのだ。酔って記憶がおぼろげなのも、ドレスを脱がされたのも、今こうやって押し倒された様になって羞恥で死にそうになっているのも、リサが自ら招いた事でしかない。
あまりにも恥ずかしすぎていっそ下から拳を繰り出して逃げ出したいくらいだが、いくらなんでもそれは恩を仇で返しすぎるだろう。それに寝起きとはいえ相手は騎士だ、リサの拳など当たるかどうかも分からない。
「一応、誤解の無い様に言っておきますが」
「はい、なんでしょう!」
ディーデリックの声が少し低い。そこになにかしらの不穏な気配を感じてしまいリサは殊更身構えてしまう。まっ先に浮かぶのは「叱られる」だが、それは当然の事でもあるので大人しく受け入れるしかない。リサにとって一番怖いのは、記憶に無い所でディーデリックになにか粗相をしてしまっているのではないかと言う事だ。
だが、そんなリサに告げられたのは意外な言葉だった。
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