上 下
20 / 36
小話

しおりを挟む

 

 ダラダラとリサの背中を汗が流れ落ちる。
 ディーデリックに半ば抱える様に部屋へと連れて行かれ、優しくベッドへと寝かせてもらった。そして彼はその場を離れようとしたというのに、リサがその手を離さなかった。それどころか首の後ろに両腕を回してしがみつき、そのままベッドに引きずり込んだ。
 ヒッ、と喉から飛び出そうになった悲鳴をリサは寸前で飲み込む。おかげでグギュウ、と異音が鳴り地味に喉を痛めた。が、それに構う心の余裕などリサには無い。

 リサとディーデリックはこれまでの結婚生活の中で寝所を共にしたことは無い。ようやく真の夫婦となってからは流石に一緒に、と思いはするが、だからといってすぐにそうするには二人とも何というかまあ思春期すぎた。お互い行動に移すどころかその話をする間すら計れずにいたのが現状だ。だというのに、まさかの、もしかしなくても、今、とリサは恐る恐る目を開ける。

 そこにあった予想通りというか、できるかぎり外れていてほしかった光景。

 寝起きの頭に至近距離での美形の寝顔は刺激が強すぎた。リサは悲鳴を上げる事だけはどうにか堪えるが、身体がビクリと跳ねるのを抑えるのは無理だった。
 以前よりかは和らいだとはいえ、今でも起きている間のディーデリックは眉間に皺があるのが基本だ。そんな彼も寝ている時はそうではないらしい。穏やかな表情で眠る彼は気持ちが良さそうにしている。

 ディーデリックと同衾しているという現状。さらには彼の腕を枕にしており、もう片方の腕は軽くリサの腰に回っている。完全に抱き合って眠っていた事実、リサの頭は沸騰寸前だ。 ゆっくり、できる限り彼に気付かれない様に細心の注意を払いながらリサは身を起こす。ディーデリックが小さく「う……」と声を漏らし、リサは一瞬呼吸までも止めて動きを止めるが、ややすればまた健やかな寝息が聞こえだしたので、さらに時間を掛けてどうにかディーデリックの腕の中から抜け出す事に成功できた。

 はああああ、と重く長い息が漏れる。なんとかディーデリックに抱き締められた状態で互いに目覚める、という最悪の状況は阻止できた。もし万が一そうなっていたら二人揃って羞恥で死んでいただろう。
 バクバクと心臓が五月蠅い。ぎゅ、と胸元を握り締めて深呼吸を繰り返す。徐々に鼓動が落ち着きを取り戻し、それに伴い頭もはっきりとしてくる。が、それは新たな事実をリサに気付かせる事になる。
 握り締めた胸元、の、服、は昨晩着ていたドレスでは無い。コルセットもなく、薄布に包まれただけの己の身体。早い話が下着だけの姿にリサは慌ててシーツを引き上げて身体を隠す。
 頭に浮かぶのはアレしかない。いやでも待って違う絶対そうじゃない、と目眩でふらつきそうになりながらもその可能性を全力で否定する。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

初夜で裏切られた公爵夫人は旦那をぶっ飛ばす。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「もう逃げられないぞ、俺たちでたっぷり可愛がってやるよ!」モントローズ公爵家令嬢ファティマは政略結婚でハミルトン公爵家令息フセインと結婚した。政略結婚だから愛情など期待していなかった、だが、新婚初夜にフセインの取り巻きに襲われるなど考えもしていなかった。あまりの怒りにファティマは自分に施していた封印が破れるのを自覚した。

結婚した途端私に冷たくなり妹といちゃつき始めた夫

白山さくら
恋愛
「あなたたち、キスしていたじゃない!酷いわ、私というものがありながら!」 妹が私の夫といちゃいちゃしているのが許せない

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。

ララ
恋愛
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。 愛する彼は他の女性を選んで、彼女との理想を私に語りました。 結果慰謝料を取り婚約破棄するも、私の心は晴れないまま。

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

処理中です...