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小話
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しおりを挟むダラダラとリサの背中を汗が流れ落ちる。
ディーデリックに半ば抱える様に部屋へと連れて行かれ、優しくベッドへと寝かせてもらった。そして彼はその場を離れようとしたというのに、リサがその手を離さなかった。それどころか首の後ろに両腕を回してしがみつき、そのままベッドに引きずり込んだ。
ヒッ、と喉から飛び出そうになった悲鳴をリサは寸前で飲み込む。おかげでグギュウ、と異音が鳴り地味に喉を痛めた。が、それに構う心の余裕などリサには無い。
リサとディーデリックはこれまでの結婚生活の中で寝所を共にしたことは無い。ようやく真の夫婦となってからは流石に一緒に、と思いはするが、だからといってすぐにそうするには二人とも何というかまあ思春期すぎた。お互い行動に移すどころかその話をする間すら計れずにいたのが現状だ。だというのに、まさかの、もしかしなくても、今、とリサは恐る恐る目を開ける。
そこにあった予想通りというか、できるかぎり外れていてほしかった光景。
寝起きの頭に至近距離での美形の寝顔は刺激が強すぎた。リサは悲鳴を上げる事だけはどうにか堪えるが、身体がビクリと跳ねるのを抑えるのは無理だった。
以前よりかは和らいだとはいえ、今でも起きている間のディーデリックは眉間に皺があるのが基本だ。そんな彼も寝ている時はそうではないらしい。穏やかな表情で眠る彼は気持ちが良さそうにしている。
ディーデリックと同衾しているという現状。さらには彼の腕を枕にしており、もう片方の腕は軽くリサの腰に回っている。完全に抱き合って眠っていた事実、リサの頭は沸騰寸前だ。 ゆっくり、できる限り彼に気付かれない様に細心の注意を払いながらリサは身を起こす。ディーデリックが小さく「う……」と声を漏らし、リサは一瞬呼吸までも止めて動きを止めるが、ややすればまた健やかな寝息が聞こえだしたので、さらに時間を掛けてどうにかディーデリックの腕の中から抜け出す事に成功できた。
はああああ、と重く長い息が漏れる。なんとかディーデリックに抱き締められた状態で互いに目覚める、という最悪の状況は阻止できた。もし万が一そうなっていたら二人揃って羞恥で死んでいただろう。
バクバクと心臓が五月蠅い。ぎゅ、と胸元を握り締めて深呼吸を繰り返す。徐々に鼓動が落ち着きを取り戻し、それに伴い頭もはっきりとしてくる。が、それは新たな事実をリサに気付かせる事になる。
握り締めた胸元、の、服、は昨晩着ていたドレスでは無い。コルセットもなく、薄布に包まれただけの己の身体。早い話が下着だけの姿にリサは慌ててシーツを引き上げて身体を隠す。
頭に浮かぶのはアレしかない。いやでも待って違う絶対そうじゃない、と目眩でふらつきそうになりながらもその可能性を全力で否定する。
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